町民芝居ゆうべつ  第11

昭和の小漁師top

町民芝居top


脚本 
 
  湧別物語 第十一話

創作劇


「ハマナスの花の咲く

ころ」

二幕六場(九十分)

二版 平成二五年二月一日

                脚本 石渡 輝道
あらすじ   平成15年3月、第一回の旗揚げで公演した、宇治芳雄の小説「汝はサロマ湖にて戦死せり」をもとに脚本化し「ハマナスの花の咲くころ」を、今度再現するとともに、一〇六名の死者、百三十名以上もの負傷者を出したこの事故は、それだけでは終わらなかったのである。
 大きく人生を変えた人達がたくさんいたことを忘れてはいけないのである。今回は、その後の人達にも焦点を当てて、続「ハマナスの花の咲くころ」として紹介することにした。


第一部一幕三場(45分)―昭和17

第一場(10)  子供たちが下校中

  明日は機雷を爆発させる日である。学校での注意事項を語りながら、帰路同じ方向の漁師の山本家、川口家、土屋家のこどもたちが遊びながら帰宅している。

第二場(20)  山本家の居間 

  山本家の日常の生活、そこには、漁師仲間の川口夫婦と、土屋夫婦が来て話している。明日、機雷を爆発させることについて話している。

第三場(15)  機雷事故現場

  機雷爆発事故当日の現場で、夫正二を探す「みよ」の姿。

  救助をする、警察官と青年団長の姿。みよ、夫の遺品を探しあてる。

  10分間の休憩 

  

 それから七年が過ぎた

第二部一幕三場(45分)―昭和24

第四場(15)  漁業、山本家居間   

  機雷で亡くなった正二の妻みよと、その一家は苦しいながらも、漁師をして生活をしていた。そんな時、幼馴染水上への再婚の話がある。さて?


第五場(15分) 漁師、川口家の居間

  父を機雷で亡くし、長男は戦争で負傷兵となる。年老いた母、子供たちを育てていくために、ここを離れ、転職を考える一家。


第六場(15)  送られる川口家の庭先とその帰り道

  川口家の転職が決まり、いよいよここを去る日が来た。近所の人が見送りに来て別れを惜しんでいる。

  川口家を送った山本一家、帰り道、子供たちがここで父の漁師を継いで頑張りたいと、母みよに告げる。


 
第一部  (一幕三場―45分)

 第一場(10)
      音楽IN、ナレーション入りだすと音楽OUT。.


      ナレーション      (スタッフ、キャストの紹介も含)

                      別  紙

      終わると、音楽IN、幕上がる。

時 昭和十七年五月

所 子供たちの、学校からの帰り道


      音楽IN、照明IN。


      下手より、学校帰りのこどもたち土屋家の元、末、広、山本家の綾、学、強が話しながら入ってくる。



 元           今日、早く学校終わってよかったね、

 末           そうだね、いつもこんなに早かったらいいよね。

 広           ほんとだね。今年は、まだハマナスの花が咲かないな。

 綾           今年の冬は寒かったからね。

 学           ハマナスだって、寒くて出てこれないんだろうさ。

 強           そうかもしれないな、寒かったよね、今年の冬は。



      下手より和子の声がする、走って姉弟三人で入ってくる。



和子           みんな、待ってよ、行くの早いよ。

里美           そうだよ、早いって、今日は学校早く終わったんだから、ゆっくり帰ったって、

         親に怒られないって。

和夫           そうださ、少し遊んで帰ろうや。

 元          分かった、でも、川口さんちの子供はみんなノロいって。

 末          そうさ、遅いよ、俺たちなんか、これでゆっくりなんだよ。

 広          何、意地悪言ってるのさ、今まで走って来たくせによ。

和子           そうでしょ、

         私たちがどんなに足が短い家系だって言ったって、走られたら、かなわないって。

里美           そうださ、短足一家だって、走っている人にはかなわないって。

和夫           そうださ、走られたらかなは無いって。

 元          悪い悪い、本当は走っていたんだ。

 末          今年は寒いのかなー、まだハマナスの花咲かないね。

 広          蕾は、ついているよな。

 綾          少し暖かくなれば、すぐ咲くよ。

 学          そうだね。

         明日前浜で、機雷爆発させるって言ってたけど、機雷ってどんなものなのかな。

 強          大きいものなのかな。

和子           大きいっていってたよ。

里美           大きいさね、軍艦ば沈没させるんだからね。

和夫           軍艦……そんな大きいものをかい。どうしてここに、来たんだろうね。

 元          今、戦争してるからだよね。

         家の父ちゃんも機雷の所に行くんだろな。

 末          もちろん行くって。

 広          でも、そんなとこに行かん方がいいよな。

 綾          そうだよね。

 学          そうだ……行ってその機雷見てくるか。

 強          だめだって、行かん方がいいって、父ちゃんに叱られるって。

 元       でも、見たいよね。

 末       そうだ、そっと見てくるか。行って、爆発したらどうするのさ。

 広       そしたら、おっかないな、爆発したら。

和子       そんなことないしょ、そんなにすぐ爆発したら、明日みんな集まっているとき、

         爆発したらあぶないしょ。

里美       そうださ、そんな危ないものにみんな集めるなんて変ださ。

和夫       でも、父ちゃん、消防団の人が来て、警備するから、心配ないって言ってたよ。

 綾       でも、そんな危ないものどうして、人を集めて見せるんだろうね。

 学       そうだよね。

 強       だから、これは危ないものだからと言って見せるんだろうさ。

和子       だから、子供は危ないから、家で留守番するんだって、先生が言っていたしょ。

里美       でも、ちょっとだけ、見てみたいね。

和夫       そうだ、ちょっとだけ。

 元       やめようよ、先生に行ったらだめだって言われたんだから。

 末       やめな、父ちゃんに言いつけてやるから。

 広       そうだ、やめようよ。明日、父ちゃんが行って来てから、聞いてみようよ。

和子       本当は見たいけど、父ちゃんや、先生に怒られるからやめよう。

里美       さあー、帰ろうかな。

         父ちゃんも、先生も怖いけど、一番怖いのは、うちの母ちゃんだからな。

和夫       さ、帰ろ。うちには機雷より怖い母ちゃんがいるからさ…

 綾       私も帰る。あんまり遅いとうちも母ちゃんが一番怖いからね。

 

      子供たち小走りで舞台上手に入っていく。

          音楽IN、照明OUT。


 

  第二場(20)        時 事故の前夜


      所 山本家の居間


      照明IN、音楽OUT



夕食の後、山本夫妻となつ婆ちゃん、漁師川口夫妻、漁師土屋夫妻は、酒を飲みながら、明日の仕事の話をしている。



 明       篤、明日仕事終わってから機雷見に行くのか。


 篤       行きたいと、思ってるんだけど、早く漁終わるかな。



 明       行くベよ、早く終わらせてさ。


               一子、あんたはどうするのよ。

一子       あぁ、私は勿論行くって。父ちゃん行かんでも。



 篤       そうか、行くのか……見なけりゃ損だってか、二度と見れないかも知れないって。



正子       そうだよね、見なきゃ損、損、だよね。


         そうなのよね。そんなもの何処から流れてきたんだろうね。



なつ       ソ連のだって、言うんじゃないの。


正二       そんな、機雷見に行くより、船、出して、魚捕った方がいいって。


みよ       でも、見たいよね、めったに見られるものじゃないしょ。


なつ       でも怖いよね、何時爆発するか分からないもんね。


 明        そんな傍まで行かれないって、警察がうるさくて。


正子       そうよね、警察と消防で見張りしてるんだろうさ。

        正二さんも明日、行くんでしょ。

篤       当り前だろうさ、正二さんは消防団の幹部だものね。

一子       そしたら正二さん、私たちそーっと行くから、いい場所で見せてよ。

みよ       でもさ、うちの人が言うように、魚捕れている時捕らないと、いなくなるよ。

なつ       何で、そんな馬鹿なことするんだろうね、この忙しい時に、
              それもみんな集めて……誰も居ないところで爆発させればいいのにさ。

