邪鬼祭
十月の鶏頭の匂いは私の気持ちを少しも落ち着かせる事も
無くただただ真っ赤な夕暮れに吸い込まれるだけでありま
した。道端には彼岸花が咲き乱れ、祭の時期になると頬に
あたる風も冷たくなります。黒いマントを着こんで夜を散
歩すると天狗に逢ったのですが、怖くなり誰に届くか判ら
ないがとりあえず叫んでみるのです。私の喉にあの毒々し
い彼岸花が咲くまで叫んでみるのです。あの路地の墓地裏
には私の喉に咲けなかった彼岸花の種子が寂しく落ちてい
ました。ライ病に苦しむ老人たちの背中に漂う重苦しい空
気にむせび泣いてる人を知っているのだが、どうもその人
が、その路地に種を蒔いているみたいなのです。口が聞け
ないみたいに吃りながら私に話かけます。「邪鬼祭までに
彼岸花をこの路地に植えなくてはなりません」そう言いな
がらその人は黙々とただ腐りかけの肉を食べていました。
本当なら私が責任を取って花を咲かせなくてはいけないの
ですが、頭の中に違う人が入ってくるので造花を買ってき
て道にばら蒔くことにしました。もしそれが間違った行為
だとしても少しも怖くありません。だってもうそれは、六
年も前の事ですから。邪鬼祭は三年前に無くなってしまい
ました。それが残念でなりません。
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