初版 平成十九年十一月 九日
第二版 平成十九年十一月十三日
第三版 平成十九年十一月二十日
第四版 平成二〇年 二月十三日
第五版 平成二〇年 三月二二日
舞台中央に、四メートル四方程の山台を置き、四方の角に各戸がある。
セリフは、山台上とその周辺で行う。
私はこの芝居で「植松家の長女」役で出演をしています「植松加代」です。
今回の芝居の「湧別原野 粥から、乳へ」は、私と、その周りの農家の人たちとが体験した、昭和三十年代にあった「米作りから、牛飼いへの転換」についての話を基にして作った芝居です。
この様な話は、今は誰も話さないですし、話そうともしません。
しかし、だからと云って、忘れさられてはいけないことだと私は思うのです。
そこで、今日は、みなさんを昭和三十年代にタイムスリップをして、その時代に招待いたしましょう。
さて、第一場では米作りを続けている吉田家の三世代の人たちの、それぞれの思いを聞きましょう。
そして、第二場では、私の家族「植松家」と、酪農転換運動推進の中心人物「水沢誠一」の思いをお聞きください。
続いて、第三場、第四場、第五場へと、各々の家族の姿を紹介しながら、当時の人たちの苦悩の姿を見ていただきます。
そして、いよいよ最終章の第六場では、・・・音楽入る・・・・最後までごゆっくりとご鑑賞ください。
幕上がり、スクリーンにビデオが入る。
「NHK
現代の映像」を流す。三分程とする。
終了後音楽大きくなり、スクリーン上る。
照明入り、音楽消え、第一場へ
第一場(二〇分)吉田本家の居間
息子の一也・保子夫婦
このままでは、借金が増え、離農せざるを得なくなる。
今進めている酪農に転換することを親に、祖父たちに話をする。
でも米作りも不安であるが酪農への転換はそれ以上に不安であると思っている。
両親忠吉・秀子夫婦
息子の言い分も聞いてやりたいが、祖父たちの夢「米作り」をやめるのには、少々抵抗があった。
祖父母米造・なつ夫婦
米を作るのが本当の百姓だ、と。冷害、凶作は乗り越えていけると、頑固一徹頑張っている。
近頃少々ボケがきている。
第二場(二十分)植松家の居間で
いままでは、親をみながら、細々と農業をしていたが、三十を過ぎ自分の一生は農業でなく、自分の好きなことを今からでも勉強していくと思っている。
しかし、両親の高齢化が一番気になることと、自分を好いている誠一と別れることである。
誠一 加代を好きなことは確かであるが、札幌に行くなと強くは云えず、悩んでいる。
同時に、この地域の農民を助けることの重大さも、よく知っているのである。
加代の両親植松夫婦
娘加代の上札は許している。
しかし、娘の云うここを離れての、札幌暮らしには反対で、この地で生涯を終えることを決めている。
それに近ごろ父の体調も良くないことから、母はここで暮らしたいと思っている。
そこに、祖父が居なくなったと、吉田一也が入って来る。
第三場(十五分)収穫後の畑
吉田本家祖父米造
秋のみぞれ降るある日、祖父母がいなくなり、みんなで探す。
すると、畑で、独り言を言いながら、米の苗を植えようとしている。
祖母はそれを見ながら、祖父を抱え泣きながら、苗植えを手伝うのである。
祖父を探す本家、分家、誠一、近所の農家の人達。
祖父母の姿を見て、みんな酪農への転換推進を少々悩む。
第四場(十五分)子どもたちの学校帰り道
本家(二人)、分家(二人)、後藤(二人)の子どもたち
ここを離れると云っている、後藤の子どもたちと本家、分家の子どもたちの話。
一郎が入って来て会話
第五場 後藤の居間(二五分)
後藤悟・淑子夫婦、子どもたち
凶作、冷害で借金が増える。
子どもの将来を考えると離農しかない。
しかし、息子一郎が農業の高校に行き、卒業したら家を継ぎたいという。
妹達も兄の進学を、親にお願いする。
分家春次の説得話でも、離農について悩むのである。
分家吉田春次・弘子夫婦
今日は地区の臨時総会で、牛への転換についての協議があることで、後藤夫妻を誘いにくる。
後藤夫婦を説得して、離農をあきらめるよう話す。
みんなで酪農をやろうと。
そこで、息子一郎の、農業高校行きの話を聞く。
そして、みんなで総会の会場へ行き、話を聞こうと向かう。
第六場 地区公民館での臨時総会会場(三十分)
地区の人達がそこには集まっている。