        何かあったら、どうするつもりなんだろうね

正二       ばあちゃん、何言うって、警察にでも聞かれたらどうする。

         刑務所行きだぞ。

 明       そうだな、湧別の村内ばかりでなく、佐呂間や、遠軽からも、来るそうだよ。

正子       臨時の列車も出るんだってさ。

 篤       何で、そうまでして集めたいのよ。

一子       そりゃ、見たい人が多いからだろうさ。

みよ       みんな見たいだろうから、みんなに知らせたんだろうさ。

なつ       町の中では、祭りみたいださ、明日は弁当持って、酒持って行くって、店で売れてるってさ。

 明       そうだ、俺たちも少し酒でも持って行くベよ。

正子       そうだね、おにぎりでも作って行くかね。

 篤       俺、今日捕ってきたニシン焼いて持って行くさ。

 明       何か、芝居でも見に行くみたいだな。

正二       そんな、気楽なもんじゃないぞ。おれは見に行かん方がいいと思うな。

         特に、女、年寄り、それに子どもは絶対に行かん方がいいって。見世物みたいに、

         みんな言ってるけど、誰が言いだしたか知らんけど・・・ 

         大変なことをやるんだぐらい、知ってるんだろうな、上の連中は。

みよ       お父さん、そんなに大変なことやるの。

なつ       そりゃ、機雷なんだから、爆発させて人を殺す道具なんだからね。

一子       何してそんなもの、ここに来たんだい。

正子       それも、二個もだってさ。

         一個は、ポント浜に、もう一つはサロマ湖の中に漂流してたんだってさ。

 篤       湖の中のは、昨日船で、ポント浜まで引っ張ってきたから。

一子       よく爆発しなかったね。

正子       爆発したら、いちコロださ、何してこんなおっかないもの、見せるんだべか。

 明       連れてきて、爆発させるんだから、心配ないって。

一子       そうだよね、そうでなけりゃ人まで集めないだろうさ。

 篤       そうだとも、警察がやるんだから、心配することないか。

正二       そうは思いたいけど……何か引っかかるな。

みよ       何、何、何かあるの。

なつ       そうだ、正二、何かあるのか。

 明       正二さんよ、何かあるんですか。

正子       何ですか。

 篤       みんなには言えないことですか。

一子       正二さん言ってくださいよ、明日、安心して行けないでしょう。

正二       そうよなー、それは昨日、爆発させる場所でもめてよ。

         一時は海の中で爆発させたらって、言う意見があって、それは丘へ上げるよりは、

         安全だからと言うことだった。

         でも俺たち漁師仲間は、魚が死んでしまうから止めてくれって言ったんだ。

         そりゃ、当り前ださ、海の中であんなもの爆発させたら、魚、みんな死んじゃうって。

 篤       そうださ、俺たち漁師は、細々と魚捕って、みんなが生活してるんだから。

正二       多分、海の中が一番安全なのかもしれない。

         どのくらいの、爆発をするのか、分からないんだからな。

         昨日なんか、みんなで、ロープ付けて二個とも砂浜に引き上げたんだからな。

         それに、鍛冶屋の留たら…その上に上がって「げんの」でガンガン叩いてみせたさ。

         みんなが驚く顔を見ては、いい気になって、叩いてたさ。

正子       それなら、心配ないね。

一子       そしたら、どうやって、爆発させるのさ。

正二       留はサロマ湖から引き揚げた方には、跨ったけど、浜の方から上げたのには、触りもしなかったな。

なつ       どうしてよ。

みよ       何か違うのかい。

正二       いや、殆ど同じに見えたけど、鍛冶屋の直感かな、少し大きいし、不気味だった。

         二つとも砂浜に上げたんだから、これ以上動かさなかったら心配ないって。

         明日の十二時頃には、警察が連れてくる、爆弾処理隊がちゃんと処理するさ。

みよ       海の中は安全だけど、浜だったら石や、木の枝が飛び散るかもしれないね。

なつ       そうださ、海の中が安全だけど、漁師にはそれは許されないさ。

         海の神様怒り出すからね。

 明       今は、砂浜に二個並んでいるんだ。

 篤       それなら、大丈夫ださ。

みよ       そうなんだ、そんなことが心配の種だったんだね。

なつ       心配なのは、心配ださ。人殺しの戦争道具なんだからな。

 篤       よし、心配して、行くベよ、明日はよ。

 明       よし、母ちゃん行くぞ。

正二       どうしても、見に行きたいんだな、

         そしたら、明日の漁は少し何時もより早く沖に行って早く上がってくるか。

 篤       そうするべ。

 明       そだな、そうするか。

正子       そうだね、来たらすぐ行けるように、弁当作って待ってるね。

一子       私もそうする、あんた、弁当作っておくから。

みよ       したら、行かないのは、家のとこぐらいだね。

         そっと、隠れて見に行くかい。

正二       なー、やめてくれや、年寄と女、子どもは行かん方がいいって。

         留守番していてくれや。

         帰ってきてから、俺がちゃんと話聞かせるから。

 明       あー、こんな時間だ、早く帰って寝て、明日は早く沖に出るぞ。

 篤       そうださ、俺も早く寝るかい。一子帰るぞ。

一子       そうだね、早く寝るかいね。

正子       一子ちゃん、あんまり早く寝たって、寝れるんかい、篤さんが、

         寝させないよ、は、は、は。

 明       そうよな、あんた達はまだまだ若いからな、は、は、は。

         さ、帰るぞ。

 篤       そうよな、帰るぞ。お邪魔しました。

一子       お休みなさい。

正子       おやすみ。



      川口夫妻、土屋夫妻挨拶をして出て行く、

      山本家の家族も挨拶をする。



なつ       じゃ、わしも寝ることにしようかな。

         明日は大変だよ、正二も明日は大仕事なんだから、深酒はだめだよ。

         風邪ひくな……何にもなければいいけどね……お休み。

              なつ、上手の奥に入って行く。

みよ       おやすみ。

正二       あー、何時まで経っても、ばあちゃんから見れば、俺は子どもなんだよな。

         ばあさんこそ、風邪ひくなよ、歳なんだから。

         ……あー、ちょっとだけ飲んで寝るか。

みよ       へー、珍しいね、何年振りかね。

         昔は、私の店に来たね、よく続いたね。

正二       そうよな、毎日通ったな、金無かったと思うけど、親父がくれたって。

         親父は、お前ば嫁にするべって、思っていたんださ。

         漁師には嫁こんかったからな。

         俺の嫁さんになってくれるんだったら、誰でもよかったんだろうさ、

         だから、金出して遊ばせてくれたんたさ。

みよ       誰でもよかったんかい。

         その誰でもが私なんだ。誰でもがね。

正二       何、ひねくれてんのよ。

         俺が、通って行って、「くれ」って言ったんだから、いいだろさ。

         (酒を飲む)……、お前が好きだったんだからよ。

みよ       あんた少し酔ったんかい。

         結婚して十年にもなるのに。

         今更、好きとか、嫌いとか言ってる歳でもないしょ。

         は、は、は……嫌いはきらいでも、明日の機雷のことでしょう。

正二       きらい……え……そうか、機雷ね。

         お前はうまいね、駄洒落が。

         ……お前、俺と結婚して、よかったべ。

         いつも愛してやってるんだからよ。

         いつも……ほれ、これ…見れ。

         みよ…俺の手。

みよ       何さ、急に…、今日のあんた、変だよ。

         おまけにそんな汚い手、見せて。

         お金でも、くれるのかい。

正二       何よ、何か言えば金、金って。

