J:COMで放映された映画をベースに、今まで観た映画、これから観たい映画を順次、整理し、並べてみます。ご活用下さい。
29歳で夭折した天才監督・山中貞雄の現存する3作品のうちの1本にして、日本映画屈指の名作。豊川版『丹下左膳 百万両の壺』は本作品のリメイクである。殺気溢れる剣戟ヒーローもの・丹下左膳を、山中貞雄はハリウッドの人情喜劇を頭において換骨奪胎、時代劇ホームドラマというべきテイストでユーモラスかつ人情味いっぱいに生まれかえらせている。原作は林不忘。
伝説的な天才映画監督・山中貞雄27歳、原節子16歳。山中貞雄が、無頼な男たちが「この美しい瞳のためなら死んでもいい」と思うような女優を捜し求め、時代劇女優からは見つからずに現代劇の中から大抜擢したという逸話を持つ若き才能の出逢いが生み出した映画史に残る傑作時代劇。無為な日々を送るヤクザ者・河内山宗俊と金子市之丞が“心の慰め”である健気な娘・お浪が借金を苦に身売りを決意。ふたりは娘を救おうと一世一代の大博打に出る。
貧しい長屋に住む浪人は、かつて父の世話を受けた男に士官を頼みに行くが、今日も門前払い。真面目で融通の利かない夫を持つ女房は、経緯をうすうす感じながら黙って耐える。長屋では首つり自殺があった。しかし、その日暮らしの職人たちにとって、長屋はいわばワンダーランド。首つり自殺の供養を理由に今日も酒盛りが始まる。髪結いは嫁入りを迫られている質屋の娘を誘拐する。銭金のためでなく、意地を見せたかったのだ。ちゃっかり者の家主は、ここぞとばかりに質屋と交渉し、五十両で娘を無事に帰してやる。その五十両でまた今夜も酒盛りが始まる。
現在にも通じる、殺伐たる時代。タイトル通り紙風船のように儚い、人のこころの悲喜こもごもを、じっと見つめた天才・山中貞雄の視線の優しさ、温かさ。完成試写の日に召集令状を受け取り、手が震え、たばこに火をつけることが出来ず、「『人情紙風船』が俺の最後の作品では浮かばれんなァ」と呟いたという。
[1930s]