イラク人質事件で分かったこと

  (ホームページの掲示板に、何回かに分けて書いてきた文章を、訂正加筆してまとめました。)

 北海道からイラクに渡り、危険を承知で平和のために活動していた2名を含む3名の日本人が武装民兵らに拘束され、あろうことか自衛隊を撤兵させるための人質となってしまった。最終的には後から別に拘束された2名のジャーナリストともども、無事に解放されることになったが、この事件は非常に後味の悪いものとなってしまった。彼らが解放されたのは、彼らを救うために自衛隊撤退を求めデモをした市民や家族の行動が、犯人たちの暴力を阻止し、イスラム教聖職者を犯人の説得に動かしたことによる。しかしこの事件で、日本政府は最後まで人質の解放を邪魔し続けた。よど号事件のトラウマがあるのか、ペルー日本大使館事件でゲリラを全員虐殺して人質救出に成功した前例があるからか、終始強気の姿勢を崩さなかった。一度は人質の解放を決めた武装グループも、日本政府が陰でおかしなことをやったために、なかなか解放することができなかったほどだ。小泉首相は何を血迷ったか、人質救出のためにアメリカに協力を求めるなどというバカなことをして、彼ら3人の生命よりもブッシュとの友情の方が、よほど大切だと思っていることを露呈したし、川口外相に至っては、犯人の逆鱗に触れるようなメッセージをアルジャジーラに送り、人質の生命を危険にさらした。現地入りした麻生副大臣なぞ、安全なヨルダンに行ってアルジャジーラの衛星放送を見ていただけ。日本にいても同じことで、全く役立たずだった。田中真紀子が外相でいてくれたなら、どんなにましだったことかと思う。唯一この事件で優れた対応をした(元)政治家が、箕輪登氏(元郵政大臣、元防衛庁政務次官)。マスコミでは無視されていたが、彼は人質の身代わりになるというメッセージを出していた。彼は、今回の自衛隊のイラク派兵に反対する訴訟まで起こしている。現役時代は、右よりの男かと思っていたが、なかなか骨のある男である。自民党には、まれにこういう信念をもった男がいるが、野党は本当にダメだ! 本当は自衛隊の派遣を決めた政治家こそ、彼らの身代わりとなって人質になるべきだったが、そういう政治家に限って意気地のないもので、自ら命の危険を冒してまでイラクに行こうという人間とは格が違う。
 人質解放の仲介をしたイスラム聖職者協会は、日本政府の行動は、人質解放を遅らせただけだと明言した。小泉は、武装勢力をテロリストと決め付け、テロリストの言うなりになることはテロを助長することだと言って、彼らを見殺しにしようとしていた。しかし、彼らはテロリストではなかったし、それが証拠に目的を達することなく人質を人道的に解放した。自衛隊を撤退させることは、テロや脅しに屈することではないし、逆に撤退させなければ、ますますテロが増えるのが現実である。軍隊は、恐怖によって人々を支配するだけである。テロには何の効果もないばかりか、確実にテロを助長する。自衛隊は、所詮軍隊である。復興支援など、形だけのものに過ぎない。国連は自衛隊の予算の何分の一かで、何百倍もの仕事を成し遂げていたのだ。自衛隊がイラクに行く理由はただ一つ、アメリカに協力するためである。アメリカがイラクでやっていることは、明らかな侵略だ。これ以上、米軍がファルージャでやったような無差別虐殺を許してはならないし、今回の人質事件はファルージャの虐殺がなければ起こらなかった。軍隊とは、所詮人殺しが仕事なのだ。そこには人道もへったくれもない。軍隊がある限り、平和は来ないということに、どうして人々は気付こうとしないのだろうか? 軍隊を必要としているのは、軍産複合体と、その代弁者であるタカ派政治家だけなのだ。軍隊がなければ無法地帯となり、治安が乱れると言うのか? では、世界最強のアメリカ軍を初め、数十カ国の軍隊が治安維持のために入り込んだイラクが、どうしてこんなに悲惨なことになったのであろうか! 自衛隊をイラクに派遣するという、アメリカの侵略行為に加担する行為自体が、全く誤った行動であり、テロリストの行動を非難するだけの資格が、日本政府にはない。でっち上げの理由で侵略したアメリカ政府こそ、真のテロリストである。いくら日本政府が「自衛隊は復興支援のためだけに行っている。」と繰り返しても、それは全く事実と違うのだから虚しく響くばかりだ。自衛隊は、イラクで米兵や物資の輸送も手伝っており、明らかな軍事行動をやっているのだ! 本当の支援をしているのは、武器を持たず人質となった人たちの方である。
