町民芝居ゆうべつ  第12

昭和の小漁師top

町民芝居top


脚 本  
  町民芝居ゆうべつ公演脚本 

ゆうべつ物語第十二話

創作劇

「チューリップ物語」 

      作 石渡輝道 

一幕八場(九十分)

          初 版 平成二十五年十一月三十日
                                                第二版 平成二十五年十二月十三日 

あらすじ  時、昭和30年代  所、湧別町
ここ上湧別地区では、土地が肥沃と云われいることから、どんな作物でも取れたのだった。
しかし、面積的には小さく、反収を上げる作物を作ることを何時も考えていた。
そんな中、国の新農漁村振興対策事業として、「チューリップ」の球根栽培が進められ、そして農業改良普及員の強い指導もあり、一部の人達が、主産地形成の第一歩をふみだしたのである。

「チューリップで夢を見よう」

今回紹介するこの家族は、その「チューリップ」作りを手掛けることになったが、その苦労は大変だったことは云うまでもない。
月日が過ぎた、ある時の出荷時期に、球根にカビが生えたり、きれいに見せるために土を落としたことで、品質が落ちるなどあったが、それらを乗り越えて、反収もまあまあとなり、軌道に乗り始め22万球を輸出するまでになった矢先、オランダのダンピングによる価格の暴落で、球根栽培農家も一戸減り、二戸減りで、昭和40年ころには栽培をする農家は居なくなったのである。
それと同時期、今回の主人公の山本家では、子育ての時期でもあり、夫婦の悩む姿を紹介しながら、この物語を進めることとした。

 

 追稿 

公園が出来るまでを紹介すると、その後、栽培農家のお年寄りたちや、老人クラブが老人農園や、自宅、会館の周辺にチューリップを植えて、作る喜び、それを見る喜びを楽しんでいた。また、車で通りかかりの旅行者が、そのチューリップの庭を見て、立ち寄るようになったのである。
それらを見聞きしていた町民有志と、行政の人達が、作る観光しかないと、大きな夢物語を考え始めるのである。「このチューリップ畑を大きくすれば、一大観光地になるのでは」?
と、話し合いをし、知恵を出し合い、力を合わせ、出来たのがこの「かみゆうべつチューリップ公園」である。 

この中心的や役割を果たしたのが、当時苦労をしていた、チュ―リップ栽培の農家の人達であり、老人クラブの仲間のひとたちであった。
今、ここ広いチューリップ畑、風車、年間十万人を超える来園者。平成二十年十月合併をし、湧別町花「チューリップ」となるのである。

 

この作品についての、作者の思いは 

 この光景を見た時、「チューリップ」は、何を思い、何を考えているのであろうか。
私はきっと「球根が、開花のために寒い冬の間に準備をして、春には美しい花を咲かせる。それは、子、孫への引き継ぎを準備し、最も良い時期に花は咲き、そして散って逝く」と云うことを、人間に云い続け、伝え続けているのではないのだろうかと思った?。
 あたかも子どもを育てるのと、同じであることを、知るのである。
 「生を受けたものの生涯とは、次に、伝え、渡すことが出来たことが、生きていたという「証」ではないだろうか」。
 日々、一刻一刻が過ぎる今、考えてもみない何時かは老い、消えていく生き物たちの宿命が、日々私達に迫っていることを、この「チューリップ」が云っているのではないだろうか。
 そのことを、我々は知らなければいけないのではないか。

また、決して私たちがチューリップを守り育てているのではなく、湧別町は「愛郷を振りまいているチューリップによって、守り育てられていることに、気が付くべきである」との思いをこめて、私は、この物語を書いてみることにしたのである。「?」



舞台構成上での演出からの注文


チューリップ公園の全面風景は、カーテンコールの時にのみとする。


回想(思い出し)の場面は―白黒映画の様な照明、衣装、化粧とする。

(第二、四、五、六、七場)

現代の場面は、現代風でよい。

(第一、三、八場)

 

スタッフ    企画     町民芝居ゆうべつ 第十二話制作会議

        監修資料提供 ふるさと館JRY

               湧別町図書館

       

座長     伊藤誠一郎  

事務局長   茂利泰史  

事務局次長  由野のぞみ  

会計     伊藤香 

企画制作   町民芝居ゆうべつ

脚本     石渡輝道         

脚本補    佐々木絵里

演出                  

演出補 

舞台監督                

舞台監督補 

舞台美術(大、小道具)          

舞台美術補 

 

音楽、音響、効果 

照明    

衣装、化粧協力                                         

キ ャ ス ト

ナレーター         相 場 典 子 

 第一、三、八場 現 代(平成) 

 

  山本老夫    一    (75)
       妻  ハル   (73)
  三島老夫   義雄   (78)
   妻  和子   (75)

 


 第二場 昭和三十年代ころ 

   山本夫    (35)
   妻  ハル  (33)
   長男 拓哉  (11) 
   長女  美華 (9) 
   祖父  寅一 (65) 
   祖母  スミ (64) 

                                

 

第四場 昭和三十年代                                       

                              シルエットによる、チューリップの作業現場を

                                  再現する。

一、畑お越し

二、球根植え 

三、花摘み

                                     山本家家族、三島家家族全員による。


第五場 四十年代ころ  

   三島 義雄  (48) 
       妻  和子  (45) 
  長男  和夫  (16) 
  長女  晴美  (17) 
農業改良普及員    (46) 



第六、七場 昭和四十年代ころ


  山本   一  (45) 
  妻  ハル  (43) 
  長男  拓哉  (20) 
  長女  美華  (18) 
池田先生    (40) 
       
第六場       
  三島  晴美  (17) 
       
第八場  現 代 (平成)      
       
  長女  美華  (45) 
  その子  さや (13) 
    こう  (12) 
    じょう  (11) 
    みわ  (10) 
    えみ  (9) 
  近所の子供 さち   
    まさ   

                                             

 

 