反対の人や賛成である一也の妻保子もみんなに話す。
途中から吉田分家夫婦、後藤夫婦と息子一郎が入ってくる。
みんなは、酪農への転換で、反対の人、賛成の人が続けて話し合っている。
そんな中一緒に来た一郎もみんなに農業への思いを語る。
最後になって古老の植松爺ちゃん、加代さんの言葉と水澤の言葉で、酪農へ転換する方向になる。
ブルトーザーの音が大きく入り、音楽入る。
誠一の決意がある。最後に皆で歌う。音楽入る。
幕
父親 忠吉 何、牛飼いだって・・・何で、牛飼いよ、百姓って「米」作るのが百姓だろうさ。
お前で三代目だぞ、どうにかここまで米作ってきたさ。
そりゃ、なー二年か、三年に一度しか、米は穫れりゃしない。
それも少し金になるくらい、穫れるのは、三年か、四年に一回かな。
でも、爺ちゃんたちは、いや、私だって、そのためにここまでやってきた。
冬は造材で、飯場に泊まって出稼ぎした。
それが、どうして牛飼いなんだ・・・どうして。
一也上がり、照明入る、音楽消える
息子 一也 爺ちゃん達や、親父達はいいかもしれないが、俺や子どもたちはどうなるのよ。
「米作り三代」・・・なんて言葉では聞きやすいけど、本当の中身はどうなんだ。
食うのがやっと、出稼ぎに行かなきゃ、ここまで持たなかった。
明治や大正にここに入った人達だって、半分以上はもうこの土地を捨てた。
それに十年前に戦後開拓だなんて入植した人なんか、今何戸残っている。
厳しくてみんな農家をやめていった。
今、残っているのは、出稼ぎして、食いつないでいる家か、副業で、金貸しか馬喰するかしての「山師」しかいないさ。
一番悪いのは、借金で身動き出来ない家ださ。
こんな中で、どうやって生き残るのか・・・親父教えてくれや。
米造上がり、照明入る。音楽消える
祖父 米造 明治三十年、三十一年と上湧別の屯田兵が入ったより四、五年早く、船でこの湧別の浜に上がった。
そりゃー木が茂り、根曲がり笹で先が見えなかった。
木を切り、笹を刈っては火をつけ、そこに種をまいた。
ヒエ、キビ、イモ、カボチャ、それもお粥にして薄めて食べた。
しばらくしてから・・・何年、いや十年ぐらいか過ぎてから「米」を作り始めた。
こんな北の涯で、米は無理だって、みんなが云っていた。
でも俺ら百姓は「米を作らないで百姓と云えやしない」何百年もの昔から、祖先の人たちは、米作っているから百姓と云っていられたんだ。
だから、江戸時代は士農工商といって、さむらいの次に、俺ら農民は偉かったんだ。
米の穫れた時だけは、ご飯を食べられたけど、あとは麦とかイモとかを混ぜて食べたもんだ。
それも、ほとんどがお粥だった。
考えて、試して、考えて、試して、やっとここまで来たんだ。
作り始めた頃からみれば、三年か、四年に一回しか穫れなくても、米が穫れるだけでも、百姓をしているんだなーと実感がある。
昭和二十一年頃から(考えながら)二十七年頃までは、天候に恵まれて、米は穫れた。
でも、二十八年から冷害が続いた・・・・・・。
牛飼い・・・そんなの百姓って云うもんじゃないよ。
畜生に、食わしてもらっているに、すぎないんだぞ。
百姓じゃない、百姓じゃない、百姓じゃない。
徐々に小さな声になる
音楽入る。照明消え、米造下がり、
なつ上がり、照明入る。音楽消える
なあー、お父さんよ・・・それに孫の一也はどうだね。
・・・そっだな、一也。あの頃は、高校に行くのは珍しかった。
でも、一也は高校まで行った。そして父さんの百姓を継ぐために帰って来たんだよな。
その時、爺ちゃんや、私や、父さん達ば、泣かせたな。
「ここで三代目を継ぐ」と云って帰って来てくれた。
一也の父さんの弟春次は、早くから分家して、百姓をやっていたから、この吉田の本家は父さんで二代目だったからこれで終わりかと、あきらめていた。
それが、卒業したら帰ってきた。
それは、一也が爺ちゃんや父さんの意思継いで、百姓やることに決めたからだよな。
そしたら、「米作り」の爺ちゃんの気持ちは、少しは理解できるさな・・・。
爺ちゃんの孫なんだからな。
秀子上がり、照明入る。音楽消える
忠吉の妻 秀子 私は、ここに嫁いで三五年が経った。
爺ちゃん達の云うように、米を作ってきた。
作ってきたというより、毎年、毎年試しているようなもんだった。
