初版  平成十九年十一月 九日
第二版 平成十九年十一月十三日
第三版 平成十九年十一月二十日
第四版 平成二〇年 二月十三日

第五版 平成二〇年 三月二二日

あらすじ





































舞台構成







  この物語は、昭和三十年代に湧別の原野で農業をしていた、ある地区の人達の生活を基にシナリオ化してみた。

百姓は、米を作ることが一番の夢である。しかし、その米作りにはむかなかったのが、この湧別の土地であった。

それは、気候的条件はもとより、ここの土地は、水はけの悪い重粘土地帯であったからである。


春先には、オホーツク高気圧による、低温、日照不足である。

くる年も、くる年も冷害、凶作の連続である。

その為に、農家の大黒柱は出稼ぎをしなくては食べていけないのであった。

そして、家に残ったものが農業をやるしかなかったのである。

それが三ちゃん農業と言われる、じいちゃん、ばあちゃん、かあちゃんの農業だった。


出稼ぎをすれば生活できる家はまだいいほうで、ここを離れなければいけない程の、借金が出来た者が出てきたことである。

そんな時、一人の男を中心として仲間が立ち上がったのである。

その男の名は水澤誠一。「こんな農業してたら、みんないなくなる。天気が悪くても、食べていける農業を」と、「酪農」を進めるのである。

「農民の夢、米づくり」から「牛飼い」である。

しかし、みんなは、なかなか酪農には踏み切れないのが現実であった。

先頭にたつ誠一は、個人的な悩みをもっていたが、それをも犠牲にしながら、根気よく仲間と説得し続けたのである。

少しずつではあるが、仲間が増えてきた。


そしてこの地域全体で、酪農へと転換しようと決意するのである。

    


 

    舞台中央に、四メートル四方程の山台を置き、四方の角に各戸がある。

セリフは、山台上とその周辺で行う。

予ベル・本ベル   



注意事項説明



ナレーター
「植松加代」
佐々木絵里



































あらすじ



































 

        ・・・・・音楽小さく入る・・・・・

私はこの芝居で「植松家の長女」役で出演をしています「植松加代」です。

今回の芝居の「湧別原野 粥から、乳へ」は、私と、その周りの農家の人たちとが体験した、昭和三十年代にあった「米作りから、牛飼いへの転換」についての話を基にして作った芝居です。

この様な話は、今は誰も話さないですし、話そうともしません。
しかし、だからと云って、忘れさられてはいけないことだと私は思うのです。
そこで、今日は、みなさんを昭和三十年代にタイムスリップをして、その時代に招待いたしましょう。
さて、第一場では米作りを続けている吉田家の三世代の人たちの、それぞれの思いを聞きましょう。
そして、第二場では、私の家族「植松家」と、酪農転換運動推進の中心人物「水沢誠一」の思いをお聞きください。

続いて、第三場、第四場、第五場へと、各々の家族の姿を紹介しながら、当時の人たちの苦悩の姿を見ていただきます。
そして、いよいよ最終章の第六場では、
・・・音楽入る・・・・最後までごゆっくりとご鑑賞ください。

幕上がり、スクリーンにビデオが入る。

NHK  現代の映像」を流す。三分程とする。

終了後音楽大きくなり、スクリーン上る。

照明入り、音楽消え、第一場へ

 

 

  

第一場(二〇分)吉田本家の居間 

息子の一也・保子夫婦

このままでは、借金が増え、離農せざるを得なくなる。
今進めている酪農に転換することを親に、祖父たちに話をする。
でも米作りも不安であるが酪農への転換はそれ以上に不安であると思っている。

両親忠吉・秀子夫婦

息子の言い分も聞いてやりたいが、祖父たちの夢「米作り」をやめるのには、少々抵抗があった。

祖父母米造・なつ夫婦

米を作るのが本当の百姓だ、と。冷害、凶作は乗り越えていけると、頑固一徹頑張っている。

近頃少々ボケがきている。

 

第二場(二十分)植松家の居間で

 植松加代   「札幌に出る」と両親と恋人誠一に告げる。
いままでは、親をみながら、細々と農業をしていたが、三十を過ぎ自分の一生は農業でなく、自分の好きなことを今からでも勉強していくと思っている。
しかし、両親の高齢化が一番気になることと、自分を好いている誠一と別れることである。

誠一     加代を好きなことは確かであるが、札幌に行くなと強くは云えず、悩んでいる。
同時に、この地域の農民を助けることの重大さも、よく知っているのである。

加代の両親植松夫婦
 娘加代の上札は許している。
しかし、娘の云うここを離れての、札幌暮らしには反対で、この地で生涯を終えることを決めている。
それに近ごろ父の体調も良くないことから、母はここで暮らしたいと思っている。

      そこに、祖父が居なくなったと、吉田一也が入って来る。

 

第三場(十五分)収穫後の畑 

吉田本家祖父米造
 秋のみぞれ降るある日、祖父母がいなくなり、みんなで探す。
すると、畑で、独り言を言いながら、米の苗を植えようとしている。
祖母はそれを見ながら、祖父を抱え泣きながら、苗植えを手伝うのである。

祖父を探す本家、分家、誠一、近所の農家の人達。
祖父母の姿を見て、みんな酪農への転換推進を少々悩む。

 

 

第四場(十五分)子どもたちの学校帰り道 

本家(二人)、分家(二人)、後藤(二人)の子どもたち 
ここを離れると云っている、後藤の子どもたちと本家、分家の子どもたちの話。

      一郎が入って来て会話

 

 

第五場 後藤の居間(二五分) 

後藤悟・淑子夫婦、子どもたち 
 凶作、冷害で借金が増える。
子どもの将来を考えると離農しかない。
しかし、息子一郎が農業の高校に行き、卒業したら家を継ぎたいという。

妹達も兄の進学を、親にお願いする。
分家春次の説得話でも、離農について悩むのである。

分家吉田春次・弘子夫婦
 今日は地区の臨時総会で、牛への転換についての協議があることで、後藤夫妻を誘いにくる。
後藤夫婦を説得して、離農をあきらめるよう話す。
みんなで酪農をやろうと。

そこで、息子一郎の、農業高校行きの話を聞く。
そして、みんなで総会の会場へ行き、話を聞こうと向かう。

 

第六場 地区公民館での臨時総会会場(三十分) 

