ニジマスを泣かせた日



1993年8月津別川
いまでは、毎週のように釣りに出かける友人たちであったが昔からそうであったわけではない。それまでは、休みと言えばゴルフであった。夏休みなどは、道東の友人宅を拠点に1週間ほとんど毎日安いゴルフ場でプレーという生活をしていた。ただ釣りキチの私としては、せっかく道東にきて釣りをしないで帰ることは、1週間断食をするようなものであった。そこで、ことあるごとに釣りの話をして1日だけでもみんなを無理矢理釣りに連れだした。道具の用意から仕掛け作り、餌付けまで全部お世話した。接待ゴルフならぬ接待釣りであった。皆様に1匹でも釣らせることだけを考えていた。津別チミケップ湖から流れる川の堰堤の釣りでは、4人みんなで堰堤の上に陣取り、3.6メートルの竿に7,8メートルの糸をつけて釣った。かなり釣れたが、釣れたときが大変だった。糸をたぐり寄せるまでに魚が暴れてばれてしまい、逃げられてしまうことが度々あった。

この年、北見に着いてから宿主の下ちゃんと落ち合うまでかなり時間があった。時間まで釣りをしようと札幌から同行しているJ氏を誘った。J氏は前年チミケップの川でヤマベの大物を釣っているのですぐにのってきた。津別川は、北海道では珍しく遊漁券を買わなければならない。遊漁券を購入し釣り場へと向かった。夏休みなので中学生や高校生の釣り人が5,6人すでに釣っていた。また、接待釣りの始まりだ。でも今回は今までの成果があり、仕掛け作りですんだ。後はJ氏に任せ、どんどん釣り上った。1時間ほど経ったであろうか。遠くでJ氏が叫んでいるようだ。急いで駆け寄っていった。近づくにつれこちらが驚いた。5、60センチはあろかというニジマスと格闘しているではないか。でも待て。糸は1号、ハリスは、確か0,8号だったはずだ。どうやってつり上げたんだ?J氏のあわてようもかなりであった。すでに針がはずれているらしく、魚が地面で暴れている。そこを逃すものかと魚を膝で押さえ、頭としっぽを両手で押さえている。そうなれば、魚も必死だ。こんしんのちからをふりしぼり、「ぐっぅぇ」といってJ氏の羽交い締めから逃れ川へと逃げていった。

それにしてもどうやってつり上げたんだ。J氏の話によるとこうだ。当たりがあったのであわてて強くあわせたそうだ。その勢いで糸が切れるとともに魚が宙を飛んで自分の足下にやってきた。何ともカツオの一本釣りのような釣り方だ。この日からまた一人の釣りキチが増えた。

今頃あのニジマスはみんなに言いふらしているだろう。J氏、恐るべし!と。


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