         お前には、金って言葉しか無いのかね。

         もう少し、ロマンチックな言葉がな。

         お金さんとかお札さんとかよ……。

みよ       何がお金さんよ。

         何がお札さんよ。

         たいした変わりはないだろうさ、お金はお金よ。

正二       本当に色気がないな、昔は、色気のかたまりだったのによ。

         十年も経てば、こんなもんかな。

         でも、俺はお前ば好きだし、これからだって、幸せにしてやる自信はあるんだぞ。

         なぁ、よく見れ……右の手のひらを。

みよ       何、どれ……この汚い手。

         この汚い手が、幸せにしてくれるんかい。

正二       あぁー……そうよ、ほれ見れ親指のした……黒いアザがあるべ。

みよ       何さ、どれ……ある…、ゴミで汚れているんかい。

正二       馬鹿言うな、これはな、漁師ならだれでも知ってるって。

         これは、一生食いっぱぐれがない、証拠なんだ。

         お前は、一生楽して暮らせると言うことだ。  

みよ       何言ってるの、そんな迷信。

         誰が信じるって、誰も信じる訳ないしょ。

         そんなの無いって、迷信なんか。

         馬鹿みたい、父さんたら、相当酔ってるよ。

正二       迷信じゃないって、湧別の漁師ならだれでも知ってるって。

みよ       あんた……ちょっと手広げてみてよ。

正二       うん……こうかい。

みよ       ちょっと、真剣にやってみてよ。

              みよ、手を見ながら泣き出す。

正二       そうだ、これが、精一杯だって。

みよ       何で、こんなに。



      正二、みよの顔を、不思議そうに見る。



正二       何、泣いてる、悪いこと言ったか。

         悪いことでも言ったんだったら、許してくれ。

みよ       いや、何にも。

正二       そしたら、何で泣いてるのよ。目でもゴミ入ったのかよ。

         どれ。

みよ       いや…、目は何でもない……あんたの手、こんなになって……

         船、漕いで、こんな手になったんだよね。

         私や…子供達のために、こんな曲がった指に。

正二       当り前だろう、お前や、子供達のために働くのは。

         子供達や、お前を食べさせるために、働くのは。

         それが、親父と言うものさ……

         ちょっと、格好つけすぎかな。

みよ       いや…、あんたはよく働くよ。

         みんなあんたの、お陰ださ。

正二       なー、みよ。この黒いアザがある限り、俺はいつまでも元気なのさ。

         若死にはせんから、安心せ。

みよ       「死」なんて、縁起でもないこと、言うもんじゃ無いって。

正二       何、怒ってるのよ。

みよ       ねー、あんた、明日行くの止められないの。

正二       止められる訳無いだろうさ、消防団の幹部だぞ。

みよ       そしたら、ばぁちゃんと一緒に、ポント浜に行ったらダメ。

正二       ダメだ、お前たちは、絶対だめだ。

みよ       回覧板にも、出来るだけ見学するようにって、書いてあったでしょう。

正二       絶対、ダメだ。ダメだと言ったら、ダメだ。

         俺は、この通り、長生きするのが、ちゃんとこの手に出ている。

         お前には、何にも無いじゃないか。

みよ       まだ、そんな迷信言っている、そんな話止めてよ。

正二       分かった、でも、明日は浜には、絶対にダメだぞ。

みよ       うん、分かった。
         そんなに言うのなら分かった。
         私、ばあちゃんと、子供達とで、留守番してるから。
         あんたも気を付けてね。


        みよ、正二に酒を注ぎ、正二、みよに酒を注ぐ、

        二人で顔を見合わせ、

        酒を飲む。

        音楽大きくなり、照明徐々に消えてゆく。


 

  第三場(15分)    ナレーターがゆっくりと機雷事故の時を語り出す。



      音楽OUT。




ナレーター      このハマナスの花が咲くころになるといつも思いだすんですよ。

                  今……、こんなに一杯、ハマナスの花が咲いている。

                  でもこの話は、七十年以上も前の話なんですからね。

                  この湧別の住んでいる人でさえ、知っている人は、どれくらい、いるだろうね。

           ……あの凄まじい光景を……この世とは思えない……悲惨な姿を。


                 それは……、昭和十七年……五月……二十六日…午前十一時…

                 二十六分…のことだったよー……

 

     大音響が鳴り響く。


        昭和十七年五月二十六日 機雷爆発事故現場となる。


        みよ、下手より出てくる。そこは大参事の現場、

        みよは、死体をひとつひとつ見て回る。

        髪は乱れ、段々力がなくなる。



みよ       何処に行ったんだろうね……、どこに。
         ……あそこも、ここも、死体で一杯だ。
         ケガ人や、死体が運ばれている川岸や、寺にも行ってみた。
         いないんだもん、お父さんが。 ……お父さんが。
         何処に、どうしているの……、ねぇ、どこにいるの。
         何で……、何か目印でも残してよ。
         ねぇ何処にいるのよ、どこに。



        みよ、周りの人に尋ねまわる。



みよ       すいません、山本ですが、家のお父さん見ませんでしたか。
         お父さん、見ませんでしたか。




        下手より、三浦巡査と水上青年団長入ってくる。




みよ       水上さん、お父さん見なかったかい。どこにもいないんで。

水上       あ…、みよさん、何、正二さん見えないのかい。

巡査       お…、山本さんちの、みよさんかい、旦那さんがいないのかい。

みよ       はい、どこ探してもいないんです。

水上       何、何時もより早く家を出て行ったんかい。

みよ       漁、終わってすぐに出て行ったんで。

巡査       そしたら、役場の方にでも行ってるかもしれないって。

水上       みよさんよ、おれ役場にこれから、この三浦巡査と行って、

         被災者の支援しなくっちゃいけないんで、正二さんば気を付けて見ておくから。

         解ったらすぐ、連絡するからな。

巡査       私もわかったら、連絡、よこすから。先急ぐんで。これでな。

水上       生きているって、正二さんのことだからな。俺も分かったら直ぐ連絡するから。

巡査       水上さん、早く行かなくちゃ。

みよ       頼みます、探してくださいね。



        水上、三浦巡査その場を去る。
        周辺を歩きまわる。ふと下を見ると、砂の上に腕がある。
        みよ、すぐ周りを探し出す。みよ砂の中から何かを探し出す。



みよ       お父さんの、お父さんの……、お父さんの手だ。

         お父さんの手だ。



        みよ、腕を見つける、引っ張るが、腕だけだった。
        みよ、その腕をじっと見て。



みよ       お父さんの手に、間違い……ない。
         ここに、この手の平……、黒い……黒いアザがある。
         親指の下に、黒いアザが……間違いない、お父さんの、お父さん、探さなくちゃ。



        みよ、泣き崩れ、ふと我が身に返り、周辺を探し回る。



みよ       お父さん、何処にいるの、何処に。
         返事してよ、返事して。
         こんな曲がった手、汚い手。
         こんなのだけじゃ嫌だ。全部出てきてよ。
         ねー、お父さん、お父さん。これだけじゃ、嫌だ。いやだ。
         全部出てきて。全部。ねー、お父さん。



     
みよ、段々力が無くなり、かすれ声になっていく。

        音楽大きくなり、ライト消える。

        第一部 終了 暗転 10分間休憩

第二部   (三場―45分)

