ECサイトのお勧め商品カタログ|映画好きのBS/CSガイド
坂
小樽駅・前
- 駅から流れ出てくる人々。
- その中に、ラフなスタイルの女・吉田朋子(25)。
- 辺りを見回し、案内板を見付け、歩み寄る。
- 案内板を見上げる。
- その真剣な顔。
坂道
- 海が坂の背後に広がる。
- 昇って来る朋子。
- 一軒一軒の表札を注意深く見て歩く。
- 「寺山」の表札の家。
- 立ち止まる。
- 「寺山良造」と書かれた表札。
- 溜息を付き、また歩き出す。
- 別な表札を見て歩く。
「寺山良江」の表札
- 朋子、バックを開け、紙切れを取り出す。
- 紙切れと表札を見比べる。
- 紙切れをバックに戻す。
- バックのふたを閉め忘れる。
- 家の戸を叩く。
- 返事がする。
- 顔の表情が硬くなる。
- 女の声
- 「どなた?」
- 朋子
- 「(震え)私・・・」
- 戸が開く。
- 朋子、俯く。
- 寺山良江(51)、不審気に朋子を見る。
- 朋子
- 「(頭を上げ)父、いますか?」
- 良江
- 「誰?」
- 朋子
- 「吉田です。」
- 良江
- 「(態度が改まり)朋子さん?」
- 朋子
- 「はい。」
- 良江
- 「お父さん?お父さん、今、買い物に行ってるの。まぁ、上がって。」
- 朋子
- 「いつ戻りますか?」
- 良江
- 「そこまで行ったから、すぐ戻って来ると思うけど、・・・。」
- 朋子
- 「じゃ、改めて来ます。」
- 良江
- 「上がって下さい。散らかってるけど・・・。」
- 朋子
- 「いえ。」
- 良江
- 「すぐ帰ってきますから。」
- 朋子、お辞儀をして、背を向ける。
- 吉田勇三(55)、紙袋を片手に、下駄履きで帰って来る。
- 朋子とかち合う。
- 勇三
- 「失礼。」
- 体をどかす。
- バックの中身が散らかる。
- 朋子
- 「すみません。」
- かがみ、ハンカチ、口紅など散らかった物を拾う。
- 良江
- 「あなた、朋子さんよ。」
- 朋子、顔を上げる。
- 勇三、立ちすくむ。
- 朋子
- 「お父さん。」
- 勇三にしがみつく。
- バックの中身を拾い集める良江。
- 勇三
- 「な、何しに来た。」
- 良江
- 「あなた。」
- 勇三、家の中に入って行く。
- 朋子
- 「すみません。」
- 良江から拾い集めた物を貰う。
- 良江
- 「上がって下さい。」
- 朋子、泣き笑いで首を振る。
- 良江、朋子の手を引く。
寺山家・居間
- 無言で相対する朋子と勇三。
- 良江の声
- 「朋子さん、泊まっていくんでしょう?」
- 台所から出て来て、玄関へ行く。
- 勇三
- 「どこへ行く?」
- 良江
- 「買い物。」
- 朋子
- 「私・・・。」
- 良江
- 「行って来ます。」
- 勇三
- 「俺、夜勤だぞ。」
- 良江
- 「うん。」
- 出て行く。
- 二人、相変わらず無言。
同・前
- 良江、振り返る。
- 声はしない。
- 良江、戸を閉め、出て行く。
同・居間
- 二人、相対し、座っている。
- 勇三
- 「何か飲むか?」
- 立ち上がる。
- 朋子
- 「お父さん。」
- 勇三
- 「あぁ。」
- 朋子
- 「帰って来て。」
- 勇三、台所へ行く。
- 朋子
- 「お父さん。」
- 勇三の声
- 「もう帰れないよ。」
- 朋子
- 「何故?」
- 勇三の声
- 「今更帰ったって、お母さん、許してくれないだろ。」
- 朋子
- 「そんな事無い。」
- 勇三の声
- 「もう3年だからな。」
- 朋子
- 「お母さん、待ってるのよ。」
- 勇三の声
