サマーコンサート2007

ごあいさつ

余市室内楽協会 代表  牧野 時夫


  本日は、余市室内楽協会のサマーコンサートにお越し下さり、ありがとうございました。今回のコンサートでは、モーツァルトの作品3曲と、古い旋律を元に近代的な味付けをした作品を取り上げました。いずれも、クラシック音楽に余りなじみのない方にも、ごく自然に聴いていただくことのできる楽曲だと思います。
 クラシック音楽というと、未だに堅苦しいといったイメージがありますが、最近ではマンガやテレビ番組などでも、クラシック音楽が身近な存在として取り上げられるようになってきており、これは歓迎すべき傾向だと思います。クラシック音楽は、もともと教会で演奏したり、貴族の楽しみとして演奏されたりするものでしたが、モーツァルトはこれを大衆のものとすることに貢献しました。すばらしい価値のある音楽を、一部の人だけに独占させてはいけないと考えたからだと思います。
 日本でも、西欧音楽は明治以来、学校教育を通じて導入され、今日では市民がアマチュア演奏家としてこれらの音楽を楽しむことも決して珍しくはなくなりました。しかし、まだまだオーケストラなどは都市に集中しており、北海道でも人口10万以上の都市には大体アマオケができましたが、余市程度の人口でクラシック音楽を楽しむ団体があるのは、今のところ道内では他にないようです。
 今では、あらゆる音楽がCDやインターネットで誰にでも簡単に聴くことができるようになりましたが、モーツァルトの時代には、演奏する人がその場にいない限り、これらの音楽を聴くことは出来ませんでした。それだけ今日では、音楽のありがたみも薄れているというわけですが、生の音楽の与える感動というものは、スピーカーやイヤホンで聴く音楽とは、全く別物です。その瞬間にしか存在しない人間の感情が、同じ空間にいる聴衆に、息遣いと共に直接伝わる、それが生演奏の醍醐味です。そして、そのような生の音楽は、モーツァルトの時代に比べても、決して身近になっているとは言えません。
 このような演奏団体を、余市程度の小さな町で維持して行くことは、決して易しいことではありません。今回も年配のメンバーが複数名引退され、代わりに新しいメンバーが加わりました。いつものように、不足するパートについては、小樽室内管弦楽団から応援をいただいています。
 もっと多くの人たちが、このような音楽を一緒に演奏しようという気持ちになっていただけたら、と思います。ヴァイオリンやチェロなんて、子どもの頃から習っていなければ弾けないと思われるかもしれませんが、プロの演奏家になるのと違い、アマチュアで合奏を楽しむレベルであれば、指導者さえいれば、いつ始めても遅すぎるということはありません。合奏は、カラオケなどとは違い、異なる個性を持った人間が、共同して一つのものを作り上げるという作業です。そこには、難しさもたくさんありますが、大きな喜びも得ることのできる楽しみがあります。聴くだけでなく、一緒に演奏してみたいと思った方は、いつでも我々にご連絡ください。

演奏曲目

1.モーツァルト作曲
 フルート四重奏曲 第1番 ニ長調 K285 全3楽章
  フルート:瀧谷 まゆみ ヴァイオリン:牧野 時夫 ヴィオラ:嶋田 宏 チェロ:山川 雅裕
2.モーツァルト作曲
 セレナーデ 第7番 ニ長調 「ハフナー」 K250 第1〜4楽章
  ヴァイオリン独奏:牧野 時夫
  ・・・・ 休 憩 ・・・・
3.モーツァルト作曲
 フルートと管弦楽のための「アンダンテ」ハ長調 K315
  フルート独奏:瀧谷 まゆみ
4.ヴォーン=ウィリアムス作曲
   「グリーン・スリーヴスによる幻想曲」
5.レスピーギ作曲
   「リュートのための古代舞曲とアリア」第3組曲

曲目解説

1.モーツァルト作曲 フルート四重奏曲 第1番 ニ長調 K285
 フルート四重奏曲とは、フルート、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの4奏者のために書かれた音楽で、モーツァルトはフルート四重奏曲を4曲作り、他に1曲だけあるオーボエ四重奏曲も、しばしばオーボエのパートをフルートに替えて演奏される。本日演奏する第1番は、ケッヘル番号で285(1777年)にまとめられた3曲のうちの一つで、オランダの裕福な商人で医者でもあったアマチュアのフルート奏者フェルディナン・ド・ジャン氏の依頼に応じて書かれた作品である。当時のフルートは木製で、余り音程の定まらない楽器だったために、モーツァルトは余り好きでなかったとも言われており、初期の管弦楽曲で使われる木管楽器も、主にオーボエであった。しかし、モーツァルトはフルート奏者からの依頼を受けて、フルートのための曲をたくさん書いており、好きでないと言いながら、彼はこの楽器の特性をよく把握し、それらの曲はいずれも名曲として、現在でもフルート奏者らの好んで演奏するレパートリーとなっている。