        予鈴が鳴る。

        それから七年が経った


        幕の前で、上手の語りのナレーターに照明IN、音楽OUT。

        ナレーター、語りだす。



ナレーター       さてこの事故は、それは、それは、「凄まじい」なんて表現では言い尽くせない現場でした。

結局、私は、父ちゃんの、親指の下にある、あの黒いアザの腕一本しか返ってはこなかったんですよ。

死者一〇六名、負傷者は、数えきれないほどだった。

機雷を処理しに来ていた消防団の人、それを見に来た大勢の部落の人達。

ハマナスの花でなく、真っ赤な血で染まったこの浜は、この世に地獄があるんだったら、まさしくここがそうだった……

悲劇は、それだけではなかった。これからが大変だった。

家の父ちゃんはもとより、杉本さん家の長男なんかも、消防団で駆り出されて、わざわざ行って亡くなった。

まだまだ、夫や、子供を亡くした人たちは、何人も、何軒もいた。

直ぐここから出て行った人もいた。

食って行けなかったし、それ以上に、あの凄まじい現場を見た人は、ここには残りたがらなかったようです。

そんな中で、人たちがどうやって、その後を生きていったか。

それは、それは、大変をことだったことが想像できると思います。

戦争が終わるまでの三年、戦争が終わって四年、あわせて七年が経った昭和二十四年、この浜に残って生活をしてきた、

私の家、山本家を含めて、幾つかの家をこれから紹介しましょう。

 

 

        音楽IN、照明OUT。


 
   第四場(15)     時 昭和24年秋夕方

    所 山本家の居間



        照明IN音楽OUT。 





        世話好きな老人「太」爺さん、祖母なつ、綾、学、強が話している。





 太       どうだろうな、なつさんよ、今日で五回目だよ、

         そろそろいい返事を聞かせてもらいたいもんだね。

         正二さんが亡くなってもう七年になるんだから、もういいだろうさ。

         みよさんだって、三十三歳だ。

         このまま一人で、ずーっといるのは可哀想だって。

         水上団長と同級生だっていうから.あいつも子供の頃から、みよさんば好きで、

         好きで、しょうがなかったって言ってたさ。



なつ       正二が死んでから、七年がたった、でも大変だけど正二のやっていた漁師ばやって、

         細々だけどこども三人を育ててきた。

         わしも、少しだけど手伝ってきたさ。



 太       だけど、このまま漁師続けたって、食うのがやっとださ。

         水上団長のところは、漁師じゃないけど、農家でも、人使って大きくやってる。

         だから、ここの一家すべて引き受けるとまで言ってるんだ。

         いい話だと思うけどな。



なつ       そりゃー、わしまでも世話してくれると言うんだからありがたい話さ。

         でも、水上団長さん家だって、弟や妹が居るだろうさ、家だって子どもが三人もいる。



 太       そんなことは承知で言ってるって。漁師見切りつけて、ここで思い切って、

         一家して行ったらどうかな。

         団長だって、嫁、もらわなきゃ。水上の家だって困るんだからなー。

         みよさんが嫁げば、この子どもたちだって、食っていけない漁師よりは、

         腹一杯飯食って、上の学校だって行けるんじゃないかな。

         まだまだ、子供たちに仕事任せられる年齢でもないだろうさ。

         まー、考えてみてくれないか。

         また来るからさ、今日は、俺もこの後、用事があるから、これで帰るけどよ。






        太、あいさつを交わして、出て行く。





なつ       あ……何のお構いもしませんで。





        なつ、玄関まで見送り、孫たちの方に戻ってくる。





 綾       ばあちゃん、母さん、水上団長さんの所に嫁に行くの。


 強       行かないよね、団長さんの所には。


 学       農家にかい、いやだよ、俺は農家には、だってやったことないもんな。


 綾       そりゃ、水上団長さん家に行けば、今よりはずーっと、楽な生活が出来るよ。

         ここに今まで通りに居たら、今までと変わりないから、大変だよね。                     
         母さんだって、ばあちゃんだって、それに私たちだって、朝早く起きて仕事してから、

         学校にいってさ、母さんの漁師、手伝わないと、食べて行けないもんね。



 強       そりゃ、そうかもしれないけど、農家の仕事なんてしたこともないんだよ、出来ると思う。


 学       そりゃ、そうかもしれない、強の言う通りだ。

         水上さん家行ったら、農家の仕事をやらなければいけないさ。

         でも、今の母さんやばあちゃんの仕事からみれば、少しは楽じゃないのかな。



 綾       そうかもしれないね、日の出る前から浜に行って、真っ暗になるまで働いたって、

         食うのがやっとだからね。



 強       ねー、ばあちゃん、母さんはどうなの、水上団長さんの所に行きたいのかな。


 学       そんなことないよな。

         だけど、母ちゃんと同級生だったから、分からんよね。



なつ       わしにも分からん……今…母さん一人してがんばってるからな。

         冬になったら、浜は流氷で漁は出来ない。

         だから名古屋に行って稼ぎ、家にお金入れているんださ。

         そして雪が解けたら、またこの浜にきて、漁師やって、わしらを食べさせてくれて

         いる、ありがたくて、ありがたくて。

 



        そこに、みよが入ってくる。



みよ       やあー、遅くなってごめん、ごめん漁港は早く終わったんだけど、ついつい、

         川口さん家に寄ったら、話し込んでしまって。

なつ       そこで、会わんかったかい。

みよ       誰にさ。

 綾       世話好きの「太」爺さんにさ、また来たよ。

みよ       何、またあの話かい、しつこいね。
         何回も、断っているのにね。
         まだ、うちの人が亡くなって、七回忌終わったところなのにね。


 学       そしたら、十年経ったら行くのかい。
         ね、母さん。


 強       農家だよ、やれるんかい、魚取りがさ。

 綾       私もそう思う、母さんに農業ができるの。
         漁師だって、父さんとやるのが、初めてだったんでしょう。


なつ       みよさんよ……正二のことは、考えなくてもいいんじゃないのかね、
              もう、七回忌が終わったんだし、わたしたちを食わすために、
              出稼ぎまでしてるんだから、もう、そろそろ少しは楽したらどうかね。

みよ       何言ってるのさ、ばあちゃんまでもがさ。
         私は二度とお嫁になんか行かないよ。
         だってさ、ちょっとしたら、父ちゃん帰ってくるかもしれないよ。
         だって、腕一本しか残してくれなかったんだからね。
         明日あたり、「やー元気か」って、帰ってくるかもしれないしさ。


 綾       何、また変なことを言ってるよ、母さんたら。
         腕一本でも、帰って来たからいいと思わなきゃいけないんじゃない。
         だってほとんどの人は、誰が誰だか分からなかったんでしょ。


 強       本当だ、帰ってくるわけないだろうさ。

 学       でも、父さんいたら、こんなにまで、母さんばっかり、苦労かけないよね…
         …母さん……父さんばそんなに好きだったんだね。


みよ       そうださ、大好きだ……大好きださ。
         いい父さんだったからね。ね…、ばあちゃん。


なつ       みよさんたら……でも、私に似て、いい男だったよね。
         は…は…は…みよさんが惚れ込んだんだからさ。


みよ       いや、違うって、父さんが、私にベタ惚れだったんだよ。

なつ       そうだったね、正二が毎日、みよさんの所に通ったもんな。

 綾       またその話、父さんと、母さんの惚れた腫れたの話。

みよ       あー、そうそう。
         遅くなったのは、隣の川口さん家へ寄って来たんだ。
         川口さん家、漁師、止めるんだって。


 強       本当、そしたら和子たちも、行っちゃうんだよね、里美も、和夫くんも。

みよ       明さん、兵隊から帰って来たって、足負傷してきたから、海の仕事は無理ださ。
         祖母のかねさんと、正子さんとじゃ、漁師は無理だって言ってる。