地区の人達がそこには集まっている。
反対の人や賛成である一也の妻保子もみんなに話す。
途中から吉田分家夫婦、後藤夫婦と息子一郎が入ってくる。

みんなは、酪農への転換で、反対の人、賛成の人が続けて話し合っている。
そんな中一緒に来た一郎もみんなに農業への思いを語る。
最後になって古老の植松爺ちゃん、加代さんの言葉と水澤の言葉で、酪農へ転換する方向になる。

      ブルトーザーの音が大きく入り、音楽入る。

      誠一の決意がある。最後に皆で歌う。音楽入る。

 

 


第一場 













  吉田本家の居間


































       音楽 入り、幕が上がる

       中央にスクリーンがあり、NHKの「現代の映像」が右側映り出

       され、音楽入る。

       ナレーター入る

       照明入り、音楽小さくなる。舞台中央に忠吉がいる

        

父親 忠吉   何、牛飼いだって・・・何で、牛飼いよ、百姓って「米」作るのが百姓だろうさ。
お前で三代目だぞ、どうにかここまで米作ってきたさ。

そりゃ、なー二年か、三年に一度しか、米は穫れりゃしない。
それも少し金になるくらい、穫れるのは、三年か、四年に一回かな。
でも、爺ちゃんたちは、いや、私だって、そのためにここまでやってきた。
冬は造材で、飯場に泊まって出稼ぎした。
それが、どうして牛飼いなんだ・・・どうして。 

 

      音楽入る。照明消え、忠吉舞台下がり、

    一也上がり、照明入る、音楽消える


息子 一也   爺ちゃん達や、親父達はいいかもしれないが、俺や子どもたちはどうなるのよ。
「米作り三代」・・・なんて言葉では聞きやすいけど、本当の中身はどうなんだ。

食うのがやっと、出稼ぎに行かなきゃ、ここまで持たなかった。
明治や大正にここに入った人達だって、半分以上はもうこの土地を捨てた。
それに十年前に戦後開拓だなんて入植した人なんか、今何戸残っている。
厳しくてみんな農家をやめていった。

今、残っているのは、出稼ぎして、食いつないでいる家か、副業で、金貸しか馬喰するかしての「山師」しかいないさ。
一番悪いのは、借金で身動き出来ない家ださ。
こんな中で、どうやって生き残るのか・・・親父教えてくれや。

 

 

      音楽入る。照明消え、一也下がり、

    米造上がり、照明入る。音楽消える

祖父 米造   明治三十年、三十一年と上湧別の屯田兵が入ったより四、五年早く、船でこの湧別の浜に上がった。
そりゃー木が茂り、根曲がり笹で先が見えなかった。
木を切り、笹を刈っては火をつけ、そこに種をまいた。
ヒエ、キビ、イモ、カボチャ、それもお粥にして薄めて食べた。
しばらくしてから・・・何年、いや十年ぐらいか過ぎてから「米」を作り始めた。
こんな北の涯で、米は無理だって、みんなが云っていた。
でも俺ら百姓は「米を作らないで百姓と云えやしない」何百年もの昔から、祖先の人たちは、米作っているから百姓と云っていられたんだ。

だから、江戸時代は士農工商といって、さむらいの次に、俺ら農民は偉かったんだ。
米の穫れた時だけは、ご飯を食べられたけど、あとは麦とかイモとかを混ぜて食べたもんだ。
それも、ほとんどがお粥だった。

考えて、試して、考えて、試して、やっとここまで来たんだ。
作り始めた頃からみれば、三年か、四年に一回しか穫れなくても、米が穫れるだけでも、百姓をしているんだなーと実感がある。

昭和二十一年頃から(考えながら)二十七年頃までは、天候に恵まれて、米は穫れた。
でも、二十八年から冷害が続いた・・・・・・。
牛飼い・・・そんなの百姓って云うもんじゃないよ。
畜生に、食わしてもらっているに、すぎないんだぞ。
百姓じゃない、百姓じゃない、百姓じゃない。

      徐々に小さな声になる

      音楽入る。照明消え、米造下がり、

      なつ上がり、照明入る。音楽消える

 

祖母 なつ   爺さんの云うことも、わからん訳でもあるまい。
なあー、お父さんよ・・・それに孫の一也はどうだね。
・・・そっだな、一也。あの頃は、高校に行くのは珍しかった。
でも、一也は高校まで行った。そして父さんの百姓を継ぐために帰って来たんだよな。
その時、爺ちゃんや、私や、父さん達ば、泣かせたな。
「ここで三代目を継ぐ」と云って帰って来てくれた。
一也の父さんの弟春次は、早くから分家して、百姓をやっていたから、この吉田の本家は父さんで二代目だったからこれで終わりかと、あきらめていた。
それが、卒業したら帰ってきた。
それは、一也が爺ちゃんや父さんの意思継いで、百姓やることに決めたからだよな。
そしたら、「米作り」の爺ちゃんの気持ちは、少しは理解できるさな・・・。

爺ちゃんの孫なんだからな。

 

        音楽入り、照明消え、なつ下がり、

      秀子上がり、照明入る。音楽消える

忠吉の妻 秀子   私は、ここに嫁いで三五年が経った。
爺ちゃん達の云うように、米を作ってきた。
作ってきたというより、毎年、毎年試しているようなもんだった。
何して・・・。
そりゃ、気候が悪い、低温続き、日照不足、雨が降らない、今年は穫れるとおもったら、二百十日の台風で全滅だった。
食えないから父さんは出稼ぎだ。
残っているのは、爺ちゃん、婆ちゃん、私、母ちゃん。
この頃の流行言葉で「三ちゃん農業」がこの辺の農業の実態だった。

一也は、その頃珍しかった高校進学したいと云うから、父さんも、爺ちゃんも頑張って働いた。
地元の高校だったから、授業料ぐらいは出してやれた。
お前も家の仕事を手伝ったりして稼いだ。

みんなで協力し合ってお前が卒業した。
嬉しかった。
・・・さっき婆ちゃんが云っていた、お前が爺ちゃんの百姓継ぐって、帰って来てくれたことが一番の親孝行だった。

・・・だって一人っ子だからな。
一也がここば継がなきゃ、この家は二代で米作りは終わりだった。

        音楽入る、照明消え、秀子下がり、

        保子上がり、照明入る、音楽消える

 