音楽入り、幕上がる


 第一場
(十分)
   舞台下手に、山本夫婦、三島夫婦の二組の、少々トボケ気味な話をしている老夫婦が、昔を思い出しながら語っている。         

(そして後半、山本老夫婦は、チューりップを始める時の話をする

(第一場へ


 音楽消えて、照明入る



舞台は、現在(平成)のチューリップ公園にて


 一      今年もきれいに咲いたな。 

ハル      そうだね、咲いたね。

義雄      本当だよ、きれいなもんだな。

和子      全くだね、こんなにきれいに咲かすのは、大変なんだろうね。

 一       義さんよ・・・・こんなに立派な花畑になってしまって、どうすっんね。

義雄      そうだな、こんなに広くなったら、草採るの困ったもんだ。
             どっから採ろうかな。

ハル      何を云ってるんだろうね。こんな大きな「チューリップ」畑の草採り、出来る分がないだろうさ。

和子      本当だよ。家の畑と違うんだから、桁が違うって。

 一      そうよなー、百本や、二百本の話じゃないよ。
        こんなに広くしてしまって、困ったな、どうする。

義雄      まったくだ、広過ぎて、どうしようか、草取りは、・・・困ったな。

     ハル、和子不思議そうに、顔を見合わせる。

ハル      爺さんたちは、何を云ってるんですかね。

和子      ホントだよ、何云ってるんだろうね、ここが自分の花畑だとでも、

        思っているんじゃ、ないだろうね。


ハル      こんなに広い畑が、自分の花畑だと思っているんだろうか。


和子      全くだよ、ハルさん。

        爺さんたちは、どうか、しちゃったんじゃないかい。


 一     そうよな、俺たちだけでは無理だって。


義雄     そうだとも、無理だ・・・・二区や三区の連中頼んでくるか。


ハル     何、云ってるさ、爺ちゃん。ここは町の「チューリップ公園」だよ。


和子     何言いだすかと思ったら、自分の花畑だと思ったんかい。



     一、少し考えこんで



一      あ・・そうか・・・わし等の花畑じゃなかったな。

       ・・・な・・・義さんよ。


義雄     そ、そ、そか。そうだったよな。ワシの花畑じゃなかったな。

       は、は、は。


ハル     どうかしちゃったのかね。
           これが、自分の花畑だったら・・・・
           作物を作る畑は・・・何処にあるんだよ。
           少ししかない畑なのにさ。

和子     そうだとも、畑が狭いって、何時も溢してばったりいた爺さん達が。

 一     そうよな、まったくだ。
           俺たち屯田兵には四町歩しか、土地を貰えなかったんだからな。

義雄     そうだよな、屯田兵は、四町歩だったよな・・・・・。
           他のとこに開拓に入った者は、みんな五町歩だったからな・・・・。

ハル     あれ・・・・マトモに戻ったようだよ・・・・・・。
           近頃だったら、家の人は、時々、とんちんかんな事を云うんだよ。
           なあ、和さん家はどうなんだいね。

和子     まったくだよ、ハルさん家だったら、まだいい方だよ、
       私の家の爺さんなんか、隣の畑見て、
       嫁にさ・・・・「早く草取りせんと、作物が草に負けてしまうぞ」
       ・・・・なんて云うんだからさ。

           ここには、風車もあって、食堂もあってさ・・・売店もあるのにさ・・・。
           ここが自分の花畑だと、思うのかね・・・・・不思議には思わんのかね。

 一     何、2人して俺たちの事を、云ってるのよ。
           まだまだ、そんなにボケてなんかいないぞ。・・・な・・・義さんよ。

義雄     本当だよ。これからださ。ボケてなんかいられないって。

ハル     そうだよ、そんなに早くボケられたら、私が困っちゃうんだから。

和子     私もだよ、あんたがボケる前に、私が先にボケるんだからね。
           そして、あんたが、私を介護するんだからね。

 一      義さん、あんたはボケられないな・・・・・
           和さんが、ああ、云ってるんだからよ。
           家は俺より、ハルの方が先にボケるの決まってるんだ。
           時々味噌汁に、味噌入れるの、忘れてるからな、は、は、は・・。

ハル     何よ、こんなとこで、云うことじゃないだろうさ。

義雄     何よ・・・あんたの家もそうかい、家だってそんなこと、何時もだ。
       そんなのまだいい方だって、夕飯食うて炊飯器あけたら、

           何にも無い時、時々じゃなくて、バンキリださ。

和子     何、云いだすと思ったら、またその話かい。

           そんな話、聞きあきたって、たかが、スイッチ入れるの忘れたくらいで。
           薪ストーブで御飯炊いた時なんかは、
           一度も忘れたことなかっただろうさ。

義雄     当りまえだろうよ、ストーブに火入れなかったら、炊けないぞ。
           は、は、は。

 一     便利すぎて、年寄には良いのか、悪いのか分からんな。
           近頃は何でも便利になりすぎて、年寄には、不便になって来たな・・・・
       やることが少なすぎるって。


ハル     若い者は、何でも便利な方が良いって言って、簡単に出来るものを、
       私らに買ってくれるけど、年寄から仕事を取り上げているんだってこと、
       分かっていないよね。


義雄     そうださ、近頃なんか、やること無くなったよ。

和子     でも、チューリップ始めた時、何にも分からんかったけど、
           忙しかったね。

 一     そうよな、あの頃は食うので、生一杯だったしな。
           それが、こんなに大きなチューリップ畑に成っちゃったんだから。
           普及員さんには、大変世話になったさ。

ハル     そうだね、お世話になったね。あの時はみんな、燃えていたよね・・・、
       ただそれを決断するまでは、私らだけでは決断できなかったね。

           爺ちゃんの云った言葉で、最後の決断をしたよね。
           やっぱり、屯田兵だからか、根性があったね。

 一     そうよな、屯田兵魂だ・・・・。
           ・・・・・・あのチューリップを決断した時の、
           家族で話した時を思い出すよな。

ハル     思い出すよね、あ・・・四十年は経ちましたかね・・・・・。




音楽が入り、照明消え、




音楽小さくなり、上手のみ照明が入る




舞台上手、昭和三十年代に戻る



 第二場
(十五分)
   昭和三十二年代の山本家では、普及員が帰った後、普及員の進めるチューリップの栽培をどうするかで、家族(父、母、子供達、祖父、祖母)の中で話し合いをする。

畑の面積が少ないために、収益の多い作物を作らなければならず、何がいいか迷っていた時だったので、いろいろ話をするが、なかなか結論は出なく、家族が同意するまでには時間がかかった。

最終的には、祖父の言葉で決断となったのである。
「開拓当時は、何をするのにも白紙の状態だった。でも、やらないで後で後悔するのだったら、やって失敗しても、後悔はしないのではないかな」と話す。



舞台は、山本家の居間



 一      チューリップて、あの、風車のあるオランダの花だってか。
           北海道に適しているのかな。

ハル     そうだよね、北海道と変わらないぐらいの、気候なんだろさね、普及員
       さんが言ってたね。


拓哉     チューリップはトルコが原産地で、トルコのいたる所には、
           チューリップの花畑があるんだって、
           この間、社会科で習ったところださ。
           それに、食べ物だって、うまいんだって、トルコは。

美華     何―に、兄ちゃんだったら、食べ物の事しか頭にないんだべさ。

 一     本当だな。拓哉たら、何時でも腹が減っているのか。

ハル     何を云ってるのよ、今、チューリップの話をしているんでしょう。

 一     いや、いや、拓哉には、今は、食べ物のことが一番ださ。
           ・・・・なあ。

拓哉     そうだ、父ちゃんの方が、俺の腹の中よく分かるって。

寅一     親子して、何を馬鹿な事を云ってるのよ。
           今、反収を上げる方法を話しているところだろうさ。

スミ     本当に拓哉、お前は、この家の三代目なんだよ。
           まだ、子供だからって、遊んでばっかりいたって、駄目だよ。
           今は、一番大切な畑の作物のことなんだから、しっかり話し聞かないと。

ハル     婆ちゃん、良いこと云ってくれた。
           近頃だったら、親の私にも、減らず口聞くんだから。

拓哉     分かった、分かったて、チューリップの話続けるべ。

 一     さっきまで、普及員の云ってたチューリップ・・・・
           本当にいいと思うか。
           そりゃ、土地も狭いから、反収のあるものを作らなければ、
       儲けが少ないことぐらいは分かる。・・・・・でもな・・・・・


