漁業の概要

1・ 課    題

 200海里体制への以降以来、日本漁業は大きな変貌を遂げてきた。 それは、遠洋漁業の縮小であり、その縮小を上回る輸入水産物の急増である。 「資源管理型漁業」が提起され、漁業管理の徹底化が図られようとして久しいが、海外生産物の投入は国内、就中、地域における生産計画を困難にしている。

 また、消費における多様化・高度化は、従来の量的増大だけを追及する生産対応に転換を迫っている。 これまでは、少量・多量にかかわらず生産したものをただ売り放すだけであったが、消費地段階では輸入品が入り、高品質で少量多種の水産物が売れている。 産地における販売もこのような消費動向に対する機敏な対応が求められている。
 当地における漁業もかかる状況の下にある。 外海におけるホタテ貝漁業の成功は、漁業基盤を拡大・強化したが、これが永久不変であるという保障はない。 この漁業を持続的に維持するためには独自の取り組みが不可欠であるが、同時に自営漁業の条件整備・自立化が必要である。

 資源の維持・培養、漁業管理の徹底はもちろん、自営漁業における経営努力が重要になっている。 経営基盤である労働力の保有状況、営む漁業権の確保そして漁船等の保有生産設備に基づいて生産が行われるが、経営においてはこれら生産要素の組み合わせによって最小の費用で最大の効果を目指すことが要請される。

 また、最大の効果は有効な販売努力によっても保障される。 需要における量的および質的変化に注目した商品作りが重要なのである。 鮮度保持は基礎的条件であるが、選別・品揃え・梱包・包装等の一般商品で開発された販売技術に習熟することである。 無駄なあるいは資源浪費的な技術は採用すべきではないが、消費者を想定した製品化が必要である。


2、 当地における漁業の位置


 当地の人口は昭和期に入ってからも増加を続け、国税調査結果では昭和25年の14,000人台がピークとなる。 その後、日本経済の復興・拡大と共に人口は大きく減少し、昭和60年には6,000人強の水準にまで落ち込んでいる。 しかし、減少率では昭和50年代に入って低下しており、下げ止まっているといえよう。年齢階層別の人口移動(5年毎にズラス)を男子についてみると、40年から45年には全般的に減少しているが、ここでの特徴は40年における10〜14歳、15〜19歳、70歳以上の減少率が甚だしく高いことである。このことは、この期間世帯数の減少も大きいので、家族全員の流出が進んだためと考えられる。

 50年代では、様子は若干変わってくる。 10代の減少は依然として大きいが、これは高校進学率の増加と卒業後の地域外への就職そして大学進学の増加の結果ということが出来る。 同時に、50年における45歳以上の年齢層では殆ど変わらないか増加傾向にある、これは、一方で高齢者の自然減が進み、他方でこの地域の中心的産業に中核的労働力が安定して残るようになった事を意味している。

 これらを産業別にみると、世帯数は40年から60年の間に農業では半分、林業では3分の1に減少し、これらで町全体の世帯減の殆どを占めている。 世帯数が増加しているのは、漁業、建設業、公務そしてその他であり、従来の産業区分に含まれない「その他」の増加率が高い。 15歳以上就業者数も、40年の5,000人台から60年には3,300人台に減少している。 第2次及び第3次産業における就業者も減少傾向を辿ってきたが、第1次産業における減少が著しく,これも就業者減全体の殆どを占める。

 この結果、第1次産業の就業者が占める割合は、40年の65%から60年には54%に低下すると同時に、第2次,第3次産業の構成比は上昇している。 第1次産業の就業者数の比率では、40年から60年の間に農業が全体の48%から33%に縮小、漁業が12%から20%に拡大した。かくして、漁業就業者数は、第2次産業のそれを越えるに至り、この町の重要産業となっている。


3、 組織の状況


(1) 漁業就業者
 
  漁業センサス結果に基づき年齢階層別漁業就業者の動向をまず男子についてみると15〜19歳は年次毎に減少しているが、これは高校進学によるものと思われ、この傾向は今後も続くであろう。 その他の年齢層ではいずれも増加傾向にいあり、高齢かも同時に進行している。 これらの傾向は,女子についても同様である。