何して・・・。
そりゃ、気候が悪い、低温続き、日照不足、雨が降らない、今年は穫れるとおもったら、二百十日の台風で全滅だった。
食えないから父さんは出稼ぎだ。
残っているのは、爺ちゃん、婆ちゃん、私、母ちゃん。
この頃の流行言葉で「三ちゃん農業」がこの辺の農業の実態だった。
一也は、その頃珍しかった高校進学したいと云うから、父さんも、爺ちゃんも頑張って働いた。
地元の高校だったから、授業料ぐらいは出してやれた。
お前も家の仕事を手伝ったりして稼いだ。
みんなで協力し合ってお前が卒業した。
嬉しかった。
・・・さっき婆ちゃんが云っていた、お前が爺ちゃんの百姓継ぐって、帰って来てくれたことが一番の親孝行だった。
・・・だって一人っ子だからな。
一也がここば継がなきゃ、この家は二代で米作りは終わりだった。
音楽入る、照明消え、秀子下がり、
保子上がり、照明入る、音楽消える
一也の妻 保子 爺ちゃん、婆ちゃん、父さん、母さん、みんな大変だったと思います。
私は高校を卒業して、就職して、一也さんと知り合って、それから直ぐにここに嫁に来た。
そして、子どもが二人出来て、子育てと、畑仕事は、ただただ、大変だとかしか言い様がないんです。
この子どもたちを、これからどうやって育てていけばいいのか、まだ全く分からないんですよ。
だって、凶作、冷害の連続だから、特にお金のことでは、心配なんです。
父さんや母さん達は、子どもはほっとけば育つもんだと云いますけれど、
これからは、そんなこと云っていられない社会が来ると思うんです。
お金が一番大事な社会になると思うんです。
だから、米ばかりにしがみついていたら、借金ばかり増えて、
最後には、土地や家までもが、無くなってしまうんじゃないんですか。
そうならない内に、米作りでない、農業を考えないといけないと、思うんです。
だから、一也さんは今みんなで、酪農への転換で話し合いをしているの。
そうしないと、子どもたちには、将来がないですもんね。
音楽入り、照明消える
保子下がり、鉄男、文、誠一舞台に上がる
加代中央に入る、
照明入る、音楽消える
音楽入る、照明消え、加代下がり、
誠一上がり、照明入る、音楽消える
水澤 誠一 加代ちゃん、札幌に行くのか、この年老いた両親を置いて、それにこの・・・。
俺の家はもともと農家だ。
今は責任ある立場の職なんかしているけど、いずれは、農業に戻ろうと思っている。
自分の人生も大切だけど、両親と一緒に、
この大自然を相手に牛のケツば追っかけての生活も、立派な一生でないか。
今までは、米、米と云って米作りに専念していたから、
今年みたいな天候の時は、いつも凶作の連続だ。
でも、今は俺たちが進めている、牛飼いへの転換では、天気には関係なく、
きっと安定した農業が出来ると、確信してるんだ。
米には共済金制度がある。
しかし、それを当てにして米作りをしたって、本当の農家って云えるのかね。
農業ってそんなもんじゃないだろうさ。
加代ちゃん (間)、おまえが居てくれたら、今までとは違う。
きっと楽な生活をさせてやれる。俺を信じて付いて来てくれないか。
両親もそうすれば、きっと喜んでくれる。
都会に行ったって、そんなに甘くはない。
特に小説なんか書いたって、売れるまでには何年も、
いや一生売れないかもしれないんだぞ・・・・・・。
行くのやめて、俺の嫁になれ。
鉄男上がり、照明入る、音楽消える
三十過ぎてまで、こんな畑仕事ば、やってきてくれた加代には感謝している・・・
だから、親として、本当はもう遅いけど、これからは、加代の自由にさせてやりたいんですよ。
誠一さんもご存知の通り、二人の兄たちは、ここを出て行った。
それを見ていた加代は、私たちを捨てなかった。
学校終ったとき、好きな道に進みたかったんだろうが、あきらめて、ここに残った。
わしらは、もう.年だ。
加代は一緒に札幌に行こうといってくれるが、私たちはここで生涯を終えたいんですよね。
ここが私らの生きた証の、土地だからな・・・。
音楽入る、照明消え、鉄男下がり、
文子上がり、照明入る、音楽消える。
鉄男の妻 文 私も爺さんと同じだね。加代には感謝、感謝だね。
米やいろんな物作って、苦しい時代だったけど、どうにかここまでやってきた。
それも加代がいたからだ。
