第12条 貴族の位を持つ者は貴族の位を持たない家の者との結婚は許されない。
Gloly knight!!3
エルスマン家次男、ディアッカ・エルスマンは自らを取り巻くすべての状況に不条理を感じていた。
何故自分は次男に生まれたんだろう?
何故自分は騎士団に入団したのに奴のサポートに付かなくてはいけないのだろう。
何故自分はザラ家の中庭でウロウロしているのだろう。
そして・・・
「おい・・・・なんで俺だけアスランを探さなきゃならないんだよ!?」
「え?どうかしました?」
ディアッカにとって一番の不条理の原因は、若草色の髪を持ち、優雅にアフタヌーン・ティーを楽しむ少年、
ニコル・アマルフィーだった。
「パトリック様からアスランの奴探すように一緒に命令されたろ!?
なのに何で俺だけ探してるんだ!?」
1時間前、舞踏会の打ち合わせがあるのに、いきなりアスランが姿を消した。
今回のはただの舞踏会ではない。
アスランの婚約者を決める大事なパーティーであった。
そのために、ザラ家当主パトリック・ザラはディアッカとニコルを呼び出した。
彼らは騎士団に入団したころからアスランとは気が合い、仲がいい。
その上、身分も申し分なく、アスランがザラ家の当主になった際には直属の近衛兵として活躍するだろうと、
今からアスランの補佐を勤めている。
しかし、補佐といっても何のこともない。
狩りやパーティーの時にくっついているだけで、後は他の騎士たちと一緒だ。
そしてアスランが何か厄介事を起こした時のフォローもこんなふうに彼らに回ってくる。
「別にいいんじゃないですか?どうせ怒られるのはアスランだけですし」
ディアッカの怒りもどこふく風で、ニコルはさらりと流してしまう。
「もうすぐ婚約者も決まっちゃうし、最後の自由を楽しみにでも行ったんでしょう」
「あいつが見つかんないうちはミリィをデートに誘えないんだよ!!」
何もディアッカだって最初から真面目にアスランを探していたわけではない。
今のうちにと片思い中のミリアリアをデートに誘ったのだが、
『やーよ。パトリック様に用事を言いつけられた人とは行きませーん』
と、にべもなく断られたのだ。
メイド達の情報網もなかなか馬鹿に出来ない。
まあ、裏を返せば『アスランが見つかればデートしてもいい』と勝手に解釈したディアッカもディアッカだが。
(ディアッカがイージスがいないことに気付くのはいつでしょうねぇ・・・)
ニコルは厩舎からアスランの愛馬、イージスがいないということに気付いていた。
つまり、もう城内にアスランはいない。
しかしいつまでもグルグル城内を探し回るディアッカがあまりにも滑稽で、
彼が気付くまで黙っていようと、ニコルは紅茶をすすった。
神棲国は他国に比べ、かなり広い領土を誇る。
しかし、その土地のほとんどが未開発で、国民たちは自然の間に沿ってつつましく暮らしている。
そのために地図を作ることがままならず、誰も知らないような場所がいくつも点在していた。
そんな場所の一つ・・・“湖”に、キラは愛馬ストライクと遊びに来ていた。
キラは別にジュール家の館に閉じこもっているわけではない。
健康な体をやっとの思いで手に入れたキラは、こうやってちょくちょく館を抜け出し、国中を見て回っていた。
基本的に領民同士の結びつきは強いが、他の領民たちとはほとんど接点がなく、あまり興味がない。
その為、キラが1人ふらっと遊びに出ても、他の領の人間だろうと大して気にしないのだ。
本来、ジュール家の男子であるキラの年なら騎士団に入っているはずだが、今更「自分は男です」とは言えない。
それはいいことにキラは愛馬ストライクとともに、かなり自由に遊びまわっていた。
「ストライク、ここで待っててね?」
そう言って首を叩くと、愛馬はわかったとばかりに鼻を鳴らし、足元の草をはみ始める。
キラはその傍らで服を脱ぐと、下着のまま、おもむろに水の中に入っていった。
