林檎飴

 

 

 

和太鼓が、篠笛が星空に響く。

人々は思い思いに屋台の前を通り過ぎる。

 

「すっげえ・・・・・」

三蔵一行が今日の宿を探して近くの街にやってきた時、

ちょうどその街はお祭りの日であった。

悟空は何度か自分が住んでいた寺院がある街のお祭りを何回か見たことがあった。

しかし、ここはもといた街よりもはるかに屋台の数が多く、人もたくさんいる。

その景気ある雰囲気に悟空はだんだん気分が良くなり、否が応でも気持ちが高まってくる。

せっかく行き渋る三蔵を説得に成功して、しかも何か1つ買って貰えるのだ。

そのせいか悟空の足取りも軽くなり次第に早足となってくる。

「おい、速すぎるんだよサル!屋台は逃げねえから落ち着けよ。」

悟空に引き摺られるように渋々やってきた三蔵もだんだん歩調が早くなってくる。

それも、三蔵のほぼ走るぐらいのペースで足を進めるお子様のせいだ。

八戒はずっと走り続けていたジープの世話。

悟浄は宿に着くなり、いきなり逃亡。どこぞの女を引っ掛けるつもりなんだろう。

こうなれば悟空のお祭りへの期待は三蔵に向けられる。

『なあなあ三蔵っ俺お祭り行きたいっ!!』

『ああ?ダメだ。メンドい。』

『いいだろそのぐらいー。せっかく、お祭りやってんだよ!?

なあなあ三蔵―。』

『いいじゃないですか三蔵。お祭りぐらい連れて行ってあげてもいいでしょう?

あ、ちなみに僕はジープの世話で行けませんけど。』

『三蔵―。なあなあってばよーっ。』

『・・・・・・・・手前ら(怒)』

自分の周りに纏わりつく悟空。たまにはいいだろうと甘やかす八戒(しかも人任せ)。

結局、2対1で三蔵が折れる結果となった。

そんなことがあったため、悟空とは対称的に三蔵の機嫌は最悪。

しかも悟空はチョロチョロあっちこっち動き回るためはぐれないようにするので精一杯。

三蔵は本当のところ金だけ適当に渡して自分はさっさと宿に戻りたい。

しかし、ばらばらに帰ったら八戒がうるさいだろう。

そんなこんなでふらふらと自分の好奇心を満たすべく動きまわる悟空に付き合わなければならない。

5歩ほど自分の前を歩く悟空の背中を見ながら、三蔵は溜息をついた。

 

 

 

さまざまな色の屋台が建ち並ぶ。

子供が親の手を引いてたのしげに石の歩道を歩いていく。

 

「三蔵、フランクフルトー。」

「あんな着色料だらけの皮の徳用5本入り280円(税別)のソーセージ焼きを食って

何が楽しい。」

「三蔵、ヨーヨー。」

「中身の水が夏場に置いておくと腐っていくような安物のゴムが欲しいのか?」

「三蔵、・・・綿アメ。」

「砂糖のかたまりだろう。後で歯が痛いと騒ぐのは誰だ。」

「・・・・たこ焼き・・・・。」

「・・・・八戒に作ってもらうか?」

何かが違う。

悟空は何だか果てしない違和感を覚える。

三蔵もだんだん悟空は何が楽しいのかわからなくなってきている。

いろいろ見て歩き、欲しい物を口に出すが三蔵にそこまで言うかと思うぐらい

断られるせいか、悟空はだんだん無口になってくる。

しかし三蔵が言っていることを推敲してみれば着色料だの虫歯だの悟空の健康を気遣っての言動だ。

これで文句を言われると三蔵は筋違いだと怒るだろう。

だが深く考えない性分の悟空にはにべもなく断られているようで、だんだん言い難くなってくる。

そう考えてみれば、無駄遣いをしていないという点ではなかなか良い手段だ。

だんだん神社らしきところへ歩いていくうちに屋台の数もまばらとなってくる。

人の通りも少なくなってきた頃、悟空はいい物を見つけたとばかりにとある屋台に駆け寄っていった。

三蔵はその屋台の看板を見てみる。『果物飴屋』。

「なあっ三蔵三蔵っ!!」

嬉しそうに三蔵を呼ぶ声が、屋台の人だかりの中から聞こえる。

(チッ・・・・・・・)

三蔵は心の中で舌打ちをし、人ごみの中へと入っていった。

 

 

 

蛍光灯の灯り、安っぽい機械のエンジン音。

屋台には色とりどりの飴にくるまれた林檎や苺が光に反射して不思議な雰囲気となっている。

 

