直木賞を受賞した立野信之のベストセラーを映画化。昭和史に多大な影響を与えた二・二六事件の全貌を、ドキュメンタリータッチで描く。昭和11年2月26日、「昭和維新」を叫んで武装した陸軍の青年将校たちは、岡田首相らを暗殺したのち、警視庁、陸軍省などを4日間占拠、日本帝国の中枢を完全に麻痺させる。佐分利信監督は撮影中に倒れ、残り3分の1ほどを阿部豊が監督を引き受け完成させた。鶴田浩二、細川俊夫らオールスターを起用したキャスティングも話題になった。
田坂具隆監督がペンネーム高重屋四郎の名義で執筆した同名小説を自ら映画化。昭和12年の中国大陸北部を舞台に、5人の斥候兵が敵兵と戦う様を、兵士ひとりひとりに焦点を合わせて描く。岡田部隊長(小杉)率いる前線部隊は、本部から「敵を偵察せよ」との命令を受け、藤本軍曹(見明)ら5人を斥候兵として送り込む。しかし5人は敵兵に取り囲まれてしまい。昭和13年度キネマ旬報社優秀映画第1位。日本の戦争映画で芸術的映画として評価された最初の作品と言われている。
日本陸軍が、戦闘機「隼」のPR目的で製作した戦意高揚映画。監督デビュー前の黒澤明と、外山凡平の共同脚本を、山本薩夫監督が映画化。新鋭戦闘機「隼」の誕生を描いたアクション作。夫とともに戦死した野田機関士の息子・喬を引き取った伸子(入江)は、我が子・雄吉と共に大切に育てた。やがて成長した雄吉(岡)は大尉となり活躍する。一方、喬(月田)は、航空機製作所でテストパイロットとして「隼」の開発に命を懸けていた。
新鋭戦闘機「隼」を乗りこなし、第二次大戦で活躍した加藤建夫の伝記映画。イギリス空軍の戦闘機スピット・ファイアーなどを実際に使った空中戦も見どころで、特技監督は円谷英二が担当している。昭和16年12月初旬、フコク島へ進駐した加藤部隊長(藤田)率いる部隊は、西へと航行する大船団を空から援護をするよう命じられるが。
戦中に流行していた戦争歌謡「ラバウル小唄」に絡めて作られた戦争メロドラマ。太平洋戦争末期、ラバウル駐在の航空隊長・若林(池部)は、撃墜の腕を誇る鬼隊長として有名だった。特に現地女性との愛を許されぬ野口中尉(平田昭彦)などは特に反感を抱く。だが、窮地に陥った彼を単機迎えに出たのは他ならぬ若林だった。誤解が解けはじめたとき、若林は彼を慕う看護婦・すみ子(岡田)を救うために、宿敵ハイン機に立ち向かう。
連合艦隊司令長官山本五十六の悲劇を中心に太平洋戦争を描く、戦後初の本格的戦争映画。本多猪四郎監督・円谷英二特技監督のコンビによる戦争スペクタクル第1作。二人は前年の『港へ来た男』で初コンビを組み、翌年『さらばラバウル』を経て歴史的作品『ゴジラ』を生み出すこととなった。東条内閣の出現で急速に戦争へと押し流される日本。連合艦隊司令長官山本は最後まで交渉妥結を願いながら、真珠湾攻撃の火蓋を切った。
昭和19年、日本の敗色が濃厚となったニューギニア前線。飢餓とマラリヤの恐怖の中で日々を送る兵士たちの唯一の慰めは、演芸分隊が催す芝居の数々だった。昭和19年から終戦まで戦地で演劇活動を続けた俳優・加東大介が自らの戦争体験を綴り、文芸春秋読者賞を受賞した小説の映画化。加東も本人役で主演した。
山本嘉次郎監督と円谷英二がコンビを組んだ、海軍省の企画による戦意高揚映画。敗戦色濃い1944年12月に公開された。3人の海軍少佐を中心に、航空兵が魚雷を積んで敵空母に突入するまでが描かれる。三上(藤田)、川上(森)、村上(河野秋武)の3人は、雷撃の神様と軍の中でも知られた存在。ある日、敵艦隊発見の無線が入り、三上と村上は出撃をするのだが。
