「焔兄ちゃんっ!!」
いつもの待ち合わせの場所・・・・・
悟空と焔は2日に一回はこの場所で会っていた。
「悟空。」
焔が名を呼び、手を広げると悟空は嬉しそうに駆け寄り自分の腕の中に
すっぽりと収まる。
猫ならばごろごろとのどを鳴らしているような悟空の様子に
焔は目を細める。焔は悟空がかわいくてたまらなかった。
今まで、自分がこんなにも人に執着するなんて考えられなく、
そしてこんなにも独占欲が強いなど初めて知った。
どんなことがあっても離したくない。
誰がこようと絶対に渡したくない。
それは悟空にとっても同じだ。
「焔兄ちゃん、ずっといっしょにいようね?」
腕の中の悟空に焔は
「ああ・・・・・。」
と、幸せそうに頷いた。
MEMOLY
〜残酷な出逢い〜
「・・・・・・当にきみの論文には感心させられるよ。
それでも助教授だというのはもったいない。」
焔は、自分の目の前に座る中年男の言葉を聞き流しながら昔を思い出していた。
我に帰った焔は今の状況を反芻する。
たいした事が無い目の前の男は確か教授と言う役職を持っていたはずだ。
それほど面識もなく、自分もあまり外でうろうろはしないがこの男は
教授室に篭もりきりで面倒な学生の師事を自分に回してくる。
鬱陶しい男だ。
(・・・・・・つまらんな。)
焔は口には出さないがこの男の話は聞き流すに限ると思っている。
「いやいや、学生の頃からなかなか頭がいいとは思っていたが、
こんなに若いうちに助教授になってしまうとはな。」
焔は心の中で溜息をつく。そろそろ解放してくれないかと。
記憶が正しければここに呼ばれてから延々10分ほどこの男のために費やしている。
嫌々頼まれて朝早く入学式の準備をしに来たのに、これではまったく意味が無い。
焔はこのつまらない男の口上を聞き流しながらふー・・・と細い溜息を漏らした。
「うわまじいっ!!バスが行っちまうっ!!」
「おい悟空、かばん置いていくんじゃね―よっ!!」
焔がどうでもいいことにつきあわされているちょうどその時、
とある家は朝からかなり大変な事になっていた。
寝坊してしまい、ばたばたと慌しく動きまわる青年・・・悟空だ。
悟空は新しい街に来て、記憶を失ってから11年の年月が経った。
それから悟空は前の記憶を知ることも教えられることもなく、
何の疑問も持たないで高校を卒業する。
そして今日は必死で勉強して受かった大学の入学式だ。
が、只今バス発車5分前(笑)
寝癖でぼさぼさになった髪、急いで着たためにぐちゃぐちゃな衣服、
口にはパンをくわえていた。
一方、保護者である三蔵はとうに大学を卒業し、今は一流企業に就職している。
悟空とは正反対にしっかりと整えられた髪、衣服の乱れなど見当たりもしない。
「せっかく俺がちゃんと時間どおりに起こしてやったのに、なんでこうなるんだよ?」
三蔵はばたばたと準備する悟空をあきれたように見ながら煙草を銜える。
「しょうがないだろ!?そのまままた寝ちまったんだよっいってきますっ!!」
悟空はそのまま玄関に転がるように出て行った。
焔は悟空と別れた後・・・彼はたいした目的があるわけでもないため、
適当な大学を選び、たいした苦労もせずに首席卒業を果たした。
そして、やはりすることもない焔は世話になった教授に言われるまま
助教授として教壇と昇ることになった。
(・・・・・悟空・・・・・。)
ふと、悟空の名前を心の中で反芻する。
あれから焔は悟空のことを一時も忘れたことが無い。
今はちょうど、大学へ入学する年になっているだろう。
休日となれば以前、悟空達が住んでいた近くの人からどこへいったのか尋ねて歩く。
そんな毎日を過ごしていた。
「・・・・焔先生・・・・・!・・・どこですか・・・・・」
入学式の準備のため、焔と同様に駆り出された学生達が自分を探している声が
聞こえる。
大して気は進まないが、取り敢えずやることはやらなければならない。
自分を見つけて駆け寄ってくる学生に焔はのろのろと歩きながら手を上げた。
「おーい、おせえんだよっ馬鹿ザルっ!!」
悟空が走って来た時、大学の門の前に2人、長身の男達が走ってくる悟空を待っていた。
1人は黒髪、悟空に文句を言った方は燃えるように赤い髪。
八戒と悟浄だ。
彼らは悟空よりも3つ年上の先輩なのだが、高校が同じで3人はちょっとした事で知り合った。
悟空がこの大学が選んだのもこの2人が在学していたせいもある。
「ごめんっ!寝坊したっ!!」
悟空は入学式10分前ですっかり人気の無くなった門を走り抜け、3人は校舎へ急ぐ。
「三蔵は、どうしたんですかっ?」
八戒に聞かれ、悟空はちょっとしょんぼりとなる。
「仕事があるから・・・・行けないってさ。」
昨日それを聞いた悟空はせっかくの入学式なのに仕事は休めないのかと
かなり駄々をこねたが、仕事に妥協を許さない三蔵はそれぐらい1人で行けと
悟空はハリセンをいただく結果となった。
「ばーか、だから俺たちがいるんだろ?」
すっかりしょげてしまった悟空の頭を悟浄は走りながらくしゃっとかき回す。
横で八戒も同意するようににっこり笑う。
「うんっ!」
悟空は2人の気遣いに励まされ元気を取り戻した。
その時、
(・・・・・あれ?・・・・)
ふと長身の男が悟空の目に入り、立ち止まる。
なんだか、自分を見ているような気がしてならない。
「悟空!早くしないと遅刻しますよー!!」
「あっ、今行く!!」
なんだかひどく懐かしい感じがしたが、八戒に呼ばれ悟空は男に背を向ける。
その男が自分の名前を呼ぼうとしたのにも気付かず。
もちろん、記憶を失った悟空にはそれが誰か、何故自分を見るのかが分からない。
そして悟空は八戒たちに呼ばれるまま、入学式の開場である大講堂に入っていった。
新入生はほぼ入場を終え、講堂の前は誰もいない。
焔は最後に扉を閉めるために1人、扉の前で煙草をふかす。
ちらりと腕の時計を見やる。
8時30分。
残り5分で式が始まる。受付の生徒の話ではあと1人、来ていないらしい。
だがこのぶんであればその生徒は休みなんだろう。
白い煙を吐き出し、扉を閉めるため腰を上げた。
その時だった。
「ちょっと待ってよ悟浄、八戒!!」
「あと5分で始まるんだから急げバカザル!!」
焔はどこか、聞き覚えのある声が聞こえ思わず煙草を落とした。
(・・・・・・悟空!?)