「三蔵っ、林檎飴買って?」

三蔵がなんとか人ごみの中を掻き分けていとも容易に屋台の最前列に立っている悟空の後ろにくると

三蔵が来たことに気付いた悟空は振り向いて三蔵の袖の布を引く。

「・・・・なんだ。林檎飴か。」

赤や緑の色をした林檎飴はいかにも甘そうで、悟空の興味を引いた。

「なあなあ三蔵、林檎飴食いたいっ!」

悟空は期待に満ちた目で三蔵を見上げる。

何か言おうとした三蔵もそれには閉口させられ、

「・・・・・・・いくらだ。」

結局財布の紐を解くこととなった。

 

 

 

雲は晴れ、満月が地上を照らす。

祭りの終焉に、人々は各々の帰路につく。

 

宿に帰るまで待ちきれず、悟空は買ってもらった林檎飴の包装をとき、

幸せそうな顔で口に含む。

隣を歩きながらそんな悟空の様子を三蔵は何気なく見ていた。

基本的に三蔵は甘いものを食べない。

したがって、ほぼ甘いものだらけの祭りに興味は無かったし、なぜ悟空はそんなに甘いものが

食べられるのだろうかと不思議に思うぐらいだ。

しかし、紅い綺麗な林檎飴を無心になめる悟空は普段闘っている時や、悟浄とけんかしたりしている

時と比べてかなり幼く見える。

三蔵は本当に18歳なんだろうかと何気なく悟空の顔を見ていると、

悟空は三蔵の視線に気付いた。

「三蔵も食べる?」

しかし彼は自分の持っている林檎飴を見ているのかと思ったらしく、

腕を伸ばして自分の持っている林檎飴を三蔵の前に出した。

真紅の飴がまばらになった屋台の灯りにきらりと光る。

「・・・・・いや、」

三蔵は自分に突き出されている林檎飴をよけ、悟空の腕を掴んで引き寄せ

そのまま自分の腕の中にすっぽりと収める。

「さんぞ・・・んっ・・・・・」

何事かと顔を上げた瞬間、いきなり三蔵の顔が目の前にあってそのまま口を塞がれる。

あっという前にするりと悟空の口の中に舌が侵入して口内を少々乱暴に荒らされる。

歯列をなぞられたり、舌を絡まされたりして、やっと開放してもらった頃には

悟空は息を切らしていた。三蔵は悟空を支えながら自分の口を拭う。

「いきなり・・・・なにすんだよっ?」

悟空も三蔵に掴まりながら息も絶え絶え三蔵を睨むように見上げた。

しかし、三蔵は平然とした様子でさらりと言う。

「・・・・・甘いな。よくこんなものが食えたもんだ。」

「ばっ・・・・・・!!(//////////)」

その言葉により、悟空は先程の激しいキスにより自分の口内の飴を味わられたことを知った。

「んなところで味見すんなよっ!!」

悟空は抗議するかのように力なく三蔵の胸を叩く。

「食べるか、と聞いたのはお前だろ?」

しかし潤んだ目で自分の胸を叩く悟空がよっぽどかわいいのか、それとも楽しいのか

目を細めて楽しげに悟空を制する。

つまり悟空の抵抗も三蔵の前では何の意味ももたないのだ。

「・・・・もういいよっ。」

かえって三蔵はおもしろがるだけだと悟空はふてくされてまた林檎飴を口に含む。

悟空がそんな反応を返したのにかかわらず、三蔵は未だくつくつ笑っている。

しばらく歩いていると通り過ぎる人の数も減り、自分達の泊まっている宿の灯りも見えてきた。

三蔵はやっと帰れると息を吐いた。その時、自分の服の裾を不意に引かれる。

「・・・・どうした?」

下を見ると、三蔵の服の裾を掴んだ悟空がいた。

声をかけたのにもかかわらず、悟空は黙ったまま自分の裾を離さない。

不思議に思った三蔵が、少し腰を屈め悟空の視点に近づく。

ふと三蔵の頭にもう一度キスしてやろうかと、不埒な考えが頭によぎった時

いきなり悟空の顔が近づいて羽が触れるようなキスをされた。

「これでおあいこだかんなっ!!」

三蔵が何かを言う前に悟空は照れ隠しか、宿の方へ走っていってしまう。

すっかり小さくなった悟空の背中を見ながら、三蔵は悟空が勝手にキスをした自分の唇に触れた。

なんとなく可笑しくなり、ふっと笑ってゆっくりと三蔵は宿へと戻っていく。

 

祭りの終焉 夜はふけてゆく

宿の部屋は明かりがついたまま

                                       終わり

 
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