ハル     爺ちゃん、婆ちゃん達だって、色んな物作ってきたべさ。・・ね・・・。

寅一     あ・・・作ってきたさ、ここに入った頃は、いも、かぼちゃ、それに米を作ろうと、
       一生懸命みんなで力をあわせたさ。

           ただ、米は北国の、寒冷地には、大変だったな。

スミ     でもね、男達は、昼前はね、いざという時の兵隊の訓練、
       みんな午後からしか畑には来れなかった。だから、女の方が大変だったさ。


美華     何時も、女は大変だよね。
           畑の仕事をしてから、家に入って、食事や洗濯するんだからさ。

拓哉     当りまえだべ、女なんだから。

ハル     そうかね、当りまえかな拓哉。
           これからは、そんなこと云ってたら、拓哉に嫁さん、来ないかもしれないよ。
           今、栽培しようとしているチューリップは、
           女の人が主役でないと出来ない作物だと、私は思うんだ。

拓哉     どうして、女が主役だって。

美華     そうだよ、今でも、女の方が仕事してる時間が、長いべさ。

 一     男は、わき役かい・・・・なー・・・ハル。

寅一     女が主役って、どういう意味なんだね。

スミ     そうだよ、今は・・・畑仕事は、昔も今も、男が主役だよ・・・・
           重労働なんだから。

ハル     私は、さっき普及員さんの話聞いていて、チューリップは、繊細なんだと思うんだ。
           簡単に云うと、母親が、子供を育てるように、
           気配りしながら栽培するんだと思う。
           私は、チューリップばかりではないとは思うけど、作物作ったり、
           育てたりするのは、子供を育てるのと同じだと思うんだ。
           どうですかね・・・・・婆ちゃん。

スミ     うん・・・・・そうかもしれないけど、
           わしの時代も、今も同じだけど、子供の事は、みんな私ら、
       女親に任せぱなしだったよな。は、は、は。


寅一     そうだよ、男親は、子供の事を見なかったよな。

美華     今と同じだよ・・・仕事忙しいふりして、子どもなんて見ている暇がないってさ。
       ホッポリぱなしださ・・・ね・・・・父ちゃん・・・・母ちゃん。


拓哉     そうださ、全てが仕事優先だべさ。
           食うのが、やっとの時代だから、しょうがないべさ。

 一     そうださ・・・仕事が忙しかったのは確かだけど、母さんは、子供も、畑も、同じように、
       一生懸命に・・・頑張って・・・やって来たぞ。


ハル     え〜父さんにそう云われると、チョット照れるね。
           そう、畑仕事と、家事の仕事は、大変なことは確かだけど、
       当りまえのことなんじゃないのかね。今まで女はみんなやって来たことださ。


美華     そうかな、家の親は、子供達ば、ホッポっていただけじゃないべか。



       少々険悪な状況になる。―間―



スミ     何で・・・・今は・・・家の事でなくて、チューリップのことでしょう。
           要するに作物を作ると云うことは、子供を育てるつもりでないと、
       成功しないと云うことなんだ、普及員もいってたしょ。


寅一     そうだな・・・球根を、世界に輸出出来るんだぞ。
           世界に・・・・こんな小さな町から、世界にだぞ。

 一     それは分かるけど、誰もやった事がないことをやるんだから、度胸がいるよ。
           万が一、失敗したら、みんなの笑もんだからな。

寅一     だからさっき、普及員が云ってたように、お前がやると云えば、
       隣の三島さんの所だって、やるって。


ハル     そりゃ分かる・・・・私達がやると云えば、近所の人達も、付いては来てくれるかもしれないけど
       ・・・・・だから責任があるんでないの。

           あんた達はどう思う・・・・美華、あんたは。

拓哉     そりゃー、失敗した時の事考えると、心配だな。
           だけど、最初から失敗を考えてたら、何にも出来ないべさ。

美華     私、分からない・・・・・兄ちゃんは・・・
       よく考えた方がいいよ、ここの三代目だべさ。


 一     そうかもしれない・・・だけどな、ここ北海道の農業は、今まで、
       色々なものを試しては、失敗しながら、やって来たんだ。

           その中には、沢山の成功した物もある、
       失敗した方が多いかもしれない。

           でも、誰かが試さない限り、成功何て考えられないんじゃないのかな。
          「失敗を怖がる者には、成功は無い」と誰かが云っていたけど。

寅一     お・・・よく云った「一」・・・・・。お前もやっぱり屯田兵の血が流れてる。
       なあ・・・拓哉・・・爺ちゃん、屯田兵で入ったときはな
       ・・・・・高知から船で湧別の浜に着いた。

           高知出て来る時は、大勢の親せきや友達に送られてよ・・・・。
           本当はな・・・・・こんな北の果てまで、来たくなかったさ。
           だけど・・・人間の一生はな、たかが六十年か、七十年だ。
           それなら、悔いのない一生を過ごすしかないだろうさ。
           やらないで後悔するのだったら、やって失敗しても、後悔はしないのではないかな。
           ・・なあ「一」。・・・・ここで勝負して見れや。俺も、婆さんも、今なら、
       少しは応援出来るからよ。・・・・・でも、こんな細腕だけどよ。・・・は、は・・・


スミ     久振りに、爺さんの、生きのいい話、聞いたよ、惚れ直したね・・・・。
       今更、云ったところで、しょうがないけど、な。

           ・・爺さん・・・は、は・・・。

美華     すごいよ、爺ちゃん。爺ちゃんはやっぱり屯田兵だ。

拓哉     本当だ、たいしたもんだよ、爺ちゃん、俺の嫁さん絶対爺ちゃんに探してもらうよ。
       ね、ね・・・・爺ちゃん、俺、嫁さん貰いたくなったら頼むね。


 一     よし分かった・・・・俺やってみる・・・・
       この湧別原野にチューリップの花を一面に咲かせて見せるさ。な・・・・・いいだろ。


ハル     分かったよ、父ちゃんに付いて行く。なあ・・・拓哉・・・美華。

美華     何さ、結局は、母ちゃん、父ちゃん達の、のろけ話、聞かされたんだ。

拓哉     本当だね。は、は、は・・・・・。



音楽が入り、照明が消える




音楽消え、照明入る




舞台下手は、現代(平成)第一場のチューリップ公園に戻る



 第三場
(五分)
  何年か過ぎ、チューリップ栽培も軌道に乗り出してきたが、中々難しく、例えば、収穫の時期に入り、カビが生えたり、球根が不揃い等で困惑したのだった。
其れよりも、大事件が起きたのである。価格の暴落である。

(そして三島老夫婦は、当時のことを話し出す。第三場へ)



舞台は、再度第一場のチューリップ公園



義雄     なー、一さんよ、あんたに誘われてやったチューリップも、
           五年程たった頃だったかな・・・・・・アメリカやカナダに、順調に輸出したよな。
           日本中の輸出量の六十五パーセントまでになっていたって云うからな。

和子     そうだ、「チューリップで夢見よう」の合言葉でね。
           満開の時にはうれしかったね、・・・
       でも、その一番きれいな時に花びらを切らなければいけないんだから、
       チョット可哀想だよ。


