誰もそうですが、わざわざ足もとの石ごときに気をとめる者などいません。 桃太郎はその石ころを気づきもせずまたいだ瞬間、異様な感覚を感じました。 ハッ、として周囲を見回しますが、なにもありません。 なにか股間のあたりから気配を感じた気がしてもぞもぞ調べてみますが、別にな んともありません。 首をかしげて再び歩み始める桃太郎でした。そのとき。 『待て』 声、しかしそれは音声ではなく、心に直接響く声でした。 「誰だ」 『私はおまえの足もとの石だ。 今は石に身をやつしているが、以前は霊験あらたかといわれた地蔵だったのだ。 私を持って行け。おまえがこれから直面する困難に、必ず役に立つはずだ』 桃太郎は《昔地蔵だった石》を手に入れた。
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