オペラ座の怪人

 あまりにも有名なミュージカル作品ではありますが、原作は小説でして、過去に何度か映画化もされております。
 アンドリュー・ロイドウェイバー氏作曲によるミュージカルが有名すぎて、映画のほうの知名度は無いに等しい感じ。
 ですがこの度、目出度く再度映画化。それも、過去の映画作品とは全く違った、アンドリュー・ロイドウェイバー氏による映画製作なのて゜す。そう、勘の良いアナタならもうお気づきでしょう。
 すなわちこの作品は、映像版ミュージカルなわけです。数々の大ヒットで儲けたウェイバー氏が、映画制作権を買い取ってまで、自作のミュージカルをより完成されたものに仕上げたかった、っつーわけですね。
 数年前、ロンドンで舞台を観たワタシは、素晴らしい歌には感動したものの、ファントム役が小太りだったため作品に陶酔できず、加えてクリスティーヌも全然美人じゃなかったこともあり、説得力がひとつも感じられなかった記憶がありまして、この2点をクリアし、なをかつ歌も完璧な役者をキャスティングすることは不可能だろうと思いました。
 しかし、ウェイバー氏は映画にするという方法で、それを実現させてしまったのです。映画なら、歌は後録りでOK。劇場内に響き渡るような声量も要らず、とりあえず高音が綺麗に出せればいいのよね。それなら、歌えて若い美女を捜すことも可能なわけ。
 世の中にはいるんですね。若くて歌える女優さんが。なんでも、クリスティーヌ役の彼女は、7歳の時からメトロポリタン劇場でオペラを学んでいたそうです。そんでもって、数々の映画にも出演。新しいところでは「ディ・アフター・トゥモロー」の息子のガールフレンドをやった娘だそうです。
 肩の開いたドレスが似合い(エリザベートみたいざんす)、か細いけれど澄んだソプラノでアリアを歌い上げちゃいます。この声量じゃ舞台は無理だな。なんて思えども、映画だからOK。
 とっても美人で、歌えるし、クリスティーヌは文句なしの出来映えでした。ファントムが恋してしまったのも判るわ。
 恋人役のラウルも、そこそこ二枚目で、歌も甘い雰囲気で、まずまず良かったです。
 そしてファントム。ロック調で歌う感じはエリザベートの死神トートを彷彿させますが、なかなか魅力的でした。しかし、ワタシとしてはもっと耽美的な美形を希望。あんなに野性的じゃ、神秘性がないし、彼がそもそもオペラ座に棲むキッカケになった出来事に対する説得力がないと思う。
 醜くないほうの顔が、天使のように美しければ、それに取り憑かれて手をさしのべてしまう、愚かしい心理も判るというもの。
 チュアート・ダウンセント君とか、ヘイディン・クリスティンセン君とか、あの辺の耽美的な要素のある美形にやって欲しかったな。線が細いでしょ。闇に隠れてクリスティーヌをストーカーしても、ちっとも不思議じゃないでしょ。地下室に蝋燭敷き詰めて自己陶酔していても、違和感ないでしょーーーっ。
 これが、たくましくて男っぽい香りが漂う野性的な男前だとしたら、そんな根暗な真似をせず、力ずくで奪いに行ってしまいそうじゃない。いかにも太陽の光が似合いそうな、タフガイなんだよ。そもそも地下室を蝋燭で飾るイメージないって〜。
 
 なーんてのは、あくまでも勝手な妄想なんですが、タフガイのファントムも、決して悪くはありません。男をビシバシ感じさせるオスのフェロモン発しまくりで、クリスティーヌを誘いまくり。
 歌声でクリスティーヌの性感を刺激するような雰囲気を醸しだし、麻薬に溺れるようにファントムに惹かれていくクリスティーヌ、という設定のようで、それがとてもよく現れてました。
 舞台より制約が少ない映像の世界では、どんな豪華なセットも仕掛けも思いのまま。絢爛豪華なオペラ座のセットや、巨大なシャンデリアはお見事。プロローグで、シャンデリアが宙を昇り、荒廃した劇場が蘇る場面はまさに秀逸。超有名なあの曲が実に効果を盛り上げて、のっけから観客のハートを揺さぶりかけます。
 クリスティーヌを初めて地下室に連れていく場面も見事。次々に浮かび上がる蝋燭に彩られた、妖しくも美しい場面になってました。そしてクライマックスの「ドン・ファン」の舞台シーン。ドンファン役とすり替わったファントムとクリスティーヌのデュエット。しっかりと互いの目を見据えて歌い上げる様は溜息ものです。
 中盤のマスカレードの華やかさ、とにかく、豪華の一言。過去の映画で描かれたホラー的要素は限りなく削られ、あくまで甘く、切なく、美しい。
 この映画では、ファントムが何故オペラ座に棲むようになったのか、という過去のエピソードが出て来ます。それがなかなか興味深く、そのエピソードで映画が出来そうなくらい。
 とにかく、ミュージカル「オペラ座の怪人」がお好きな方はもちろん、美しいもの、豪華なものがお好きな方も楽しめます。
 オペラ座の豪華なセットは素晴らしいです。現在のオペラ・ガルニエ宮とは違う建物ですが、豪華絢爛ぶりは同等。劇場に一歩踏み入れた雰囲気は、本当に映画と同じでございます。

 で、この作品を見ての結論。ぶっちゃけ、早い話が男は顔。全編とおして、それを切々と訴えているのではないかと。あれ?違うの??アタシってば、ヒンシュク買ってる?
 だってさぁ〜、クリスティーヌってば、仮面を付けていたファントムには案外いいカンジで近づき、しなだれ顔で「あなたのお顔が見たいわ〜」とか甘い声出してたのに、素顔を見た途端に豹変じゃん。そして、結局はハンサムなラウルの元へ。
 長い時間をかけて心を捉えても、顔を見た途端に後ずさり。嗚呼、哀しい現実なのよ。ファントムってば本当に哀れ。
 そんな作品だよね、これ。違うの・・・?(大汗)

 でもワタシ、ファントムの過去に非常に興味アリでして、早急に某アマゾンさんから取り寄せしたいと思います。あるらしいのよ、ファントムさんの過去本がっ。
 醜くないほうの顔をとびっきりのお耽美系美男に置き換え、思う存分妄想に走らせて戴こうかしらっっ。ほほほほ〜