 一     本当だな、球根を大きくしなければいけないんだから、
           仕方がないって。

ハル     そうだよね、本当に可哀想だよ。
           でも、仕方がないことだけどね。
           良い球根作ることが、私たちの商売だったんだから。

義雄     そうださ、一級品の球根作るためには、仕方ないて。
           ・・・でもな、良い時ばっかりでなかった。

 一     そうだ、球根にカビが生えてきたな。

義雄     あの時は、びっくりしたよ、どうしたらいいか解らなかった。

和子     そうだ、普及員さんだって、手の打ちようが無かったもん。

ハル     どうしたらいいのか・・・・悲しくなったさ。

義雄     思い出すな・・・・あの時の事を・・・・・。

 一     本当だー・・・・大変だった・・・・
           カビや、球根の不揃えの時はな。
           でも、その後、とんでもないことが起きたさ。
           ・・・・それは大変な事がな。

義雄     起きたな、大変な事が、チューリップ栽培には、致命的な事が。



音楽が大きく入り、照明消え、



上手、シルエットとなる。



それから少し時が過ぎる、昭和四十年頃を 


 第四場
(五分)
  シルエットで音楽に合わせて、チューリップ作業の動作で、時間の経過を表現する


山本家、三島家一家が出演する。   

五分間程



一、畑お越し


二、球根植え


三、花摘み



これらをスローモーションで、表現をする。


シルエット消える


音楽変る


照明入る


 第五場
(十五分)
  舞台は、上手、三島家の倉庫前

三島家でも、球根栽培を行うことにした。
なかなか大変ではあったが、どうにか出荷まで扱ぎ付けたのである。
五年程が過ぎ、出荷準備をしている時、
球根にカビが生えていることに気付いたのである。




ある日のこと、オランダでは、球根の価格をダンピングしたのだった。



和子     父ちゃん、来て、早く来て、これ何さ。
           父、和子の所に走り寄る。


義雄     何よ、これ。

和子     何さ、この白いもの。ね・・・これにも・・・・これにもだよ。
           父さん・・・・ここもだよ・・・・あれ・・・この箱もだ。


義雄     何だ、これ・・・粉でも掛けたのか。

和子     そんなこと、しやしないって、大事に育てた、球根に。

義雄     そうだよな、一年かけて大事に育てたんだからな。

和子     こりゃ・・・明後日出荷するのに、困ったな。


義雄     そうだ・・・おい、早く農協に電話して、普及員さん呼べ。

和子     そうだね、すぐ電話してくるから。


    和子、外に飛び出し、走り去る。


    義雄男、ひとりごとを云いながら。

 

義雄     何したもんだ、ここまで育てて、手掛けて来たのによ。

       こんなものが生えやがって。

       病気かな・・・・虫でも入ったかな。

 

長男和夫、長女晴美が学校から帰り、母から話を聞き、飛んで倉庫に来る

晴美     どうしたって、何したのさ。

和夫     何さ、え、・・・これ何、白いの・・・これ・・・カビだべか。

義雄     うん、そうでないかな、俺にも分からん。

晴美     昨日までは、こんなことなかったのに、どうしちゃったんだべ。

義雄     この球根もだ、まいったな・・・・明後日出荷だっていうのによ。

和夫     こっちもだ、全部かな・・・・・。



    義雄と和夫が、箱をみては駆け回っている。

晴美     拭いたらいいんでないか・・・・父さん。

和夫     拭くったって、全部だぞ。それに拭いたぐらいでいいのか。

晴美     そうだよ、拭けば分からないって。

義雄     拭けばいいんだつたら、いいけどよ。

       ここにあるの、全部拭くんだったら、大変だぞ。

和夫     拭くぐらい、たいしたことないって。

晴美     拭くぐらいで済むんだったら、いいけど。

義雄     他に、何か、あるっていうのか。

晴美     うん、ただ・・・・・・分からない。

義雄     母ちゃん、連絡取れたのかな。早く見にきてくれないのかな。

和夫     今、来るって・・・・・

       今年は、いい球根が出来たって、父ちゃん云っていたのにな。


       和子、入ってくる。


和子     今来るって・・・・・細かい事は説明しなかったよ。

       ・・・・直ぐ来てほしいと云っておいたから、直ぐ来るって。

義雄     なー母ちゃんよ、これ、この白いの、何んだろうな。

       俺には、カビの様に見えるけど、カビかな。

和子     私には分からんけど、見る限りでは、カビに見える。

晴美     今まで、順調にいってたのに。

和子     ここまで、大きな球根が、出来るようになったって、云うのに。

義雄     まったくださ、今年はいいなー・・・

       と思ったらこの始末だ。

       何だかわからんけど、変なことになったな。

       他に家も、こんなことになったのかな。



    そこに、農業改良普及員が入ってくる。



普及員     どうしたね、カビだってかい。

義雄     やあ・・・・どーもな、これ、白いものが付いてるんだ。

       これ、この球根にもな・・・・・これもさ。

普及員    うん・・・カビかな?・・・あれ・・・ここなんか腐って来てるぞ。

       病気かな・・・・・こうなったら、私にも分からん。

和夫     普及員さんが分からんかったら、誰も分からんて。

       今年の球根は、まあまあだったのに。

       今までに、こんなことなかったよ。

普及員    今年は、他の家にも出てるみたいなんだ。

       この冬、暖冬だったからかな。

       それとも、植える時、雨ばっかりで、ぐちゃぐちゃな畑で、

       植えたからかな。

義雄     そうよな、植える時は雨でな・・・畑がぐちゃぐちゃだった。

和子     みんなが、大変だったけど、雪の降る前には終ていたのに。

       自然相手だか、仕方がないのかい?

