トレド

遠景


 タホ川の断崖越に望むトレドの街は、美観を大事にする政策がとられたため全体が中世そのままの姿で保存され、また新しい建物でも周囲の環境に調和するように工夫がなされているそうです。16世紀にトレドの街に魅せられ、住みついたエル・グレコが描いた「トレド景観」は、今日のトレドの景観と比べてみてもあまり違わないとのことです、これってすごいことですねぇ。街はタホ川が大きく湾曲し岬のようになった突端に、尖塔が目立つカテドラルとアルカサルを中心に広がっています。 タホ川は川幅も広く水量も豊富で、流れが速く川床が深いそうです。それに加え両河岸が絶壁となっていますから、防御には最高の条件が整っていたのでしょう。




 トレドはタホ川という自然の要塞に守られた街です。現在でも対岸からトレドの街に入るには2つの橋を渡らなければなりません(もう一つありますが、最近造られた自動車専用の橋となっています)。それが西にある「サン・マルティン橋(Puente de San Martin)」と、東の「アルカンタラ橋」です。どちらも堅牢な石橋になっていて、橋の出入口は要塞と門で守られ二重の防御が施されています。景観的に美しく人気があるサン・マルティン橋は、13世紀建造で14世紀に改築されているそうですが今でも頑丈な雄姿を残しています。


街並み


 トレドの街は車が自由に走れるような幅の広い道は少なく、普通の道の幅は2〜3mくらいのところが多くなっています。道路は石畳に成っているのが普通で、舗装方法としては大きな平たい石を敷き詰める方法と、丸い小石を敷き詰める2つの方法があるそうですが、ここでは丸い小石を集めて敷き詰めている道が多いのが特徴です。現在はコンクリートで固定されていますが、当時は土を整地し直接埋め込んでいたそうです。
 もう一つ道の造り方で面白いのは、センターラインが低くなっていて、雨水は道路の真ん中に集められる様に造られていること。これもある意味すごいアイディアかもしれません。どこの街でもそうですが、スペインの習慣で家の外側には、洗濯物やゴミは出さないそうで、こんなに狭い道でも障害物がないため生活道路として成り立っているのでしょう。


カテドラル


 トレドのカテドラルはスペイン・カトリックの総本山。フランスゴシック建築の代表例として名高く、パリのノートルダム寺院と同じ様式で、そう聞くと正面の門(免罪の門)などはどことなく似たところがあります。13世紀フェルナンド3世時代に着工され、15世紀に完成。本堂は高さが約45m、70の円形天井と88本の列柱、750枚のステンドグラスがあります。
 内部は大小合わせて22の礼拝堂があり、その中でも中央礼拝堂の祭壇の彩色彫刻が目をひきます。礼拝堂の後には「トランスパレンテ」と呼ぶ大理石のバロック調の彫刻群があり、ちょうど外からの光が差し込む構造になっているため、彫刻群は浮き上がりとても幻想的に見えます。内部は撮影禁止のため写真がないのが残念です。
 ルーカ・ジョルダノによるフレスコ画で有名な聖器室でため息をついき、その隣の絵画館でグレコの「聖衣をはぐ人」をはじめ、ゴヤ、ヴァン・ダイク、ルーベンス等の作品をみて感動し、その感動が冷めるまもなく、金銀の財宝が陳列されている中央宝物室へ案内されます。そこにはとんでもなく豪華な「アルフェの聖体顕示台」が姿を現します。高さ3m、重さ180Kgもある財宝の山は、年に1回だけ聖体祭の折に戸外へ持ち出され、聖行列に参加するそうです。太陽光を反射するさまはすごいのでしょう、たぶん。


サント・トメ教会(Iglesia de Santo Tome)


 14世紀に建てられたムデハル様式の教会は、入り口にあるエル・グレコ作の「オルガス伯の埋葬」があることで有名です。しかも、ここから外に出たことは一度もない絵画であることにわざわざ訪ねる意味があります。この作品は1323年に亡くなった伯爵の埋葬がテーマになっていて、4.8x 3.6mという大きさもさるものながら、魂の昇天と肉体埋葬という上下2部の構成で、その中に聖エステバンと聖アグスティンの両聖人が14世紀頃この教会に奇蹟的にあらわれたという云い伝えを折り込んであるそうです。グレコの作品中最高傑作とも云われていますが、この絵の肉体埋葬の場面では、エル・グレコ自身の姿や、画家の息子であるホルヘ・マヌエルの姿も描かれているそうです。まあ、理屈はどうあれ、ただボーと見ているだけでも十分価値がある絵であることは間違いありません。


ダマスキナード


 トレドの伝統工芸に象嵌細工(ダマスキナード)があります。鋳物に溝を付け、金糸、銀糸を埋め込んだもので、アラブ人が伝えたと言われています。その工房では実演をみながらの説明があり、本物はすべて手作りですが最近は機械加工の粗悪な偽物も多いとのこと。制作過程を見ていると確かに大変そうで、ある程度高額となるのは仕方ないようで、安物は要注意(機械加工のもの)ということでしょう。隣のショップではここで作られた民芸品や、中世時代の銃、ナイフ、サーベル(室内装飾用)などが販売されていました。ツアーで一緒だったご夫妻がおみやげ用にとペーパーナイフを購入していましたが、なかなか洒落たデザインで、おみやげに悩む人にはお勧めの一品だと思います(ちょっと値は張りますが)。





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