史的イエスに関する推薦図書(2004/06/08更新)
 イエスという人間が、いかにラディカルであったかを示す推薦図書を、参考までに挙げておこう。下線のあるものは私の蔵書で、ラディカル度を☆の数(私の偏見に基づく)で示している。いわゆるキリスト教が、いかにイエスの生き方から遠ざかってしまっているかが、よくご理解いただけるのではないだろうか。

☆☆☆☆☆ A.ノーラン『キリスト教以前のイエス』 篠崎榮訳 新世社'94(原著'74) (ドミニコ会に属し、南アでアパルトヘイトに反対し闘った神父。イエスを絶対視し過ぎているきらいはあるが、カトリックには珍しく護教的立場を排し、一切の権威を否定したイエスが、なぜ十字架で死んだのかという真実に迫っている。ラディカルだが、お行儀はよい。)

☆☆☆☆ 田川建三『イエスという男〜逆説的反抗者の生と死』 三一書房‘80 (私はこの本で、キリスト教信仰ががらりと変わった。『書物としての新約聖書』 勁草書房も参考になるが、やや独善的。細かな字で700頁超と中身は濃いが、定価8000円では、一般人にはなかなか手が出せない。)

☆☆☆ 荒井献『イエス・キリスト』人類の知的遺産12 講談社'79  (東大教養学部教授、ICU=国際基督教大学を首になった田川建三には、えらく攻撃されているが、逆恨みか? 『イエスとその時代』 岩波新書 '74は、読み易く初心者にもお薦め。律法のみならず、神の権威も持ち出さなかった人間イエスを明らかにしている。他に『イエス・キリストを語る』  NHK出版 '93等があるが未読。)

☆☆☆ 滝澤武人『マルコの世界〜イエス主義の源流』 日本基督教団出版局 '01 (以前の号で紹介した。北大文学部卒、聖公会の桃山学院大教授、『人間イエス』 講談社現代新書 '97も、魅力にあふれたイエス像を提示)

☆☆ 橋本左内『人の子イエス〜その人間解放の生涯』 日本YMCA同盟出版部 '72 (著者は札幌で牧師、教師をしながら、平和運動に関わっていた。革命家としてのイエス像。『イエスとマルクスの真実』 ブロンズ社 '81という著作もあるが、マルクス主義への批判的態度には欠ける)

☆☆ 赤岩栄著作集第9巻『キリスト教脱出記ほか』 教文館 '70 (イエスの非神話化を試み、日基教団のメソジスト系教会で牧師在任中これを書き、コミュニスト宣言をして日本共産党にも一時入党した。田川建三が主宰していた雑誌『指』同人でもあった。『イエス伝』 月曜書房'51 では、まだ余りラディカルさはない。)

☆☆ 木田献一ほか『人間イエスをめぐって』 日本基督教団出版局 '98 (預言者、農民・職人、治癒者、フェミニスト、悪人、詩人、覚者としてのイエスを、各分野の専門家が、浮き彫りにしている。)

☆ 遠藤周作『イエスの生涯・キリストの誕生』 新潮文庫 '82(初刊は'73と '78) (小説『沈黙』の著者ならではの、日本人にも受け入れられやすいイエス像、カトリックらしさもある。旧約の完成者としてのイエスを否定しているが、初期教団誕生の視点に、ラディカルさは乏しい。)

選外 八木誠一『イエス』  清水書院 '68 (ごく常識的なイエス像を知りたい方にのみ、お薦め。)

選外 三浦綾子『イエス・キリストの生涯』  講談社文庫'78 (北海道を代表する作家の一人で、プロテスタント穏健派。未読だが、小説『塩狩峠』とか他のエッセイを読む限り、ラディカルさは到底望むべくもない。)

論外 曽野綾子『私の中の聖書』 集英社文庫 '81 (イエス伝はないが、夫が三浦朱門なので三浦綾子と混同する人が時々いるので挙げておく。夫婦共々超保守的カトリックの文学者にして自民党政治に深く関与、思想的にはカトリックというより完全なファンダメンタリスト、しかも天皇主義者、さらにあのいかがわしいセックス教団の統一協会=世界基督教統一神霊教会=勝共連合系の文化人でもあり、反左翼なら何でもと節操がないが、これら全てこの夫婦の共通項とは恐るべき。曽野綾子は作曲家の黛敏郎なき後、天皇制国家主義右翼のリーダー的存在であり、日本財団=A級戦犯笹川良一の牛耳っていた元モーターボート協会の会長を務め、最近はボランティア活動を国民の義務にしようと企んでいる。イラク人質事件では高遠さんを徹底的にけなし、横山ノック知事のセクハラ事件では被害者の女性をけなした。聡明ぶっているが高飛車なだけの女である!)