義雄     普及員さん・・・・

       あんたが分からないんじゃ・・・どうすればいいのよ。

晴美     普及員さん、どうにもならないのかい。

和夫     そうださ、どうにかならないのかい。

義雄     そうだ・・・・収穫まで、手を掛けて、やっと、

       今年も金になると思ってたのによ。

和子     子どもを育てるように、大事に扱ってきて、去年あたりから、

       希望が出てきたのにさ。お金になり始めていたのに。

晴美     そしたら・・・お金が入らなかったら、専門学校には行けないよね。

普及員    ただね、カビのことも大変だけど・・・

       さっき組合で、とんでもないニュースが入ってたよ。

和夫     とんでもないって・・・・何さ。

普及員    そうだ・・・・この辺の家では死活問題なんだ。

義雄     何なのよ・・・・・チューリップの事かい・・・・早く教えてよ。

普及員    おどろくなよ・・・・・それが・・・・・オランダが、球根の値段を、

       べら棒に下げたんだって、「ダンピング」て云う奴だ。

義雄    「ダンピング」・・・・・。

和子    「ダンピング」て。

晴美     そうさ、値段が下がったと云うことかい。

和夫     何。それは。

義雄     それは、何・・・何。

普及員    それはね・・・・チューリップの、球根市場で、オランダが、

       出荷した球根の価格を値下したんだよ。 

義雄     何・・・球根の値段が下がったんだって。

和子     値段が下がったのかい。

晴美     こんなに、みんなが一生県命に作っているのに、

       何で値段が下がるのさ。

和夫     どうしてさ・・・・・何でさ。

普及員    農協でも今、緊急役員会を開いて、この対策に取り組むって、

       大忙ししてた。

       こんなことってあるのかね。絶対に・・嘘だと思うよ。

       そんなことないって。

和夫     畑、全部チューリップ作った分けではないけど、

       ここ何年かで、段々良くなって来たのに。

晴美     このまま、チューリップが順調にいけば、専門学校に行かしてもらう

       かと思っていたのにさ。

和子     本当にさ、晴美の云うと通り、専門学校に入れてやろうと思っている

       のにね。ここまでにやっとなったのに。

義雄     何ちゅうことだ・・・・一生懸命頑張った者に、

       何でこんなことが起きるのよ。

晴美     何で・・・・こんなことが・・・・・何でさ・・・・・。



音楽が入り、照明消える



音楽小さくなり、照明入る



そして同じ頃の、山本家では


 第六場
(
十五分)
  同じ頃、山本家でも出荷の準備に入ったが、カビや球根の不揃えの作業をしている。
暴落の件で悩んでいた。
同時に、長女美華のことで悩んだ時期でもあり、チューリップの栽培と、合わせながら苦労をするのである。
その日、長女美華は、担任の先生が付いて帰宅した。
今回は、日常の生活や学校での態度の事ではなく、授業の中で、我が家の宝物紹介の時間があり、そのことで先生と揉めていたのだと云う。



上手舞台は、山本家の庭先


 一     何か変だぞ、この球根に、白い粉みたいなものが付着しているぞ。

ハル     そうだね、チョット、おかしくない。カビじゃないの。

拓哉     一コンテナに、一個あるくらいで何でもないって。

 一     それならいいけど。
           びっしり出てきたら、どうすればいいのかな、
           普及員だったら分かるよ。

ハル     どうだろうね・・・・・分かるよね。

拓哉     一生懸命、手掛けて育てて、出荷の時に駄目になるなんてことに、
           なったらどうすればいいのよ。



    ― 間 ―



    それもそうだけど、朝の新聞に出ていた、
      チューリップの球根の値段が大きく下がったって書いてあったべ。

 一     そうだ。オランダで、あんなに値段下げて市場に出せば、
           もう、日本からの
           球根は太刀打ち出来なくなるんじゃないのかな。

拓哉     ダンピングて云う奴だな・・・・・・。
           そんなことに成ったら、もう・・・終わりだべさ。
           ここでは、苦労しながら、いろんな作物を作って来たけど、
           このチューリップの球根だって、如何にか、やっと見透視がついたと
           思った矢先だ、まいった。

ハル     反収を上げなきゃといって、
           このチューリップを選択して栽培したのに。
           でも・・・本当なのか、どうか、農協や、役場に聞いてみようよ。

 一     こんなに頑張ったのに、出荷の時に、値段が下がってしまうなんて、
       考えられないって。

           そうだろうよ、母さんよ・・・・。

拓哉     困るのは、俺たちだけでない・・・隣りの三島さん・・・
           長谷川さん・・・・それに林さん・・・・みんなが困るんだから。
           困るどころじゃないって、死活問題だって、
           農協だって対策練っているべさ。
           農協に行って、聞いた方がいいって、行くべよ、農協に。



    そこに、高校の池田先生と、長女の美華が下手より入ってくる。



池田先生   こんにちは、湧別高校、池田です。美華さんの担任です。

 一     や、今日は、何んだい・・・・あれれ、美華もか。

ハル     あ・・・・こんにちは、何時もお世話になってます。
           ・・・何、美華なんした。
           また、何か、やらかしたんかい。(強い口調で)
           何時も、馬鹿な事をして・・・・
           高三にもなって

拓哉     あれ、先生が何で。

池田     はい、美華さんの事で、チョット話が合って。

 一     何時も、お世話になってます。

ハル     お世話になってるなんてもんじゃないって。
           何時も、先生には、迷惑の掛けっぱなしで、先生、申し訳ありません。
           ・・・また何か、学校で起こしたのかい。この馬鹿もんが。

美華     何が・・・馬鹿もんさ、聞きもしないで・・・
           だからここに来るのが嫌だっていったしょ・・・先生
              ―間― 
           ここに来たの・・・何だか分かりもしないで。

ハル     お前のやってる事ぐらい、聞かなくたって・・・分かるよ。

美華     なら、云ってみな、分かるんだったら・・・・。
              ―間―


ハル     小さい時は可愛かったのに・・・・
           大きく成ったらとたんに、反抗ばっかりしてさ・・・。
           本当に、めんこくないってね〜先生。

美華     話し逸らさないで、何で来たか云ったらいいしょ。

              ―間―
            ・・・・。
           そら、みな、分かる分ないだろうさ。は、は、は。

 一     何よ、こんなとこで・・・親子喧嘩はないだろうさ。
           先生の前で、みっともない。母さんも止めんか。

ハル     そう云うけれど、お父さんは、美華には甘いんだから。
           全く、この子ったら、何時も、何や、感や、
           人に迷惑ばっかけるんだから。

美華     なにさ、母さん・・・何時も私に文句ばっかり云ってさ、
           褒めたことないしょ。

ハル     褒められることしたこと、あるかい。


   母、だんだん真剣になって、話しだす。


   そこに先生、割って入る。


池田     いや、まあまあ・・・お母さん。

       ・・・・美華さんは・・・・頑張ってますよ。

       でも、今回だけは、美華さん、中々、納得してもらえなくて。

ハル     そうでしょう、何かは分かりませんが、美華は、何時っも、

       反対のことばっかり云うんですからね。

池田     いや・・・それは・・・・明日の授業の事なんです。

拓哉     美華、授業って・・何よ。

池田     はい、美華さん、あんたの言い分あるんでしょ。

       みんなの前で云って見たら、先生の云うことが無理なのかどうかを。


    美華、ムーとした顔をして、ぼつら、ぼつら、ぼつらの調子で、話し出す。


美華     あ・・・・そうだ・・・・云わしてもらうけど・・・・・

       云いたくないけどさ・・・・

       あのさ・・・・授業でさ・・・・家の・・・・宝物紹介があるんだ・・・・

       だから、家の宝物を持って、行かなければ・・・・いけないんだ・・・・・。

       そんなの家に・・・・。あるかい?

