食べ物は生命(いのち)である!
 
     事故米の食用向け不正転売事件に、中国製メラミン混入粉乳の加工食品への原料使用問題。次々に報道される消費者を不安に陥れる食品問題であるが、マスコミの報道姿勢には、どうも首をひねらざるを得ない。何故なら、そこには食べ物とは生命そのものなのだという視点が、完全に欠けているからである。そのようなことで、安全性をないがしろにした食品で儲けていた企業を果たして本当に批判することができるのか、大いに疑問である。人間だけでなく、ありとあらゆる生物は、他の生命をいただくことによってのみ、生命をつないで行くことができる。したがって、食べ物を大事にいただくことこそ、生命を大事にすることであると言える。安全な食品が手に入りさえすれば、無駄に廃棄される食べ物があろうと、また食品会社がつぶれようが農家がつぶれようが、そんなことはお構いなし、というのが消費者にのみ媚を売るマスコミの報道姿勢とみえる。しかし、それは業者のエゴとどっこいどっこいの消費者エゴなのであり、そういうエゴがある限り、この手の事件は永久になくならないだろう。業者が偽装販売したり、おかしな混ぜ物をしたということだけを批判しているが、そのような不正のはびこる原因がどこにあるのかということを、全く追求できていないし、マスコミの報道には、全く歯がゆさを覚える。
 誤解を恐れずに敢えて言わせてもらえば、私はこれらの事件によって、危険な食品が廃棄されることになったことを喜ぶのではなく、食用として安全性には何ら問題もない食品が大量に廃棄されることになったことを、大いに嘆くのである。中国の毒入りギョウザの時も、安全と思われる冷凍食品が大量に廃棄された。賞味期限(消費期限ではない)切れの「白い恋人」や「赤福」も、回収されて大量に廃棄処分となった。危険かもしれないし、売れないものを回収するのは、当然のことかもしれない。しかし、今回の残留農薬やカビ発生の事故米を食用に不正に販売した事件について言えば、それらの米を使用した焼酎や多くの食品の多くは、健康被害を起こす可能性のないものがほとんどであり、本当に回収する必要があるのだろうか。今回の事件、工業用に破格の安値で仕入れたものを、食用として何十倍もの値段で売っていたことは許しがたいが、それは不正に利益を得た点についてであって、危険なものを食用に転売したという理由からではない。何故なら、工業用とされたコメも、食品として必ずしも危険ではないからである。危険性のあるものを廃棄するのは当然かもしれないが、はっきり言って危険性のないものが大半である。まず、中国ギョウザでも問題となった農薬のメタミドホスが基準の0.01pmの2倍、つまり0.02ppm検出されたものが多量に工業用となったが、この基準は米の場合の数値であって、例えば茶の場合の基準値は5ppmである。作物によって、基準自体に実に500倍もの差がある。メタミドホスが0.02ppmのコメより4ppmの茶の方が安全なのか? そんな馬鹿なことはない。農薬の基準など、国民の安全を目的に決められているのではなく、輸入の都合で決められているに過ぎないのである。つまり、メタミドホスを散布したコメは輸入しなくても済むが、メタミドホスを散布した茶は輸入する必要があるから、そのような基準を設けているに過ぎない。つまり、茶の4ppmは限りなく危険性が高いが、コメの0.02ppmは限りなく安全に近い。だから、本来そのようなものを工業用にまわす必要はさらさらないのだ。食品としての安全性から言えば、食用にすることは何の問題もないだろう。そんなことは、農水省は最初から承知している。だから、農水省は不正転売の可能性をうすうす察知しながら事故米を売っていた節がないとも言えない。しかし、食べても安全などと大臣が本音を言ってしまうのはまずいので、あのようなあいまいな対応をしていたのである。しかし、農水省の何が悪いのかを追及せずにうやむやにして、大臣だけを辞めさせても何にもならない。はっきり言って、基準(0.01ppmの場合)をオーバーして食糧としての販売を禁止されるものよりも、合法的に輸入され流通している農産物の方が、はるかに農薬にまみれて危険なのである。そのことをマスコミは報道しようとしないし、誰もそのことを はっきり言わないのには、大いに憤慨するのである!!
 以前、豚の心臓に血液で色をつけて牛肉ミンチとして売っていたミートホープ社(廃業)の社長は、どうせ味も分らないのに表示だけを見て、安いものしか買わない消費者が悪いとか、賞味期限の切れた肉や売れない内臓も無駄にしたくなかったというようなことを言って、大いにたたかれていた。また、食べ残しを使い回した高級料亭の船場吉兆(廃業)の女将社長も、手付かずの料理だったとか色々な言い訳をして、バッシングされていた。二人とも、自分のやったことを棚に上げてそんなことを言ったら、消費者から批判されるということを判っていなかったところが浅薄であるが、ある意味では、ことの真実をついているのである。それで、彼らのやったことが許されるものではないが、彼ら以上に我侭で、歪んだ食を求める消費者がいるからこそ、こういう事件が起きるのだということは、まぎれもない真実である。
 さらに、中国で死者を出したメラミン入りの粉ミルクが、実は日本の加工食品にもかなり使われていることが判ったという事件についてであるが、今さらながら食品の輸入依存度には驚くばかりである。純和食のてんぷらそばを食べても、国産原料は水とネギ(これもたまに輸入される)くらいと言われるが、中国産粉ミルクもこんなに使われていたとは知らなかった。コメの場合は、ウルグアイラウンドで合意したミニマムアクセスによって仕方なく買わされる輸入品という面もあるが、加工業者としては国産米よりも安く手に入るのだからありがたいのだろう。しかし、牛乳は北海道で余って困っている状態だというのに、やはり加工原料としては中国から買っていたのかと、驚いたのは私だけではないだろう。メラミン入りの粉ミルクで死亡した乳児は中国で3名というが、入院しているのは1万人以上らしい。かつて、日本では森永砒素ミルク事件というのがあって、100名を超える乳児が死亡している。砒素ミルクの場合には、安定剤として添加していた物質に砒素が含まれていたことによるが、 それが裁判で明らかにされるまでに15年くらいも要している。砒素ミルク事件は1955年のことだから、現在の中国の状況は、日本よりも半世紀遅れているとも言えるわけだが、経済発展を優先して公害をばらまいていた、かつての日本の状況とよく似ている。高濃度のメタミドホスに汚染されたギョウザの事件も、 未だに真相が明らかにされていないが、中国で混入されたことだけははっきりしたようなので、一刻も早く原因を明らかにして欲しい。
  いずれにしても消費者は、コストをかけずに安全なものを手に入れることは不可能であることを、知らなければならない。しかし、高い金を払えば安心で安全かと言うと、そんなことはない。信頼できる生産者を探せば、決して高くはない金額で、安全な食品を得ることができる。お金よりも、時間をかけるべきなのだ。スローフードというのは、そういうことだろう。期せずして、地産地消、身土不二ということの重要性が、ますます明確になって来た。消費者は、金さえ出せば何でも手に入るのだと、勘違いしてはならない。生命は、時間をかけて育むものである。そして生命は、お金で交換できるものではない。食べ物も、本来そういう生命であるということを、忘れてはならないのである。

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