声の聞こえた方向を向くと、こちらへ向かって走ってくる3人が見える。
両脇の2人の顔は知っていた。一人は自分の講義を取っていたし、もう1人は何かと
目立つ人物だからだ。だが中央の1人は新入生だろうか、この大学では見たことが無い。
だが、その顔には見覚えがある。
間違えるはずも無い。ずっと探し求めていた悟空なのだから。
悟空が自分の前で止まる。
「悟・・・・・!!」
呼ぼうと思ったとき、あまりにいきなりのことで声が出ない。
焔は悟空が自分の名前を呼んでくれると思っていた。
嬉しそうに自分に抱きついてくると思っていた。
だが・・・・悟空は2人に連れられて、悟空も自分を振り返りもせずに
講堂へ入っていった。8時35分。
「一体・・・・・どうしたんだ・・・・・・?」
焔はいきなりの出来事に、扉を閉めることを忘れ立ち尽くしていた・・・・・。
「三蔵おかえりっ!!」
「・・・・・・・・ただいま。」
夜、仕事から帰ってきた三蔵を悟空はうれしそうに出迎える。
学校から帰ってきてから今までずっと1人で待っていたため、出迎えは熱烈なものになる。
「なあなあっ早くごはん食べようっ!!」
よほどの空腹で悟空は三蔵が靴を脱ぐのも待ち遠しいのか、三蔵からカバンを受け取り、
居間の方へと走っていった。
「んな走ってもメシは出来てねーよ。」
その後を三蔵はのろのろとついていく。
「おい、なんか忘れてねーか?」
三蔵の科白にふと、悟空が今の真ん中で足を止めて振り返る。
「・・・・・忘れてた。」
「やっと思い出したかバカザル。」
子供っぽい顔をして振り返った悟空に三蔵は呆れたように息を吐く。
悟空はとてとてと三蔵に近づき、精一杯背伸びをして
「おかえりなさいの、キス」
同じく背をかがめた三蔵の唇に軽い触れるようなキスをした。
悟空の唇が離れた瞬間、さらに三蔵は悟空の唇を捕らえ、舌を差し入れる。
「んふ・・・・っ・・・は・・・っ・・・」
悟空の口から明らかに快楽を訴える声が漏れる。
濃厚なキスは悟空から自分を支える力を奪い、三蔵にもたれかかるしかなかった。
ようやく解放された悟空はさらにキスをされ、くすぐったそうに首をすくめる。
「もう・・・・っ・・・オレ、腹へってんだけど。」
「先にお前を食わせろ」
悟空の抗議も簡単に無視され、悟空の軽い身体は簡単に抱きかかえられた。
・・・そう、悟空が焔の記憶を失った後、悟空は三蔵に口説かれ、
そういう関係になっていた。
前は先に焔に寝取られてしまったが、三蔵は悟空が大きくなったらこうしようと
思っていたのだ。そうでなければ遠縁の子供など預かりはするものの、面倒など見るはずが無い。
実際悟空は三蔵のことが大好きだったし、焔と出会わなければこうなっていたのも
時間の問題であったであろう。
だが、悟空は以前焔のものであった。
その事実を風呂で知った時、三蔵は思わず眩暈がした。
なによりも大切に育ててきた悟空が他の男・・・しかもよりにもよって
毛嫌いしている焔に寝取られていたのだから。
だが、悟空は事故によって焔の記憶を無くした。
病室で眠る悟空を見ながら、内心喜んだのも事実。
頑丈な悟空は体に何の障害も残さず、今では自分の物になっている。
三蔵は不謹慎ながらも悟空が事故に遭ったのは今でもありがたく思っていた。
「悟空・・・俺のこと好きか?」
「すき・・・・っ!!・・さんぞ・・・・・だいす・・・ああっ!!」
悟空は三蔵に追い上げられ、うわ言のように繰り返しながら快楽に身をゆだねていった・・・。
続く