 

 

一也の妻 保子   爺ちゃん、婆ちゃん、父さん、母さん、みんな大変だったと思います。
私は高校を卒業して、就職して、一也さんと知り合って、それから直ぐにここに嫁に来た。
そして、子どもが二人出来て、子育てと、畑仕事は、ただただ、大変だとかしか言い様がないんです。
この子どもたちを、これからどうやって育てていけばいいのか、まだ全く分からないんですよ。
だって、凶作、冷害の連続だから、特にお金のことでは、心配なんです。
父さんや母さん達は、子どもはほっとけば育つもんだと云いますけれど、
これからは、そんなこと云っていられない社会が来ると思うんです。

お金が一番大事な社会になると思うんです。
だから、米ばかりにしがみついていたら、借金ばかり増えて、
最後には、土地や家までもが、無くなってしまうんじゃないんですか。
そうならない内に、米作りでない、農業を考えないといけないと、思うんです。
だから、一也さんは今みんなで、酪農への転換で話し合いをしているの。

そうしないと、子どもたちには、将来がないですもんね。

 

 

         音楽入り、照明消える

      保子下がり、鉄男、文、誠一舞台に上がる

      加代中央に入る、

      照明入る、音楽消える

  第二場 










  植松家の居間













































































































































































タバコを消して 立つ


植松 加代   今年も、もう一年が過ぎた。

      ―


収穫の秋だと云うのに、今年も作物はよくない。

たぶん今年は、離農する人が今まで以上にいるだろうね。

私だって早くここを離れたかった。

でも、高齢の両親をここに置いて、出られる訳がなかった。

      ―


私は生まれてから一度もここを出たことがない。

兄たちは早くから農家を継がずに、都会でサラリーマンの生活をしていますから、
私がいなかったら、両親はとっくに体を壊していたに違いないんですよ。


どうにか、これまで農家をやってきた。


       上に上る


近ごろ両親も「お前の好きなことをやれ」って云ってくれている。

ここまでやれば、みんなも許してくれると思う、これからは自分の好きな生き方を
しなきゃと考えているけど、両親を投げ捨てて行くわけにはいかない。

連れて行こうとしても、親たちはここからは離れたくないと云っているんで。


だからと云って、私はこれ以上、親の犠牲になりたくない。私は書くことが好きだから。

だから、今この農民の生活や、百姓の米作りの「農民魂」を書き残したいと思っているんで。

      ―


きっと、こんな出来事があったなんて、消えてしまうのでしょうからね・・・・・・。

でも、このままでは書けない。

そのためには、まだまだ勉強がしたい。

だから、ここから出て行かなけりゃいけないんで。

      ―


だけど・・・私にも好きだと云ってくれる人もいて、そのことで、少々迷っているところ。

でも、その男はきっと、私より農民運動の方が、大切だと家庭なんか振り向く男じゃない。

      ―


そんなところが、不安と、嫌いなところ。


でも・・・そこが、好きでもあるんですよね。()

        音楽入る、照明消え、加代下がり、

      誠一上がり、照明入る、音楽消える

水澤 誠一   加代ちゃん、札幌に行くのか、この年老いた両親を置いて、それにこの・・・。

俺の家はもともと農家だ。

今は責任ある立場の職なんかしているけど、いずれは、農業に戻ろうと思っている。
自分の人生も大切だけど、両親と一緒に、
この大自然を相手に牛のケツば追っかけての生活も、立派な一生でないか。

今までは、米、米と云って米作りに専念していたから、
今年みたいな天候の時は、いつも凶作の連続だ。

でも、今は俺たちが進めている、牛飼いへの転換では、天気には関係なく、
きっと安定した農業が出来ると、確信してるんだ。

米には共済金制度がある。

しかし、それを当てにして米作りをしたって、本当の農家って云えるのかね。

農業ってそんなもんじゃないだろうさ。
加代ちゃん ()、おまえが居てくれたら、今までとは違う。

きっと楽な生活をさせてやれる。俺を信じて付いて来てくれないか。
両親もそうすれば、きっと喜んでくれる。

都会に行ったって、そんなに甘くはない。

特に小説なんか書いたって、売れるまでには何年も、
いや一生売れないかもしれないんだぞ・・・・・・。
行くのやめて、俺の嫁になれ。

 

 

        音楽入る、照明消え、誠一下がり、

      鉄男上がり、照明入る、音楽消える

 

 

加代の父 鉄男   誠一さんよ、加代を思ってくれるのは、本当にうれしい。
三十過ぎてまで、こんな畑仕事ば、やってきてくれた加代には感謝している・・・
だから、親として、本当はもう遅いけど、これからは、加代の自由にさせてやりたいんですよ。
誠一さんもご存知の通り、二人の兄たちは、ここを出て行った。
それを見ていた加代は、私たちを捨てなかった。

学校終ったとき、好きな道に進みたかったんだろうが、あきらめて、ここに残った。
わしらは、もう
.年だ。
加代は一緒に札幌に行こうといってくれるが、私たちはここで生涯を終えたいんですよね。
ここが私らの生きた証の、土地だからな・・・。

      音楽入る、照明消え、鉄男下がり、

      文子上がり、照明入る、音楽消える

鉄男の妻   文   私も爺さんと同じだね。加代には感謝、感謝だね。
米やいろんな物作って、苦しい時代だったけど、どうにかここまでやってきた。
それも加代がいたからだ。
今更、牛飼いだの、乳搾りだのと云ったって、私らはもうどうにも変われない年だ。

米が穫れれば、こんないいことはないんだがね。
だって、反の収入がどんな作物よりも高いんだから。
この爺さんは、吉田の米造さん達と一緒にここに入植した。
十六から百姓して、私が嫁に来た三十歳の時に両親を亡くした。
それも、借金苦の自殺だった。
死ぬのも大変かもしれないけど、残った私達も大変だった。

それからの私たちは死んだつもりで稼いだ。
それがこの、土地なんですよ。
だから、ここからは離れられないのだよ。
ここで、このまま、死なせてくださいな。

 

        そこに一也があわてて入ってくる。

      一也が来て、加代、誠一、鉄男が一也に近寄る。

一 也   植松さん、爺ちゃんば見なかったかい。
来ませんでしたか。爺ちゃんがいないんですよ。
みんなで、あちこち探しているんですが、見当たりません。
近ごろ、ちょこちょこ、訳判らぬことを言うんですよ。
そして、すぐ外に出ていこうとするんです。
すみません。
どこか、他の方を探します。
どうもすみませんでした。

 

 

         音楽入り、照明消える

      二場の役者下がり、米造舞台に上がる

      照明入り、音楽消える

      中央に米蔵が立っている

第三場
























  秋の畑で






















































































米 造   あー、あー・・・  でも・・・、何して山も、畑も黄色いのよ・・・。

      ・・、俺の好きな色がいっぱいだなんて。


      それとも今日は、目がおかしいのかなー。

      何時も黄金色の田んぼを夢見ているからかな?