なつ       明さんは、機雷の事故には合わなかったけど、戦争で足、怪我してきたら、
         機雷事故で怪我したのと同じことださな。


 学       漁師止めて何するのさ。おじさんだって、おばさんだって、
              漁師以外に何かやったことあるの。

みよ       そうよな、私たちと、同じださ。
         こんな時代に何処に行くって。何処に行ったって、仕事があればいいけど、
         戦争が終わって四年が過ぎたくらいで、まだ、これと言った工場も、会社も出来ていないんだ。


なつ       軍人恩給貰っているから、食うぐらいは如何にかなるかもしれないけど。
         戦争で負傷した人には、恩給が付いているからまだいいけど…
         …うちみたいに、機雷で死んでも何にも出ないんださ。
         本当に機雷で死んだ人は死に損ださ。


みよ       本当だね、死に損ださ。

 綾       そんな言い方、いやだけど、そうなんだよね、みんな集めて一度に殺したんだからね。

なつ       まったくだ、でも明さんとこ、恩給貰ったぐらいでは、家族で食べていくのがやっとださな。
         これからは、子供に金がかかるしな。


みよ       本当だね、それに、あそこのかあさん、体が弱いしね。

 強       でも、足が悪くても、父さんいた方が、良いと思うな。
         だって、何でも相談できるしょ。


 学       そうださ、いた方がいいよ。

なつ       そうかい、でも、家の母さんは、父さんの分まで頑張っているよ。

みよ       そうださ、父さんの分までやってるしょ。
         こんなに、腕っぷしが太くなっちゃってさ。
         もう、女らしさなんかなくなってしまったね、は、は、は。
         ところで、どうするかな……水上団長の話。


 綾       母さん、行く気なのかい。

 強       何、行く気なの。

 学       本気かい、まさか。

 綾       そんな言い方したら、行きたいように見えるって。

 強       行きたいの、母さん。

 学       幼馴染って言っていたから、昔から好きだったんでしょ。

なつ       何ちゅうことを言うんだね。うちの子供たちは。
         正二以外に、好きな人はいなかったんだよね。
         ねーみよさんよ。


みよ       それはどうかね……

 綾       母さん、水上団長ば、好きだったんだ。

 強       本当かい……さっきの話と大分違うよね。

 学       本当ださ、母さん心変わりが激しいんだ。

なつ       母さんは、心変わりなんかする人なんかじゃないよ。
         母さんは、正二一筋だって。……なあーみよさんよ。


みよ       ばあちゃんには、私の心がお見通しさ。
         お前たちも、母さん見てれば分かるしょ……だれが一番好きだったか。
         ただな、こんな繰り返しの生活を、何時までも続けて居るわけには行かないん
         じゃないかって、近頃思うんだ。
         これからは、子どもたちには金のかかる年になってきた、それに、母さんだって、年をとる。
         そう考えた時に、出稼ぎや、漁師の仕事が、きつくなってくるのは、目に見えているって。
         そうだろう。
         そんな時に今度の……水上団長からの話ださ。
         少しは考える時間が、欲しかっただけだよ、そうなんだよ。




        みんなで、おどろき、母さんの方を見る。


        音楽IN、照明OUT。

 

  第五場(15)       所 川口家の居間

 


     
照明IN、音楽OUT。



        川口一家が主人の明を中心に妻正子、長女和子、次女里美、長男和夫、祖母かねが話している



 明        今、山本さんちのみよさんと話していたことだけど、このままでは、
         どうにもならないって思うんだ。


和子       どうにもならないって、如何いうことなのさ。

里美       そうだ、私も分からないな。
         姉ちゃんと同じで…父ちゃんの言うこと分からない。


和夫       おれ、何なのか分からない、ね……父ちゃん。

和子       それは、さっきみよさんに言っていた…漁師止めることなんでしょ。
         ねー、そうだよね、父ちゃん。


正子       そうださ、ここでこのまま漁師続けたって、どうにもならないと言うことなんだよ、
         ね、父ちゃん、そうだよね。




        そこに、水上団長と漁協の職員小林が入ってくる。



小林       こんちわ…明さん居るかい。

水上       やーこんちわ。

 明       珍しい、何だい二人して。




        川口家の人達も挨拶をする。



水上       いやー、そこで小林に会ってさ。
         何、明さん、漁師止めるってかい。


正子       早いね、まだ、そんな話までいっていないのにね。

かね       まったくだ、早いもんだね、団長さんよ、あんたもそれ位の早さで嫁さん貰えや。
         何時になったら、みよさんば嫁にするのよ。


水上       何、今、そんなこと、言うのよ、かねばあちゃん。

小林       なー、団長、みんなして心配してるんだって。

 明       そうよな、家の心配してくれているなら、自分のことば、まず、心配すれや。
         誰か頼んでいるんかい。


水上       いや……「太」爺ちゃんには頼んでるんだけど。

かね       そりゃー、駄目だ、「太」じゃ、決まるもんも、決まらんて。

正子       本当だ、そりゃーまずい。
         太爺ちゃん、ここ何年も爺ちゃんが行って、決まった所ないしょ。


 明       本当ださ、そりゃーだめだ。今さっきまで、ここで、みよさんと話してたんだよ。
         運が悪いね、いや、悪すぎるね。


水上       本当かい、みよさんいたんだ。そりゃ、残念なことしたな。

小林       やっぱり駄目だって、運が悪いんだって。
         あー、こんな話で来たんじゃないんですよ。


水上       こんな話って、何よ。俺にしてみれば、重大なことなんだ。

小林       団長、昔から、みよちゃんば、好きで、好きで、よく店に通ったもんだ。
         俺と、団長と、みよさんの旦那、正二さんは、同級生で、何時も、
         みよさんの取り合いだったさ。


かね       そんな昔から好きだったんだ。
         正二さん機雷で亡くなって七年も経ったんだから、そろそろ団長さんとこに
         行ってやればいいのにな。


 明       そう思うけどな……でも、無理だと思うよ。
         みよさんと正二さんは好きで好きで一緒になったんだからよ。


正子       それに、今でも帰って来ると思ってるんだからね。

かね       七回忌も済んだし、そろそろ考えた方がいいけどな。
         でもな……そうだよな……腕一本しか帰って来なかったんだからな。


小林       その話は、有名な話だよね。

水上       そうよな、あれで腕でも見つからなかったら、まだまだ、真剣に帰って来るっ
         て信じているよな。
         やっぱり無理かな。他に女探すかな。いい女、居ないしなぁ…あぁ…


小林       おい、おい……、団長の嫁の話に来たんじゃないんだ。
         やっぱりだめかい、ここに残って漁師やるのは。


 明       あ……そうな……今、みよさんが居た時もその話だったんだ。
         どうしたら一番いいもんかってな。


正子       そのことで、今、話し始めたとこなんですよ。

小林       あ…、そうかい、そんな時に寄ってすまんかったな。

水上       あ……そうなんだ…それは、悪かったな。ごめん、ごめん。

 明       いや…、今日はみんなが揃ったもんだからな。

正子       そうなんで。

小林       そうださ、みんなでよく考えたらいいさ。

水上       そうだ、そうだ、一番いい方法を考えたらいいって。
         何か、俺に役に立つことがあったら、言ってくれや。


小林       じゃな、またくるって。



        二人挨拶をして出て行く。


        川口家のみんなも、挨拶をする。


        しばらく、無言の状態となる。


        明、少し考え込む。少し時間が経ち、ポツリ、ポツリと話し出す。



 明       そうだ、子ども3人、俺と母さん、それにばあちゃんの6人で、
              これからどうやったら食っていけると思う。
         お前たちだって、これからは、高校ぐらいは入らんといけない。
         そしたら、ここで食うのがやっとな漁師やってたら、どうやって学校に行かせられる。


