自然流葡萄栽培のススメ

 ブドウは世界で最も多く栽培される果樹で、品種も数万種類を数え、えこふぁーむでも100種類を超える品種を栽培している。植物学的にも原種は一つではなく、大きく分類すればワイン原料ブドウやマスカットなどに代表されるヨーロッパ(ヴィニフェラ)種、ジュース原料として最適のナイアガラやコンコードなどに代表されるアメリカ(ラブルスカ)種、巨峰などその両者の雑種(日本ではこれが主体)があり、他にもアメリカとアジアに野生種が数十種あり、そのうち育種に利用されているものも少なくない。日本でも、ヤマブドウやエビヅルなど十数種が原生し、最近ではワイン用の育種に利用されている。
 一般に、果樹の無農薬栽培は難しいとされているが、ブドウの場合には世界中にある多様な品種の中からその地域に適したものを選択すれば、決して難しくはない。特に北海道では、アメリカ系品種の無農薬栽培は、きわめて容易である。本州でもアメリカ系の方が栽培しやすいが、特に北海道は原産地である北米東部の気候に類似しているので楽である。北海道の人が昔から慣れ親しんでいる、黒ブドウ(キャンベル)、白ブドウ(ナイアガラ)、茶ブドウ(デラウエア)などは、庭先での無農薬栽培が十分に可能だ。ただし、デラウエアは種無しにするために、一般には必ずジベレリン(ホルモン剤)を使う。この技術は日本特有のもので、世界的には薬を使わずに種無しになるブドウ品種がいくらでもある。北海道でも栽培しやすい天然種無しブドウとして、アメリカで作出された欧米雑種のヒムロッドやサフォーク・レッドという品種をお薦めしたい。一方、リンゴやナシ、サクランボといった果樹では、なかなか簡単には無農薬栽培ができない。少なくともリンゴを袋掛けせずに無農薬栽培することは、ほとんど不可能と言っても良い。
 もちろん一般の農家では、余市でもブドウに農薬を4〜7回はかけているし、本州では平均でも20回近く農薬散布している。ヨーロッパ系のワインブドウでは、余市でも12〜15回くらい農薬をかけることが珍しくない。リンゴの場合には、余市でも大体10回は農薬をかけているし、本州ではもっと回数が多い。このように農薬が必要な理由は、日本の気候に対応した育種が十分になされていないからに他ならない。ワインブドウもリンゴも日本で栽培されるようになってから、たかだか100年ちょっとである。ヨーロッパ系ブドウでも、日本に渡ってから1000年近くを経た甲州ブドウは、本州で十分に無農薬栽培が可能なほど、日本の気候に適応している。
 北海道でブドウを栽培する場合、注意しなければならないのは、夏の積算気温と、冬の防寒対策である。リンゴやサクランボならば、大概の品種が北見などオホーツク側での栽培も十分可能だが、ブドウの場合、かなり早熟な品種でなければ完熟しないし、積雪が少ない地域では、冬に凍害で枯れてしまう可能性も高い。余市でも、キャンベルなど寒さに強い品種を除いては、冬の間は棚から降ろして雪の下に寝かせて凍害を防ぐし、十勝の池田町では積雪が少なく気温も相当下がるので、ワイン用ブドウを冬の間は土に埋め、春にまた掘り出す作業をしている。最近作られたヤマブドウ交配種の清舞などは、この作業が不要なので期待されている。
 また、ブドウの栽培が他の果樹より楽な点として、1本で十分実がつくことと、台木を使わずに枝を挿し木するだけで、増やせることも挙げられる。リンゴやサクランボ、ブルーベリーなどは、他の品種の花粉が付かなければ、あまりたくさんの実が着かない。特にリンゴでは北斗など、花粉を全く持たない品種さえあるので、交配樹というものが必要になる。また、台木品種に接がないと、樹が大きくなり過ぎて管理しきれなくなる。ブドウも一般には台木を使っているが、この第一目的はフィロキセラという根につく致命的な害虫に抵抗性をもたせるためであり、フィロキセラはここ何十年か日本では発見されていないので、家庭で植える分には接木苗でなく挿木苗で十分である。
 果樹栽培で最も重要な作業は、ブドウに限らず冬の剪定である。ブドウの場合、極端な話これさえ完璧にやっておけば、夏の間の作業はほとんど不要である。リンゴやナシでは摘果(実すぐり)も重要な作業であるが、ブドウの場合は大概、芽掻きと言って初夏に少し伸びた枝を間引いてやるだけで十分である。剪定をうまくやっていれば、この作業もそれほどやらずに済む。剪定のコツは、若木のうちは余り切らないことで、大きくなるにつれて樹勢に合わせて調節するのだが、毎年同じ結果を維持するためには、その年に伸びた枝の大体95%くらいは切り落とさなければならない。剪定には、長梢剪定と短梢剪定という大きく二つのやり方があるが、簡単に言うと長梢剪定では強過ぎたり弱過ぎる枝を8割くらい根元から切り落とし、中庸な2割の枝を3分の1くらいに切り詰める感じ。短梢剪定では、全ての枝を2〜3芽残して切り落とす感じである。
 ブドウは棚で作るものという感覚が日本にはあるが、北海道でも増毛などでは昔から地面に這わせるような作り方があったし、ワインブドウは垣根栽培が主流になっている。アメリカ種も垣根栽培が十分可能であるが、密植になるため、剪定や芽掻きに相当手間をかけなければ良いものが成らない。できれば棚を作るのがよいが、家庭で楽しむならヤマブドウのように木に絡ませるのも一つの手かもしれない。

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