 この事件で小泉首相ら日本政府は、彼ら3人を本気で救おうとしなかったばかりか、自作自演説を流したり、それがウソと分かり人質が解放されるや、彼らの自己責任などということを言い出し、人質を徹底的に悪者にした。救出直後、イラクでまた活動したいと涙ながらに話す高遠さんに対し小泉首相は、「あれだけの目に遭いながら、まだ迷惑かけるつもりなのか、信じられない。」というようなコメントを、いつもの怒り口調で話していた。街頭のインタヴューでも、中年の男達の反応は、「危ないところに行くのはよくない。」というようなものが多かった。
 私はテレビを見ていて、ふつふつと怒りが込み上げてきた。迷惑をかけているのは、どっちなのだ! 危ないところにしてしまったのは、誰なのだ! 自衛隊がイラクに行かなければ、こんなことにはならなかったのだ。小泉が自己責任などと言い出してから、マスコミまで同調して彼らをバッシングし始め、インターネット上では彼ら3人や家族のプライバシーをあばいてすさまじい攻撃を加え、彼らはイラクの武装勢力よりももっと恐ろしい世間の悪意にさらされるはめになってしまった。彼らの救出に20億円もの税金を使ったのは、もったいなかったと騒いでいるけれど、政府は20億円も使って救出したのでは決してなく、解放の邪魔をしただけだけだ。無駄を言うのなら、自衛隊の派遣こそ壮大な無駄である。戦争状態のイラクでほとんど何もすることができず、ただ閉じこもるだけのことに、何百億円も使っている。大体、自己責任と言うが、彼らが人質となったことは決して彼らの責任などではない。その責任は自衛隊を派遣しテロを誘発した日本政府にあり、その解決に努力するのは当然のことである。人質は、家族や市民には迷惑をかけたかもしれないが、国に迷惑をかけたなんてことを言うのは、筋違いもはなはだしい。国こそ、彼らに迷惑をかけたのである。国民のための国家ではなく、国家のための国民を求める時代が再び来つつあるようである。自民党の中には反日分子などということを言い出す奴まで出てくる始末で、こりゃ政府に反対するだけで、非国民にされかねない。彼らは命をかけてイラクに行き平和のために行動していたのに、よってたかって人質が悪いというような「いじめ」が始まっている風潮は、本当に心配である。
 アメリカの劣化ウラン弾反対の市民団体を立ち上げ、真実を見るためにイラク入りした18歳の今井紀明さんの行動力には、驚くべきものがあるけれど、彼の支えになっているのは、ガンジーの「あなたのすることは、ほとんど無意味だが、それでもしなくてはならない。なぜなら、それは世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないようにするために。」という言葉だと言う。本当にその通りだと思う。また私は、このようにも言おう。「世界は変わらなくてはならないけれど、その前に、自分も変わらなくてはならない」と。全く逆のことを言っているように聞こえるかもしれないが、私はガンジーの言っていることの意味は、こういうことだと思う。変わってはいけない自分と、変わらなければならない自分がある。世界を変えるためにすることは、無力のようだが無力ではない。勇気を持って自分を変えようではないか! 高遠さんは、自分を変えた。彼女は今井君とは違って、不良少女だったそうだ。彼女は、イラクで麻薬におぼれるストリートチルドレンのために、あのようにせずにはいられないのだ。それを非難することなど、誰にもできはしない。自分の命よりも、自分のことを待ってくれている恵まれない子ども達の命の方が、大切だと思っているのだ。それを、迷惑なことと平気で言う人間は、氷のように冷たい心の持ち主であり、ぞっとする。自分さえよければ、いいというのか!
