父
シナリオ・センター月刊誌「シナリオ教室」誌1982年第3年20枚シナリオ・トーナメント「ホームドラマ」入選作品
住宅街
- 裸になった街路樹。
川越家・前
- 一軒家。
- 乗用車が止まっている。
同・孝男(25)の部屋
- 家財道具だけの部屋。
- 孝男がタンスから冬物の衣類を取り出している。
- そばにいた雪江(52)が止めに入る。
- 孝男、バックに衣類を入れる。
- 雪江
- 「孝男。お父さんのいる時にして頂戴」
- 孝男
- 「今しか時間ないんだよ。今晩は仕事だし」
- 雪江
- 「でも、泥棒じゃないんだから、お父さんと話して」
- 孝男
- 「もう話す事なんてないよ」
- 雪江
- 「お父さん、あんた方に反対してる訳じゃないのよ。形だけはっきりさせろって」
- 孝男
- 「だから、言ってるじゃない。まだ俺達判んないって」
- 雪江
- 「判んないって」
- 孝男、詰め終える。
- 孝男
- 「じゃ」
- 出て行く。
- 雪江、座り込む。
孝男のアパート(夜)
- 孝男と由加(24)の部屋。
- 2人、インスタントラーメンを食べている。
- 由加
- 「孝男」
- 孝男
- 「うん?」
- 由加
- 「結婚しようか?」
- 孝男
- 「え!」
- 由加
- 「結婚」
- 孝男
- 「何で?」
- 由加
- 「孝男のお父さん、形だけははっきりしろって言ってるじゃない」
- 孝男
- 「ああ」
- 由加
- 「結婚しよう」
- 孝男
- 「いいのか?」
- 由加
- 「そんなに難しく考える事ないでしょ」
- 孝男
- 「そうだな。結婚するか」
- 由加
- 「一度してみたいしね」
- 孝男
- 「よし、そうするか」
- ラーメンを食べる
川越家・居間(夜)
- 忠志(52)、新聞を読んでいる。
- 雪江、電話に出ている。
- 雪江
- 「本当!お父さん、喜ぶわ」
- 忠志の後ろ姿。
- 雪江、受話器を置く。
- 雪江
- 「お父さん。孝男、結婚式あげたいんですって」
- 忠志
- 「本当か!」
- 雪江
- 「お願いしますですって」
- 忠志、電話口へ行く。
- 雪江
- 「もう切りましたよ」
- 忠志、不満気。
同・玄関(夕)
- 忠志、弁当片手に帰って来る。
- 忠志
- 「只今」
- 靴が二足(男物と女物)、ある。
同・居間(夕)
- 忠志、入って来る。
- 孝男と由加、座っている。
- 忠志
- 「どうした?」
- 孝男
- 「式の日取りの事で」
- 忠志
- 「そっか。ちょっと待ってろ」
- 寝室へ入って行く。
同・寝室(夕)
- 雪江が何か探している。
- 忠志、入って来る。
- 忠志
- 「何、探してる?」
- 雪江
- 「(振り返り)お帰んなさい」
- 忠志
- 「孝男達、ほっといていいのか?」
- 雪江
- 「え?ええ」
- 忠志
- 「暦探してんのか?」
- 雪江
- 「うん。どこいったのか」
- 忠志
- 「俺が探しとくから、孝男達にお茶出してやれ」
- 雪江
- 「うん」
- 気がかりそうに出て行く。
- 忠志、探す。
同・居間(夕)
- 忠志、寝室から出て来る。
- 雪江
- 「あった?」
- 忠志
- 「いや」
- 孝男
- 「何が?」
- 雪江
- 「暦」
- 孝男
- 「暦?」
- 雪江
- 「日取り、決めるのに」
- 孝男
- 「それならもう聞いてきた。あとは選ぶだけだよ」
- 手帳を出し、開く。
- 忠志、座る。
- 孝男
- 「どの日、いい?」
- 忠志
- 「どら」
- 手帳を見る。
結婚式式場・控え室
- 孝男が出たり入ったりしている。
- 忠志、孝男のネクタイを直す。
- 孝男、鏡を見る。
- 忠志のネクタイを雪江が直す。
同・神前
- 三三九度が行われている。
- 孝男の手が震える。
- 気付かない由加。
同・式場・前
- 忠志、雪江が、敏夫(由加の父50)、和子(由加の母49)に頭を下げる。
- 敏夫、和子の方も下げる。
同・式場
- 席に着いた客達。
- 明かりが落ち、ドアが開く。
- 新郎新婦の入場。
- 拍手。
同
- 花束贈呈。
- 泣く忠志。
- ハンカチを渡す雪江。
同・控え室
- 着替える孝男と忠志。
- 孝男
- 「早く切り上げてよ。友達方と約束したんだから」
- 忠志
- 「また出てくのか?」
- 孝男
- 「せっかく場を作ってくれるんだもの、行かなきゃ悪いよ」
- 忠志
- 「遠くの親戚より近くの他人か」
- 孝男
- 「世話になってるからね」
- 忠志、むっつり着替える。
居酒屋(夜)
- 友達に囲まれ、賑わう孝男と由加。
- 友達、はやす。
- 孝男と由加、照れる。
- 孝男、由加の頬にキス。
- 拍手。
川越家・居間(夜)
- 忠志と相対し、敏夫と和子。
- 忠志、大分酔っている。
- 雪江、水を持ってくる。
- 忠志
- 「判ります?お宅に。お宅は娘さんだから、いつかは出て行くって覚悟してたでしょ?けど、私は違う。息子だ。一人息子ですよ。いつか養ってくれる。そう思ってた。当たり前でしょ?それが出て行った。同棲するって。私は何ですか?息子に置き去りで、私は何も覚悟なんてなかった。急に見離されたんですよ」
- 敏夫
- 「そういうもんじゃないんですか、今は」
- 忠志
- 「そういうもんですかね。今は。親なんてそういうもんですかね」
- 雪江
- 「お父さん」
- 忠志
- 「そういうもんか」
- 寝てしまう。
居酒屋・前(夜)
- 孝男と由加、友人達と出て来る。
- 孝男
- 「じゃ」
- 2人、通りへ歩く。
- 由加、孝男の腕に絡む。
川越家・居間
- 忠志、新聞を読んでいる。
- 掃除機の音。
- 忠志、二階に目をやる。
- 音が止まる。
- 階段の音。
- 忠志、立ち上がる。
- 雪江、入って来る。
- 忠志、ベランダに立つ。
- 雪江
- 「二階、ガランとなっちゃった」
- 掃除機をしまう。
- 忠志の後ろ姿。
- 外は雪が降っている。
- おわり