      いや・・・ひょっとしたら、俺自身が、黄昏になってきたからかなー・・・。


         (
ここから少々ボケが入っている)

      でも、今は春だ。

      そろそろ田植えをしなきゃいけない時期になった・・・


      あれ、見れ、苗があんなに大きく育っている。
(怒った声で)

      早く田んぼに植えてくれって、云っている。


      何して、みんな出てこないのよ。


      早く植えてやらんと、苗が駄目になる。


      ほれ、ほれ、苗が植えてくれって、云ってる。


      ほれ、・・・植えてやるからな。
 
      
(田植えの動作に入る)




        みんなが爺ちゃんを探している声が入る

        爺ちゃんを探していた、みんなが入って来る





忠 吉   なんだ、ここにいたんだ。こんなとこで何してんのよ。
      この寒いのに。



秀 子   爺ちゃん、大丈夫、寒いっしょ。
      早く帰りましょう。よかった、よかった、見つかって。




保 子   これ着ないと。さあー、寒いよ。風邪ひくよ。本当に見つかってよかった。


一 也   そろそろ雪が降るよ、風邪ひくから帰ろう。
      やあー、みんなに迷惑かけて。


加 代   何が迷惑だって。
      困った時はみんなで助け合うのが、この地区の人達のいいとこなんだよ。
      気にすることないって。



鉄 男   米造さんよ、こんな寒い日に、何してるのよ。



  文   風邪ひかないうちに、帰りましょう。ねー米造さん。



分家 吉田 春次   本家の爺ちゃんも、ボケたな。こんな寒い日に、こんなとこまで来て。




春次の妻 弘子   あんた、そんなこと。ボケなんて、云うもんじゃないて。



後藤 悟   この寒いのに、何してここまで来たんだろうな。



悟の妻 淑子   米造さん、何か云っているよ。みんな、聞いて、聞いて、ほれ、ほれ。





        米造のみスポット当たる





米 造   お前ら、何してる、そんな格好して、ほら・・・早く、田んぼに入れる支度、すれ。

      あんなに苗が「植えてくれ、植えてくれ」って云ってるぞ。


      米は百姓の芸術品だ。

      土地を耕し、水を張る。

      そこに大切に育てた苗を植える。

      米はな、米と云う字の通り、八十八日間、毎日水を見て、草をとって、

      また、草をとって、そうしてやると秋には田んぼ一面が、黄金色になる。


      こんな北の涯に、こんなにひろい畑が米一色になる・・・

      きっと、神様や仏様が見守っているから、こんなに皆が頑張っているん

      だからな。

      きっと今年は、ここ一面が黄金色になるからな。

      さあ、みんなで、苗を植えるぞ。


      さーあ、さーあ、みんな手伝ってくれ、ほれほれ・・・早く、早く。

  
(田植えをする)




        なつ、爺ちゃんに近寄る




な つ   爺ちゃん、そうだね。ほれ苗だよ。
      
      私も植えるからね。ほれ、転ぶんじゃないよ、ほれ。





        やさしく、なつは米造をかかえながら、田植えの格好をする

        それを皆で見ている


        ()


        大きく音楽入り、照明消える


        音楽入り、照明入り、子どもたち上手より、入って来る


        里子、綾子、京子、歩、強、道子の順で

  第四場
























  学校帰り道















































































































































































里 子   ねえー綾ちゃん家、今年で農家止めるって、本当にやめるのかい。

  強   本当なの。ねー綾ちゃん、やめないよね。どこにも行かないべさ。

  歩   何して行っちゃうのさ、どこにさ、どこに。何するのさ。何さ。

里 子   したら、道ちゃんだって、行くんだろさ。

京 子   当たり前だって。綾ちゃんの家が、みんなで引越しするんだからさ。

      仕方ないしょ。家族みんなで引っ越すんだもんね。

  歩   一郎お兄ちゃんもだよね、一郎お兄ちゃん来年の春卒業だよね。

      高校へ行くって云ってたべさ。

綾 子   うん、まだはっきりしてないけど、父ちゃんや、母ちゃんが、毎日その話
      で喧嘩してる。

道 子   他の所へ行ったって、友達出来るかどうか、わからんしょ。
      行きたくないな。みんなとここにいたいなー。

京 子   ここにいればいいさ。
      ・・・でも友達なんてどこに行っても出来るって。
      綾ちゃんや、道ちゃんはかわいいから直ぐ友達出来るって。

  強   そうださ。出来るって。友達なんか、どこに行ったって、出来るよ。


  歩   でも、田舎者だって云われて、いじめられるかもね。

里 子   都会に行ったらの、話ださ。
      まだ、どこに行くかは決まっていないんだよね。

京 子   でも、このあいだ、家の母ちゃんが札幌か、東京って云ってたよ。

  強   うん、僕も聞いていた、札幌か、東京って。

綾 子   うん、時々札幌って云ってるから。札幌かもしれない。

直 子   何して、ここにいられないのさ。
      だって、みんなここで生まれたんだべさ。

里 子   だけど、今年もあんまり作物出来なかった。 
      だから家の父ちゃんも、今年の冬は、山稼ぎに行くかなって云ってた。

  強   家の爺ちゃんも、山稼ぎに行くかなって話してたよ。

  歩   みんな、働かないとならないんだね。

里 子   働かないと、春の飼料や種代払えないって。

京 子   だけど、この間、農協の人たちや、役場の人が来て、

      父ちゃんや母ちゃん達と「みんな出稼ぎに行かないような、

      農業するべ」って云ってたよ。

  強   俺も聞いたことある、米作るんでなくて、牛にして、乳搾るん

      だって。

綾 子   家の父ちゃんたちもその話してた、でも、いつもそ

      のこと話しては、父ちゃん、母ちゃん喧嘩ばっかりしてるんだ。

道 子   一郎兄ちゃんのこともあるから。

 

