チャイ1、ドボコン演奏者へのアドヴァイス(2007.2.1.)
 
    クラシック音楽を演奏する者にとっては、楽譜を詳細に読み取り、作曲者の意図を完全に汲み取るということが、最も大切なことです。しかし、楽譜から音楽を読み取ることが難しい楽曲や、出版されている楽譜が間違っている場合も多々あります。今回(農民オケ第13回定期)の演奏曲目では、チャイコフスキーの交響曲第1番が、楽譜から音楽を読み取ることのかなり難しい楽曲でありましたので、今後この楽曲をとりあげる皆様のために、参考までに私のつたない分析を披露させていただきます。
 その前に、明らかな楽譜の間違いについて、最初に記しておきます。使用した楽譜については、チャイ1はオイレンブルク版、ドボコンについてはペータース版です。まず、チャイ1の第1楽章 練習記号Gの27小節目のスコアは、第1ヴァイオリンの2拍目の音が3度低く間違っています。これはパート譜では直っているようです。それから、第4楽章 Nの4小節目にあるティンパニの刻みは、5小節目からが正しいと思われます。これは、このまま演奏している録音もありますが、同じパターンの16小節目と比較しても、間違いとしか考えられません。それから最後から36小節目のティンパニの音程ですが、これもベースの音程と合わせればG音ではなくD音が正解だと思われますし、4小節後はそのようになっていますが、ここはG音のまま演奏しても完全な間違いとまでは言えず、4小節後の力強さが増してかえって効果的ではないかとも思います。
 ドボコンについては、第2楽章の7小節目、1番ホルン(D管)が記譜でC音になっていますが、これは決定的な間違いで、記譜でD音(実音E)でなくてはいけません。これはプロのオケでは当然直していると思いますが、出版されているスコアもパート譜も間違っていますから、くれぐれもそのまま演奏することのないようにして下さい。(こんな明らかな間違いが、なぜ未だに直っていないのか不思議です。和音として違和感の少ない3度程度のミスなら、スコアは正しくてもパート譜だけ間違っているという曲は、少なくありません。)

 では、チャイ1「冬の日の幻想」第1楽章のアナリーゼに入ります。この曲は、最初から基本的に3小節単位でできています。これは冒頭部分だけ聴いても、全く判りません。でも、少したつと、和声の解決する小節が3小節毎に現れるので、そうと判ります。最初の木管の旋律の前に、4小節の前奏があります。でも、ヴァイオリンがアクセントなしでスラートレモロを弾いているので、何小節あるかも聴いただけでは全く判りません。しかし、3小節単位のユニットなので、3小節で大きな3拍子と感じなくてはいけません。音量が大きくなりやすいのを避けるために、ヴァイオリンのスラーを2小節ずつにするのは、音楽をつかみにくくするので、やめるべきです。アタックをつけないようにして1小節ずつ弓を返すようにしましょう。
 この最初の旋律は、実は大きな3拍子の2拍目から入るのだと感じなければいけません。そして、7小節目や10小節目が、3拍子の1拍目に当たる強拍なのです。そのように感じると、16小節目までの息の長いフレーズがとても自然に感じられるようになるはずです。ユニットを無視して演奏した場合とは、全く変わるはずです。最初のフレーズは絶対に、4小節目のところに心の中で大きな1拍目を感じてから、吹き始めなくてはいけません。弦楽器も、10、13、16小節目には軽いアクセントをつけた方がよいかもしれません。そして、Aの20小節目に、ヴァイオリンが最初の木管と同じ音型のフレーズを弾きますが、これは木管と違って大きな3拍子の1拍目から入ります。ですから木管の時より、最初の音にアクセントをつけるべきです。そして、22小節目は木管と違い3拍子の3拍目に当たる弱拍です。
  これらのことを感じさせるために、指揮は基本的に1小節を1拍のように、3小節で3拍子のように振る方がよいでしょう。ですが、3小節単位でずっと振り続けることはできません。ところどころ、1小節字余りのところや、4小節単位になるところがあります。それがどこかを、演奏者は理解していなくてはいけません。それは楽譜に書かれていませんが、私がスコアを分析した結果を以下に記します。このアナリーゼに基づいて、パート譜に3小節単位のところは小節線を赤く、それ以外のところは青く、色鉛筆で色を付けることによって、非常に演奏しやすくなると思います。長い休みのところは、(例えば15小節の休みでも、ユニットとずれている場合には、2小節+12小節(3小節×4)+1小節というように、)分割した数字を記入するとよいでしょう。