 年齢層別の人数移動では、48年における45歳以上が調査毎に減少しているのに対して、44歳以下では横ばいないし増加傾向にある。 とくに、63年における25歳から34歳までの階層における増加が顕著である。 この年齢層の増加は、親の年齢層に当たる20〜30歳上の人数減少と対応し、世代交代の進んでいることを示している。女子についても男子と同様63年における44歳以下の人数が増加し、 それ以上では減少に転じて、リタイヤーが進む。

 このように、成長産業にあっては親の高齢化に従って子弟が従事者として参入し、交代して行く構図が明瞭である。 また、男子従業者と共に女子従業者の増加もみられ、配偶者の確保と同時に夫婦共働き形態に移行する。 親子⇒夫婦⇒親子による操業形態が繰り返されるのである。

 同63年の漁協調査結果によると、漁業就業者数はセンサス結果よりも多い。 それは、女子の数え方が漁協調査の方が広いためである。 それによれば、20歳から34歳までは男女同数であるが、35歳から45歳までは女子の方が多くなり、46歳以上になって初めて男子が多くなっている。 この傾向は53年調査結果でも同じである。 これは、若い時代の夫婦2世代就業から若夫婦と親一人就業を経て、2世代就業に戻る経過を示している。 センサス結果との相違は、こうした陸回りを含めた就業状況に着目しているか否かであり、地域における女子労働力の存在感に対する意識が大きく働いているともいえよう。


表1 世帯・人口の推移

 年次・区分   世帯数   人口総数   人口男子   人口女子    備         考   
 明治31年  1,212   4,381   2,397  1,984
 明治43年    947   4,256   2、160  2,096  上湧別村分村
 大正05年  1,562   7,171   3,827  3,344
 大正09年  1,744   8,945   4,748  4,197  国税調査
 大正14年  1,752  10,138   5,380  4,758  国税調査
 昭和05年  1,767  10,416   5,472  4,944  国税調査
 昭和10年  1,959  12,276   6,547  5,729  国税調査
 昭和15年  1,928  11,836   5,990  5,846  国税調査
 昭和20年  2,098  12,835   6,350  6,485  国税調査
 昭和22年  2,301  13,547   6,767  6,780  国税調査
 昭和25年  2,432  14,747   7,459  7,288  国税調査
 昭和26年  2,297  13,728   6,940  6,788  床丹(現若里)分割
 昭和30年  2,379  13,719   7,011  6,708  国税調査
 昭和35年  2,415  12,192   6,067  6,125  国税調査
 昭和40年  2,217   9,720   4,818  4,902  国税調査
 昭和45年  1,958   7,627   3,742  3,885  国税調査
 昭和50年  1,865   6,693   3,254  3,439  国税調査
 昭和55年  1,880   6,193   2,999  3,194  国税調査
 昭和60年  1,812   6,032   2,895  3,137  国税調査

表2 世帯主の産業別世帯数

合 計 農業 漁業 林業 建設 製造 卸小売 運輸通信 サービス 公務 その他
昭和40年 2214 789 250 124 170 199 134 104 264 64 116
昭和50年 1831 489 235 88 184 223 143  90 186 70 123
昭和60年 1812 388 274  41 184 118 135  53 207 93 319