和子       でも、今、どうにかやっているしょ。
         父ちゃん戦争から帰って来たんだし。
         近所の家では、まだ父さんや、兄さんたちが帰っていない家だって、たくさんあるよ。


里美       そうだよね、帰って来たって、お骨しか帰らないとこだってあるんだよ。

和夫       家の父ちゃんは、こうやって元気に帰って来たしさ。

 明       そりゃ、遺骨で帰るよりはいいって……
         でもなー、こんな足で帰って来たって、どうにもならないんだぞ。
         見ての通りだ。
         漁師だって満足に出来やしないって。
         ましてや、農家の畑仕事なんて絶対に俺には出来やしない。
         こんな体で……帰って来たって、お前たちに苦労をかけるばっかりだ。
         戦場では、多くの戦友が死んださ、俺の見ている前でな。
         息を引き取る前には、必ず両親か、かみさんの名前を呼んでいた。
         その時、俺も死ぬ前には、お前らの名前を呼んで死ぬのだろうなと考えていたさ。
         でも奇跡的に命は助かった。
         こんな足で帰って来るんだ、いっそ仲間と死んだ方が良かったのかもしれないな。


正子       何を言ってんのさ、馬鹿なことを言うもんじゃないって。

 明       戦争が終わって、四年が経ったって、まだまだ、漁師のまねごととと、
         恩給でやっと食べていってる。
         漁師だって、これからだって、たいしたことないと思うんだ。


かね       何言ってるのさ。帰って来ない方がよかったってかい。
         そんなこと言うもんじゃ無い。
         だって、まだまだ帰って来ない人たくさんいるんだよ。
         それも、生きているのか、死んでいるのか分からない人だって、いるんだから。


里美       何でさ、父さん、何してそんなこと考えるのさ。なんしてさ。

和夫       変なこと、いわんでや。

正子       父ちゃん、何言ってるの、
              足が不自由でも、何ででも、帰ってきてくれただけでもいいんださ……
         そしたら、父ちゃんは、帰ってこなかった方がよかったって言うのかい。
         そんなこというなんて、あんたが戦争に行った後、どんなに苦労して、
         この子供たちと生きてきたか知ってるのかい……
         あの、みよちゃんの旦那さんなんか、さっき話してたように、手、いや、腕一本しか
         なかったんだよ、そのことはあんただって知ってるしょ。
         その現場をあんたは見たんでしょ。
         土屋の篤さんだって、影、形もなかったんだよ。
         そこにいた人は、みんな消えてしまったんださ。戦争も同じだと思うけど。
         腕一本だって、見つかったからいい方で、百人以上も、この湧別の浜に、
         ハマナスの花びらの様に散ってしまったんだからね。
         どんなに不自由な体になったって、今、ここに生きているってことが、
         どんなに私たちに力強いか分からないのかい。
         子供たちだって、どんなに…父ちゃんと一緒にいられることが嬉しいことなのか
         想像もできないのかい。


かね       本当だよな、あの前浜が、ハマナスの花が咲いたように、真っ赤に染まったんだもんな。
         明、お前は、運が良かったさ、便所に入ってから家出たことが、じいちゃんより
         後に現場についたんで、それでお前は助かって、じいちゃんは死んだんださ。
         お前もあの後始末は大変だったさな。
         それから、お前は戦争には行って、負傷はしたけれどな。
         こうやって、元気に帰って来たさ。


和子       私の友達の、土屋の末ちゃんや、広ちゃんの父さんだって、
         機雷事故で死んだリ、他の友達の父さん兄さんも戦争で死んだ。
         みんな、私たち以上に悲しがったり、淋しがったりしているよ。


里美       そうだよ、何人もいるって、ここで漁師やったり、農家したりしている人で、
         機雷の事故や、戦争で亡くなった人。
         でも、どの家も、母さんや、ばあちゃん、じいちゃんたちが、みんなしてがんばってる。
         ね〜和姉ちゃん、土屋の末ちゃんのとこなんて、母さん一人で頑張っているよ、
         漁師は止めたけどね。


和夫       みんな、がんばってるよ。

 明       そうだけどな………だ、俺はな、こんな体だ。それが悔しくてたまらん。

正子       父ちゃん、何時からそんなに弱気になったんだい。
         戦争に行く前は、あんなに強気で正二さんたちと漁師やってたのに、
         父ちゃんの、今のそんな姿、みっともない。


かね       そうださ、明、戦争に行って来たら、強くなってくるのが普通なのにお前はどうして…
         …そんな弱気なのかい。
         一昨年、大阪から三号線の奥に開拓で入った村上さんなんか、年老いた両親と、
         三人の子供を連れて、この北海道の果てまでも、農家をやるんだって一家七人で
         入植してきたんだよ。
         おまけに、その村上さんは、戦争で片目が不自由なんだって。


正子       そうだって、戦争から帰って来たら、大阪は焼け野原、家も無ければ、仕事もない、
         そこで、開拓団の募集があってここに来たんだって。


里美       その村上さん家の友ちゃん家なんか、来た時から弁当持ってこないんだよ。

和夫       そうださ、友ちゃんの弟の雅夫ちゃんなんかも、弁当持ってこないよ。
         うちなんかまだまだいい方だって。


和子       さっき、父ちゃん、何か変なこと言ってたね。「父ちゃんいない方がよかったなんて」
         言ってたけど、そんなこと言わないでよ。
         戦争に行った後、どんなに淋しかったか、ね、母ちゃん。
         いつも兄弟して母ちゃんと、わたしたち子どもはさびしかったよね。
         きっと、父ちゃん元気に帰って来るから、それまでがんばろうねって言ってたんだよ
         …ね……ばあちゃん。


かね       本当だよ、和子の言う通りださ、みんなしてお前の帰って来るのを待ってたさ。

正子       そうだよ、父ちゃん、みんなして待ってたんだよ。
         そりゃー漁師やれればいいさ。
         でも、家族が一緒に生活出来るんだったら、どんな職業でもいいんじゃないのかね。
         私だって、少しずつ体も元気になってきたから、働けるよ。
         私の出来るような、仕事探すから。漁師でなくたっていいんじゃない。


 明       うん……そうだな……そうかもしれないな。
         そうだな、こんなことで、落ち込んではいけないな、足が悪かろうが、
         お前たちの生活を守るのは、俺なんだからな。
         体を使う漁師がだめなら、頭を使う仕事だってあるさな。
         みよさんや、団長さん、それに漁協のみんなにも悪いけど、俺今考えてること、
         いや、少し前からだけど考えていることがあるんだ。


正子       それなら、今ここで言ってよ。

和子       そうだよ、言ってよ。

里美       そうだ、言ってよ。

 明       そうよな……
         …あ……、明日か明後日でも…北見に居る叔父さんに相談しに行って見るかな。
         前々から「俺の木工場手伝ってくれないか」って言っていたんだ。
         きっと、何か、こんな体でもやれる仕事を…
         …北見の叔父さん考えているのかもしれないな。
         みんなに苦労かけたけど、これからのことは、俺に任せてくれないか。


正子       そうだったんだ、私も薄々気づいていたけど、いつ話してくれるのかって思っていたんださ。

かね       そうだったんだ、それがいいと思う。
         わしを気にしてるんだったら、止めてくれよな、おまえの親なんだからな。
         親父のはじめた漁師止めるのを気にしていたんだろうさ。
         じいさんの開いたこの漁場のことは……、あの機雷の事故でじいさんも吹っ飛んだように、
         漁場も吹っ飛んださ。
         ここの周りには、そんな人たちが数えきれないぐらいいるって。
         親は親、お前はお前だぞ、今、子どもたちのことを一番に考えてやることだ。
         それが親としての役目だ。


