ニュージーランド私的釣行記・ 〜初日〜

・ムルパラの母なる流れ・
 私が今回釣行したのは北島北部を流れるランギタイキリバーとその支流群です。
ランギタイキリバーは北島中心部を流れタウポ湖へと注ぐトンガリロリバーとともに
その名を世界に知られるトラウトの名河川の一つです。 流程は河口より200km程度の
中型河川ですが、広大な流域面積に多くの支流群をもち年間を通し水量豊かな川です。
上流域ではスプリングクリークのように澄んだ水をたたえ、広大な植林地の中を
延々と蛇行して流れます。 途中にはフレキシー湖やランギタイキカナルなど魅力的な
釣り場があり、巨大なトラウト達が訪れる釣り人を狂喜させています。
 アニュフェニュア湖から始まる中流域は多くの支流群を集め急速に流れが太く
なります。ここではパワーボートなどで川を移動しながら豪快な本流釣りが楽しめます。

        
        
       ↑ランギタイキ中流部の風景。
        牧草地の中をゆったりと流れ、澄んだ水は美しい
        トラウトを無数に育む。(撮影:ムルパラ市街付近)

・ニュージーランド私的釣行記・
 私がこの川を訪れたのは4月の終わり頃、ちょうど産卵期が始まる時期だったので
大型魚の遡上を意識して上流域と支流群を中心に釣りをしました。現地の事情は全く
分からないので事前にフィッシングガイドをお願いして初めの2日間を案内してもらい
残りの日程をフリーで釣り歩く事にしました。 私達を(自分とうちの奥さん)案内
してくれたガイドのGraemeさんはハンティングと釣りのガイドを両方こなす釣り歴
ウン十年の超ベテランガイドで、その上地元育ちなのでランギタイキリバーは彼に
とって「庭を流れる川」同然で、実に良くポイントを把握していました。 彼は元々
生粋のフライマンですが、(メジャーなトーナメントで何度も入賞している)ガイドの
仕事の特性上、ルアーもひと通り揃えており、我々のリクエストに答えて一日目は
ルアーで二日目はフライを披露してもらいました。
 

〜初日〜(晴れ時々くもり)
 ガイドのGraemeさんは約束の8:15キッカリに、彼の愛車であるハイラックスで
サッソウと登場。我々が宿泊しているロッジのオーナーと昨日の出来事などを
話しながら今日入るポイントの状況などを説明しているようだ。 彼によると
昨日から降り続いていた雨で(前日は土砂降りだった)水の出やすい川は濁りが
入っており釣りにならないとのことであった。ひとしきり話しが終わると彼は
こちらにやってきて大きな手で握手を求めて来た。 私はヘタクソな英語で挨拶すると
彼は髭もじゃの顔を崩して「荷物を積んで行こう!」とまるで1分でも早く釣り場へ
行きたい子どものようである。(実際私とは親子ほど歳が離れているが)
8時過ぎのスタートとはずいぶん遅いような気がするが、ニュージーランドの人たちは
あまりガツガツ釣りをしない。彼の話では雨の日などは現地の人はまず釣りをしない
とのこと、これにはもちろん釣り場の環境が素晴らしい事に加え、日本などに比べると、
圧倒的に釣り人の密度が低いからであろうと思われる。

