うぐいについて



 うぐいと言えば、私は身の毛もよだつ恐ろしい光景を見たことがあります。場所は夕張川、ちょうど夕張と占冠の境界あたりです。普段は林業関係者以外立入禁止なのですが、非常に偶然的に私の親戚に当たる方がコネクションを持っていたため、いつしか私のホームグラウンドと化していました。途中にはダムがあり大型のアメマスもよく上がり、何しろ人が入ることが希なので本当によく釣れます。ダムに流れ込んでいる川を、そこから2Kmほど上ったところに小さな洞窟があります。そこが恐怖のステージでした。

 8月のことです。その洞窟はいつもは淵の底になり頭が少しだけ水面から出ているだけなので、その存在に気付く事は困難でしたが、8月の渇水によってその姿を露わにしていました。水位が低いため、いつものポイントは期待が出来ないと判断し、普段はボートなしで釣ることは不可能と思われたその淵から釣り登ってみようということになりました。午後5時、まあまあの釣果をおさめそろそろ引き上げようとその淵まで戻りました。車に向かって崖を上っていたそのときです、「正洋くんっ!!下を見てみろっ!!」親戚が叫びました。熊か!と思った私は、急いで振り返ったのですがそんな姿はありません。「洞窟ッ!」と言われ、ゆっくりと視線をそこに向かわせると、水の中で何かがわらわらうごめいています。しかし遠くてよく分かりません。いったん崖をおり、私たちはゆっくりと、且つ大急ぎで洞窟に向かいました。そこで見た物は、なんと川一面を覆うほどの魚の大群でした。魚達は洞窟から次々に出てきます。もう老齢といえる私の親戚は遠目から見て「うぐいだ。」とささやきました。「ちょうどイブニングライズの時間だ」私は冷静になり、再び川面に目を戻しました。遠距離からの目測ではあるのですが、ゆうに50cmを越えるサイズのうぐいも数匹確認できました。100尾、いや200尾はいたでしょうか。とにかく驚くべき光景です。辺り一面に飛沫があがり、それがライズなのかなんなのかも分からないほどです。30分ほどのことでしょうか、徐々に数は減っていき、最後にレギュラーサイズのうぐい達が洞窟に戻ると、また静かな淵になりました。

 親戚の話によると、その洞窟は「コウモリの巣」と呼ばれているそうで、小型のコウモリが出入りするのを何度か見たことがあったそうです。来年、もしくは再来年の渇水の際にはその洞窟を探検してみようと思っております。


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