和夫       ばあちゃん……。亀の甲より、年の功だね。
         父ちゃん。みんな家族なんだよ。
         川口家の家族なんだからね。
         父ちゃんは、その大黒柱なんだよ父ちゃん以外に、任せられる人、いると思うの。
         それでなくちゃ、父ちゃんて言えないしょ。


正子       ほれ、お父さん。

 明       あー……、直ぐに、北見の叔父さんの所に行ってくるか。



        みんながうなずく。



        音楽IN、照明OUT。


   第六場(20)     所 川口家の玄関先



        照明IN、音楽OUT。



        川口家が、北見の叔父さんの所に引っ越すことになり、山本家の家族が見送りに来ている。

        上手に、子供たちが集まり、別れを惜しんでいる。

        下手では、大人同士が話をしている。



 綾       淋しくなるね、引っ越しは、もうこれで何軒だ、引っ越ししたの。



和子       そうだってね、もう、七軒目だよ



 学       そうださ、まだまだ出て行くよね。

         昌子ちゃんや、隆くんたちも行くんだって、聞いていたけど。




里美       私たちだけかと思ってたのにね。



 強       うちだっていつ引っ越すかわからんよ。



 綾       そうかもね、したら、みんな居なくなっちゃうね。

         でも、私は、どこにも行きたくないな。




和夫       それならいいけど、誰もいなくなったら、夏休みに遊びにこれないね。



 学       そうだよね、和夫ちゃんたちの、故郷はここだもんね。



和子       そうだよ、ここで生まれて、育ったんだからね。



 強       俺たちとみんな、一緒ださ。



里美       本当は、私ここからどこにも行きたくなかったんだ。



 綾       そうなんだ。



和夫       そんなこと、今言ったつて、どうしようもないしょ。

         それなら、早く言えばよかったのに。

         でも、仕方がないんだ、みんなで話したんだから。




 強       そうだよね、こんな大切なこと、大人だけで決めないよね。



和子       そうなの、家族がみんなで決めたことなの。

         それしか、方法はなかったんだから。
     
         父さんや、母さんの体のこともあったし、私たちを育てるためにも、

         ここを離れなくてはいけなかったんだ。




かね       仕方がないんだよね、機雷の事故や、戦争で死んだり、怪我したんだから、

         だれが悪いんでもないって……機雷と、戦争ださ。





        そこに、土屋家の母さんと子どもたち元、末、広が入ってくる。




一子       やー遅くなってごめん、ごめん。



 元       や……、間に合ったね、よかった、よかった。




        土屋家の母さんは、大人の方に行き、話し出す。




里美       あれ、末ちゃんも、広ちゃんも、元くんも、送りに来てくれたんだー。うれしい。



 末       当り前でしょう、友達なんだからね。



 広       そうさ、友達なんだからな。



 元       和夫ちゃんと、別れるの淋しいな。



和夫       俺もだ、でも、元ちゃんもここから、出て行くって話聞いていたんだけど、本当なの。



 強       そうなの、淋しいな、みんないなくなっちゃうなら。



和子       淋しいけれど、仕方がないもんね。



 末       和子ちゃんたちば、送ったら、今度はおれたちが、送られる番だかもしれないね。

         でも、今考え中みたいなんだ。




 広       そうだね、今送って、いつかは、おれたちだって送られる番かもしれないんだ。

         でも、送られた方は、不安もあるけど、少しは夢もあるよな。




 綾       そうだね、きっと、いい夢が待ってるって。

         新しい友達も出来るし。

         残る私たちは、少しうらやましいところがあるね。




 学       そうださ、うらやましいね。



 強       兄ちゃん、俺たちも行こうか、ついて。



和夫       うん、行こうよ、みんなと一緒に。



 末       だめだ、綾ちゃんや、強ちゃん、学ちゃんたちだけは、ここにいてよ。

         せめて、山本さん一家がここに居てくれなければだめだって。

         おれたちのふるさとなんだから。

         どこに行ったって、いつでもここに、帰ってきたいんだからさ。




 広       そうだよ、ここにいてよ。



 元       そうだよね、綾ちゃん、ここに誰も居なくなったら、淋しいよね。



里美       本当だ、淋しいって。

         ねーここに居てよ、私たちのふるさとなんだから。

         出て行く者が、こんなこと言えないけど、きっと、これからは、何度も、

         何度も、ここに来るから。




 綾       そうだよね、ここは里美ちゃんたちのふるさとだもんね。



 学       そうださ、ここがふるさとださ。



 強       俺たちも、何時まで居るか知らないけど、居れる間は、みんなして守っているからさ。





        明が中央に出てきて、挨拶をする。





 明       そろそろ出発したいと思います。

         今日は、お見送りを頂き本当にありがとうございました。

         結果的に、ここで漁師は出来ませんでしたが、家族で考え、話し合って、

         北見に行くことになりました。

         私もこれから頑張りますので、みなさんも体に気を付けてがんばってください。

         みなさんのご健勝をお祈りいたします。

         では、お元気で。






        みんなが下手に歩き出すと、かねばあちゃんが一言言いだす。





かね       みなさんありがとうございました。

         こんな歳になってから、他の所に行くのは嫌だけど、仕方がないんで、

         じいちゃんをここに置いて行くから、この浜の砂のどこかに……、

         毎年お参りには来れないかもしれないけど、

         わしが生きてる間は五月二六日には忘れないで、手を合わせているからさ、

         みんなも忘れないでな。




正子       ばあちゃん……。毎年お参りには来ましょうよ。

         最後にこんな話になっちゃってごめんなさいね。みよさん。

         着いたら手紙出すから、きっと遊びに来てくださいね。

         一子さん、がんばってね。




一子       あんたもね、今はどうにか、ここでやっているから。

         大変になったら行くから、相談にのってや。頼むね。




みよ       そうだね、遊びに行くから、あんたも元気でね。

         あんたは体が余り丈夫じゃないんだからね。

         体だけは気を付けるんだよ。あんまり無理はしないんだよ。




 強       和夫くん、元気でな。



 学       里美さん、遊びに来いよ。



 綾       和子さん、手紙頂戴ね、きっと、私も出すから。



和夫       みんな元気でね。



里美       元気でね。



和子       みんな、元気で。





      子ども達みんなで握手をして、別れを惜しんでいる。

      見えなくなるまで手を振る。自動車の音が遠くなる。





一子       あー行っちゃった。見送られたくないな。



 末       そうださね、見送られるのはいやだな。



 元       そうだ、いやだな。



 綾       そうだね、見送られるのはいやだね。



 学       そうだよ、これからは、川口さんとこに負けないように。



 強       みんなして頑張らなくてはいけないんだからね。



 末       そうだね、みよおばさん、みんなしてがんばろうね。



みよ       そうださ、川口さん家みたいに見送られないように頑張ろうよ。

         末ちゃんの家は、母ちゃんは、人一倍元気なんだから淋しくなんかないさ……

         親ば助けて、三人の子どもたちが、頑張らなくて、どうするのさ……

         でも、家の子供たちは、どうかな、心配ださ。




 広       おばさん家は、心配ないって、みんな元気で元気で、困るぐらいだろうさ。



一子       そうだな、山本さんちの子どもたちは、みんな元気だからな……

         家の子どもらから見れば何倍も元気だよね。

         さー、帰って、洗濯の続きでもしましょうか。




みよ       やっぱり、一子さんだね、家と同じように機雷でお父ちゃんば亡くして、

         出面しながらでも、やっとここまで子どもたちを育てて来たんだよな。