・ランギタイキカナルにて・ 
 ムルパラの街から森の中のダートを走る事約20分程で最初の釣り場に到着。
ランギタイキリバーの上流部に位置するランギタイキカナルと呼ばれる治水用の人工水路が
その場所であるが、なんと本で見知った有名なポイントが街から20分で来れてしまうとは!
(しかも無人) 日本人が変な所で感動しているのもお構いなしにGraemeさんは水路ぞいに
ゆっくり車をすすめ、水面をのぞき込んでいる。 ホンの10mも進まないうちに彼は水面を
指さし、こちらを向いてニヤリと笑う。彼の指の先には水草の上をゆったりと泳ぐ、
軽く50cmは越えるであろうブラウントラウトが見えた。 良くみると視界には
大小4尾程度の魚が見える。 
彼曰く「もうバレてる」らしく、魚達は慌てる様子もなくゆっくりと流れの中に
消えて行った。 いま目の前だけでこれだけの魚がいるのだから、このどこまでもまっすぐ
流れるチョークストリームにはいったいどれほどの魚がいるのやら、見当も付かなかった。 
 水路に沿って延びる林道に車を止め、我々はタックルの準備にかかった。 
私のリクエストに応えて今日はGraemeさんもルアーでの釣行、そのタックルBOXには
プラグやスプーンの他、今まで見たことがないルアーも散見される。 
もっともユニークなのはジグヘッドのようなシンカー付きの針に、
フライで使用されるのと同じ鳥の羽を巻いたルアーである。 フライで言うところの
ストリーマーのような形をしており、彼はこれを「スピナー」と呼んでいた。
(後で分かったがスプーン以外のルアーを彼は全てスピナーと呼んでいたようだ)
私は早速、最近お気に入りのバス用のプラグを結ぶと流れの前に立った。 
この季節定石ならダイビングミノーかスプーンを選択するだろうが、
私は数々の大物を釣り上げて来たこのお気に入りルアーを是非NZでも試してみたかった
のである。 音もなくゆっくりとした流れに最初のキャスト。 
ルアーの泳ぎを確認しながら早めに巻いて来ると、デカイ影が水面下から
ゆっくりと追いかけて来るではないか! 突然の出来事に驚いている間にラインは
全てリールに巻き戻ってしまった・・。 気を取り直して今度はもう少し下流にキャスト・・
と、2、3回巻いたところで突然ロッドが絞り込まれる! かつてない強烈なアタリとともに
ドラグが鳴りラインがグイグイと引き出されて行く。 対岸に向かってラインが走ったと
思った瞬間、ソレはいきなり身の丈ほどの大ジャンプを連発した。 「レインボーだ!」
体長は50cmを少し切るくらいであろうか、しかしそれはトラウトというより丸々と太って
マグロのような体型である。
 体高のある魚体から繰り出されるファイトは恐ろしいほど力強く、3分と渡り合わないうちに
ロッドを持つ親指の付け根が痛くなってきた。 ふと気づくと岸辺にはGraemeさんがネットを
構えてこちらに視線を送っている。 私は小さく頷いてロッドを構え慎重に水面から後ずさる。
このファイトを長く続ければバーブをつぶした私の針は簡単に外されてしまうだろうと思い、
なおも抵抗するレインボーを半ば無理矢理ランディングに持ち込んだ。すかさずGraemeさんが
すばやくネットを送り込んで無事ランディング成功! 素晴らしいプロポーションの47cmの
レインボーであった。 開始早々の釣果にGraemeさんと握手を交わし、早速リリースに移るが
バーブを潰したお陰でフックはすんなり取れたものの、手前からリリースしすぎて魚が深い
水草に頭を突っ込んでスタックしてしまったではないか! Graemeさんはすぐに車に引き返し
ウェーダーを履くとスタックした魚を助けに水中へ・・。 そっと魚をかき出して沖合いに再
リリースする。 その手際の良さに関心しながら、同時にニュージーランドが世界に誇れる
フィールドを持つ、もう一つの理由を見たような気がした。


 ↑ランディングのようす
  右側に伸びる水路がランギタイキカナル。
  こんな水路に大物が! とにかく魚影が濃い。

                   
                ↑ランギタイキカナルのレインボー。
                 その体高から繰り出されるファイトは破壊的
                 ですらある。 なんとこれがアベレージサイズ・・。

・フレキシー湖での昼食・
 その後もルアーを替えながら35cm程度のレインボーを1尾追加して、次の釣り場へ
移動を開始する。 
最初のランギタイキカナルから車で5分程上流に移動すると、細長い水路が伸び、
じきに背の低い森の中に小さな湖が現れた。 ここは「フレキシー湖」と呼ばれる人造湖で、
Graemeさんの話によるとここには本流にはいないようなデカイやつがいるとの事。 
水は完全に止まっている事もあり、ゆっくりと引けるルアーをチョイスしてみる。 
しかし、反応はナシ・・。色々試してはみるもののアタリはない。 
沖合いではかなりデカイ魚がバシャバシャとライズをしているのが見えるだけに余計悔しい。 
 結局ここでは全員ノーフィッシュのまま湖畔でのんびりとランチを取る事にした。 
食事の折り、Graemeさんから釣りやハンティングの色々な話を聞いたが、
無口であまり余計な事は口にしない彼が、動物や自然の話をする時の生き生きとした表情が
非常に印象的で、そんな人たちに守られているニュージーランドの自然が本当に
羨ましく感じた。