- 「父さん、家を捨てたんだぞ。」
- 朋子
- 「けど、まだ夫婦でしょ?」
- 勇三の声
- 「3年も別々じゃ、夫婦じゃないよ。」
- 朋子
- 「勇もお父さんの事、許してるのよ。」
- 勇三の声
- 「あいつがか?」
- 朋子
- 「そうよ。」
- 勇三の声
- 「そうか。」
- 朋子
- 「戻って来て。」
- 物音だけがする。
- 朋子
- 「お父さん。」
- 勇三、コーラとコップ2個を持って、戻って来る。
- 勇三
- 「何もないけど。」
- コーラをコップに注ぐ。
- 勇三
- 「ほら。」
- 朋子
- 「そんなに今の人がいいの?」
- 勇三、コップをテーブルに置き、立ち上がる。
- 茶箪笥から封筒を取り出す。
- 勇三
- 「これ、母さんに渡してくれ。」
- テーブルに置く。
- 朋子
- 「何?これ。」
- 勇三
- 「今まで送らなくて悪かったって。」
- 朋子
- 「何よ。これ。」
- 勇三
- 「離婚届だ。」
- 朋子
- 「何故?」
- 勇三
- 「母さんに渡せば判る。」
- 朋子
- 「今更何よ。」
- 勇三
- 「勇、何年になった?」
- 朋子
- 「(勇三を見る)」
- 勇三、コーラを飲む。
- 朋子
- 「判ったわ。」
- 封筒を受け取り、バックに仕舞う。
- コーラを飲む。
- 涙が溢れてくる。
- 勇三、壁の時計を見、立ち上がる。
- 朋子
- 「勇、もう働いているのよ。」
- 勇三
- 「そっか。父さん、これから仕事だから。」
- 朋子
- 「(食いつくように)勇、今年卒業したのよ。」
- 勇三、寝室へ入って行く。
- 朋子、泣き伏す。
同・前
- 良江、戻って来る。
- 勇三、出て来る。
- 良江
- 「朋子さんは?」
- 勇三
- 「今晩、泊めてやってくれ。な。」
- 良江、頷く。
- 勇三
- 「無理言ってすまんけど。」
- 良江
- 「無理は承知してます。」
- 笑いかける。
- 勇三、坂道を降りて行く。
- 良江
- 「行ってらっしゃい。」
- 見送る。
同・居間
- ハンカチで化粧を直す朋子。
- 良江、入って来る。
- 朋子
- 「お帰りなさい。」
- 良江
- 「(わざと明るく)泊まっていくでしょう?」
- 朋子
- 「汽車、何時かな?」
- 良江
- 「え?」
- 朋子
- 「汽車。」
- 直し終え、ハンカチをバックに仕舞い、微笑む。
- 良江
- 「泊まってけばいいでしょう?」
- 朋子、首を振る。
坂道(夕)
- 朋子と良江、坂を下りて来る。
- 良江
- 「また来てね。」
- 朋子
- 「(首を振り)もう来ない。」
- 良江
- 「何故?」
- 朋子
- 「私って、勝手よね。3年間も顔出しもせずに。」
- 良江を見る。
- 朋子
- 「来月結婚するの。」
- 良江
- 「本当?お父さんには・・・。」
- 朋子
- 「お父さんには内緒。」
- 良江、朋子を見る。
小樽駅・ホーム(夕)
- 朋子、汽車に乗り込む。
- 良江
- 「お父さん、呼んでやってね。」
- 朋子
- 「お父さんなんてもういないわ。」
- 良江
- 「違うのよ。」
- 朋子
- 「幸せに。」
- ドアが閉まる。
- 良江
- 「お父さん、返すつもりだったのよ。」
- 微笑む朋子。
- 汽車が動き出す。
- 良江
- 「朋子さん。」
- 走り出す。
- 汽車がホームから離れる。
- 良江
- 「御免なさい。」
- 見送る。
汽車(夕)
- 海辺を走って行く。
- おわり
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