大岡昇平の読売文学賞を受賞した傑作小説を、市川崑監督、船越英二主演で映画化。レイテ島の激戦の最中に倒れた田村一等兵(船越)は、荒涼たる比島の原野にひとり取り残され、米国軍やゲリラ隊の襲撃をくぐり抜け、生き延びてきた。しかし、孤独と飢餓に苦しむ彼は、ついに人肉に手を出してしまう。飢餓の極限に追い込まれ、人としての道徳を放棄した、ある兵士の姿を鋭く描くヒューマンドラマ。
昭和20年3月10日未明の東京大空襲を背景に、戦争によって運命を翻弄された一人の女性の姿を通して反戦を訴えた映画。『ひめゆりの塔』の今井正監督作。ゆかり(工藤)は高校の課題で父・勇太(井川)に戦時中のことを尋ねるが、勇太は語ろうとしない。そんなある日、伯母・咲子(奈良岡)が見知らぬ子供を守るために交通事故に遭う。咲子には空襲で生き別れになった娘がいた。そこでようやく口を開いた勇太の話から、咲子の過去が語られる。工藤夕貴がゆかりと咲子(娘時代)の二役を熱演した。原作 早乙女勝元。
今井正監督の名作『ひめゆりの塔』を、『月光の夏』『遠き落日』の神山征二郎監督が再映画化。太平洋戦争末期、国内で唯一の戦場となった沖縄を舞台に、「ひめゆり部隊」と呼ばれ、最前線の陸軍病院へ駆り出された女学生たちの悲劇をオールスターキャストで描いた感動大作。従軍前の少女たちの日常や半ば強制的に従軍させられていく過程を描き、“なぜ彼女たちが戦場へ向かったのか”を克明に記す。戦後50年記念作品。原作は仲宗根政善。
反戦文学の名作である梅崎春生の「日の果て」を山本薩夫が映画化。終戦直前、ルソン島の日本軍は潰滅状態にあり、脱走兵が続出していた。そんな中、花田軍医(岡田)がチエ(島崎)という娘と脱走。花田に逮捕命令が出され、親友の宇治中尉(鶴田)が彼を捜し出すことに。宇治は花田とチエを見つけるが、チエは花田を守るため宇治を刺そうとして。過酷な条件下で、友情と軍の命令の板ばさみになった二人の若い軍人の葛藤が描かれる名作。
ベストセラーとなった同名の学徒航空兵の手記集をもとに描いた反戦映画の代表作。太平洋戦争末期、昭和二十年の特攻隊基地を舞台に、祖国のために出撃していく二人の特攻隊員の短い青春を描く。親友同士の大瀧中尉(鶴田)と深見中尉(木村)は戦友の死に次々と直面する。彼らは特攻隊の非人間性を悲観しながらも、やがて特攻隊員として出撃する時を迎える。
1956年に市川崑監督で映画化された作品を、市川監督自身がリメイクして大ヒットを記録した作品。傑作の誉れ高い前作であったが、市川監督にとっては「悔いの残る作品」で、より完璧な作品に仕上げたいとの思いから再度製作されたという。1945年夏。太平洋戦争末期のビルマからタイへ逃れようとする井上小隊長(石坂)率いる部隊は、国境近くで終戦を知り、隊員はみな武器を捨てて投降するが、水島上等兵(中井)だけが隊を離れ消息を絶つ。ある日、隊員はオウムを肩にのせた水島そっくりのビルマ僧とすれちがう。原作は竹山道雄。
井伏鱒二のベストセラー小説をもとに、今村昌平監督が原爆被害者の悲劇を庶民の普通の生活を通して淡々と綴った力作。昭和20年8月6日。広島に近い疎開先にした二十才の矢須子(田中)は、瀬戸内海の小舟の上で強烈な閃光とキノコ雲を見た。その直後、空がたちまち暗くなり矢須子は黒い雨を体中に浴びてしまう。それから“黒い雨”は矢須子を確実に蝕んでいった。