・ランギタイキ上流部・
 食事を済ませると、さらに上流を目指し移動を開始。 
広大な植林地「カインガロアフォレスト」を真っ直ぐに貫く林道を20分程進むと
ランギタイキリバー上流部へアクセスする事が出来る。ここは既に植林地奥深く、
「フォレストパーミット」と呼ばれる入林許可証がなければ入れないエリアだ。 
しばらく走って真っ直ぐな林道を左に折れると左手にランギタイキリバー上流の
流れが見えた。
 深い薮に両岸を覆われた流れはだいぶ細くはなっているものの、深く刻まれた川底は
相当の水量を残しているように見える。 日本の川の上流域には見られない蛇行した
チョークストリームが続く。 澄んだ水底にはバイカモのような水草が一面を覆っており、
ゆらゆらと揺れ動く様は、それだけで美しく飽きの来ない風景であった。ここはの風景は
かつて私が見たこともないような幻想的なものであった。 そして、こんな夢のような
場所に踏み跡一つないとは、この国の懐の深さか、訪れる人のせいなのか、とにかく
その環境の素晴らしさにはただ感心させられるのみである。
 またまた日本人が勝手に感動しているかたわら、Graemeさんはじっと水中を凝視している。
ニュージーランドの釣りのスタイルはサイトフィッシングが基本。 魚がいる事を確認
してから、狙い撃ちで目標の魚を釣り上げるのだ。 彼は足早に上流へ向かい、
5分程して我々の所に戻ってくると「ここから上流へ二つ目のコーナーまでの間に
トロフィーサイズが3匹いる」と、こともなげに言った。 そんな彼の言葉に、
いつもより慎重にドラグの調整をした私は、ここのところ当たっている赤い
ディープダイバーを糸に結んだ。 鮮やかな緑の中を泳ぐ赤いルアーはかなり遠く
からでも良く観察出来たが、なにやらその後に黒く細長いモノが繋がっている
ように見えた。 近くまで寄せてみるとそれは10cmくらいのトラウトの幼魚の群
が列をなしてルアーを追っている姿であった。 私はあわててルアーを回収し、
手持ちで一番大きなフックに換装した。 不用意に小さな魚を掛けないようにである。
しばらくキャストを繰り返すものの、どうやらこのルアーはちびっ子に大人気らしく
大物は出てきそうにない。 私がそんな事をしている間に少し離れた薮の向こうから
うちの奥さんが悲鳴のような声で私を呼んでいる。 蛇でも出たかと思い行ってみると、
どうやら大物のチェイスを目撃したらしく、泣きそうな顔で笑っている。
おそらくGraemeさんが見つけた3匹のうちのどれかだと思われる。
 彼女はGraemeさんからもらった緑色のスプーンを使っていたらしく、
ちびっ子に悩まされていた私はさっそくマネをして、大きめのウィローリーフ型の
スプーンを結んだ。 意識して川底を転がすようにリトリーブすると・・グンッと、
鋭いアタリが来た! すかさずアワせると、針先の主はジャンプの連発で応酬した。
40cmに僅かに満たないくらいのレインボーだ。 サイズに不釣り合いな
強力なファイトを楽しみながらゆっくりと岸に寄せるとヒレの伸びきった美しい魚体が
姿を見せる。 体側が鮮やかなピンク色に染まったまさに川の宝石である。
 少しずつ移動しながら、釣り上がると良い型のレインボーに混じってブラウンも
次々に釣れた。
           
       ↑元気なランギタイキのブラウントラウト。
        ランギタイキの魚は皆美しく、例外なく
        素晴らしいファイトを見せた。
 
 夢中になって釣り続けるうちにいつの間にか日はすっかり西に傾き、
深い森のふもとは薄暗くなりつつあった。 フタを開けてみれば私も両手程の魚を
つり上げ、奥さんのほうも数匹の釣果と何回かの大物のチェイスを受け、
上機嫌で初日の釣りを終了。 夢のような場所での大物に後ろ髪ひかれながら、
私たちは残光に赤く染まる森の中を、宿への帰路を急いだ。
 明日こそ大物を釣ってやる!!

ニュージーランド私的釣行記1 / 終わり