論外 山本七平・れい子・良樹『山本家のイエス伝』 山本書店 '96 (聖書学者を装い、イザヤ・ベンダサンという偽名で『日本人とユダヤ人』や、『日本教について』というベストセラーも出した、天皇制国家主義者とその家族。聖書を用いて、いかに日本人は優れているかを述べるペテン師)

以下は全て未読だが、他に参考になりそうなイエス伝

土井正興『イエス・キリスト〜その歴史的追及』 三一新書 '82(初版'66) (ローマ歴史学者の目で見た革命家イエス。少し古臭いが、宗教家の色眼鏡なしだから、真実に近いかも。でも、キリストの名は不要。)
大貫隆『イエスという経験』 岩波書店 '03 (東大教授、聖書から異端として排除されたグノーシス派の研究者にしてシンパによる、斬新かつ大胆な福音書の読み直し。)
笠原芳光『イエス逆説の生涯』 春秋社 '99 (同志社大神学科卒、キリストではなかったイエスを問い直す衝撃の書)
高尾利数『イエスとは誰か』 NHKブックス'96  (日米の神学大で学び、『ブッダとは誰か』という本まで出している) 
松永希久夫『歴史の中のイエス像』 NHKブックス 
百瀬文晃ら『イエス・キリストの再発見』 サンパウロ・中央出版社 (上智大神学部のカトリック教授陣による最新の学問の成果)
J.クロッサン『イエス〜あるユダヤ人貧農の革命的生涯』 太田修司訳 新教出版社 '98 (あらゆる学問的知見を総動員してイエスの実像に迫る)
J.リッチズ『イエスが生きた世界』 佐々木哲夫訳 新教出版社 (当時のパレスチナ民衆の苦悩に根差したイエスの活動)
J.エレミアス『イエスの宣教』 角田信三郎訳 新教出版社 '78
同『新約聖書の信仰』 川村輝典訳 新教新書 (文献学・言語学研究による史的イエス探求の古典的名著) 
H.キー『イエスについて何を知りうるか』 浜野道雄訳 新教出版社 (広範な資料からイエスの統一像に迫る) 
M.ハンター『イエスの働きと言葉』 吉田信夫訳 新教出版社 (現代イギリス最大の新約聖書学者の労作) 
C.L.ミトン『イエス〜その事実と信仰』 木下順治訳 教文館 '80(原著'74) 
E.スヘリベーク『イエス〜一人の生ける者の生涯』 共訳 新世社 '94(原著'74) 
G.ボルンカム『ナザレのイエス』 善野碩之助訳 新教出版社 '67(原著‘61) 
E.トロクメ『ナザレのイエス〜その生涯の諸証言から』 小林恵一ら訳 ヨルダン社 '75(原著'71) 
G.ヴェルメシュ『ユダヤ人イエス』 木下順治訳 日本基督教団出版局 '79(原著'73) 
L.ショットロフ、W.シュテーゲマン『ナザレのイエス〜貧しい者の希望』 大貫隆訳 日本基督教団出版局 '89 
H.ブラウン『イエス〜ナザレの人とその時代』 川島貞雄訳 新教出版社'70(原著'69) 
D.F.シュトラウス『イエスの生涯』 岩波哲男訳 教文館 '97  (史的イエス研究の古典) 
E.シュタウファー『イエス〜その人と歴史』 日本基督教団出版局 '62
T.W.マンソン『宣教者イエス』 木下順治訳 日本基督教団出版局 '71(原著'53)
M.J.ボーグ『イエス・ルネサンス』 小河陽訳 教文館 '97 (現代アメリカにおける様々な史的イエス探求の紹介) 
選外 R.ブルトマン『イエス』 八木誠一訳 未来社'63(原著'33』(正統派神学者のものとしては、まとも?) 
選外 E.ルナン『イエスの生涯』 忽那錦吾訳 人文書院(人間イエスを名文で書いた古典的名著。過去に津田穣訳『イエス伝』岩波文庫、綱島梁川訳『耶蘇伝』三星社'21で出ていたが絶版) 
選外 A.シュバイツァー『イエス伝』 岩波文庫 '57(原著 1906) (ジャングルの医師としてノーベル平和賞をもらったが、本職は聖書研究。19世紀のイエス観からみればラディカル。オルガン奏者でバッハ研究家、生命への畏敬をモットーとするエコロジストでもあるスーパーマルチ人間) 
選外 矢内原忠雄『イエス伝〜マルコ伝による』 角川選書 '68 (戦時中に植民地学で東大総長にまでなった内村鑑三直弟子の無教会派。内村と同じ札幌農学校2期生で、同じくクリスチャン(クェーカー教徒)の新渡部稲蔵も植民地学が専門。『武士道』も著した新渡部は、反戦主義で知られるクェーカーとは思えないほど国家主義的で、矢内原はずっとリベラル。)
論外 B.スィーリング『イエスのミステリー〜死海文書で謎を解く』 高尾利数訳 NHK出版 (欧米ではベストセラーにもなったが、奇蹟を否定する余りイエスの復活も否定し、本当は十字架で死なずに70歳まで生きたとするトンデモ本)

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