「やあ、キラ」
犬のいる生活3
・・・・・・・俺は今、かなりおもしろくない。
別にキラが構ってくれないからとか、そういうわけじゃない。
仕事している間だってちゃんと留守番してるし、キラが家にいても四六時中相手してくれているわけでもないから、
今だって普段と変わらないはずだ。
なのに、何故俺がひどく不機嫌なのかというと。
「明日で良かったのにー」
「そう言って明日渡したら絶対忘れるだろう。いいからさっさとやる」
・・・・こんな夜中にいきなりやってきた失礼な客のせいだ。
それに今の時間、本当ならテレビを見ているキラの膝に乗ってブラシをかけてもらっている筈だったんだ。
それなのにコイツがいるから、俺は全然構ってもらえない。
しかも何故だかわからないが、このままではキラが取られそうな気がする。
「そう言えば犬飼ったんだな。名前は?」
「うん。シン、って名前なんだ。この前捨てられていたのを拾ってね」
キラにおいで、と呼ばれて無視するわけにはいかず、あえて遠回りをしてキラの足元に行く。
なんでかって?まっすぐ行ったらあの失礼な客に触られちゃうかもしれないだろ!?
「・・・・・もしかして俺は嫌われているのか?」
お、なかなか鋭いじゃないか。
「あんまり人見知りする子じゃないんだけどね」
俺を抱き上げて困ったように笑うキラに少々胸は痛むけど、これだけは譲れない。
「・・・・ぐぅ・・・・るるるる・・・」
『そろそろ帰ったほうがいいんじゃないですか』
もちろんコイツに低く唸ることも忘れない。
「こら、シン!」
「ぎゃうっ!?」
『いてっ!?』
すると、べしっ!と後ろから頭を叩かれて、俺はキラの膝の上から落ちてしまった。
「あ、コラ!!」
これ以上怒られたくないと慌てて居間を逃げ出して、キラのベッドに潜り込む。
「ごめん、なんだかあの子機嫌が悪かったみたい」
「いや、俺のほうこそこんな遅くにすまなかった」
しばらくすると、キラたちの声が遠ざかっていく。
ようやく帰るのか・・・と思いながら、俺は毛布の中で目を閉じた。
『・・・・・で、一体何の用なんだよ』
あれから数日後、キラが仕事に出かけた後、俺は窓際で日向ぼっこをしていた。
暖かい春の陽気に、ウトウトとしていると、窓からカツカツと何か引っかくような音が。
ウザイなーと見上げたら、先日出会ったレイとかいう奴がうちのベランダに侵入していたんだ。
『いや、単に寄っただけだ』
暇つぶしで人(犬?)を起こすな!!
俺は一つあくびをして、体を震わせる。
『それよりもいいのか?』
『なにがだよ』
意味深なレイの言葉に俺は目の前の黒猫を睨む。
『お前の主人、ナンパされているが。しかも男に』
『それを早く言え!!』
俺は慌てて飛び上がって窓の鍵を外す。
前足で窓を開けてベランダに飛び出したが・・・・ナンパ男どころか、キラの姿さえ見えない。
『冗談だ』
・・・・・・・おい(怒)
『ていうか、何で堂々と人の家でくつろいでいるんだ!?』
『気にするな。俺は気にしない』
少しは気にしろ!!
しかしレイは動く気配すらない。
部屋の中ですっかりくつろいでいる黒猫にブツブツ文句を言いながら俺も部屋に入り、窓を閉める。
『で、何か用があったんじゃないのか?』
『ああ』
『・・・・・・・・・』
『・・・・・・・・・』
あ゛あ゛あ゛何でコイツは会話のキャッチボールが出来ないんだよ!?
俺は口を閉ざしたレイにイライラして、テニスボールをやつあたりのように噛み付いた。
『シン。お前、お前の飼い主のことが好きなんだろう』
・・・・・・へ!?
『時々やってくる男に嫉妬して威嚇したり、トイレの中までついて行きたがったり・・・・
犬は飼い主に忠誠を尽くすと言うが、さすがにこれは忠誠心とは言えないだろう』
な、なんでそんな事まで知っているんだ!?
『そ・・・そりゃ好きだけど。命の恩人だし世話してもらっているし』
・・・・・ておい!なんでそこでため息をつくんだよ!?
『わかっていないな。だから子どもは困る』
(む・・・・・ムカツク・・・っ!!)
俺はそのムカツク頭に噛み付いてやろうかと歯軋りする。
『ではなんで先程お前の主人がナンパされてると聞いて何故飛び出した?
何故他の男と話しているだけでむかつくんだ?』
『そ、それは・・・・・・』
・・・確かに、俺は「飼い主」としてキラを見ているだけじゃないのかもしれない。
あの男がキラと話しているところをみるとムカムカしてどんなことしても引き離したくなるし、
発情してフェルモンぷんぷん出しているメス犬よりもキラの傍にいたい。
この前、散歩で会ったスティングやアウルだってそんなことまったくないって言われた。
悔しいけど、レイの言うとおりだ。
俺は『飼い主』としてのキラではなく、『恋人』としてのキラを望んでいる。
でもそれは絶対に適わない。
『・・・・だからって、俺は犬でキラは人間で。絶対無理じゃんか』
俺の尻尾は力なく垂れ、レイに倣ってごろりとフローリングに横になる。
その時、レイの金色の目がキラーンと光った。
『・・・・・無理じゃない、と言ったら?』
・・・・・・はぁ!?
続く