今更、牛飼いだの、乳搾りだのと云ったって、私らはもうどうにも変われない年だ。
米が穫れれば、こんないいことはないんだがね。
だって、反の収入がどんな作物よりも高いんだから。
この爺さんは、吉田の米造さん達と一緒にここに入植した。
十六から百姓して、私が嫁に来た三十歳の時に両親を亡くした。
それも、借金苦の自殺だった。
死ぬのも大変かもしれないけど、残った私達も大変だった。
それからの私たちは死んだつもりで稼いだ。
それがこの、土地なんですよ。
だから、ここからは離れられないのだよ。
ここで、このまま、死なせてくださいな。
一也が来て、加代、誠一、鉄男が一也に近寄る。
一 也 植松さん、爺ちゃんば見なかったかい。
来ませんでしたか。爺ちゃんがいないんですよ。
みんなで、あちこち探しているんですが、見当たりません。
近ごろ、ちょこちょこ、訳判らぬことを言うんですよ。
そして、すぐ外に出ていこうとするんです。
すみません。
どこか、他の方を探します。
どうもすみませんでした。
二場の役者下がり、米造舞台に上がる
照明入り、音楽消える
中央に米蔵が立っている
里 子 ねえー綾ちゃん家、今年で農家止めるって、本当にやめるのかい。
強 本当なの。ねー綾ちゃん、やめないよね。どこにも行かないべさ。
歩 何して行っちゃうのさ、どこにさ、どこに。何するのさ。何さ。
里 子 したら、道ちゃんだって、行くんだろさ。
京 子 当たり前だって。綾ちゃんの家が、みんなで引越しするんだからさ。
仕方ないしょ。家族みんなで引っ越すんだもんね。
歩 一郎お兄ちゃんもだよね、一郎お兄ちゃん来年の春卒業だよね。
高校へ行くって云ってたべさ。
綾 子 うん、まだはっきりしてないけど、父ちゃんや、母ちゃんが、毎日その話
で喧嘩してる。
道 子 他の所へ行ったって、友達出来るかどうか、わからんしょ。
行きたくないな。みんなとここにいたいなー。
京 子 ここにいればいいさ。
・・・でも友達なんてどこに行っても出来るって。
綾ちゃんや、道ちゃんはかわいいから直ぐ友達出来るって。
強 そうださ。出来るって。友達なんか、どこに行ったって、出来るよ。
歩 でも、田舎者だって云われて、いじめられるかもね。
里 子 都会に行ったらの、話ださ。
まだ、どこに行くかは決まっていないんだよね。
京 子 でも、このあいだ、家の母ちゃんが札幌か、東京って云ってたよ。
強 うん、僕も聞いていた、札幌か、東京って。
綾 子 うん、時々札幌って云ってるから。札幌かもしれない。
直 子 何して、ここにいられないのさ。
だって、みんなここで生まれたんだべさ。
里 子 だけど、今年もあんまり作物出来なかった。
だから家の父ちゃんも、今年の冬は、山稼ぎに行くかなって云ってた。
強 家の爺ちゃんも、山稼ぎに行くかなって話してたよ。
歩 みんな、働かないとならないんだね。
里 子 働かないと、春の飼料や種代払えないって。
京 子 だけど、この間、農協の人たちや、役場の人が来て、
父ちゃんや母ちゃん達と「みんな出稼ぎに行かないような、
農業するべ」って云ってたよ。
強 俺も聞いたことある、米作るんでなくて、牛にして、乳搾るん
だって。
綾 子 家の父ちゃんたちもその話してた、でも、いつもそ
のこと話しては、父ちゃん、母ちゃん喧嘩ばっかりしてるんだ。
道 子 一郎兄ちゃんのこともあるから。
綾 子 一郎兄ちゃんが高校へ行くことで夫婦喧嘩することが多いかもね。
強 兄ちゃん、がんばって行くって、勉強がんばってたしょ。
歩 あんなに、勉強出来るんだもん。行った方がいいべさ。
里 子 そうだよね、絶対行けるって。
京 子 ここでは、一郎兄ちゃんぐらいしか、高校に行けないもんね。
強 いや、俺も行くよ、高校はね。
一郎兄ちゃんみたいに、勉強してさ。
一郎が、上手より入って来る。
一 郎 何しているのよ。何が一郎兄ちゃんよ。
みんなして何話してるのよ。
京 子 うん、今、綾ちゃんや、道ちゃんが、ここから引っ越して行くっていうも
んだから。
強 一郎兄ちゃんは、何処に行くのか知ってるんだべさ。
歩 どこにもさ、行かないべさ、本当は。
一 郎 俺も行きたくないんだ。ここで父ちゃん達と農家やりたいんだ。
でも、今年も作物の出来は悪かったべ。
これで何年穫れない。三年か?
