学生履歴

孫 悟空  男 18歳

両親を7歳の頃に亡くし、叔母の家に預けられる。

8歳の頃、家庭の事情により引っ越す。

大きな怪我・病気

8歳の頃交通事故に遭い、後頭部を強打。全治3ヶ月。

当初記憶障害があったが、現在後遺症などは無い。

学業成績・・・・・・

 

「ふむ・・・・・・・」

焔は手に入れた学生履歴のデータをパソコンに映しながら頬杖をつく。

入学式の日に見かけた学生はやはり悟空だと確信したが、自分を見た時の

悟空の反応がどうもおかしい。10年ほど離れてはいたが、以前の悟空ならば

自分を見たら尻尾を振って抱きつくだろう。

だがあの時、悟空は自分を見ても気付かなかったのだ。

入学式の後、焔は会場の片付けのために全体的なオリエンテーションに出られなかったので

その日、悟空を見つけることはできなかったが、多分明日は希望の選択講義の調査をするだろう。

しかし自分は一年の取る講義を持っていない。

一般教養も教えられないことはないが、今年の1年の担当には入ってなかったはずだ。

「・・・・・しょうがない、コネを使わせてもらうか。」

焔はため息をつき、とある人物に電話をかけることにした。

 

 

MEMORY〜消えた記憶〜

 

 

次の日の朝・・・・・

「うわまじいっまた遅刻しちまうっ!!!」

「またかバカザル!!(怒)そんなのんびりしてないでとっとと行ってこい!!」

今日も2度寝をしてしまった悟空は三蔵に叩き出されるように家を出る。

もちろん口にこんがりキツネ色の食パンは欠かせない。今日もオリエンテーションのみとはいえ、

朝食抜きは悟空には耐えられないのだ。

慌ててバス停に走り、なんとかぎりぎりセーフでバスに駆け込んだ。

バスが動き出し、そこでやっと悟空は息をつく。

(・・・・・・・・三蔵のせいで腰がダルいのに、蹴ることないよなー)

悟空は昨日のいつまで経っても慣れない行為のせいでだるい体に辟易しながらため息をつく。

ちなみに三蔵は車で送ってやってもいいと心の中で思っているらしいが、

そこは三蔵らしく未だ口に出せないでいるので悟空のバス停への100m全力ダッシュは

しばらく続くだろう。

悟空の乗るバスは大学にかなり近いバス停まで行くので、サラリーマンはちらほらしか

乗ってなく、ほとんどは悟空とおなじ大学に通う学生達だろう。

自由な校風とだけあって、なかなかラフな格好が目立つ。

「悟空、悟空、」

「ん?」

バスの後ろから悟空を呼ぶ声が聞こえる。

「八戒!!」

「おはようございます、ここ空いていますよ?」

八戒はにっこり笑って隣の空席をぽんぽん叩く。

学校までまだ少々かかるため悟空は喜んで八戒の隣に座った。

「八戒、悟浄は?」

ふと、いつも近くにいるはずの赤い髪の青年の姿をキョロキョロと探す。

「ああ・・・悟浄は今日2コマ目からですから、もうちょっと遅いバスで来ますよ。」

八戒はいつものにっこりスマイルで人差し指をピッと立てる。

「へーっみんな同じ時間じゃないんだ。」

「ええ、そうです。」

いやに感心する悟空に八戒は思わず頬も緩み、ついつい悟空の頭を撫でてやる。

その後、八戒と悟空は他愛のない話をしながらバスを降り、

校舎へと続く並木道を歩いていくと

「うわぁ・・・・・・・」

そこは悟空にとって未知の場所だった。

広いキャンパス、蔵書10万冊を誇る図書館にきれいな体育館、

そしてそこでしゃべりながら自由に大学生活を楽しむたくさんの学生たち。

新しく改装したのが50年前という悟空が通っていた高校の校舎とはまったく違う。

昨日は遅刻寸前だったためろくに周りを見ていなかったので悟空は

改めて自分が大学生になったという感動を受けた。

「悟空、どうしたんですか?」

大学などとっくに見なれている八戎は感動を受けている悟空など

ぼーっと立ち止まっているようにしか見えず不思議そうにぽんぽんと頭を叩く。

「あっごめん、・・・・なんかさ、改めて俺大学生になったんだな−って・・・。」

頭を叩かれた悟空はやっと我に返って数歩前に進んでいた八戎を小走りで追いかける。

「今更何言っているんですか。」

八戎はくすっと微笑む。

「あれだけ僕と悟浄で勉強を教えたんですから、なってなければ困りますよ。」

そう、悟空は3年の夏ごろから八戎と悟浄に交代で悟空の勉強を見てやっていた。

その2人のスパルタ家庭教師のおかげで下から数えた方が早かった悟空の成績は

一気に伸びて、無事志望の大学に入ることができたのだ。

(・・・・保護者さんだけにおいしい思いさせてばっかりいれませんしね・・・・・。)

八戎はそう心の中で呟く。

「なー八戎、あの建物はなんなんだよ?」

不意に悟空に話しかけられて、今度は八戎が現実に引き戻された。

「あ、あれは寮ですよ。遠いところから通っている生徒や講師が住んでいます。」

「ふーん・・・・・。」

悟空は物見遊山よろしく、きょろきょろとキャンパス内を見回す。

そんな悟空を後ろから見ながら八戎はすっと目を細めた。

 

 

 

 

学年が違う八戒と別れ、悟空は教室に向かった。

教室にはほぼ全員集まっていて、特に席が決まっていないようなので

空いている席に座るとちょうど講師が入ってくる。

(ひろー・・・・・・・)

