時間は少し戻る
キラたちがアンドリューが拠点としているホテルに入った後、ガロードはそのホテルの近くの横道で静かに何かを待っていた。
ちらり、と視線を走らせると向こうからとある会社名のロゴが描かれているトラックが走ってくる。
ここらの道は所狭しと露店が並び、通行人が多いためスピードはかなり落としている。
ガロードは何のためらいもなく、そのトラックの前に飛び出した。
「おーい!!止まってくれ!!!」
両手を広げ、道のど真ん中で通せんぼをしたガロードに、トラックは止まらざるを得ない。
彼との距離がちょうど30cmのところで、トラックが止まる。
そのことを確認したガロードは、すばやい動きで運転席に駆け寄った。
「なんなんだぁ?一体」
明らかに迷惑そうな顔をした運転手が窓から顔を出す。
しかしガロードはそんな運転手の表情など意に介さず、必死な形相で運転手にこう迫った。
「このトラックにはブルーコスモスが爆弾を仕掛けたらしい。死にたくなければ車を降りろ」、と。
この言葉を聞いた運転手は顔を青ざめ、慌てて車から降りた。
その瞬間を狙ってガロードはするりと運転席に乗り込み、アクセルを思いっきり踏み込む。
もし冷静に判断したならば、彼はガロードの言葉に騙されなかったかもしれない。
しかし、ガロードのでまかせを真実だと思わせる要因がある。
そう、この会社は技術協力という交換条件で、ザフトに物資を提供していたのだ。
もちろん表立って提供しているわけではないのだが、ザフトに物資を補給しているという事実は彼らにとって負い目であり、過剰なほど神経質にさせていた。
トラックの運転手が騙されたという事に気づいた時には、トラックは既に手の届かない遥か遠くへと消えていた。
Invader’s assertion
「お疲れ様でーす」
ガロードはトラックの後部座席に置いてあった作業服をちゃっかり着込み、見張りのザフト兵に挨拶しながら様子を伺う。
先程キラたちを乗せていったジープを見つけた。
流石にそこにはいなかったが、この広い敷地の中にいることは確かだ。
作業服を着ているおかげでガロードは誰にも咎められることもなく、キラの捜索をすることが出来た。
周りをキョロキョロ見回したり、侵入者らしく隠れながら進むとかえって目立つだろう。
ガロードは脱出経路を考えながらずんずんと廊下を進む。
「見たことない顔だな。前に出入りしていた奴はどうした?」、と聞かれることもしばしばあったが、
「俺、新人なんです。前の人は辞めちゃって」と平気な顔でガロードは答えていた。
あまりにもガロードの態度が堂々としているせいで、誰もが何故物資を運んできただけの奴がここでうろうろしているかということを失念してしまう。
しかし、一人だけこのあまりにも自然すぎて不自然なガロードの存在に気づいた者がいた。
「おい、なんでここでうろうろしているんだ。許可はあるのか?」
アンドリュー・バルトフェルドの優秀なる副官、マーチン・ダコスタだ。
「え、えっとぉ俺新人でよくわからなくてぇ」
はったりが通じそうにないダコスタに、ガロードはなんとか誤魔化すようににへら、と笑いながら頭をかく。
「ここは軍関係者以外立ち入り禁止だ。補給物資を置いたんなら、ここから早く出て行くんだ」
ダコスタは胡散臭げにガロードを上から下まで視線でチェックし、出て行くように促す。
心の中で舌を打ち、ガロードはとりあえず引き返すことにした。
ここで粘ってもかえって不自然だ。ガロードは渋々出口へと足を向ける。
ゴトリ
その時、後ろから鈍い音が聞こえた。
ぴたりと足を止め、ガロードが恐る恐る後ろを振り向くとちょうどダコスタと自分との間にある物を落としていた。
長年愛用している使い勝手のいい・・・・拳銃。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
無言で落ちている拳銃を見つめるガロードとダコスタ。
「侵入者だ―――――!!!!!」
ダコスタが声を張り上げ、腰の拳銃を引き抜いたと同時に、ガロードは拳銃を拾い上げ、全速力で今来た廊下を逃げだした。
ザフトの駐屯地ど真ん中なだけにザフト兵がどんどん集まってくる。
(もうどこ走ってんだかわからないんですけどーっ!!!)
せっかく入り口からの道筋を覚えながら歩いていたのに、思いもよらない非常事態に自分がどこにいるのかわからなくなってしまった。
「いたぞ!!」
「こっちだ!!」
前からも後ろからも自分を発見する声に阻まれ、ガロードは足を止めて周りを見回す。
「ええええええええーとっ!!」
かなり混乱する頭を抱え、ちょうど隣にあった部屋に飛び込み、鍵を閉める。
運良くその部屋には誰もおらず、ガロードはそのまま窓を開けて身を乗り出した。
「この部屋に入ったのは確認したのですが・・・・」
「窓から飛び降りたんじゃないのか!?見張りに連絡して捕まえろ!!」
ガロードは階下で自分を探す声を聞きながら、この後どうしようかとぼんやりと考えていた。
窓から身を乗り出した後、一瞬飛び降りようかと迷ったが、持ち前の身軽さで上の階のベランダによじ登ったのだ。
「さてこの後どうすっか・・・・ん?」
ふと、部屋の中から聞き覚えのある声がする。
カーテンの隙間をこっそりと覗くと、予想通りキラの姿がそこにあった。
傍には砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルドの姿も見える。
どうやら彼は今のところキラになにか危害を加えるようではないらしい。
ガロードはそのまま2人の様子を見ながら、二人の会話を盗み聞く。
しばらくすると、キラたちのいる部屋に人が入ってきた。
入ってきたのは少女と女性。
先程の服装ではなかったが、背格好からみて、先程キラと一緒にいたソースまみれの少女だろう、とガロードは推測する。
さらに4人の会話は続く。
(このままバレないうちに帰してくれりゃーいいんだけど・・・・)
ガロードはどきどきしながら息を潜める。
しかし、
「この戦争・・・・どうすれば終わると思う?モビルスーツのパイロットとして君は」
「どうして・・・・・それを・・・・」
ガロードの希望は簡単に裏切られた。
(おいおいバラすなよーっ!!)