綾 子   一郎兄ちゃんが高校へ行くことで夫婦喧嘩することが多いかもね。

  強   兄ちゃん、がんばって行くって、勉強がんばってたしょ。

  歩   あんなに、勉強出来るんだもん。行った方がいいべさ。

里 子   そうだよね、絶対行けるって。

京 子   ここでは、一郎兄ちゃんぐらいしか、高校に行けないもんね。

  強   いや、俺も行くよ、高校はね。

          一郎兄ちゃんみたいに、勉強してさ。

     一郎が、上手より入って来る


一 郎    何しているのよ。何が一郎兄ちゃんよ。
       みんなして何話してるのよ。

 

京 子    うん、今、綾ちゃんや、道ちゃんが、ここから引っ越して行くっていうも

       んだから。

  強    一郎兄ちゃんは、何処に行くのか知ってるんだべさ。

  歩    どこにもさ、行かないべさ、本当は。

一 郎    俺も行きたくないんだ。ここで父ちゃん達と農家やりたいんだ。
       でも、今年も作物の出来は悪かったべ。
       これで何年穫れない。三年か?

里 子    こんなに毎年、穫れなかったら、ここでは米は穫れないん

       じゃない。

京 子    そうかもしれない。米って北の作物でないよね。もっ

       と暖かい所の植物だって、この間、学校で先生行ってた。

  歩    でも、米が穫れなかったら、みんなが困るべさ。

道 子    去年だって、隣の美代ちゃんところが、帯広に引越した。その前の年なん

       か、学校のそばの孝ちゃんと幸ちゃんの家だって、釧路に引越して行ったべ
           さ。

  強    こんなに、引越しばかりあったら、ここの地区、なくなってしま
       うんでないべか。

  歩    そんなこと困る、正ちゃんや、まーちゃんや、
       豊ちゃん、いなくなったら困るもん。

一 郎    そんなことないって、こんなに良いとこが、無くなってしまうな
       んて、考えられないべさ。爺ちゃんや、父ちゃん達が一生懸命、
       拓いて、耕してきた、この畑を、おいて。

綾 子    でも、兄ちゃん、昨日も父ちゃんや、母ちゃん、このままでは、
       兄ちゃんば、高校に行かしてやれないって、云っていた。

道 子    そうだよ、だから二人で働けば、高校ぐらいは出してやれる
       って。そのことで、毎日喧嘩してるべさ。

里 子    一郎兄ちゃん、高校行けないかもしれないの、どう
       して。

京 子    勉強が出来ても、高校には行けないの。

  強    本当は、勉強出来ないの、ねー一郎兄ちゃん。(笑)

一 郎    うん、本当は俺、はんかくさいから、勉強出来ないのかもしれないな。(笑)
       いやー・・・本当はな、みんなの家も同じなんだけど、今年も作物が悪かったべ。
       だから、お金が入ってこないんだ。

       食うのがやっとの生活だからな・・・。
       高校は、お金を払わなければ行けないんだ。
       授業料というものを、払わなければな。

       でも、俺は、高校に行くのは絶対にあきらめないんだ。
       絶対高校に行って、勉強して、ここに戻って来るんだ・・・
       農業やりにな。
       それも親子一緒で農業やるべって思っているんだ。

   音楽入り、照明消える

   舞台役者入れ替わる

   照明入る、音楽消える

   舞台中央に淑子、悟がいる

第五場




















  後藤家の居間







 


淑 子    あんた、早く決心しましょうよ。

       みんな、酪農だなんて夢みたいな話してるけど、米作りでさえ、

       出来ない者が、牛飼いなんか出来っこないって。

       
       そりゃ、天候には左右されないけど、動物を飼うんだから、

       そんなに簡単ではないと思うよ。餌にする草だって、何でもいい

       こと、ないんじゃない。

 
       ちゃんといい草作らんと、乳だって出さんよ。

 
       私はそんなことよりも、牛を買うお金どうするの。

       
       また借金でしょう。


       今でも生活費に困っていて、子どもも満足に学校に行かせてやれない

       のに、牛なんて買えるお金どうするのさ。


       それよりは、早くここ出て、二人で働けば、食べて、子どもたちにも

       学校に行かせてやれるって。


       これ以上、借金増やしてたら、にっちも、さっちもならなくなるよ。


       今まで以上に借金増やしても、ここで農業やるってかい。


   悟    そんなこと云ったって、好きで借金増やしたんじゃない。

       戦後の食い物の無い時、農業すれば食べるぐらいどうにでもなると思って、

       大阪からここに入った。
  
    ―

  

       そんな人は、周りに何戸もある。

      そして、みんな一生懸命働いた。

      昭和二十一年から五、六年は米が穫れた。

      天候も良かったからなー。

 
      でも、どんだけ、働いてもその後は冷害で、食うのがやっとだった。


      所詮、米作りは、この土地には向かないのかもしれない。


      でも、吉田の本家の米造さんなんか、ボケたって、あんなになっても

      「百姓は米作って、はじめて百姓だ」と、寒いみぞれの中でも、

      体に刻まれた米作りの根性が、苗を植えさせた。


      俺もあれぐらいの根性で、農業をやってみたいなーと思っているんだ・・・

      子どもを、学校にも出せないんなら、親として情けない。


      子どものやりたいことを、やらせれない親は、親でない。


      ・・人間としても、失格だな・・・あーあーどうすりゃいいんだ。



淑 子   あんたは、根性かけてやったわよ。それだけやったって米、穫れた?