       ・・・・家に宝物・・・・・あるかい・・・ないしょ・・・・ある・・・・。

 一     そうだな・・・・あるかな・・・何か・・・。

拓哉     うん・・・・あるかな家には・・・・。

ハル     そうだよね・・・・。何にもないって。

美華     そうだ・・・・あるわけないしょ。

       宝物なんて云うしろもんは…。

池田     宝物と云ったって、何でもいいんですよ。

       何か、その物に意味があるものだったら、宝物と云うから、

       宝物を探そうと思うんで、家族の大事な物、大切にしている物、

       それにまつわる話しを、紹介してもらいたいんです。

拓哉     そう云われても・・・何かあるかい、家には見た通り、

       何にもないんですよ。

       ね・・・母さん・・・・ある、父ちゃん・・・・。


    みんなして、考え込む。しばらくして


    (― 間 ―) 


      突然、一が、話出す。


 一     はい・・・・分かりました。

       きっと、一つぐらい、家にも宝物はあると思います。

       みんなで探してみます、明日間違えなく、美華に持たせます。

       それならいいでしょう、先生。

ハル     そんなこと云ったって、家には宝物なんてあるかい。

拓哉     そうだよ、あるかい・・・・明日まで待ったって、出てこないべさ。

       な〜父ちゃん。

美華     そうだよ・・・家になんか、宝物・・・あるわけないよ。

 一     そうかな・・・・美華・・・今晩は、寝ないで・・・

       みんなで探そうよ。

       きっと家にだって、一つや、二つぐらい、何処か、探せばあるさ。

       そうします、先生、何時も先生には、ご迷惑ばかり掛けて、

       すみません。

       きっと持たせますから。

ハル     先生・・・お父さんが云うのですから、

       何か一つぐらいは、あるのでしょう。

       ・・・・一つぐらいは。

池田     はい・・・・分かりました・・・美華さん、お願いね、

       この授業はみんなで紹介する時間ですから、

       あなただけが紹介しないのはおかし・・・おねがいね。

       では、明日ね、さようなら、お邪魔しました。



    池田先生、舞台下手に帰って行く。みんな挨拶をする。



ハル     お父さん、家には・・・何かある?

拓哉     そだよ・・・あるかい、宝物がさ。

 一     うん、あるかな・・・あるって云ったけど・・・あるかな・・・・・

       なあに・・・・みんなで探せばあるって・・・な、美華。

       あ、あ・・・忘れてた、家の宝物も大切だけど、まず、今、

       大変な事が起きた、球根の、価格の、暴落の話、

       農協に行ってこなくちゃ。

       美華に悪いけど、先に農協に行ってくる。

拓哉     そうだよ、行った方が良いよ。球根の値段が下がるなんて聞いたらさ。

       俺も、父ちゃんについて、農協に行く。

 一     そうだな、お前も行くか。

       美華、帰ってきたら、直ぐ探すから、勘弁してや・・・

       みんなで探すからよ。

       なあ・・・美華いいだろう・・・・なあ・・・そうするべ。

       いいだろう、帰って来てからで。

美華     うん、そうなんだ、それは大変だって、早く行って聞いてきた方がい

       いよ。

 一     うん、そうする・・・母さん、来るまで、美華と探してみてや。

       まずは行ってくるから、じゃ・・な・・・。直ぐ帰って来るから。



    ハル、美華玄関まで、父、拓哉を見送る。



音楽入り。照明消える



音楽小さくなり、下手のみ照明入る



舞台上手の場面は、長女美華の教室


 第七場
(十五分)
  そこでの出来事とは、授業の中で、生徒が我が家の自慢の宝物を紹介する授業である。

一、三島晴美は、チューリップの球根を持参し、話をする。
二、山本家長女は、

当日が来た。
娘が持ってきたのは、父に渡された母の「日記帳」であった。

長女はそれを読みだす。
そこに書かれていたのは、母の、子育ての日記であった。
その姿勢を知り、親への反抗した態度を悔やむのである。


照明消える、音楽入る


音楽小さくなり、全体に照明


舞台は教室


池田先生   今までに、いろんな「我が家の宝物」を紹介していただきました。
           大きな壺を紹介してくれた橋本君。
           亡くなったお父さんの絵を紹介した、相場さん。
           戦争で亡くなったお爺ちゃんの手紙は、小池君。
           色々な人が、いろいろな物を紹介しましたね。
           いよいよ、残り二人になりました。
           では、三島晴美さんから、お願いします。



