J:COMで放映された映画をベースに、今まで観た映画、これから観たい映画を順次、整理し、並べてみます。ご活用下さい。
菊島隆三がオリジナル脚本を書き下ろし初めて製作も兼ねた1作。バーで働く女の哀歓と客やマネージャーらの人間模様を綴る成瀬巳喜男後期の作品。夫に先立たれ、銀座のバーで雇われマダムとして働く矢代圭子(高峰)は、店のマネージャーだった小松(仲代)らと借金で新たに店を持つが、非情なプロに徹しきれずに悩む。実家で療養中に圭子は店の客だった関根(加東)、藤崎(森)らと次々に関係を持つが。流されていく女の心理が丹念に綴られる。
複雑な家族関係における人間性を描いたドラマ。坂西家は母・あき(三益)、長男・勇一郎(森)、その妻・和子(高峰)、出戻りの長女・早苗(原)など7人の大家族である。勇一郎は妻に内緒で多額の融資をしていたが、それが失敗すると家庭内の葛藤が一気に表面化する。早苗の再婚、老後、姑との同居、遺産分配。さまざまな苦難の中で、女性が採るべき人生の新しい選択肢を追求した成瀬作品の佳作。原節子と高峰秀子の18年ぶりの共演も話題に。
成瀬巳喜男と川島雄三の共同監督という珍しいスタッフで製作された女性ドラマ。花柳界の料亭の女将とその娘との確執を描いた女性映画。古い世代の人物が登場する場面を成瀬巳喜男、若い世代の場面を川島雄三が担当するというかつてない共同監督が試みられた。築地の料亭の女将である綾(山田)は、板前の五十嵐(三橋)と長い関係。しかし、娘の美也子(司)も五十嵐に密かな恋心を抱いている。白川由美、水谷良重、草笛光子など豪華絢爛の女性キャストも見どころ。
父親が死んで母親の実家に預けられた少年と、近所に住む妾の子の少女との友情を、銀座裏通りの人情風俗を交えて綴る。成瀬巳喜男が前作『コタンの口笛』に続いて子供の心理を繊細に捉えた完成度の高い作品。
『女が階段を上る時』『娘・妻・母』などで女性の生き方を追求してきた成瀬監督による、一連の女性映画の決定版とも呼べる作品。戦後の混乱の中、祖母の志乃(飯田)と2人暮らしの三保(高峰)は、妻ある男・河野(森)に精神的にも経済的にも頼って生きるしかなかった。本妻の綾子(淡島)に自分の子を預け、彼女名義のバーを任されていた三保だが、次第に河野の人間性に小ささを感じ、ついには別れる決心をする。
大家族の中の女たちが、それぞれの生き方を模索していく姿を丁寧に描き分けており、小津の『東京物語』にも通底するテーマを扱った名作。名優・笠置衆が女性たちを束ねる父親役として出演。長女・松代(三益愛子)は父・金次郎(笠置衆)の危篤を聞いて実家に駆けつけるが、そこへ三女・路子(淡路恵子)夫妻がやって来る。さらに長男の未亡人・芳子(高峰)の再婚話、次女・梅子(草笛光子)の恋愛話が持ち上がり。
『女家族』『真珠母』ほか林芙美子原作の翻案では定評のある成瀬監督が、舞台でも有名な林の自伝的小説を映画化した文芸ドラマ。昭和の初め、東京で母・きし(田中)と暮らす作家の芙美子(高峰)。生活苦からカフェで働くことにした彼女は詩人・福地(宝田)と出会い、同棲するようになる。ひたすら原稿を執筆する2人だが、ふとしたことで関係にひびが入り。林の数奇に満ちた作家人生を、成瀬と高峰のコンビが見事に表現した秀作であるが、等身大としての林芙美子を描こうとした高峰の林芙美子は不評であった。寡黙な監督の下、宝田明が演技開眼した作品でもある。
モーパッサンの「女の一生」にヒントを得た笠原良三のオリジナル・シナリオを映画化した、成瀬巳喜男晩年の作品。日中戦争以来の世相の変化を背景に子持ちの未亡人の半生を描く”女の一代記”もの。東京郊外で美容院を経営しながら義母と一人息子と暮らす信子(高峰)。夫の戦死後、何かと支えてくれる亡夫の友人・秋本(仲代)との再婚も考える信子だったが。
松山善三のオリジナル脚本による名作ドラマ。成瀬作品常連の高峰をはじめとした豪華女性キャストに加え、当時人気絶頂の青春スターだった加山雄三の出演も話題になった。夫亡きあと、20年間嫁ぎ先の酒店を切り盛りしてきた礼子。東京の会社を辞め実家に戻った義弟の幸司は、礼子に長年抱いていた愛を告白するが。衝撃のラストも含め、全編の緊張感あふれる演出が素晴らしい成瀬巳喜男晩年の突き離しの美学の傑作。
エドワード・アタイヤの推理小説「細い線」を原作に、成瀬監督がはじめて取り組んだフィルムノアール調の心理サスペンス。平凡なサラリーマン田代(小林)は親友・杉本(三橋)の妻を情事の最中に誤って殺害。誰にも疑われなかったにもかかわらず、良心の呵責からノイローゼになってしまう。重圧から逃れるため、自らの犯罪を周囲に告白する田代だったが、妻・雅子(新珠)は意外な態度に出る。監督得意のスタンダードサイズで緊張感に満ちた演出を披露。
高度経済成長期だった当時の世相を背景に、交通戦争をテーマにした社会派サスペンス。重役夫人の絹子(司)は男の子をひき逃げしてしまうが、夫の権力により罪を逃れる。一方、息子を殺された国子(高峰)は真犯人を絹子だと疑っていた。真相を暴き、復讐を遂げるため絹子の家に家政婦として入り込む。成瀬作品に『乱れる』以来2年ぶりに参加する高峰秀子と『女の座』以来3年ぶりの出演となる司葉子の競演が話題を呼んだ。
成瀬作品DVD化が進むスペインでペドロ・アルモドバルも影響受けたのではないかと思われるようなストーリー展開。ラストの救いは涙もの。交通戦争のテーマは遺作『乱れ雲』へと引き継がれる。
成瀬巳喜男の遺作。交通事故の被害者と加害者が愛し合うようになるけれども、被害者と加害者の溝は埋められない。理屈で解き得ない人の情の問題を成瀬は「ヤルセ・ナキオ」として描き尽くす。若き加山雄三がナイーブな内面を演じている。