深い深い森の中・・・そこには小さな町があった。
主に小麦の栽培と酪農を営み、ただゆっくりと時間が流れていく。
珍しいところと言えば、町よりももっと森奥にある古城のみ・・・。
しかし、その町でとある大事件が起こっていた。
ヴァンパイアの苦悩
〜宇宙(そら)より愛を込めて〜
「またやられた!!」
アスランが町にやって来た時、一番に聞いたのは男の悔しそうな声だった。
「あんたんところもこれで3頭目か・・・」
「ああ、この前隣の牧場もやられたし、今度は牛だけじゃねえかもな」
酒場で話している男たちの話題はただ一つ。
最近、放牧していた牛が夜中のうちに殺されるという事件が勃発していた。
しかもその殺され方が尋常ではない。
牛の死骸から血が一滴も残されていないのだ。
つまり失血死。
「きっと城のヴァンパイアの仕業に違いねえ」
「ヴァンパイア!?」
男たちの会話をなんとなく聞いていたアスランが、その名を聞いて立ち上がる。
「な・・・なんなんだあんた」
「俺はヴァチカン市国キリスト正教会のハンター、アスラン・ザラだ。
この町にヴァンパイアがでるのか?」
日が沈み、宵闇が辺りを包みこむ。
暗闇は恐怖を呼び起こし、徘徊する魔物たちを恐れて町の人々は家に閉じこもる。
ギ・・ギギ・・・・ギ・・・
古城の地下に、木がこすれる音が響き渡った。
広い広い地下室に、ポツンと安置された棺のふたが、今まさに開け放たれた!
「お・・・・おなかすいた・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・。
棺から出てきたのは、栗色の髪、アメシストの瞳に、申し訳程度に生えた牙。
町の人々から恐れられている吸血鬼キラは、・・・・・腹をすかせていた。
フラフラと立ち上がり、誰もいない厨房に入る。
一般的にヴァンパイアというものは、人の血を飲むものである。
しかしキラは他のヴァンパイアとはかなり変わっていた。
まず彼は血を吸う事ができない。
何となく生理的に受け付けないのだ。
まあ彼の体はかなり燃費がよく、栄養はトマトジュースで事足りる。
ただ、血を吸わないせいか怪物の身のせいかわからないが、ひどい低血圧だった。
本来ならば精力的(?)に獲物を求めて毎晩町を徘徊するのだが、起きるべき時刻になっても起きられず、
結局朝になってしまい、またまんじりと棺で過ごすのだ。
性格は温和でヴァンパイアにあるまじく、血を吸わないので下僕もいない。
キラはヴァンパイアの中でも異端の存在であった。
しかし、5世紀近く生きているキラにとって、それは当然の事であり、どうでもいい事だった。
彼にとって問題なのは、
「あ・・・・・トマトジュース賞味期限切れてる・・・」
好物のトマトジュースの有無だけなのだから。
一匹のコウモリが、町のはずれの木に止まる。
その瞬間、コウモリは人の姿へと変わった。
キラだ。
腰につるした皮袋の中の残金を確認し、町の中心部へと足を運ぶ。
目指すは町の中心部にある雑貨店。
その店は珍しく、夜中までやっているのだ。
「こんばんはー」
礼儀正しいヴァンパイアだ。
「おう、いらっしゃい」
店主は顔なじみの客に白い歯を見せる。
しかし、その笑顔が固まった。
「?」
キラは後ろを見つめて動かなくなった店主を不思議に思って後ろを振り向く。
そこには一枚の鏡。
鏡に映っているのは店主ただ一人。
「あ」
そう、ヴァンパイアは鏡には映らない。
「ヴァンパイアだー!!」
勝手口から飛び出して店主が叫ぶと、静まりかえっていた家の灯りが一斉につき、
男たちが手に手に武器を持ってキラのほうへ襲ってくるじゃないか!
「ヤ、ヤバッ!!」
その状況に焦って店を飛び出し、人の気配のない道を逃げていく。
「あそこだ!!やっぱり牧場のほうへ逃げていくぞ!!」
(やっぱりって何!?)
