「あーなーた」と妻が「ピーチベイビー伝説」をインストールした桃マックの前から声をあげた。 いいかげんそのドラマじみた呼び方はやめてくれといっているのだが妻にはテレビ中毒の自覚はない。ソファーのところで画面をみたままおれのことを呼んでいる。 「あーなーた」。ほっといたら壊れたコンピュータのように永遠に叫んでいそうである。が、みっともないのでおれは妻のところへいった。妻はほっとしたような顔でおれを見上げていった。 「あなたやっぱりこれバグよお」 覚えたてのことばが嬉しくて仕方ない幼児のように「ばぐばぐ」と楽しそうに言う。ふと巨大な子供を養っているようなこころもちさえした。 「そりゃデバッグがまだだからな」おれはさもあたりまえのように言った。 妻はモニターとしておれのつくったゲームをやっているのだ。なにか不具合があったら知らせてくれといったのだが、こんな初期画面でバグがあるとは……すこしショックだった。 どれどれ、とおれは我ながらジジイみたいだなと思いつつ、妻のやっている画面を覗き込んだ。 「あのなあ」 おれは嘆息した。 「なによあなた」 妻はおれがなにもいわないうちに反撃態勢に入った。こういうことは妻は得意である。もっともおれにとってはちっともありがたいことではない。おれは反撃される前に一呼吸ついた。 「あのな、その下のアイコンをみてくれよ」 「なによアイコンって。ちゃんとわかるように言ってよね」 確かに妻の言い分ももっともではある。ではなんと言えばよいのか。 「ほら、そこのボタン」 「え」 「選択肢がみっつ並んでいるだろうが」
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