里 子 こんなに毎年、穫れなかったら、ここでは米は穫れないん
じゃない。
京 子 そうかもしれない。米って北の作物でないよね。もっ
と暖かい所の植物だって、この間、学校で先生行ってた。
歩 でも、米が穫れなかったら、みんなが困るべさ。
道 子 去年だって、隣の美代ちゃんところが、帯広に引越した。その前の年なん
か、学校のそばの孝ちゃんと幸ちゃんの家だって、釧路に引越して行ったべ
さ。
強 こんなに、引越しばかりあったら、ここの地区、なくなってしま
うんでないべか。
歩 そんなこと困る、正ちゃんや、まーちゃんや、
豊ちゃん、いなくなったら困るもん。
一 郎 そんなことないって、こんなに良いとこが、無くなってしまうな
んて、考えられないべさ。爺ちゃんや、父ちゃん達が一生懸命、
拓いて、耕してきた、この畑を、おいて。
綾 子 でも、兄ちゃん、昨日も父ちゃんや、母ちゃん、このままでは、
兄ちゃんば、高校に行かしてやれないって、云っていた。
道 子 そうだよ、だから二人で働けば、高校ぐらいは出してやれる
って。そのことで、毎日喧嘩してるべさ。
里 子 一郎兄ちゃん、高校行けないかもしれないの、どう
して。
京 子 勉強が出来ても、高校には行けないの。
強 本当は、勉強出来ないの、ねー一郎兄ちゃん。(笑)
一 郎 うん、本当は俺、はんかくさいから、勉強出来ないのかもしれないな。(笑)
いやー・・・本当はな、みんなの家も同じなんだけど、今年も作物が悪かったべ。
だから、お金が入ってこないんだ。
食うのがやっとの生活だからな・・・。
高校は、お金を払わなければ行けないんだ。
授業料というものを、払わなければな。
でも、俺は、高校に行くのは絶対にあきらめないんだ。
絶対高校に行って、勉強して、ここに戻って来るんだ・・・
農業やりにな。
それも親子一緒で農業やるべって思っているんだ。
音楽入り、照明消える
舞台役者入れ替わる
照明入る、音楽消える
舞台中央に淑子、悟がいる
綾 子 ただいま、あれ、おじさん来てたんだ。
道 子 里子ちゃんも、京子ちゃん一緒だったよ、今、家に帰ったよ。
春 次 あーそうか、今日はみんな一緒か。
一 郎 午後から、先生達の研修会なんだって。
ね・・・父さん・・・みんながね、心配していた。
家、・・・本当に引っ越すのーって。
俺は嫌だな、引越したくないな。
だって、ここから出て行ったって、何処に行っても同じだと思うんだ。
父さん達だって、友達もいなくなってしまうんだよ。
家賃払ってアパート借りてさあ。そんなこと考えられる。
今、自分の家にいられるのに。
・・・やっとここが故郷になったって、何年か前に二人して云って
いたしょ。
家はみんなのとこより、借金はあるみたいだけど、俺が高校卒業したら、
いくらでも働くから。
借金も返せるぐらい働くって。
いいだろう。
ここで農家やろうよ。一生懸命働けばきっと楽になるって。
ねー春次兄さん。農業って働けば、働くだけ、作った物が大きくなるよね。
春 次 あー俺、そんなに一郎みたいに、いろんなこと考えて農家やってこんかんたな。
頭も悪かったしよ。
俺は次男坊だから、早くから分家してた。食いぶち稼ぐのが、やっとの
農家だったけど、何時かはきっと、本家以上の農家になってみせると、
思ってやってきたさ。
でも、そうは、甘くはなかったけどな、それに、爺ちゃんみたいに、
根性もなかったしよ。
もう冬が近いというのに、みぞれの中で、苗植えれって、みんなに号令して
るんだからなー。
弘 子 ボケたって、体が覚えているんだろうねー。
なー淑ちゃん、止めないで。