全然身に覚えのない事で追いかけられ、キラの頭の中は疑問符が大量に浮かぶ。
今まで何度も町に下りてきたが、一度もバレたことがないのに、何故いきなりバレたのか。
そう。それもこれもヴァンパイア退治のエキスパートであるアスランの仕業であった。
夜、ヴァンパイアが出そうな所や、夜遅くまでやっている店に鏡を置くように指示した。
ヴァンパイアは鏡に映らない。
そんなアスランの事など露知らず、町にやってきたキラが見事見つかったのである。
「待てコラァ!!」
しかし、キラは自分が町の住人に何故追われているのかまったくわからない。
わからないのも当然だ。
まったくの濡れ衣なのだから。
「どどどどうしようっ!?」
右も左も後ろも自分を追う人の気配がする。
なので前に進むしかない。
・・・キラは自分がコウモリになって空に逃げれることも霧になって隠れられることもすっかり忘れていたのだ。
とにかく、遮二無二足を動かし、キラが出たところは、
「・・・・牧場?」
町の雑貨屋にしか用がないキラは、こんな所に牧場があるなんて、まったく知らない。
とにかく、身を隠す場所を探さねばと、疲れきった足を引き摺る。
いつも飛び回っている上に大して動き回らないツケがここにキた。
「!?」
その時、キラを照らしていた月の光がいきなり消える。
しかしキラの反応は遅かった。
頭上に気配を感じて見上げた瞬間、衝撃を覚える。
気付けば、地面に背中をしたたかに打ち、仰向けになっていた。
起き上がるよりも早く誰かが自分の上に乗っかられる。
そう、アスランだ。
「は、離せ!!」
キラは必死に暴れるが、アスランはまったく動じない。
しかも、彼の体のどこかに十字架を持っているのか、こみあげる見えない恐怖に涙目になる。
だがいつまで経ってもアスランからそれ以上のリアクションがない。(あっても困るのだが)
さすがに不思議に思い、アスランの様子を窺おうとした時、いきなり両手を掴まれた。
「君の名前は?」
「・・・・・・キラ・ヤマトだけど」
アスランの迫力にしどろもどろに答えるキラ。
これから退治するヴァンパイアの名前を聞いてどうするのだろうか。
「キラ・・・・・いい名前だ」
アスランは爽やかに微笑み、キラの手をさらに強く握り締める。
「俺はアスラン・ザラだ。ヴァンパイアハンターだったが・・・・」
彼はそこまで言って、自分の腰あたりを探ると、神の祝福を受けた(聖水で清められた)十字架を取り出した。
「う゛ーっ」
異端とはいえキラもヴァンパイア。
十字架を見て首がチリチリした感覚に襲われ、キラの大きな瞳からとうとう涙がこぼれる。
しかし、アスランの言葉はキラの想像を超えた。
「だが・・・・今日から俺はヴァンパイアになる!!」
「ぇえっ!?」
アスランをポーイと十字架を投げ捨て、自ら服をガッと脱ぎ捨ててキラの前に首筋をさらけだす!
「キラ、俺はお前に一目惚れだ。お前のためにヴァンパイアだろうが何にだってなってやる。
だから、俺を噛め!!そして吸え!!!!」
「ム、無理!!」
ぐいぐいと首筋を押しつけてくるアスランにキラは再び抵抗する。
飲めと言われて飲めるキラではないのだ。
「僕血が飲めないんだって!!」
キラは必死に顔を背ける。
「なら俺がお前の血を吸う!」
「え・・・ちょっと待っ・・・・痛たーーーーーーーー!!」
恋に狂ったアスランはキラの白く細い首筋に噛み付いた。
が、所詮は人間の歯。キラの皮一枚食いちぎることが出来ず、ただ歯形が付くのみ。
しかし白い首筋に歯形をつけ、涙目になったキラは・・・ひどくエロティックに見える。
「キラ・・・・いい?」
「何が!?」
アスランが自分に何の許可を求めているか全然理解できない。
だが、そのアスランの言葉の意味を、キラは身をもって理解することになる。
「ちょっアスランなんで僕のお尻触んの!?」
「何でって、可愛いから」
キラの当然の疑問をさらりと流し、キラの服をどんどん脱がしていく。
身の危険(先程とは違う意味で)を感じたキラは、もう一度抵抗を試みる。
その時、キラは信じられないものを見た。
「・・・・・・UFO・・・・・・・」
アスランは背を向けているので気付かないが、キラは見てしまった。
外に放牧されている牛がUFOから出される淡い光に包まれ、どんどんミイラ化しているのを!!
(きゅ・・・・吸血鬼だってあんな吸い方しないから!!)
「アスラン!!後ろ!!後ろがキャトルミューティレーションのUFOで!!」
混乱しているのか、文法が滅茶苦茶だ。
しかしキラもアスランに後ろを振り向いて欲しくて必死に主張する。
「キラ、そんな未確認飛行物体ごときで俺の気を引こうったって無駄だよ?」
「ちーがーうー!!(泣)」
まったく話を聞かないアスランから残る衣服を守りながら、心から涙するキラであった。
次の日、村の牛は全滅してました。
終わり
こんなことばっかり考えてます。
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