 小泉首相、安倍幹事長、福田官房長官、石原都知事など、人質の責任云々を言っている連中は、人質たち自身が自衛隊派遣に反対し、戦争に反対していたことが気に入らないだけなのだ。はっきりそう言ったらどうなんだ。卑怯者ばかりだ。万が一、自衛隊員が人質になったりしたら、あんな風に自己責任などということを言い出すことは絶対になかっただろう。あのような戦争大好き政治家たちは、引きずり降ろさなくてはならない。
 最近、自衛隊派遣に反対するビラをポストに入れたり、トイレに反戦という落書きをしただけで、密告され逮捕され、不当に重い刑が科せられることが続いており、反戦運動があからさまに弾圧されるようになって来ている。憲法第9条も世論調査では改憲派が圧倒的となり風前の灯火であるが、これを改悪したら、日本は戦争への道に一気に突き進んでしまうだろう。戦争を密かに望んでいる政治家と資本家たちが結託し、イラクや北朝鮮を仮想敵国化して、マスコミもそれに同調して国民に恐怖をあおっている。我々は、冷静に真実を見つめ、人間の精神や、あらゆる生命と環境に対する破壊行為以外の何物でもない戦争を、絶対に許さないようにしなければならない。
 権力者は、不景気になると戦争を始める準備をする。国民に恐怖と憎しみを植え付けておき、いかにも国民の意志により戦争が始まったように物事を進めるのだ。最近の、北朝鮮に対する一方的な偏見に満ちた報道や、在日外国人が凶悪犯罪をたくさん起こしているかのような報道は、とても危険な徴候である。今の日本では、北朝鮮に好意的なことを述べようものなら、袋叩きにされかねない状況である。在日朝鮮人の女子学生が、街でチマチョゴリを切られたりするいやがらせが増えてきていることには、本当に憤りを感じる。罪もない弱い者に攻撃を加えるというのは、本当に卑劣な行為である。
 戦争が始まっても、権力者は戦場へと赴かない。戦場で死ぬのは、名もない兵卒や、とばっちりで死ぬ多くの市民である。罪もない民衆同士が、ただ憎しみのためだけに殺し合う。戦争によって利益を得る者達は、生命の危険を冒さないところで、戦争を誘導しているだけだ。どうして民衆は、権力者の謀略にまんまとはまってしまうのだろう。結局だまされて死ぬのは、民衆の方だというのに。
 今回、イラクで日本人が解放されたことには、イラク人が日本に好感を持っていたことが大きく作用していた。多くのイラク人は、原爆を落とされてもアメリカ人を恨まずに経済復興を成し遂げた日本人に対し、尊敬の念を抱いている。しかし、原爆を落とした行為自体は、許されざる行為である。アメリカ軍が、独裁者フセインを倒すためと言って、劣化ウラン弾やクラスター爆弾といった非人道兵器を使って無差別に市民を殺傷したことは、決して許されるべきことではない。湾岸戦争の時、イラクを攻撃した多国籍軍に、日本は最も多くの金を出した。それでも、軍隊を出すことはなかった日本に、諸外国は「金は出しても人は出さない」と不満を言った。(本当か?)そこで今回は、明らかな侵略戦争を企んだアメリカに諸外国にさきがけ賛意を表し、新しい法律まで作り日本は自衛隊を派遣した。しかし、イラク人はあの時に多国籍軍に入らなかった日本のことを、平和憲法を持つ国として尊敬してくれていたのだ。それなのに、ついに憲法をねじ曲げてまで自衛隊を派遣してしまった日本に対し、イラク国民は失望を隠せないでいる。
憲法第9条を死守し、憲法に違反し世界第3位の立派な軍隊となっている自衛隊は、非軍事組織にすべきだ。それこそが、世界に対する日本の貢献というものだろう。

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