2.モーツァルト作曲 セレナーデ 第7番 ニ長調 「ハフナー」 K250より 第1〜4楽章
 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは、セレナーデ(小夜曲)を13曲作曲している。そのうち最も有名なのが弦楽合奏による第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」で、これはドイツ語で、まさに「小さな夜の曲」という意味である。本来セレナーデとは、夕べに恋人のいる窓辺で歌う歌のこであったが、転じて野外で演奏する楽曲を意味するようになり、クラシックでセレナーデと言えば、多楽章で大規模な合奏曲のジャンルを指すようになった。ディベルティメントというジャンルの曲も、ほぼ同様の楽曲で、こちらもモーツァルトはたくさん書いているが、これは室内で演奏されるために書かれたという点が異なる。
 モーツァルト家は、ザルツブルクの有力資産家であるハフナー家と、父レオポルトの代から親しい交際を続けていた。市長まで勤めたジークムント・ハフナーは1772年に亡くなり、ハフナー家を継いだジークムント・ハフナー2世は、アマデウスと同年生まれで、2人の間柄はかなり親密なものであったらしい。このジークムント・ハフナー2世が、お姉さんの結婚を祝って大きな野外パーティを計画し、そのために依頼したのがこの曲であり、1776年7月21日の夜に初演された。作曲者も依頼者も、まだ若干20歳の時である。ちなみに、同じく「ハフナー」という表題がついた交響曲第35番も、当初はセレナーデとして作曲され、のちに交響曲に作り変えられたものである。
  ハフナー・セレナーデは、それまでのセレナーデとしても類をみないほど巨大なスケールで、8つの楽章からなるが、その前後に音楽家たちの入退場の際に奏される「行進曲」K249が組み合わせて演奏されたので、全部を通して演奏すれば優に1時間を超える。オリジナルの編成では、弦楽器にチェロがなく、低音部はコントラバスだけが受け持つが、これはバス・バッスルという小型のコントラバスのために書かれたものであり、この楽器は首から提げて弾きながら歩けたため、歩きながら演奏できないチェロの代わりに、行進曲を伴うセレナーデにおいて用いられた。
 この曲の中で、第2〜4楽章は独奏ヴァイオリン付の協奏曲ともいうべきものとなっていて、特に第4楽章「ロンド」は、クライスラーがピアノ伴奏付きのヴァイオリン独奏曲にアレンジして有名になり、しばしば単独で演奏される。今回は、このヴァイオリン独奏を伴った前半の4楽章までを第1部と考え、一まとめに演奏する。

3.モーツァルト作曲 フルートと管弦楽のための「アンダンテ」ハ長調 K315
 K.285のフルート四重奏曲と同様、ド・ジャンの依嘱に応じて作曲した一連のフルート協奏曲の一つで、1778年 の作。おそらくはド・ジャンがフルート協奏曲第1番(K.313)の初版のアダージョ楽章を嫌ったために、より短いアンダンテ楽章をその代わりとして作曲したか、または、ド・ジャンのために3つめのフルート協奏曲 を作曲するためにこの楽章を完成させながら、残りの両端楽章に着手することのないまま終わったものと推察されている。

4.ヴォーン=ウィリアムス作曲 「グリーン・スリーヴスによる幻想曲」
   有名なイングランド民謡に基づくこの甘美な楽曲は、レイフ・ヴォーン=ウィリアムスが1928年に完成した歌劇『恋するサー・ジョン』(Sir John in Love)の間奏曲をラルフ・グリーヴズが編曲したもの。彼のイギリスの田園風景を彷彿とさせる牧歌的な作風は、広くイギリス国民に愛されているが、曲によっては「田舎臭く退屈」とも評され、同時期の作曲家で「惑星」という傑作により良く知られるホルストほどには、日本ではなじみがない。生涯に9つの交響曲 を遺し、またイギリス民謡を題材にした作品も多い。

5.レスピーギ作曲「リュートのための古代舞曲とアリア」第3組曲
   近代イタリアの作曲家オットリーノ・レスピーギは、「リュートのための古代舞曲とアリア」と題する組曲を3つ作った。かれは昔の音楽家の作品を調べ、その中から気に入ったものリムスキー・コルサコフに学んだ優れた管弦楽法により編曲することをしばしば行ってきた。これらの組曲もそのようなもので、中世のリュート(ギターと同様にフレットのある撥弦楽器)の作品をとりあげ、近代風に管弦楽用に編曲したものであるが、管楽器を含まない弦楽合奏のために書かれたこの第3組曲(1931年)が最も演奏される機会も多く、人気も高い。

第1楽章「イタリアーナ」アンデンティーノ
16世記末の作曲者不詳の作品によっている。
第2楽章「宮廷のアリア」
ベザールの1603年のリュート音楽集に含まれている曲に基づく。リズムは変化に富んでいるが、それゆえに奏者泣かせの楽章であり、指揮者なしで演奏するのは、なおさら大変!
第3楽章「シチリアーナ」アンダンティーノ
シチリア島の叙情的な舞曲であり、16世紀末の作曲者不詳のリュート曲に基づく。曲は変奏曲形式。
第4楽章「パッサカリア」マエストーソ〜ヴィヴァーチェ〜ラルゴ
これは17世紀後半の作曲家ロンカルリが1692年に出版したスペイン・ギター音楽集に含まれるものに基づく。曲は緩やかな3拍子で主題を何回も繰り返して変奏を築くパッサカリアと呼ばれる形式で、シャコンヌもほぼ同様の形式。

出演者

   第1ヴァイオリン
    牧野時夫、嶋田覚子、久保田睦、廣田洋子、中岡亮子
   第2ヴァイオリン
    嶋田 宏、井坂有美子、舘巖晶子、牧野智香、北市不二佳(賛助)
   ヴィオラ
    清水三佐子、高嶋恵子、古谷洋子、浦 宏吉(Fl)、板谷知子(Pf)
   チェロ
    山川雅裕、小野島一美、篠田寿生
   コントラバス
    荒木雅幸
   フルート
    瀧谷まゆみ、浦 宏吉
   オーボエ
    石田浩子(賛助)
   ファゴット
    高嶋孝寛
   ホルン
    安河内敏、屋根谷了司(賛助)
   ピアノ
    板谷知子

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