Another's ANOTHER 番外編
第二幕
中緞帳静かに上がる
本舞台は紗幕
音楽が流れる
花道奥より淋太郎登場、少し遅れてカルラ登場
カルラ「淋太郎は、船の修理が終わったら帰ってしまうの?」
淋太郎「・・・うん」
カルラ「そうだよね。故郷には、淋太郎を待ってる人が沢山いるものね。淋太郎といると、なんだか楽しくて、ほんの少しだけ船がこのまま直らなきゃいいのにって思った」
淋太郎「カルラ」
カルラ「でも、もうそんなこと思ってないから。そんなこと、もう思わないから」
音楽
カルラ ある日突然 目の前にいた
澄んだ歌声 忘れられず
あなたがいるだけで 何故かときめき
悲しいことは 何もないのに 涙が出るの
淋太郎 閉じた心に滲みていく声
明るい微笑み 愛おしい
君のためなら 出来る気がする
塞いだ扉が開く気がする
手を差し出す淋太郎 手を重ねるカルラ
2人 ここで2人が 出会った奇跡だけを
信じていきたい これが愛かもしれない
歌い終わって暗転
紗幕が開き、剣、是清、宗佑、駿二、ジュンタ、アキトらが板付
アキト「焼けたのは大~様の花畑だけです」
宗佑「でも、花があんなに燃えるかな。なんの花が咲いていたのかも判らないほど」
駿二「オイルの臭いがした」
是清「灯油じゃないかな」
研「臭いで判るのか、さすがバクテリアだ」
是清「何度も言うけど僕は人間」
駿二「この島には灯油があるんですか?」
ジュンタ「(灯油の意味が判らないふうに)大~様の工場には、いろんな機械やオイルもあるかもしれません」
宗佑「工場?何を作ってるんだい?」
アキト「今はもう動いてません。俺たちが生まれる前に工場を閉めて、それ以来大~様がこの島に来ることはなくなったと長から聞きました」
駿二「(独り言のように)工場・・・焼かれた花畑。鴻村さん、あなたは一体」
是清「ジュンタさん、アキトさん。お願いがあるんですが、この島の木を1本僕たちに戴けませんか」
アキト「木ですか?」
是清「はい。出来たら太い丈夫な木を」
宗佑「船の・・・船のマストを作る気?」
是清「ああ。使えるかどうかは判らないけれど、何もしないよりはマシだろう。鴻村さんの話じゃ、船でこの島に来ることが出来るのは1年のうちの僅かな日数しかないんだろ。ぼやっとしていたら、また1年帰れなくなる」
宗佑「その行き来出来る時期も、微妙にずれてるって鴻村さんは言ってた」
是清「どちらにしろ、帰りたかったら僕たちで何とかしないと始まらない。幸い、マストが折れてる以外は船に損傷はなさそうだし、機器や計器も無事みたいだから、とにかく鴻村さんに相談して新しいマストを建てないと」
研「オマエさ、ここに来てから変わったな」
是清「はい?」
研「お坊ちゃんバクテリアだとばっか思っていたけど」
是清「けど?」
研「意外と逞しいバクテリアだぜ」
是清「まだ言うの。君だってバクテリアなんだろう」
宗佑「研はどんなバクテリアなのさ」
研「俺?俺はオマエ、モテモテのバクテリアよ」
宗佑「カルラにフラれたくせに」
研「バカいえ、俺様はな子供は相手にしねーの」
是清「カルラさんは淋太郎と良いムードだもんな」
宗佑「(是清に)しぃーーーーーっ」
ジュンタ「木のことは判りました。マストになりそうなのを探しましょう。もちろん、島の皆もお手伝いしますよ」
是清「ありがとう」
本舞台のカーテン閉まり、カーテン前
下手脇より鴻村セリ上がり
鴻村「涜真がいない。花畑を焼いたのは涜真なのかトクマなのか。生前の父から花畑を焼けと密命を受けたのはトクマのはず。そして、父はそれ以降トクマにこの島への来島を禁じていた。なのにトクマは花畑を焼かず、年に1度ひっそりと島に渡り、あれを運んでいた。島の誰にも知られずに。今回、俺がここに来たのはトクマが処分しなかった過去の歴史と、一面に咲き誇る芥子畑を焼くためだった。なのに、俺より先に芥子を焼いたのは誰なんだ」
カーテン前
上手より駿二が来る
駿二「鴻村さん、ここにいたんだ。探してましたよ」
鴻村「ああ、すまない。ちょっと島を探索していた。何かあったか?」
駿二「是清が島の木を使ってマストを作ってはどうだろうって。みんな船に関しては素人だから鴻村さんに相談してみようって」
鴻村「なるほど。枝を払ったりヤスリをかけたり手間は大変だが、なんとかなるかもな。よさそうな木を探そうか、あまり時間もないし」
駿二「時間がない?」
鴻村「ああ。やっぱり親父が行き来した頃から磁場嵐が止む時期が少しずれてるようだ。この分じゃ予想した日より早く磁場嵐が復活しそうなんだ」
駿二「そうなるとまた1年足止めってことですか?」
鴻村「ならいいんだが、今回嵐に遭ったろう。磁場嵐の止む期間とハリケーンの期間が今度は重なるのかもしれない。規則正しく止んでいた磁場嵐も、変化しているのかもな。近い将来、この島は本当の意味で永遠に閉ざされた島になるかもしれない」
駿二「まさか。そんなことになったら、この島の人たちはどうなるんです」
鴻村「どうにもならんさ。ずっと、今までのようにこれからも暮らしていくだろう」
駿二「そんな!ここの人たちも日本人です。ちゃんと存在を立証しないと、忘れられたままだなんて、あんまりです」