悟空は講師の話などもちろん聞いているはずもなく、高い天井の大教室に興味が移る。

「・・・・悟空?」

「うぇ?」

いきなり話し掛けられ、驚いて声の方向を向くと悟空と同じぐらいの少年・・・いや、

青年がしげしげと悟空を見ている。

「やっぱり悟空だっ!久しぶり!!」

青年は満面の笑顔で悟空の手を取る。しかし、悟空はその顔に見覚えはない。

「なんだよ忘れちまったのかー?」

「・・・・もしかして、ナタクか?」

ナタクはむっと拗ねた顔になる。だがそれもそのはず、悟空は8歳から前の記憶は全て失っていたのだから。

三蔵からアルバムを見せてもらったのを思い出し、やっと名前が呼べたのだ。

??への申し訳なさに悟空の表情に影が差す。

少々不機嫌になったナタクに自分が事故で記憶を無くしたことを告げると彼は

「ならもう一度友達になろう?」

と、笑顔で手を握る。

そう言ってくれて悟空はナタクの優しさに、沈んでいた顔もやっと笑顔になった。

「俺の高校でここの大学きたの1人だけでさー。どーしようかと思ってたんだ。」

ナタクはにかっと笑って自分の座っている椅子を悟空のほうへと寄せる。

こうなったらもう講師など2人の頭の中から消えていて、各々の中学・高校時代の武勇伝に花が咲く。

もちろんそこに勉強の話題がのぼるはずがなかったが。

「・・・・おい、なんか講師の先生こっち睨んでないか?」

「・・・・うわっやべっ(汗)」

すっかり話に熱中していた2人を講師が睨んでいることに気付き、慌てて悟空とナタクは

首を竦める。やっと静かになった教室に講師は大きく息を吐いて次の書類に進む。

「それでは各講義の講師を発表いたします。まず日本語学文法担当・・・・」

淡々と説明される中、悟空は面白くなさそうにシャープを口に銜えてぼんやりする。

基本的に悟空はこうやって教室で大人しくすることは好きではない。

「・・・義明教授、日本文学史担当、焔助教授・・・・」

(・・・・・・あれ?)

ふと、悟空の頭の中に何かがよぎった。それは消えた記憶。

しかしそんな消えた記憶のことなど悟空にわかるはずがない。

悟空はなんだかモヤモヤとした気持ちを残しながら、今度こそ真剣に講師の話に耳を傾けながら

前を見つめた。

 

 

 

 

「本当にお前はやるといったらやるんだよなー。」

「うるさい。」

小さな教授室。そこの面積の半分は文学史関連の本で埋まっていた。

その一角で焔は和綴じの本の擦れたページをめくる。

後ろから何か言われるのだが顔を上げることはなく、しれっと一言で返す。

「いきなり真夜中に電話をかけてきたと思ったら理事長(ジジイ)に担当学年を変えるように言えだって?

驚くよそりゃ。」

焔の冷たい言葉など慣れっこになっているのか平然と軽口を叩くのは

この大学の理事長の孫である是音。高校からの焔の悪友で今でもよくツルんでいる。

「・・・・・・・・・・・・・・。」

今度はだんまりだ。これには是音も肩をすくめる。

実は焔は基本的に他人に頼ることを良しとしない。そのためになんとなく慣れていないせいか

こんな時、彼は何と言えば分からないのだ。

そんな焔の不器用な性格を知っているため、是音にはちゃんと伝わっている。

「とにかく、お前お目当ての子を捕まえる手立ては出来ているんだろうな?」

「ああ・・・・・・。」

そこでやっと本を閉じ、是音の顔を見る。

「何故悟空が俺のことを忘れたのかわからないが・・・・あいつから悟空を奪い返す。」

焔はそのまま忌々しそうに拳を机に打ちつけた。

 

 

 

 

次の朝、八戒・悟浄と別れた悟空は講義室に入るなり同じ講義を受けている

友人から一枚のメモをもらった。悟空が来る前に焔から預かったものだ。

そのメモの内容は簡潔で、ただ自分のいる教授室に来るようにとしか書いていなかった。

「お前なんか焔助教授に目を付けられる事でもしたのかー?」

何の覚えもなく目を丸くしている悟空にゼミ仲間からからかいの言葉が上がる。

いかにも遊んでいますという格好の友人らになぞ言われたくなかったが

言い返すことは一旦諦めて、悟空はカバンを置いてから指定された部屋へと足を向けた。

(俺なんかしたっけ?)

途中で会ったナタクに遅くなるかもしれないと代返を頼み、一人廊下を歩きながら首をかしげる。

入学してから1週間も経っていないのに呼び出しを食らう理由は、あの入学式での

遅刻しか思いつかない。だがそれも会ったこともない教授に注意される筋合いなどないのだ。

そう考えると悟空は不思議でたまらなかった。

朝のにぎやかな雰囲気とはうって変わった誰もいない廊下。

それもそのはず、悟空は知らなかったが是音の手回しにより人払いがされてあったため

ここで少々大声を出しても誰にも気付かれないだろう。

悟空は焔の思惑など気付くはずもなくお気楽に教授室の前に立ち、

「失礼しまーすっ」

ノックをして扉を開けた。

 

続く 

 

つーわけでMEMORY〜消えた記憶〜でしたっ
これが書き終わったのは結構前だったけど、わたわたしているうちにこんなに遅くなって
しまったのです。だって・・・なんとなく続き方が微妙だし・・・
次は焔と悟空の再会♪・・・多分一番書くのが辛いような・・・

プラウザバックでお戻りください