「ゴスペルを歌い上げそうに」   作/瓜生



頭をさすりさすりしもっておじいさんはへいこらと桃を担いで川へと向かった。おばあさんはおじいさんが桃を上手く処分できるか心配そうに引き戸の隙間から「家政婦が見た」の市原悦子のようにねちっこくてドロッとした視線を送っていた。
 雲の隙間から雉が飛んでくるのが見えたので、桃の中に隠れて雉をおびき寄せようと企てたおじいさんは持っていたナタで桃に切れ目を入れると手で桃の内部をこじ開けて出来た割れ目の隙間に体を滑り込ませた。
雉は空から地上を見ると何やらピンク色の物体が落ちているのが見えたので急降下をしてその物体に近づいた。
 桃の中でおじいさんは雉が近づくのをにんまりとしながら待った。
「どけよ」突然どこからともなく重低音の声が響きわたった。
おじいさんが声の方を振り向くと、ぎゅうぎゅうずめになった赤ちゃんがもんどりうっていたので、あわてたおじいさんはびっくりして桃から這い出した。その時にその赤ん坊も一緒に飛び出した。
「バーン、俺は桃太郎だいっ」元気一杯に飛び出したつもりだったが、桃太郎の周りには誰もおらず、大事な大事な登場シーンのタイミングを外された桃太郎は顔から火が出る思いでもう一度桃の中に戻ろうとした。
「あっ桃太郎だ!」雉が桃太郎の存在に気がついた。プリケツを見せて中に入ろうとした矢先だった、桃太郎はこれ以上愛くるしい笑顔はないくらいに可愛らしさを強調させて振り返った。
「呼んだ?」
「はい桃太郎さん。僕が呼びました」
「なんだ、雉か。雉のくせにどうして人間の言葉を話すんだ。雉はケーンケーンと鳴くもんだろ。矛盾している」
「う、あわわ。こ、これは御伽噺なので、架空の話しだから何でもありなんですよ」
「駄目駄目そんなリアリティのない展開じゃ観客がついてこないよ」
「で、でも僕と桃太郎さんが言語によるコミュニケーションを図らないとパラドックスに陥ってしまってこの後の展開に支障をきたすんです。はい」雉は弱り目に祟り目だと神を呪った。
「いやだね。雉が人間の言葉を話すなんて三文芝居は御免蒙りたいね。俺はドキュメンタリーを追求したいんだよ」
「で、でも、童話とは殆どが種の境界線を越えていて、動植物が言葉を話すことについては公然と認められていて……」
「シャラップ!!!!おだまりなさい。キジの分際で!!」
「まあまあまあ」桃から飛び出たショックで気絶をしていたおじいさんはようやく目が覚めて二人の間に割って入った。
「桃太郎よ、細かいことは言うでないぞよ。さあさあ二人とも仲良くして、今度は犬とサルを探しに行くんじゃ」
「納得いかないよ」桃太郎は口をとんがらして抗議した。
 桃太郎の言葉に暫く頭を抱えこんでいたおじいさんは閃いたとばかりに代案を切り出した。
「じゃあ雉人間という設定にしてはどうかのう。遺伝子の組換えによって人間と雉をあやまって合体させてしまうという……」
「うーん。『ザ・フライ』みたいだけどまあいいや」桃太郎は渋々納得した。
おじいさんは隠し持っていた台本を取りだして、雉の所を雉人間に変更して再び懐にしまった。こうなると犬も犬人間に、そしてサルもサル人間にそして鬼も鬼人間に変更しないといけないと思うと暗澹たる思いに駆られ、思わずゴスペルを歌い上げそうになった。
 






この続きを作って。
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蟹屋 山猫屋