夫・健一(伊豆)の戦死を知った町子(岸)は、夫の親友・康吉(池部)と再婚するが、突然の健一の帰還で二重結婚の悲劇に見舞われる。妻子を奪われた健一の絶望、二人の夫の間での町子の葛藤、健一と町子の仲を疑う康吉の苦悩。強制疎開や食糧不足で苦しむ中、戦争で人生を狂わされた三人の男女を描いたヒューマンな反戦映画。
『重臣と青年将校 陸海軍流血史』に続く新東宝の戦争もの第4作。監督は『薔薇と女拳銃王』の小森白。1941年12月7日、日本は真珠湾に奇襲攻撃をし、緒戦を勝利したが、ミッドウェー、ガダルカナルの敗戦を境に、日本は敗北の一途をたどる。太平洋戦争突入から敗戦、占領軍による責任糾弾を目的にした東京裁判までを描く。嵐寛寿郎が東条英機を演じている。
戦時中に上官の命令で捕虜のアメリカ兵を殺した罪で、戦後、死刑となる男の苦悩を描いた、フランキー堺主演の名作テレビドラマ (1958年)の映画化。ラストでフランキー扮する豊松が叫ぶセリフ「私は貝になりたい」は流行語にもなった。『羅生門』などの名脚本家・橋本忍がテレビ版と同じく脚本を担当、映画監督として初めてメガホンを握った。善良な一人の人間が戦争という渦に否応なく巻き込まれていく様が哀切なタッチで描かれる。
アメリカ占領下の1948年1月。東京の帝国銀行椎名町支店で、白昼堂々行員12名を毒殺、18万円余を奪った凶悪事件として日本中を騒然とさせた“帝銀事件”。その犯人として、獄中で無実を叫び続けた死刑囚・平沢貞通(1987年に獄死)の姿を通し、真実とは何かを訴えた熊井啓の初監督作。GHQの関与も囁かれたこの事件を取材した新聞記者たちの目を通して、ドキュメンタリータッチで綴られる。犯人のモンタージュ写真と似ていたことから、テンペラ画家・平沢貞通(信)が逮捕されるが、首実検で彼を犯人と言い切る者は一人もいなかった。しかし、ただ1度の自供によって死刑が確定してしまう。「平沢死刑囚の脳は語る―覆された帝銀事件の精神鑑定」なる書籍もある
政治的な思惑が絡んだ歴史的殺人事件の真相に迫った実録サスペンスドラマ。当時の朝日新聞記者・矢田喜美雄の「謀殺下山事件」を原作に、熊井啓がメガホンをとった。アメリカの占領下にあった昭和24年。国鉄労働者の大量人員整理をめぐって、国鉄と労組が緊迫した局面を迎えていた7月、線路上で下山国鉄総裁の轢断死体が発見される。自殺説と他殺説に分かれる中、昭和日報の記者・矢代(仲代)は他殺の線で執拗な取材を始めるが。
労働争議が吹き荒れる時代に起きた実際の冤罪事件を山本薩夫監督が映画化した法廷サスペンス劇。アメリカ占領下の昭和24年8月、東北本線・松川駅付近で列車が脱線転覆し、機関車乗務員3名が死亡した。事件直後、時の内閣官房長官は談話を発表し、前月に起きた「三鷹事件」など一連の思想的犯罪であることを示唆、警察当局はこの事件が、国鉄労組と東芝松川労組の共同謀議によるものとして、19歳の赤間勝美(小沢)ほか20名が逮捕されるが。後に無罪確定した事件のあらましは「私たちの松川事件―無罪確定から25年松川事件が現代に訴えるもの」で読む事も出来る。
アメリカ占領下の戦後日本の政界に生きた吉田茂と保守本流の実力群像を描いた、戸川猪佐武のベストセラー小説の映画版。昭和23年、焼土と化した日本で、GHQの統制下、吉田(森繁)内閣は対日講和条約成立のために精魂を尽くしていた。しかし、その契約には日本の再軍備という付帯条件があり、政敵の鳩山一郎(芦田)と背後の謀将・三木武夫(若山)の影もちらついていた。当時の政界に実在した主要人物が全て実名で登場する群像劇。主題歌は小椋佳作詞、堀内孝雄作曲・唄による「少年達よ」