そこでの出来事とは、授業の中で、生徒が我が家の自慢の宝物を紹介する授業である。
一、三島晴美は、チューリップの球根を持参し、話をする。
二、山本家長女は、
当日が来た。
娘が持ってきたのは、父に渡された母の「日記帳」であった。
長女はそれを読みだす。
そこに書かれていたのは、母の、子育ての日記であった。
その姿勢を知り、親への反抗した態度を悔やむのである。
照明消える、音楽入る
音楽小さくなり、全体に照明
舞台は教室
池田先生 今までに、いろんな「我が家の宝物」を紹介していただきました。
大きな壺を紹介してくれた橋本君。
亡くなったお父さんの絵を紹介した、相場さん。
戦争で亡くなったお爺ちゃんの手紙は、小池君。
色々な人が、いろいろな物を紹介しましたね。
いよいよ、残り二人になりました。
では、三島晴美さんから、お願いします。
晴美、一歩前に出て話し出す。
晴美 私は、チューリップの球根を、持って来ました。
この球根には、沢山の苦しみと、それ以上の喜びがありました。
美華ちゃんの家と、同じように、家もチューリップを栽培しました。
ひょっとしたら、美華ちゃんもチューリップの球根を持ってきたの
ではないかと思っていますが、私が先なので安心して紹介できます。
は、は、は。
球根は、きれいな花を咲かせるためには、秋にきちんと植えつけないと、
春にはきれいな花が咲きません。
昨年の秋でした。雨が多くて畑には、なかなか植え付けが出来ないぐらい、どろどろ
で、体中真っ黒になって植えたこともあります。寒い日もあり、両親、兄妹家族全員
で植えました。でも、春に成ったら、あの美しい花が咲いてくれます。
私たち家族にも、いろんなことがありました。でも、一つになって頑張れた
のは、この美しいチューリツプの花の御蔭です。私は、家の宝物は、きれい
な花が咲く、この球根だと思います。
でも、今は大変です、カビが生えたり、球根の値段が下がったりで・・・。これから
どうすればいいか分かりません、両親は頭を抱えています。ただ、今は、この球根が、
私たち家族を結んでいます。球根は我が家の宝物だと、私は思います。
美華ちゃん・・・先に話しちゃってごめんね。・・・・終わります。
晴美下がって、イスに座る、池田先生、立ち上がり次の生徒を
紹介する。
池田先生 はい、ご苦労様でした。
チューリップの花は本当に美しいですよね。
では最後になりました、
山本美華さんお願いします。
山本美華、ゆっくりと、一歩前に出て、少しタメライながら
手に持った封筒から、ノートをだし、パラリ、ポラリと、
ページを捲りながら、話し出す。
美華 私の家には、これと云った、宝物はなかったです。
晴美がチューリップの球根の話をしたけど、晴美の家と同じように、私の家も栽培して
いますが、
私はチューリップには、あまり思いは・・・ないのです。・・・・・・・
昨日も先生が家に来て何でもいいから、何か一つ持って来るようにと、云われたんだけど
・・・・家族みんなで・・・・一晩中探したんだけど・・・
特に・・・・
家には、宝物は・・・・ありませんでした。
今朝、学校に来るのが・・・嫌だったんで・・・・寝てた・・・・・。
そうすると、親父が来て・・・・大きな声で・・・・私を怒りつけたんです。あんな親父を見るの
は初めてで・・・・・おっかなくなって・・・・・
驚いて・・・・・・学校に来たんです。家を出る時・・・・親父が、私に手渡したものが、これで
す。
渡す時、父は「これ、お前の宝物だ」、と云いったような、
気がします・・・・・。
ギリギリまで寝ていたんで・・・・急いで・・・来たから・・・
この中身は、何だかわかりません・・・・ここで開けてみます・・・・・。
封筒の中から、一冊のノートをだしたのでした。
それは、母の日記帳である。
美華は、パラパラとそのノートを開いて、じーっと見つめて、
ぶっきら棒で読み出すのである。
美華 これは・・・・・初めて見る、母の日記帳です。
いつも寝る前に書いてることは知っていたけど、
見るのは初めて、です。
母の字は、あまりきれいではないけど、読めます。
読んでみます・・・・。
七月一日 いよいよ・・・今日か・・・明日かになった。
これだけ、私のお腹を蹴っていた子だから、
元気な子が出てくるよね。
父さんは、女の子がいいなと云ってますが、
私はどちらでもいいと思ってます。
・・・・・元気な子であれば。早くでてきなさい・・・。
七月五日 今日予定より五日遅れて、出て来たよ。
お父さんの喜ぶ女の子で、
私に似て、かわいいといってくれたので・・うれしい・・・・・・。
美華、ページをパラパラと捲りる。
十月十五日 今日で、百日が経ち、八キロにもなり、
首も少しだけ、きちんと座るようになった。
段々、お父さんに似てきたような気がする。
でも、きっと私に・・・似て来る。・・・可愛い私の顔に。
は、は、は。
七月五日 美華は、一年が経った、早いものである。
今日も、畑に近い、花畑で婆ちゃんと遊んでいる。
芝桜や、つつじの花が咲いているけど、
家の美華は、これらの花よりも美しく見える。
・・・少し甘いかな。畑の草とり作業が忙しく、
今日も余り子供を見て遣れなかったことに、謝りたい。
今日は、仕事を、早く切り上げ、家族で、
美華の誕生日を祝いました。
三月二十日 生まれてから十三年がたち、今日は、美華の小学校の卒業式。
あの泣きべそな美華が、もう小学校を卒業して、春からは中学生になるんだよ。
体は大きいけれど、まだまだ子供。でも小学生だというのに、オッパイだけは、
母の私より大きいのが、自慢みたい。
子供は早く成長するもので・・・少し淋しい。
四月一日 美華も十六歳の春になり、今日は湧別高校の入学式に、お父さんと、拓哉も一緒に行きました。
私も、お父さんも、長男の拓哉も高校は出てないんです。
家が苦しかったから、中学校終わったらすぐ、家の農業をしたから。
美華だけはと、家族で頑張り、高校へ行かすことにしたんです。
本人もがんばって勉強しましたからね。
音楽が鳴り、美華は最後の方を歩いて来た。
美華の、あの晴れやかな顔。
お父さんが、涙を流しました。
私も少しだけど、涙が出てきたので、
拓哉は、父さんの涙を見て、両手で顔をかくしました。
自分が入学したように、感激をして涙が出たようです。
本当は、拓哉も高校に入りたかったのでしょう。
美華の入学は、拓哉の入学でもあったんだと思いました。
子供は、作物を育てる以上に、難しいものだね。
でも、今年の作物は、いや・・・・三年後には、きっと、
豊作になることでしょう。
美華は、ジャガイモの花、かぼちゃの花、それよりも、
チューリップの花にも負けないような、美しい花ですから・・・・・。
楽しみです。
美華の入学は、私たち家族で、今まで一番うれしい、出来事だったと思います。
ありがとう・・・・・美華・・・・・・。
音楽「アイシングクレース」静かに入る
音楽徐々に大きくなる
美華、その場で、高々と両手を上げ、万歳をする。
そして、大泣きをし、崩れる。
音楽全開、時間をかけて、徐々に照明消え、
音楽小さくなっていく
徐々に音楽入る
照明入り、音楽消える
舞台は、現代(平成)に戻る。第一場のチューリップ公園
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