表3 産業別・男女別15歳以上就業者数

 区      分  4 0 年  4 5 年  5 0 年  5 5 年  6 0 年
総数 総数 総数 総数 総数
総    数 5019 2851 2168 4046 2281 1765 3633 2037 1596 3563 1998 1565 3392 1900 1492
第1次産業 3241 1748 1493 2380 1263 1117 1992 1081 1911 1916 1024 892 1839 995 844
 農     業 2399 1159 130 1672 844 828 1296 674 622 1242 638 604 1105 579 526
 林業・狩猟業  240 176 64 176 104 72 126 78 48 85 50 35 65 43 22
 漁業・水産養殖業  602 413 189 532 315 217 570 329 241 589 336 253 669 373 296
第2次産業  731 441 290 717 418 299 733 396 337 686 398 288 597 371 226
 鉱     業   11 11 - 11 8 3 14 9 5 14 8 6 10 6 4
 建 設 業  246 293 43 223 198 25 248 215 33 328 268 60 291 252 39
 製 造 業  474 227 247 483 212 271 471 172 299 344 122 222 296 113 183
第3次産業 1046 661 385 946 597 349 907 559 348 961 576 385 956 534 422
 卸売り・小売業  343 62 181 284 137 147 299 142 157 336 146 190 342 131 211
 金融・保険   22 11 11 19 10 9 15 4 11 15 7 8 31 20 11
 不動産業 1 1 - - - - 1 - 1 8 4 4
 運輸・通信  172 138 34 136 117 19 105 94 11 89 81 8 77 66 11
 電気・ガス・水道業    3 3 - 3 3 - 2 1 1 1 1 - 1 1 -
 サービス業  426 281 145 394 244 150 377 232 145 408 251 157 381 215 166
 公    務   80 66 14 109 85 24 109 86 23 111 90 21 116 97 19
分類不能の産業    1 1 - 3 3 - 1 1 - - - - - - -

 

表4 男女別人口構成

資料:国勢調査

性別  年   齢 昭和40年 昭和45年 昭和50年 昭和55年 昭和60年
  0〜4歳 402 281 234 186 190
  5〜9歳 492 343 266 224 186
10〜14歳 730 409 318 249 219
15〜19歳 439 359 235 194 187
20〜24歳 207 207 185 186 132
25〜29歳 284 185 203 210 177
30〜34歳 347 203 161 204 200
35〜39歳 403 161 225 139 213
40〜44歳 315 225 247 216 140
45〜49歳 257 247 292 236 207
50〜54歳 238 292 234 267 236
55〜59歳 210 234 176 216 251
60〜64歳 165 176 152 146 195
65〜69歳 133 152 125 133 128
70〜74歳 101 125 90 93 106
75〜79歳 51 90 63 52 71
80〜84歳 26 63 39 34 33
85〜89歳 12 39 13 19
90〜94歳
95〜99歳
100歳以上
4818 3742 3254 2999 2895
  0〜4歳 368 260 280 199 207
  5〜9歳 458 313 242 258 205
10〜14歳 681 404 294 236 265
15〜19歳 491 312 221 204 195
20〜24歳 304 271 184 165 141
25〜29歳 325 241 241 186 176
30〜34歳 355 255 202 214 188
35〜39歳 371 281 238 196 220
40〜44歳 362 332 257 226 186
45〜49歳 276 312 285 239 220
50〜54歳 237 228 273 263 227
55〜59歳 184 205 190 235 248
60〜64歳 153 147 184 170 223
65〜69歳 122 122 136 166 147
70〜74歳 102 94 98 106 132
75〜79歳 67 63 65 72 84
80〜84歳 28 32 36 38 52
85〜89歳 13 12 11 17 18
90〜94歳
95〜99歳
100歳以上
4902 3885 3439 3194 3137


表5 当漁協・漁業就業者

性別:年令別漁業就業者数
資料:漁業センサス

昭和48年 昭和53年 昭和58年 昭和63年
漁業就業者数計 403 423 460 519
男小計 276 296 318 348
15〜19歳 20 19 11 14
20〜24歳 26 27 36 23
25〜29歳 18 27 36 44
30〜34歳 26 29 36 42
35〜39歳 34 27 29 41
40〜44歳 36 34 29 29
45〜49歳 38 40 40 32
10 50〜54歳 27 32 33 35
11 55〜59歳 19 31 32 39
12 60〜64歳 15 20 27
13 65以上 17 22 16 22
14 女小計 127 127 142 171
15 15〜19歳
16 20〜24歳 10 12
17 25〜29歳 10 15 18 14
18 30〜34歳 13 13 28 26
19 35〜39歳 28 14 21 36
20 40〜44歳 18 27 12 25
21 45〜49歳 17 18 25 19
22 50〜54歳 14 12 16 28
23 55〜59歳 13 13 12
24 60〜64歳
25 65以上