    晴美、一歩前に出て話し出す。



晴美     私は、チューリップの球根を、持って来ました。

       この球根には、沢山の苦しみと、それ以上の喜びがありました。

       美華ちゃんの家と、同じように、家もチューリップを栽培しました。

       ひょっとしたら、美華ちゃんもチューリップの球根を持ってきたの

       ではないかと思っていますが、私が先なので安心して紹介できます。

       は、は、は。

       球根は、きれいな花を咲かせるためには、秋にきちんと植えつけないと、

       春にはきれいな花が咲きません。

       昨年の秋でした。雨が多くて畑には、なかなか植え付けが出来ないぐらい、どろどろ

       で、体中真っ黒になって植えたこともあります。寒い日もあり、両親、兄妹家族全員

       で植えました。でも、春に成ったら、あの美しい花が咲いてくれます。

       私たち家族にも、いろんなことがありました。でも、一つになって頑張れた

       のは、この美しいチューリツプの花の御蔭です。私は、家の宝物は、きれい

       な花が咲く、この球根だと思います。

       でも、今は大変です、カビが生えたり、球根の値段が下がったりで・・・。これから

       どうすればいいか分かりません、両親は頭を抱えています。ただ、今は、この球根が、

       私たち家族を結んでいます。球根は我が家の宝物だと、私は思います。

       美華ちゃん・・・先に話しちゃってごめんね。・・・・終わります。 



       晴美下がって、イスに座る、池田先生、立ち上がり次の生徒を

     紹介する。



池田先生   はい、ご苦労様でした。

       チューリップの花は本当に美しいですよね。

       では最後になりました、

       山本美華さんお願いします。



       山本美華、ゆっくりと、一歩前に出て、少しタメライながら

     手に持った封筒から、ノートをだし、パラリ、ポラリと、

     ページを捲りながら、話し出す。



美華     私の家には、これと云った、宝物はなかったです。

       晴美がチューリップの球根の話をしたけど、晴美の家と同じように、私の家も栽培して

       いますが、

       私はチューリップには、あまり思いは・・・ないのです。・・・・・・・

       昨日も先生が家に来て何でもいいから、何か一つ持って来るようにと、云われたんだけど

       ・・・・家族みんなで・・・・一晩中探したんだけど・・・

       特に・・・・

       家には、宝物は・・・・ありませんでした。

       今朝、学校に来るのが・・・嫌だったんで・・・・寝てた・・・・・。

       そうすると、親父が来て・・・・大きな声で・・・・私を怒りつけたんです。あんな親父を見るの

       は初めてで・・・・・おっかなくなって・・・・・

       驚いて・・・・・・学校に来たんです。家を出る時・・・・親父が、私に手渡したものが、これで

       す。

       渡す時、父は「これ、お前の宝物だ」、と云いったような、

       気がします・・・・・。

       ギリギリまで寝ていたんで・・・・急いで・・・来たから・・・

       この中身は、何だかわかりません・・・・ここで開けてみます・・・・・。



       封筒の中から、一冊のノートをだしたのでした。

     それは、母の日記帳である。

     美華は、パラパラとそのノートを開いて、じーっと見つめて、

     ぶっきら棒で読み出すのである。



美華     これは・・・・・初めて見る、母の日記帳です。

       いつも寝る前に書いてることは知っていたけど、

       見るのは初めて、です。

       母の字は、あまりきれいではないけど、読めます。

       読んでみます・・・・。


七月一日   いよいよ・・・今日か・・・明日かになった。

     これだけ、私のお腹を蹴っていた子だから、

     元気な子が出てくるよね。

     父さんは、女の子がいいなと云ってますが、

     私はどちらでもいいと思ってます。

     ・・・・・元気な子であれば。早くでてきなさい・・・。


七月五日   今日予定より五日遅れて、出て来たよ。

     お父さんの喜ぶ女の子で、

     私に似て、かわいいといってくれたので・・うれしい・・・・・・。


    美華、ページをパラパラと捲りる。


十月十五日  今日で、百日が経ち、八キロにもなり、

     首も少しだけ、きちんと座るようになった。

     段々、お父さんに似てきたような気がする。

     でも、きっと私に・・・似て来る。・・・可愛い私の顔に。

     は、は、は。


七月五日  美華は、一年が経った、早いものである。

    今日も、畑に近い、花畑で婆ちゃんと遊んでいる。

    芝桜や、つつじの花が咲いているけど、

    家の美華は、これらの花よりも美しく見える。

    ・・・少し甘いかな。畑の草とり作業が忙しく、

    今日も余り子供を見て遣れなかったことに、謝りたい。

    今日は、仕事を、早く切り上げ、家族で、

    美華の誕生日を祝いました。


三月二十日 生まれてから十三年がたち、今日は、美華の小学校の卒業式。

    あの泣きべそな美華が、もう小学校を卒業して、春からは中学生になるんだよ。

    体は大きいけれど、まだまだ子供。でも小学生だというのに、オッパイだけは、

    母の私より大きいのが、自慢みたい。

    子供は早く成長するもので・・・少し淋しい。


四月一日  美華も十六歳の春になり、今日は湧別高校の入学式に、お父さんと、拓哉も一緒に行きました。

    私も、お父さんも、長男の拓哉も高校は出てないんです。

    家が苦しかったから、中学校終わったらすぐ、家の農業をしたから。

    美華だけはと、家族で頑張り、高校へ行かすことにしたんです。

    本人もがんばって勉強しましたからね。

    音楽が鳴り、美華は最後の方を歩いて来た。

    美華の、あの晴れやかな顔。

    お父さんが、涙を流しました。

    私も少しだけど、涙が出てきたので、

    拓哉は、父さんの涙を見て、両手で顔をかくしました。

    自分が入学したように、感激をして涙が出たようです。

    本当は、拓哉も高校に入りたかったのでしょう。

    美華の入学は、拓哉の入学でもあったんだと思いました。

    子供は、作物を育てる以上に、難しいものだね。

    でも、今年の作物は、いや・・・・三年後には、きっと、

    豊作になることでしょう。

    美華は、ジャガイモの花、かぼちゃの花、それよりも、

    チューリップの花にも負けないような、美しい花ですから・・・・・。

    楽しみです。

    美華の入学は、私たち家族で、今まで一番うれしい、出来事だったと思います。

    ありがとう・・・・・美華・・・・・・。



音楽「アイシングクレース」静かに入る



音楽徐々に大きくなる


      美華、その場で、高々と両手を上げ、万歳をする。 

  そして、大泣きをし、崩れる。



音楽全開、時間をかけて、徐々に照明消え、
音楽小さくなっていく


徐々に音楽入る


照明入り、音楽消える



舞台は、現代(平成)に戻る。第一場のチューリップ公園


 第八場
(十五分)
   二組の老夫婦の思い出は終わる。この開拓された広い湧別原野と、チューリップ畑を
見ながら、チューリップの栽培を止めた時の事や、細々と老人クラブで栽培を始めたこと、
その後町が公園計画を作り立派な公園になったことを語り、こと自分の生涯が、如何で
あったのかを問い直すのであった。


そして、この山本夫婦は、
「私たちも、この花の様に、最も美しい時に、消えて逝けることの嬉しさを」話すのだった。


そこに美華親子が、入ってくる。

一は、孫が来たので大喜びである。

三島夫婦も美華たちと話ながら、静かに夕日の美しいチューリップ畑をバックに、
2組の老夫婦は、消えて逝くのです 




 一      ここは、何でも獲れたよな・・・・・アスパラ、リンゴ、米、そして、チューリップ。
        そして今は・・・・・玉ねぎだ。

            どれもが、一応は収穫することができたさ、
            でもチューリップだけは違ったな。

義雄      そうださ、指導者がいて、畑一杯花を咲かせ、
             そして外国にまで送って商売をしたんだからな。

ハル      そうよね、外国までもだよ。
             みんなして、「チューリップを育てて・・・・大きな夢を見たよね。」

和子      本当だね、大変だったけど、いい夢だったね。
             満開になったチューリップは、赤、白、黄色・・・・
             どの花みても、きれいだな、って歌にあるようにね。
             でも・・・本当は、私はチューリップの花は
             好きではなかったんですよ。

ハル      何を今更云いだすんだね、和さんよ。

和子      今更だよね・・・・でも昔からなんだよ・・・・
             花が大きく開いて中の方まで見えた時はね・・・
             あの、雄蕊か、雌蕊か分からんけれど、あのグロテスクな色、
             形、どうしても馴染めなかったね。
             駄目になって止めると云った時には、ホッとしたもんだよ、
             心の中ではね。

ハル      そうかね・・・そういうもんかね・・・・
             私は単純だから、ただただ、美しかったね。

  一      そうなんだ、今までよく、云わんかったな。

義雄      今更な・・・よく言うよ・・・・
             毎日一生懸命チューリップを触っていたのに。
             でも、よくもまー、ここまで云わんかったもんださ。
             作るときは一生懸命頑張っていたのにな。