      何年も、何年もやったって、この始末。

 
      吉田の本家の爺ちゃんみたいに、秋のみぞれ降る畑で、田植えしようと、

      みんなに号令かけている姿、どうだった。

 
      根性だけで、米は出来ないって。


      私はあんたに、あんな姿になってほしくない。


     「百姓は米作らんと百姓って云えんて」・・・・・・・


      こんな北海道で、所詮、米作りは、無理だったんだよ。


      今更、牛飼いだ、なんて、云われたって「そうですか」なんてすぐに変えら

      れるようなものでもないでしょう。


      手っ取り早い話が、都会に行って仕事をすることだって。


      今はオリンピック景気で、仕事はいくらでもあるといっているからね。


      今、決断しないと、一郎を高校にやれなくなるよ。


      あんたが、云ってる様に、子どものやりたいことを、やらせられない親ほど

     、みじめなことはないでしょう。





      吉田分家夫婦入って来る




春 次   おい、農家やめるってかい。

      そんなことないよなー。この間まで、俺たちと、牛飼いについて話して

      いただろうさ。

      何してよ。

      植松の爺ちゃんとこは、高齢だから仕方がないと思っていたさ。

      でもあんたのとこは、牛飼いに賛成してくれたと思っていたのに。


      俺だって、あんただって、借金はあるさ、でも戦後ここで苦しいなり農業

      やってきた、そしてここにきて、みんなで牛飼いをして、この地域を楽に

      しようと、今やっと先が見えて来たところなのに。




弘 子   淑子ちゃん、子どもはどうするの。あんたたちはここを離れれば、食う

      ぐらいは二人で働けば食える。


      でも、一郎くんは、ここで農家やりたいって、云ってるそうじゃない。


      もう、三年我慢すりゃ、学校卒業して、親と一緒に農業やるって。


         家なんかまだ、子どもが小さいから、先のことは判らん。

      ましてや、女の子だから、婿さんもらわなきゃいけないんだから


      それまでには、少しは、牛を増やして楽にしていれば、来てくれる人も

      いるだろうさ。


      やっと、ここまで土地を開いてきたんだろうさ。


      あんただって、私だって、農家にしか向いてないじゃないかい。




淑 子   弘ちゃんの云ってることは判る。

      でも、先立って今、一郎の進学の金の見通しは全く無いの。

      食うのにやっとな生活じゃ無理だって。


      ほかの土地に行って、働くと云ったって、手に職があるわけでないし、

      不安だらけだ。

 
      でも、出面取りしたって、子どもたちの学資ぐらいは働ける。


      農業と違って、将来の夢は見られないかもしれないけど、子どもたちには、

      夢を持たせられるんじゃないかな。


      それが親と云うもんじゃないんですかね。私達だって、親の犠牲で、

      ここまで育って来たんじゃないんですかね。

      所詮、人間って、その繰り返しじゃないんですか。

 

 

      一郎、綾子、道子学校から帰って来る

 

 

一 郎   ただいま、強くんや、歩ちゃん達と一緒に帰って来たよ。

綾 子   ただいま、あれ、おじさん来てたんだ。

道 子   里子ちゃんも、京子ちゃん一緒だったよ、今、家に帰ったよ。

春 次   あーそうか、今日はみんな一緒か。

一 郎   午後から、先生達の研修会なんだって。
      ね・・・父さん・・・みんながね、心配していた。
      家、・・・本当に引っ越すのーって。
      俺は嫌だな、引越したくないな。
      だって、ここから出て行ったって、何処に行っても同じだと思うんだ。
      父さん達だって、友達もいなくなってしまうんだよ。
          家賃払ってアパート借りてさあ。そんなこと考えられる。
      今、自分の家にいられるのに。

      ・・・やっとここが故郷になったって、何年か前に二人して云って
          いたしょ。
      家はみんなのとこより、借金はあるみたいだけど、俺が高校卒業したら、
         いくらでも働くから。
      借金も返せるぐらい働くって。
      いいだろう。
      ここで農家やろうよ。一生懸命働けばきっと楽になるって。
      ねー春次兄さん。農業って働けば、働くだけ、作った物が大きくなるよね。

春 次   あー俺、そんなに一郎みたいに、いろんなこと考えて農家やってこんかんたな。
         頭も悪かったしよ。
      俺は次男坊だから、早くから分家してた。食いぶち稼ぐのが、やっとの
      農家だったけど、何時かはきっと、本家以上の農家になってみせると、
      思ってやってきたさ。

      でも、そうは、甘くはなかったけどな、それに、爺ちゃんみたいに、
      根性もなかったしよ。

      もう冬が近いというのに、みぞれの中で、苗植えれって、みんなに号令して
      るんだからなー。

弘 子   ボケたって、体が覚えているんだろうねー。
      なー淑ちゃん、止めないで。
      私達はまだまだ一人前の百姓になっていないんだよ。
      私も牛飼いはあまり賛成してなかったんだけど、家の人がこんなに一所懸命
      やっているの見て、この人と一緒になった以上、ついて行くしかないと
      思ったんだよ。

      腐れ縁というもんかね。(笑)
      ねー淑ちゃん、あんたも悟さんに惚れて嫁に来たんだろうさ。
      私と同じく腐れ縁と思ってついていこうや。
      これから、公民館の臨時総会の会場に行ってさ、みんなの話聞いてみようよ。
      それから判断したって、遅くはないって。

淑 子   そうだけどさ、でも、食うだけならここでもどうにかやって行ける。
      だけど、この一郎が高校へ行きたいというんだから、どうにかしてやり
      たいんだ。

綾 子   ね、母ちゃん、兄ちゃんば、高校へ行かしてやって。
      私だって、家の仕事、今まで以上に手伝うからさ。

道 子   私もやるから、姉ちゃんに負けないぐらいやるから。

春 次   ねー、悟さん、あんたは立派に、子どもを育ててるな。
      家なんか恥ずかしいな。

      なー母ちゃん、ここの子ども、たいしたもんだ。

弘 子   そりゃ、そうだ、ここの父ちゃんや、母ちゃん達と、家を比較す
      るのが土台無理なんだって、出来が違うんだからさ。
     (笑)


春 次   なあーに云ってる、なー行こうぜ、公民館に、早く。
      一郎くんも一緒に行こう。そしてみんなの話を聞こうよ。
      淑ちゃんも行って、聞いてみようよ。
      さー行こう。

     音楽入り、照明消える

     五場役者下りて、六場役者上がり、入れ替える

     照明入り、音楽消える

 

第六場








  臨時地区総会会場














 