表6 世帯員の状況

合     計
  0歳〜 5歳     42   44   86
  6歳〜14歳 69 80 149
 15歳〜19歳 44 36 80
 20歳〜25歳 25 43 68
 26歳〜34歳 59 62 121
 35歳〜45歳 63 75 138
 46歳〜55歳 66 61 127
 56歳〜65歳 63 61 124
 66歳〜 37 69 106
  468   531   999


表7 組合員の異動

内訳・年度 昭和 平成
58年 59年 60年 61年 62年 63年 元年
脱退
内訳
任意脱退
法定脱退
加入

内訳
新規加入
継承加入
相続加入
年度末数 195 195 196 195 195 195 193

表8 漁業就業者

  合        計
 15歳〜19歳  12 16
 20歳〜25歳 22 21 43
 26歳〜34歳 58 59 117
 35歳〜45歳 62 73 135
 46歳〜55歳 72 53 125
 56歳〜65歳 59 38 97
 66歳〜 16 24
  301   256   557

(2) 組合員と後継者の状況

 組合員数は、昭和58年以来変化がなかったが、平成1年に任意脱退が加入を上回り減少している。 組合員の年齢構成は、50歳台が最も多く全体の37%を占め、次いで40歳代が27%を占め、これらで60%以上になる。 61歳以上が15%にのぼり、世代交代が順調に進んでいるわけではない。 組合員51歳以上の後継者は、50歳台では78%、61歳以上でほぼ100%確保されている。
 
 後継者の年齢構成では20歳台が78%を占め、若い。
46歳以上になってもまだ後継者でとまっているところがあるが、常態とはいえまい。

 組合運営上、世代交代がスムーズに行われることは重要である。 漁業及び組合運営に関する豊富な経験と高い見識をもつ組合員と進取の精神に富み馬力のある若い組合員が、同じ土俵で議論をたたかわせ、一つの方向を見出していくことは貴重な体験である。

 これが分離されたり、一方から他方への単なる押しつけであるならば膨大なエネルギーの浪費である。 こうした点は組合全体として、ないしは組合員家族の問題として常に考えておかなければならない問題である。


3、 漁船の使用状況

 (1) 漁船の使用

 漁船隻数は若干の増減はあるが,480隻前後で推移している。 このうち3d未満船が70%を占め、これに3〜5d船を加えると90%を越える。 全体として小型船が大部分である。 これは湖内における漁業ないし養殖業の着業者が多く、中心的位置を占めているためである。 10d以上船は外海に近い前浜、中番屋、三里に限られる。

 一戸平均2,5隻の漁船を保有している。 これは、着業する漁業毎に船を変えているためで、例えば湖内漁業では殆どが5d未満船であり、また外海では3ないし5d以上船による操業である。 したがって、漁船は特定漁業の専用船として装備されておりその面では効率的であるが、短期間しか利用しないため経営上では問題がないとは言えない。

 (2) 漁船の更新

 62年、63年のトン数規模漁船の動向を見ると、10〜20トン船が2隻増えた以外は減少している。 全体として62年までは増加傾向にあったので、保有漁船数の縮小ということができる。 これを船齢別に隻数でみると,53年以前進水船が0〜3dで40%、3〜5dで50%近くをそれぞれ占め、更新期に入った船の多い事がわかる。

 漁港の整備も進み、かつ市場の移転により荷揚げ条件も整えられる。 こうした条件整備により漁船の大型化や装備の高度化が意図されるのであろうが、外海ホタテ収入に依存しない、対象漁業に見合った漁船規模及び装備に止めることが重要である。
 対象漁業の採算性に基づいた設備投資を考えることが、経営としての健全性と持続性が確保される道だからである。
それが経営者に求められている課題である。