私達はまだまだ一人前の百姓になっていないんだよ。
私も牛飼いはあまり賛成してなかったんだけど、家の人がこんなに一所懸命
やっているの見て、この人と一緒になった以上、ついて行くしかないと
思ったんだよ。
腐れ縁というもんかね。(笑)
ねー淑ちゃん、あんたも悟さんに惚れて嫁に来たんだろうさ。
私と同じく腐れ縁と思ってついていこうや。
これから、公民館の臨時総会の会場に行ってさ、みんなの話聞いてみようよ。
それから判断したって、遅くはないって。
淑 子 そうだけどさ、でも、食うだけならここでもどうにかやって行ける。
だけど、この一郎が高校へ行きたいというんだから、どうにかしてやり
たいんだ。
綾 子 ね、母ちゃん、兄ちゃんば、高校へ行かしてやって。
私だって、家の仕事、今まで以上に手伝うからさ。
道 子 私もやるから、姉ちゃんに負けないぐらいやるから。
春 次 ねー、悟さん、あんたは立派に、子どもを育ててるな。
家なんか恥ずかしいな。
なー母ちゃん、ここの子ども、たいしたもんだ。
弘 子 そりゃ、そうだ、ここの父ちゃんや、母ちゃん達と、家を比較す
るのが土台無理なんだって、出来が違うんだからさ。
(笑)
春 次 なあーに云ってる、なー行こうぜ、公民館に、早く。
一郎くんも一緒に行こう。そしてみんなの話を聞こうよ。
淑ちゃんも行って、聞いてみようよ。
さー行こう。
音楽入り、照明消える
五場役者下りて、六場役者上がり、入れ替える
照明入り、音楽消える
みんなで歌う。
誠一、センターで歌う
第六場出演者が立ち上り歌いだす
一、 昨日も今日もまた明日も、石ころだらけの坂道を
転び転んで、膝擦りむいて、親子で歩いたこの道は
どこまで続いているんだろう
どんなにつらい坂道もきっと下りがあるはずだ
前に向かって歩いていこう
ここで第六場で舞台に上ってない人が入ってくる
上・下手から
二、
昨日も、今日もまた明日も、ぬかるみだらけの坂道を
泥んこだらけで真っ黒くなって夫婦で歩いたこの道は
どこまで歩けばいいのだろう
どんなにつらい泥んこ道もきっとどこかに舗装の道が
今日も歩こう俺らの道を
ブルトーザーが「田んぼのあぜみち」を、崩しならしている音が、
大きく入る
照明消え、音楽大きく入る
幕が下りる
カーテンコールで幕が上がる。
家族ごとに入ってきて自己紹介する。
@
吉田本家
祖父母・父母・息子夫婦・子供たち
A
吉田分家
夫婦・子供たち
B
植松夫婦と加代
C
後藤夫婦と子ども達
D
農家主婦・佐藤
E
水澤誠一
音楽・効果・照明・舞台・化粧・衣装・協力者
演出・舞台監督が最後に入る。
主催者あいさつ(一言)
(全員一礼)
音楽大きく入る
幕が下りる
?幕?
岳 上 美 智
入 江 ゆかり
湊 谷 まゆみ
谷 口 かなえ
安 彦 好 子
協力 洞 口 百合子
宮 本 則 子
仁 木 慶 子
大 渕 美 夏
なつ 横 山 到 里
秀子 小 川 敬 子
息子夫婦(三十代)一也 深 谷 聡
保子 由 野 のぞみ
歩 大 崎 琴 絵
若夫婦(四十代) 春次 茂 利 泰 史
弘子 松 下 章 子
子どもたち 里子 臼 井 愛 雅
京子 大 渕 愛 結
植松老夫婦と娘家族
高齢夫婦(七十代)鉄男 荒 井 佳 人
文 相 場 典 子
後藤離農を考える夫婦家族
夫婦(四十代) 悟 窪 田 大 輝
淑子 加 藤 葉 子
子どもたち
一郎(中学三年生) 佐 藤 梨 華
綾子 伊 藤 千 晴
道子 渡 辺 静 香
農家の主婦(四十代)佐藤 仲 陽 子
ナレーター 加代 佐々木 絵 里
男子七名、女子八名、子供七名(内中学生一名)
計二十二名