佐 藤   もう、大分みんなで話してきたけど、「米作り」も「牛飼い」もよく

      わかった・でも私は反対だ。吉田の爺ちゃんの米造さんの

      「百姓は米作って何ぼだ」が本当の百姓じゃないかな。


      駄目だっていったって、何年かに一度は収穫が出来るんだから、

      みんなで研究すれば、米穫れる様になるんじゃないかな。


      牛飼いって云ったって、一頭や二頭じゃないんだろうしさ。


      それに乳搾れるようになるまでは、何年もかかるだろうさ。

      牛だってただで、くれやしないんだし。


      その金だって、また借金だ。


      これ以上借金増やしてどうするのさ。


      先が見えない。借金なんて、命取りだって。

 
      米作っていりゃ、穫れなくても、共済金が入るから、最低限の補償はあるんだからさ。


      家の父ちゃんなんか、畑終ったら直ぐに稼ぎにいったさ。


      それは、家族が食わなきゃ、生きていけないからだ。


      今ここでは、ぎりぎりの生活を守るのが精一杯なんだ。

      けど、いつかは豊作もあるって。


      そうだよね、みんな・・・ね、・・・みんな。



誠 一   みんなの云うことは判る。

      でも、だからといって、これで、いいか・・・なあーみんな。


      ・・苦労して木を切り、笹を刈って、拓いたこの土地、いろんな物作ってきた。


      特に米をな。


      今、佐藤さんが云った、共済金が当たるから、このままでもいいのかな。


      そんなことが、本当にいいのかな、みんな百姓だぞ。


      そんなことで、満足感と誇りを味わっていれるのかい。


      凶作、冷害、出稼ぎ、それも冬の期間だけでなく、一年中、出稼ぎじゃ、

      何で、百姓なのよ。

      百姓って自分の土の上で、足踏ん張って仕事するのが本当の百姓じゃないか・・・


      米作りが、牛飼いに変わってもいいじゃないか。





    少々、間を取る)




忠 吉   誠一さんよ、そうは云うけど、食えなかったらしょうがないだろうさ。

      ここには、明治からの開拓者もいれば、戦後の開拓者もいる。


      土地もらって、拓いて、種植えて、収穫の季節を待った。

 
      何年に一度しか穫れない、そりゃ大変の、連続だった。


      でもここまで、頑張ってやってきたんでないかい。


      これで、いいとは、云わん。


      でも、みんなで頑張れば、どうにかならないのかな?。




一 也   親父、どうにもならないから、ここでみんな話しているんだろうさ。

      何日も、何日も話したしょ、このことで。


      現状はどうにもならないから、誠一さんを先頭にして、

      俺や分家の春次さんがみんなに説得してるんだろうさ。




佐 藤   今までのことやっていたらどうにもならないから、ここで話し合っているんだよね。

         吉田の本家はまだいい方だから、そんなこと云っていられるのよ。

      家らは、もうどうにもならないんだ。


      家は・・・なー、みんな。




    少々、間を取る)



保 子   佐藤のかあちゃんの云うことは、わからん訳ではないけれど、ねー、

      
()

      お父さん。わかってやってください。一也さんは吉田家を守りたいから

      言っているんですから。おじいちゃんの「米作り」も一也さんの
 
      「牛飼い」も同じだと思うんです。 

      どちらも、自然との戦いだと思うんです。

 
      だったら、その自然をうまく利用できる農業を、するべきだと思うんです。


      所詮、人間が自然の営みを変えるなんてことはできるものじゃないんですから。






    後藤夫妻、一郎、吉田分家春次夫妻 入ってくる





誠 一   おー遅いぞ、後藤さんも一緒か、よかった、よかった。

      まだ、まとまってはいないんだ、でもな、

      「このままでは、どうにもならない」と云うことは、みんな同じ考えだ。




春 次   後藤の悟さんも、ここを離れると云っているけれど、本当は、出来るなら、

      ここで農業をしたいて、思ってると思う。

 
      だって、ここが悟さんの故郷だ、自分の土地だからさ。




悟    そうは思うけど、現実食うことを考えると、故郷だの、農業だのって云ってられ

     ないとこなんです。


     それに、一郎の将来のことを考えますからね。



弘 子   後藤さん家ばかりじゃないって、この辺の農家みんな同じだって。

      頭悪くたって、これからは高校ぐらい出してやりたいんでないかな。

 
      でも家だけは例外だって。

      子ども達の頭みんな凶作だったからね。


      あはは・・・(笑)





間を取ってゆっくりと鉄男が話しだす。)




鉄 男   みんな、そこまで話せば、いいんじゃないかい。

         私は米造さんと同じように米作って来た。

      それが「百姓だ」とも思ってきた。


      だけども、この北の涯では、米は無理なのかもしれない。


      なーみんな、みんなで、この誠一さんに任せてみてはどうかな。


      彼ならきっと、役場や農協、いや道や国にまで掛け合ってくれる。


      そんな裏づけがなかったら、みんなに自信もって、

      こんなにまで説得しないだろうさ。


      私の家の事だけど、私の娘加代と、一緒になれなくても、

      みんなと一緒にここで農家、いや、牛飼いしようと、説得してるんだから、

      本当の本物ださ。


      なー、ここの土地で、みんなで心中するつもりで、牛飼いに転換しよう

      じゃないか。


      私みたいな老いぼれが、話すことじゃないかもしれないけれどね


      戦争が終わって十年が過ぎた。


      この地区からもたくさんの人が戦争に行って、死んだり、まだ帰ってこない

      人達がいる。

      その人達のためにも、この地を残さなきゃいかん。


     『亡くなった人の魂は、お盆の日にどこに帰っていけばいいのかね・・・・』


      帰ってきた時にふるさとがなくなっていたら、それこそ悲しむんじゃないのかね。

      せめてもの、今生き残った人々の役目ではないのかね。


      これからは、あんた達みたいな、若い人たちの時代なんだから。

 
      この人たちに託してみましょうや。


      親が子どもに夢を託すと、同じように、この人たちに、この地区の夢を託し

      てみましょうや。





少々間を取って、一郎が話し出す。)




一 郎   子どもがこんなことで、訳判らない話するのは、変だけど。

      おじさん達、おばさん達、みんな本当は、ここで農業やりたいんでしょ。


      俺は、まだ中学三年生だけど、春には農業の高校に行って、たくさん勉強して

      来てここで、父さんたちと農業をやるのが夢なんです。


      毎年、何十戸もここ出て行くしょ。

 
      どんなに苦しくても、みんなで親子して家族そろって、ここで農業やりましょうよ。

      ここを離れなくてもいいようにして下さい。


      お願いします。お願いします。





少々、間を取る)