 では、アナリーゼの結果です。冒頭からは、3小節単位×13ユニット、次に1小節単位×1ユニット、続いてA1小節後まで3小節単位×3ユニットです。(A9小節前は、当初ここから4小節単位だと感じていました。またAからも4小節単位に感じられます。しかし、スコアのA10小節目を見てください。実は、このウンタカタッタというフレーズは、3小節単位のユニット(ホルンが吹いています)のアウフタクトであるということが判明するのです。4小節単位に感じてはいけないのです。これが3小節を大きな3拍子とした時のアウフタクトから始まるフレーズであると、イメージして下さい。
  A2小節目からは、3小節×8、1小節×1、続いてB1小節後まで3小節×3。Bの2小節目からは、3小節×2、1小節×1、続いてB5小節後まで3小節×5(Bの3小節目は特に区切りがある訳ではありませんが、3小節単位をコンスタントに維持すれば無理がない音楽になります。
  C6小節目からは、3小節×3、次に2小節×1(これは前の3小節と合わせて5小節単位のユニットと考えてもよい)、続いて3小節×2、この後に4小節×3と続きます(最後のユニットの最後の小節は、ゲネラル・パウゼ=全休止)。そして、その後に3小節×1ユニットがあってDです。この練習記号Dは、オイレンブルク版のスコアにもパート譜にも脱落しています。D1拍前には、第2主題クラリネットのソロで、アウフタクトがあります。
  Dからは3小節単位のまま、Eまで9ユニット、Eからフェルマータのついたゲネラル・パウゼの前まで8ユニット続きます。ここのゲネラル・パウゼは、1小節で単独のユニットです(3小節分伸ばせば、音楽の流れは止まらず自然です)。その後Fまで3小節×7。
 FからGまでは、3小節×13。GからH2小節後までは、3小節×15です。H3小節目からIまで、3小節×5。IからKまで、3小節×6と続きます。そして、KからLまでは、4小節単位×3ユニットです(ヴァイオリンは1小節遅れた格好になり、3小節のまま4ユニットと感じた方が解りやすいし、それでもよいかもしれませんが、一応フレーズが4小節単位なのでこうしておきます)。
 Lからは、3小節×13、最後に4小節×1ユニットが来て、3小節のゲネラル・パウゼになります。Mは、3小節×13。Nは、最初と雰囲気が全然違いますが(旋律楽器もアーティキュレーションも伴奏音型も変化)、再現部です。3小節×9に続き、1小節×1、さらにOの1小節後まで3小節×3。
 O2小節目からは、3小節×2、1小節×1、3小節×5、1小節×1、その後P5小節後まで3小節×5です。P6小節目から、3小節×6で、続いてゲネラル・パウゼを含めて2小節×1(前のユニットと合わせて5小節でもよい)、その後Qの1小節後まで、3小節×1。Q2小節目からSまで3小節×8、Sから3小節×13、Tから3小節×13。
 Uからは、3小節×5、そして4小節×2、3小節×2、4小節×1(これは3小節+1小節でもよい)、3小節×2と、変拍子のように目まぐるしく変わります。
 Vからは、3小節×10。Wから最後までは、3小節×5、1小節×1、3小節×1、2小節×2、3小節×2、そして最後に1小節(フェルマータ)です。

   以上、分析&文責:牧野時夫  

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