和子      そうださ、仕事と、趣味は違うって。

        金儲けだったからね、は、は、は・・・

ハル      あんたは、偉い。は、は、は・・・・・

        値段が下がって、一戸止め、二戸止め、みんながやらなくなって、

        しばらくしてから、誰ともなく庭に球根を植えだしたさ。

  一      そうだ、家も植えてみた、春は、やっぱりチューリップだからな。

和子      私もさ・・・・近所みんな植えだしたからね、

        チューリップで埋まったね。

  一      みんなの、心の中には残っていたんだろうな・・・・・・。

        そりゃーそうだよな・・・・みんなで苦労して育てたからな。

義雄      会館や、公民館の周りにも、チューリップは植えた。

        国道を通る車の人達は、よく止まって、見たり、写真を撮っていた。

ハル      それもそうだけど、老人農園にみんなで、

        チューリップ咲かせた時なんか、バスで見に来たよね。

和子      そうだよね、満開の時なんか、何台もバスが止まって、

        警察が困って、交通整理に出る始末だった。

  一      本当ださ・・・・それが、このチューップ公園の前身なんださ。

義雄      それがな・・・・そうだよな、こんなにも立派になってよ。

ハル      風車は、いいよね・・・・・オランダに行ったみたいだね。

        あ、あ、あ、チューリップの原産は、

        トルコだって拓哉が云ってたことあったよね。

和子      今は、オランダの方が、沢山チューリップ作っているんでしょう。

  一      そうださ・・・・そんなこと、どっちの国でもいいさ、

        チューリップには、風車がにあうて。

        俺たちが始めた、このチューリップが、

        「チューリップで夢見よう」てやつたことがさ。

        こんな立派な花畑になっちゃった。

義雄      そうださ、この花は、この北国の百姓の夢を育ててくれたんださ。


       そこに、子供5人を連れて、美華が上手より入ってくる。


さや      やーきれいだ。

こう      うわ・・・・本当だ、あっちは、真っ黄色だよ。

じょう     こっちの方は、真っ赤だ。

みわ      あれ、赤の向こうは真っ白だね。

えみ      こっちのは、いろんな色のチューチップが咲いてるよ。

さや      爺ちゃん何時まで居るの。

こう      ばあちゃんもさ。

じょう     ね・・爺ちゃん、あっちの方に行こうよ。

みわ      そうだ、ばあちゃんも行こう。

えみ      ね・・・爺ちゃんも、ばあちゃんも私たちと行こうよ。



       子ども達、老夫婦の周りで、走り回っている。



美華      何・・・・何時まで花見てるのさ、日が暮れるよ。

ハル      何、畑仕事終わったのかい。

美華      まだまだだよ、だけど子ども達が公園に行くって、うるさいんだもの。

和子      そうださ、自分たちが一日中見ていて、ハルさんそれはないよ。

  一      は、は、は、は、そうださ、俺たちが見たいんだもの、

        子供達が見たいのは当りまえだろうさ。は、は、は。

さや      そうさ、爺ちゃんたち、何云うのさ.そんな云い方ないしょ。

こう      ばあちゃんたち、毎日、みてるんでしょう。

じょう     朝から晩までさ。

みわ      そうさ、爺ちゃん、ばあちゃんたちだったら、毎日来てるしょ。

えみ      毎日朝から晩まで見ていて、よくあきないね。

義雄      あれ、美華さんだな、あの有名な。

和子      そんな云い方、ないしょ。

        美華ちゃんは、隣の長谷川さん家の一郎さんと結婚して、

        農家やって、こんなに・・・・一生懸命頑張ってるしょ。

美華      いいんですよ、高校時代は、少し「ぐれて」いたから、

        しょうがないんで。

ハル      そう、少し「ぐれてた」んですよ。

        でも、近所の長谷川さん家に嫁に行って、

        こんなに子沢山になってくれて、うれしくてね。

さや      ばあちゃん、「ぐれてた」って・・・・何。

こう      そだよ、「ぐれてた」って。

じょう     爺ちゃん、分かるの。

みわ      爺ちゃんだら、分からんしょ。

えみ      そうださ、爺ちゃんだつて、分からんことがあるよね。

  一      何云うって、爺ちゃんに分からないことなんかないぞ。

さや      そうだよ、爺ちゃんに、分からんことなんか無いって。


こう      そうかな・・・・爺ちゃんの一番苦手な事おれ、知ってるんだ。

じょう     何さ、教えて、教えて・・・

        何でも爺ちゃんに勝ったら、小使い倍になるんだ。

みわ      それなら、私にもおしえて、ね・・・ね・・・。

美華      そうなの、母さんにも教えてよ。

さや      何云いだすのよ、母さんまでも。

こう      ね・・・爺ちゃん、あれ・・・あれ・・・携帯電話・・・携帯電話。

じょう     そうなんだ、携帯電話か・・・どうりで、俺に聞いて来るんだ、

        時々さ。

みわ      そうだよね、携帯電話の使い方、難しいもんね。

えみ      爺ちゃんは、携帯電話無理だよ、私にちょうだい。

ハル      そうだよね、爺ちゃんは、携帯買ったけど、まだまだ、

        使えないんだよ。

義雄      そうださ、我々の年に成ったら、携帯電話は難しいつて。

        さっきの事、云い方が悪かったな、美華ちゃん、ごめんよ。

        「ぐれてる」なんて云う言葉まで、云わせてな。

        なあ・・・・・それはな・・・・・

        親の云うことを、聞かなかっただけなんだよ、あんたらと、同じだよ、そうだろう。

        そんな事より、

        私は、美華ちゃんの高校時代に読んだ「母さんの日記帳」のことで、

        俺は感激したんだよ。・・・・それが云いたくてよ・・・・・。

        あ・・・これみんな、美華ちゃんの子かい。五人もかい。

美華      そうだよ、みんな私の子だよ。

        まだまだ、これからだって、頑張るんだもん。

和子      そうだよ、ジャンジャン産みなよ。

        人口が減って、困ってるんだからさ。

  一      野球か、サッカーのチーム出来るくらい、子供産んだらいいって。

美華      それは云い過ぎだって。

        でも、家だけで野球か、サッカーのチームが出来たらいいな・・・・・

        夢みたいだ。

ハル      そんなにいたら大変だ、食べる米、十キロ、何日持つ。

        半端じゃないよね.あんたの旦那、いくら働いたって、

        食糧代だけで、無くなってしまう。

        まあ・・・・働き盛りだからいいんかね。



    子ども達、大声で歌いだす。「チューりップのうた」を。

    それに混じって、老人たちも歌い、踊りだす。

    ハル、三島夫妻、子ども達と、美華は、舞台下手に入っていく。



全ての照明消える。「一」爺さんにスポット入る


「一」爺さんが、ひとり語りを始める



ミュージックで=希望という名の歌-山下達郎



一      チューリップを手掛けて五十年。

       このチューリップは、我々北国の百姓に、

       「大きな夢」「美しい心」「生きる喜び」をくれた。

       でも、この年になって、ふと気が付いたことがある・・・・・・・・。

       どうして、花は、一番美しい時に散るのだろう・・・・と?

       チューリップ、さくら・・・・・特に、この二つの花は、

       散る時が一番美しい。単純に考えてみると、花が散ることで、

       球根に栄養を与え、春を待つ。

       樹は、秋から冬にかけて、休養を摂りながら、栄養を蓄え春をまつ。

       そして・・・・・・春には、目を出し、葉を出し、大きく成長し、

       花が咲く。

       そうやって、自然は、自分の体を犠牲にして

       次の世代に責任を持って引き継いでいる。

       それも・・・・・・正確にである。

       草木が、毎年花を咲かすことの意味は・・・、そのことを我々に、

       伝えようとしているので、はないだろうか?と・・・・・・。

       私は、こんな風にも考えてみた。

       それは、己がやってきたということを、

       次の世代に伝え、手渡していくという大きな役割があるのだと、美し

       い花は、人間に云っているのではないだろうか。

       ・・・・では・・・・・その人間は?。

       ・・・・そうですよね、出来うれば、この花たちの様に、一番美しい時に、

       散って・・・生きていたという「証」を残して、逝きたいもだと思う

       ・・・今日、今頃ですがね・・・・。・・・・・。

       さーて、みなさん。・・・・みなさんは・・・・どうですか?



     音楽大きくなる中、序々にスポット小さくなり、

    何時とはなしに「一」消える



         幕下る



             音楽全開 



           カーテンコール 



              幕上がる 


舞台全面がチューリップ公園となる。


照明入る。


音楽入る、

出演者全員の子供達がまず、

(チューリップのうた)を歌いながら入ってくる。

続いて出演者が下手、上手から入ってくる。

スタッフ、キャスト紹介、

座長あいさつ、

全員で一礼をする。


              音楽全開 


               幕下がる



topへ戻る