おばあさんは、おじいさんに いわれ川へ洗濯物を取りに戻った。途中、道端の茂みの中から
気配を感じたおばあさんは、全身の神経を集中させ、その気配が危険であるかどうかを見極めようとした。 「そこに誰かいるね」 「そ・その声はもしかしたら....い、犬山です。助けて下さい。」 おばあさんは、あまりに懐かしい名を聞いて驚き、茂みにかけよった。 「犬山。こんな所で会うなんて、それに この怪我は、いったい。」 「あぁ、やっぱり、教官だ。ひさしぶりの再会だというのに こんなふがいない姿で はずかしい。」 おばあさんの名は、袋田タキ。結婚前、彼女は、アーミー訓練校の教官だった。犬山は、そのころの生徒だった。 [まず、その怪我をなんとかしよう。話は それからだ。」 おばあさん いや 袋田タキ教官は、手慣れた手つきで応急処置をほどこした。 「犬山、おまえは、確か スナイパー(狙撃兵)だったね。」 「教官、この山ひとつ越えたところに怪しげな建物があるのをご存知ですか? 私と猿谷とキジ島の3人でその建物を調べるように 政府から依頼されたのです。」 猿谷とキジ島。 また 懐かしい名だ。犬山と 猿谷と キジ島は、彼女にとっても忘れがたい生徒だった。3人とも個性的で優秀だった。
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