スクロールすること半年、おじいさんたちはカラの国に着いた。カラの国名物
とうきびを食らう四人の目前が、にわかにけぶった。 すわ、天変地異か、魑魅魍魎か、と身構える彼らの横で、団子を食っていた老 尼が、臨時アニキ電車ですな、めずらしやと呟いた。 おじいさんの胸は…いや、それはもうよろしい。これが噂に聞いたアニキの汗 で出来た蒸気らしい、ありがたやありがたや、とばかり、彼らは旅の記念にと深 呼吸をした。その空気を吸い込んだ途端、犬太郎が膝をついた。 「ど、どうしたんじゃ、犬太郎!」 犬太郎ばかりでなく、猿太郎、雉太郎も次々と地面へと倒れていく。そして、 おじいさんも強い目眩を感じた。 「こ、これは……」 狼狽するおじいさんの前で犬太郎が叫んだ。 「ぱ、ぱうわー!!!」 もふっもふもふもふっと、犬太郎の筋肉繊維が盛り上がり、見る見るうちにア ニキへと変化していく。猿太郎、雉太郎も例外ではない。 「ぐをっ」 おじいさんも身体に熱いものを感じた。脈々と流れる、雄道(をとこみち)の 精神が、今老人の枯れた肉体を突き抜けて、現世に具象化しようとしていた。 完全に変態を終えたおじいさんの額だけが、まだ熱を持っている。水鏡に映し てみると、そこには『爺』の文字があった。 「本当に、戻れなくなってしまったな」 さびしそうに呟くおじいさんに、三人の新たなアニキたちはいっせいに首を振 った。 「ついてきてくれるか」 力強くアニキたちが肯いた途端、彼らの額に、犬、猿、雉の文字が表れた。 「おぬし、死相が出ておるぞえ」 老尼が独り言のように囁いた。 もとより惜しい命ではない。おじいさんは、老尼にとっておきの微笑みを投げ かけると踵を返し東へ向かった。 カラの国での試練は終わった。邪悪の匂いのするところ、常に『爺』の肉文字 あり。 いざ、邪悪太郎のもとへ! 帰りは、バタフライにしようと思うおじいさんだった。
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