         たいしたもんださ。




一子       何言ってるって、あんたの方が大変だったさ、ばあちゃん一人多いもんね。

         それに漁師続けているからね。

         でも、あと何ヶ月がんばれば、元が中学校をでるからな。

         元には就職してもらって、がんばってもらうさ。




みよ       そうださな、家の長男は後二年だ、それまでここに、残れるかな。

         は、は、は。




一子       残れるって。頑張る。、さぁ帰るわ。またね、みよさん。



みよ       そうだね、また。





        土屋一家挨拶をしながら上手に去る。


        子どもたち握手をして別れる。


        山本一家も挨拶を交わす。強、ぽつりと話し出す





 強       ねー母ちゃん、ここに居ようよ。

         川口さんちが居なくなったって、いいしょ。

         家だけでもここに、居ようや。

         杉本さん家だって、残るみたいだしさ。




 学       強、お前もそう思うか、俺もここに居たいな。

         誰が居なくなったって、家だけはここに居ようよ。




 綾       そうだね、私も今、川口さんば、送ってそう思ったよ。

         あの人たちだって、本当はここに居たかったと思うんだ。

         だって、ここで生まれて育ったんだもの。

         土屋さん家だって、残りそうだし……ね…強。



なつ       ばあちゃんもそう思うね。本当はここに居たかったんだよね、みんな。

         明さん夫婦……、和子ちゃん、里美ちゃん、和夫ちゃん

         川口さんも、土屋さんも、みんな、ここが故郷なんだから。

         いつも、これからも、心の中からは、消えないって。




 強       ねー、兄ちゃん、姉ちゃん、ここに居てさ、漁師やろうや。

         兄ちゃんだって、後二年、俺だって後三年で学校卒業だ。

         それまで母ちゃんには苦労かけるけどさ。




 学       強、急に大人になったみたいだ。

         お前の言うこと、俺もそう思うな。

         なあー母ちゃん……ばあちゃん……もう少しの辛抱だって、俺たちがここで、

         漁師続けるからさ。




 綾       あんた達は立派、姉ちゃんも大賛成だね、私たちの家が残らなくて、

         どこの家がここに居るのさ。

         あんた達が卒業するまで、私と母ちゃんでがんばるって。

         ねー、母ちゃん。




みよ       まーみんな、立派なことをいうもんだね。

         大人になったもんだ。

         うれしいよ……でもね、今まで以上に大変なことかもしれないよ。

         だってな、今でさえ食うのがやっとな生活がだよ。

         川口さんや、土屋さんのところと少しも変わりはしない。

         出来るんだったら、わたしの家の方が、ここから出ていきたいぐらいださ。

         だけどな……だけど、

         父さん…、正二さんが残してくれた、この漁場、この海。

         正二さんの体を……、血を、吸ったこの浜を捨てて行けると思うかい………

         行けるわけがないしょ。

         そうだろう……強…学…綾……ばあちゃん。



 学       そうださ、母ちゃんの言う通りだ、俺だって、強だって、綾姉ちゃんだって、

         父さんの死んだこの浜からは、どこにも行きたくないよ。

         ねー、ばあちゃん、ばあちゃんもそうだよね。




なつ       ありがとうよ、わしの子供なんだからな、親がここから居なくなったら、

         一番淋しがるのは、正二や、じいちゃんだもんね。




 強       そうだよ、父ちゃん淋しがるよ。



 綾       本当だね、私たちが居なくなったら、一番淋しがるのは父ちゃんだよね。

         どこで生活したって、一生は一生ださ、人は苦しみを超えて……、

         涙を超えて行く者だったら、ここで一杯苦しんで、一杯…、涙を流して、

         親子で生きようよ。




みよ       そうださ、父ちゃんだってさ、ここにいつまでも私たち一家が居ることを望

         んでいるんでないかな。

         お前たちも、これからは大変だけど、今まで苦労ばっかりしてきたんだから、慣れてるよな。

         ばあちゃんも大変だけれど、私たちに付き合ってよ。

         長年の、腐れ縁だからさ、は、は、は、は、は。




なつ       ここに居ようか……ね。でも……、みよさんよ、水上団長の話はどうするね。



みよ       そうだね……、私が団長の所に嫁に行くのではなくて、

         私の所に婿さんにでも来てもらおうかね、は、は、は。






        学、みんなの顔を見渡して。





 学       よし、決まった。

         俺たちは、どんなに苦しくても、ここで漁師を続けようよ。

         父ちゃんに、ここで「漁師やって良かったな」て言われるような漁師になろうよ。

         だって、父ちゃんが残してくれたこの漁場だもの、きっといい漁場だって。

         もし、だめだったら、いい漁場にしてみせるって。






        強、大声で話す。





 強       父ちゃん……俺と学兄ちゃんは、このオホーツクの海で漁師するぞ。

         よーく見ていてくれよ、いっぱい魚捕って見せるから。

         父ちゃんに負けない漁師になってみせるから。

         なー父ちゃん……俺も…強兄ちゃんも…綾姉ちゃんも…

         みんな……父ちゃんの……子供なんだもの。






        徐々に音楽入り、舞台全体が、サロマ湖の真っ赤な夕日に染まる。


        水平線には船が見え、エンジン音が入り。  音楽全開となる。 





           


 
 
スタッフ  企画           町民芝居ゆうべつ

脚本           石 渡 輝 道

脚本補          佐々木 絵 里

演出           本 田 勝 樹

演出補          石 渡 輝 道        

舞台監督              茂 利 泰 史

舞台監督補        坂 本 雄 仁

音楽、音響、効果     中 野 純 一

             伊 藤 雅 裕

照明               仁 木 宏 紀

             伊 藤 雅 裕

舞台制作(大小道具)     洞 口 忠 雄

             坂 本 雄 仁

化粧、衣装(協力者)    渡 辺 明 美

            入 江 ゆかり

             増 山 澄 子

             洞 口 百合子

             松 下 章 子

             大 渕 美 夏

             後 藤 知 子

             蹴 揚 さゆり

             平   加奈子

             野   亜早美

             金 澤 幸 恵

 
キャスト  第1部−昭和17年          第2部−昭和24年  事故から7年目

漁師  山本 正二32歳) 太 田 雅 史   機雷事故で死亡

       妻 みよ(26歳) 佐々木 絵 里 (33歳) 

     長女 綾(9歳) 加 藤 葉 子 (16歳)  

     長男 学(7歳) 仲   崇太郎  14歳)  

     二男 強(6歳) 金 澤 茉梨亜 (13歳)

     祖母なつ(65歳)由 野 のぞみ (72歳) 

漁師 川口 明  30歳)長谷川   洋 (37歳)

     妻 正子(28歳)佐 藤   香 (35歳)  

     長女和子(9歳)蹴 揚 奈々子 (16歳) 

     二女里美(8歳)平   葉 月 (15歳)

     長男和夫(7歳)後 藤 広 太 (14歳) 

    祖母かね     安 田 智 代 (72歳)

交番巡査 三浦  (41歳) 茂 利 泰 史

青年団長 水上   27歳) 深 谷   聡  34歳)

漁師 土屋 篤  33歳) 伊 藤 誠一郎    機雷事故で死亡

      妻一子 (31歳) 仲   陽 子 (38歳)

     長男元 (9歳) 野   悠 月 (16歳)

 二男末 (8歳) 野   広 人 (15歳)

  三男広 (7歳) 後 藤 純 太  14歳)
世話好きの長老「太」    本 田 勝 樹 (75歳) 
漁協の職員小林      洞 口 忠 雄  34歳)
ナレーター(現代のみよ) 佐々木 絵 里

   




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