あまりにも馬鹿正直なキラに、ガロードは思わず頭を抱える。
一気に状況悪化してしまい、キラたちは今思いっきり不利な立場にある。
しかもあたふたしている間に彼らはいつの間にかかなり追い詰められていた。
(とりあえず、“虎”が後ろを向いた瞬間に押し入って・・・)
ガロードは冷静にキラたちを助ける手立てを考える。
「戦争には時間制限もルールもない・・・・ならば、どうすれば勝ち負けが決まる?どこで終わりにすればいい?」
しかし、彼の手取りも思考も、アンドリューのこの言葉で強制終了させられた。
「戦争に勝ち負けなんてないんだよっ!!!!」
ガロードは気づけば、そう叫びながらキラが銃口を向けられている部屋にガラスをぶち破って、ど派手な登場を演出していたのだ。
我に返って周りを見回すと、口をぽかんと開けたキラに目を丸くしている金髪の少女、ぎょっとした顔で自分を見つめるアンドリューに、
何気に楽しそうな大人の女性・・・アイシャを除いて、それぞれこの信じられない状況に固まっている。
・・・・・日頃、ガロードは自分の向こう見ずな性格を諌められていたが、どうしてもこればっかりは治らなかった。
銃を構えることもキラたちをかばうことも出来ず、かなり大失敗だということには気付いていたのだが、ガロードは急に止まれない。
「おい虎ぁっ!!時間制限とかルールとか言ってるけどなぁっ、戦争はゲームじゃないんだよっ!!
どんなに戦争だなんだって言ったって、人殺しは人殺しだ!!あんた達みたいな大人がいるから戦争が終わらないんだ!!」
ズビシ!とアンドリューに指を突きつけるガロード。
「こんな戦争の真っ只中、殺らなきゃ殺られるってことぐらいわかっているさ。俺だって色々と人には言えないようなことだってしてるから。
だけど、これが本当にあんたらが望んだ戦争か!?敵を滅ぼしてまで戦って、本当に幸せになれるのかよ!?」
ガロードはぴたりと言葉を詰まらせる。だんだん頭に上っていた血が下がってきて、この状況に気付いたのだ。
「じゃあどうするの?」
未だこの状況に混乱して動けないキラとカガリとは逆に、アイシャが言葉を詰まらせたガロードをおもしろそうに促す。
(ええいっままよっ!)
ガロードは意を決し、口を開いた。
「そんな事にも気づかない大馬鹿野郎、連合だろうがザフトだろうが、俺が全員ぶっ倒す!!」
・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・くく・・・っ・・・」
全人類の敵なんて望むところだ!!、ときっぱり言い放ったガロードの言葉に誰もが言葉を失くしていたなか、
アンドリューは耐えられなくなったように笑い出した。
キラとガロードがカガリと別れた時にはもう、空は紅く染まっていた。
『ここは戦場じゃない。それに君はもうストライクのパイロットではないし、な。帰りたまえ・・・・そこの彼も一緒に、な』
“砂漠の虎”はひとしきり笑った後、拘束することも尋問することもなくそのままキラたちを帰してくれた。
そこにどんな意図があったかは、もうわからない。
『もう遅いし一晩ぐらい私たちのキャンプで泊まっていけばいい』
カガリは名残惜しそうに、キラとガロードを見つめる。
しかしキラはカガリの申し出を丁重に断った。
確かにもっと話していかったのだが、他のレジスタンス達の迷惑になるし、なによりも一歩でも先へ進みたかったから。
水や食料を詰め込んだジープは熱砂の上を走り抜けていく。
「なーんか虎って、変な奴だったよなー」
真っ直ぐ前を見ながら、ガロードはしみじみとぼやいた。
「・・・うん・・・・」
しかし、ガロードのぼやきをキラは右から左へと流す。
どうすればこの戦争は終わるのか。
アンドリューに問いかけられた言葉は、キラにかなりの影響を及ぼしていた。
誰が味方で誰が敵なのか。
今のキラはそれすらも見失いかけている。
「なんでガロードは僕のことをこんなに助けてくれるの?」
「ん?」
「ガロードは連合軍じゃないし、僕に返せるものは何もない・・・・」
ふと、浮かんだ疑問。
普通なら、拾ったからと言って打算なしにここまで付き合うこともないだろう。
しかし、彼の答えは至極単純明快だった。
「そりゃー助けたいと思ったからだよ。それ以外に何かあるか?」
ガロードはキラを見て笑った。
「それに俺は連合でもザフトの味方でもなくて、キラの味方だから」
なんの迷いのない言葉。
「・・・・・そっか」
「・・・ところで、今どこらへんだと思う?」
「またぁ!?」
Invader’s assertion
――――――侵入者の主張
続く