淑 子   みなさん、お願いします。

      みんなでここに残れるようにお願いします。


      この一郎が農業続けて行ける様にお願いします。


      私も頑張りますから、お願いします。




  悟   おまえ、いいのか、ここで農業するんだぞ。

      いいのか。本当にいいのか。





    間を取ってから、加代話しだす)




加 代   ねー、みんな、ここで農業やりましょ。

      こんなにも小さな一郎ちゃんが・・・こないだまで、

      お母さんの背中で泣いていた可愛い子が、こんなにまでこの土地を愛して、

      この農業を愛したのは、私たちのやってきた農業が間違っていなかった。

      こんな立派な子どもたちが育っているんだから。


      さっき、吉田の保子さんが言ってた様に、人間は天候とか、
 
      気温とかという自然条件にはどうすることもできないって。


      それなら、自然と共に生きていける農業を考えなきゃ行けないんじゃな

      いんですか。


      それが酪農なんじゃないんですか。


      ね、皆さん。

      皆さんで力を合わせてやりましょうよ。ここで。


      一年とか、二年とかでなくて、十年、二十年、先を見つめて、

      牛飼いをしましょうよ。


      誠一さん、私もここで、牛のお尻を追っかけながら、本当の人の生き方を、

      その現場で書いてみることにする。それこそ、本物の小説だよね。


      誠一さん、それならいいでしょう。




誠 一   加代ちゃん、いいのか、それで。 
  
   (
間を取ってから)

      ・・なー、みんなここで、この土地で爺さんや、婆さん達、

      親父達が拓いてくれた、この土地で夢をみようや。

      その夢を実現するように。


      一郎君が帰ってきて、ここで農業のやれる土地をみんなで作ろうや。


      今回、この公民館に集まっている人、みんなそう思っていると思うんだ。


      そりゃ、酪農だって、米を作るのと同じぐらい、大変だと思うんだ。


      相手は動物だし、牛には餌を食べさせなければいけない。

      それには良い牧草をつくらないといけない。


      でも、天候にはあまり左右されないから、一年を通じて収入がある。


      子どもたちが好んで、この土地、この家に残れるような農業にしようや。


      なー、みんな。

      そうしようよ。





    間を置いて)




     ブルドーザーの音が入る。小さくなる




     誠一にスポット




     ゆっくりと話しだす(山台より下りて)



       「田んぼのあぜ」を平らにする時のブルドーザーを見るのは辛いな。

     でも、それがこの地区の応援歌だと思うことにしようよ。


        牧草地が広がり、牛が何百頭、いや何千頭、何万頭の牛が草を食い、

     乳を出す、あの米の白さと同じ、乳の白さを見ながら、触れながら

     この大自然で、親子が一緒で、家族が一緒で、ここの地区の人みんなが一緒で。


     それに、この湧別の原野と一緒に生きていこうよ。


        ・・・なー、みんな。

 

 

     みんなで歌う。

    誠一、センターで歌う

    第六場出演者が立ち上り歌いだす

 

 

 

 

一、 昨日も今日もまた明日も、石ころだらけの坂道を

   転び転んで、膝擦りむいて、親子で歩いたこの道は

   どこまで続いているんだろう

   どんなにつらい坂道もきっと下りがあるはずだ

   前に向かって歩いていこう

     ここで第六場で舞台に上ってない人が入ってくる

     上・下手から

 

 

二、      昨日も、今日もまた明日も、ぬかるみだらけの坂道を

   泥んこだらけで真っ黒くなって夫婦で歩いたこの道は

   どこまで歩けばいいのだろう

   どんなにつらい泥んこ道もきっとどこかに舗装の道が

   今日も歩こう俺らの道を

 

 

 

     ブルトーザーが「田んぼのあぜみち」を、崩しならしている音が、

     大きく入る

     照明消え、音楽大きく入る

    

     幕が下りる

     カーテンコールで幕が上がる。

     家族ごとに入ってきて自己紹介する。

     @  吉田本家

       祖父母・父母・息子夫婦・子供たち

     A  吉田分家
       夫婦・子供たち

     B  植松夫婦と加代

     C  後藤夫婦と子ども達

     D  農家主婦・佐藤

     E  水澤誠一

     音楽・効果・照明・舞台・化粧・衣装・協力者

     演出・舞台監督が最後に入る。

     主催者あいさつ(一言)

     (全員一礼)

     音楽大きく入る

     幕が下りる

                ?幕?




スタッフ




















  企画           町民芝居ゆうべつ

資料提供、協力      湧別町図書館

脚本、演出        石 渡 輝 道

舞台監督         坂 本 雄 仁

音楽           林 祐 一 郎

音楽、音響        中 野 純 一

照明           仁 木 宏 紀

舞台、道具        大 崎 一 文

衣装、化粧        渡 辺 明 美

             岳 上 美 智

             入 江 ゆかり

             湊 谷 まゆみ

             谷 口 かなえ 

             安 彦 好 子

協力           洞 口 百合子

             宮 本 則 子

             仁 木 慶 子

             大 渕 美 

キャスト

















  水澤誠一(三十代)    伊 藤 誠一郎


吉田本家(三世代家族)

祖父母(八十代) 米造  本 田 勝 樹

         なつ  横 山 到 里

父母(六十代)  忠吉  洞 口 忠 雄

        秀子  小 川 敬 子

息子夫婦(三十代)一也  深 谷   聡

          保子  由 野 のぞみ

  子どもたち     強  仲   崇太郎

           歩  大 崎 琴 絵

 

 吉田分家家族

若夫婦(四十代) 春次  茂 利 泰 史

         弘子  松 下 章 子

子どもたち    里子  臼 井 愛 雅

         京子  大 渕 愛 結

植松老夫婦と娘家族

高齢夫婦(七十代)鉄男  荒 井 佳 人

          文  相 場 典 子

娘(三十代)   加代  佐々木 絵 里

後藤離農を考える夫婦家族

夫婦(四十代)   悟  窪 田 大 輝

         淑子  加 藤 葉 子

子どもたち 

   一郎(中学三年生) 佐 藤 梨 華

          綾子 伊 藤 千 晴

          道子 渡 辺 静 香

農家の主婦(四十代)佐藤 仲   陽 子

ナレーター 加代     佐々木 絵 里

男子名、女子名、子供名(内中学生一名)

                 計二十二名



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