鴻村「確かにそうかもしれない。けど、何が幸せで何が不幸せかなんて簡単には決められないよ。仮にここの人々をいきなり東京に連れて行って、果たしてそれが彼らにとっての幸せだろうか。島の自然と共に生きる彼らに、汚れた空気の中で星の見えない空を見せたいと思うかい。この島に来て何日か過ぎて、君は何を感じた?この深い森の中で、君は何を見た?降り注ぐ日差しが強すぎたら、森の木陰が守ってくれる。そして、磁場嵐で誰も島には寄せ付けない不思議な自然。この島は、何かで守られている島なんだ」
駿二「鴻村さん・・・」
鴻村「親父に連れて来られたとき、親父はこんなことを言った。”本当の大~様はこの森なんだよ、森がこの島の守り神で島の住人を守っている”と。あの頃は意味が判らなかったけど、今なら判る気がする。さて、大~様に木を1本切らせて下さいとお願いしに行くとするか」
鴻村、上手に退場
駿二「人を守る森・・・」
肩に手を回し、証明フェードアウト
カゲソロ(女性) 祈りの歌は遙か時を超えて
遠い海の彼方へ 風のように消える
紗幕開いて海岸のセット
係留されているヨット
横にされた大きな丸太を磨いていたり、枝を払ったりと忙しく働く面々
紙に描かれた図面を見ながら指図したり確認したり
研「そういや、涜真のヤツ見かけないよな。木を伐る時もいなかったし」
宗佑「火事があった晩からいない。鴻村さんがずっと探しているみたいだよ」
研「あいつ力だけはありそうなのに、なんでこんな時にばっくれてんだよ。のこのこ戻って来ても連れて帰らねーぞ」
是清「そう言いなさんな。万が一、どこかで足でも滑らせて怪我して動けないかもしれないだろう。みんなで捜索したいのは山々だけど、船の修理もゆっくりしてられないから、鴻村さんが必死で探しているのさ」
研「まぁな、こんな小さな島で逃げ隠れしても意味ねーけどな。隠れるよりここで楽しく暮らしていたほうがいいよな。俺、アキトん家で世話になってんだけどよ、アキトの母ちゃん手料理うまくて最高だぜ」
是清「僕はジュンタさんのところにお世話になってるんですけど、ジュンタさん寝ぼけて僕に抱きつくんですよね。あれ、やめて欲しいんですけど、言える立場じゃないですし」
研「とりあえず、抱き返しときゃ良ーんでないの?」
是清「バカなこと言わないで下さいっ。真剣に困っているのに」
ジュンタ「楽しそうですね。なんの話ですか?」
是清・研「いえ、別に」
ジュンタ「2人は仲が良いですね」
是清・研、苦笑い
研「おい、見ろよあれ」
目線の先には仲良く丸太を磨く淋太郎とカルラ
是清「微笑ましい光景じゃないですか」
宗佑「世界は2人のために、ですね」
研「アイツ、この島に来てからちゃんと話すようになったよな」
宗佑「合ってるのかもね、この島が。あの娘もいるし。でも、あまり仲良くすると帰る時、辛いだろうな」
ロンダ「もう仕上がりそうだね」
駿二「はい、明日には船に取り付けられると思います」
ロンダ「そう。間に合って良かったね。ちょっと淋しくなるけど」
駿二「僕の母さんって、どんな人だったんですか?祐紀が生まれてからこの島を出たんなら、僕は5歳になっているはずだけど、この島のことも母さんのことも何も覚えていないんです。ここに来るまでは亡くなった両親が本当の親だと信じてました」
ロンダ「あんたの母さん、私の姉は天女のように綺麗な人だったよ。やさしくてね。でも体が弱くて、大~様が本土からいろんな薬を届けて下さった。大~様の奥方が亡くなられてからは、お坊ちゃんも連れて島に来て。あんたの母さんを本土の病院で診て貰えるよう説得してねぇ、でも私ら島の人間はここを出ては生きられないんだ。泣く泣く母さんを置いて大~様は帰って行き、それからほどなくして、おまえさんが生まれたんだよ。
でも不思議だね、おまえさんは母さんに懐いていたし、母さんが病気で亡くなった後は大~様に引き取られるまで私と暮らしていたんだよ。大~様の坊ちゃんも、ここの記憶をほとんど覚えていない。この島を出るとき、島の記憶をここに置いて行くのかもしれないね」
駿二「弟は、祐紀は?鴻村さんの子供じゃないんですか?」
ロンダ「あの子はあんたの母さんの子じゃないよ。小さな赤ん坊だったあの子は生まれつきの病気でね、大~様がおまえさんを連れて行くとき、一緒に連れて行ったんだ。子供の親はもう亡くなったよ」
駿二「祐紀が弟じゃなかったなんて。でも背中に同じアザがあったんです」
ロンダ「あれは島の人間にはみんなあるんだよ」
駿二「生まれつきに?」
ロンダ「ああ。何故かは知らない、私の母さんも、その母さんも同じアザがあったし、誰も疑問には思わないからね。気にしたこともないよ」
照明フェードアウト
駿二にのみスポットライト
駿二「祐紀が弟じゃなかった。俺はこの島で5歳まで暮らしていた?そんな、そんなはずない。何も覚えていない、この島の記憶も、母さんの記憶も何も知らない。鴻村さん、あなたは知っていたんですか?俺が、弟だってことを」
舞台暗転
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