誰も知らないその“湖”は湖底が見えるほど透明で、水面はキラキラと太陽の光を反射している。
キラのお気に入りの場所だ。
先程まで化粧を施され、香水を振り掛けられた体をとにかく早く洗い流したかった。
とても湯が入るまで待ってられない。
ゆっくりと湖の真ん中まで泳ぎ、立ち泳ぎをしながら顔を洗う。
そうやってキラが水遊びに夢中になっていた時、キラは気付かなかったが馬の足音が近づいてきていた。
「・・・・馬・・・・?」
赤毛の馬は首を湖のほうへ向け、ゆっくりと坂を下りていく。
アスランだ。
父、パトリックに今回の舞踏会で婚約者を決めると言われ、つい城を出てきてしまった。
別に婚約に反対するというわけではない。
そしてニコルが言ったとおり最後の“自由”を楽しみに行くわけでもない。
王家であるザラ家の長男として生まれ、教育され、そして次の舞踏会で婚約者が決まる。
だがアスランは舞踏会の打ち合わせをさぼるということで、初めて父に反抗した。
多分最初で最後であろう抵抗だが、特に目的はなくイージスとともに森に来てしまった。
後から父や、フォローを任されているあの2人に文句を言われるだろう。
そのことを考えると、少々自分の浅慮に頭痛を覚えるが出てきてしまったものはしょうがない。
それよりもアスランは湖のほとりにいる白馬が気になっていた。
鞍をつけているが、つながれてはいない。そして周りに人の姿はないのに、大人しく誰かを待っている。
赤毛のイージスとは違った白馬の美しさに興味を惹かれ、近くに寄ってみた。
白馬は顔をこちらに向けたが逃げる様子はない。
「おまえ・・・誰を待っているんだ?」
イージスを降りたアスランが微笑みながら白馬の首を叩くと、ブルル、と鼻を鳴らして顔を湖へ向ける。
それと同時にアスランも湖の方向を見ると・・・・
「・・・・・誰?」
濡れた服もそのままに、湖のほとりに立っていたのは絶世の美少女だった。
濡れた髪は光に反射してキラキラ光り、服は皮膚に張り付いていて裸よりも艶を帯びている。
キラがストライクの近くに誰かいることに気付き、湖から上がってきていたのだ。
「・・・・すまない!!」
キラの姿を認めたアスランは、顔を真っ赤にして慌ててイージスに飛び乗る。
そこでキラは彼が自分を女だと勘違いしたことに気付いた。
「ちょ・・・・ちょっと待って!!」
確かに自分は女顔だし、実際ジュール家の長女なのだが今現在は化粧も何もしていない。
見たことがない顔だから他の領の住人でもう彼とは会わないだろうが、このまま誤解されたままというのもキラのプライドが許さないのだ。
「ハッ!!」
アスランはイージスに拍車をいれて、慌ててこの場を立ち去ろうとする。
しかしそうは問屋が卸さない。いや、キラが許さない。
「ストライク!彼を止めて!!」
言うが早いか、キラ自慢の愛馬は首をぐいんと伸ばしてアスランの襟首に噛みつく。
「なっ!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・ストライクに悪気はない。キラの命令どおりに彼を止めただけであるだけで。
ただ結果的にアスランを馬から引き落とし、思いっきり彼の背中を地面に叩きつけていたというわけだ。
「・・・・・・」
思わずキラは頭を抱えてしまう。
目の前には、背中を酷く打って起き上がることも出来ないアスランと、誇らしげにこっちを見ているストライクが。
(・・・・助けてイザーク!!)
この光景に、彼はこの場にいない兄に思わず助けを求めてしまったのだった。
続く
馬の描写が多いのは私が馬好きだからです。
ちなみに
赤毛:栗毛と言われる毛色(明るい茶色)よりももっと赤みがかかっている毛色。
白毛:芦毛とは違って地肌がピンク。芦毛は地肌が黒で始めは黒っぽくて年をとると白くなる。(最初から白も)
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