ハレノヒ

 

 

 

とある冬の日。その日は天気に恵まれ久しぶりの小春日和だった。

執務室に日が差し込み、うまく調整された暖房器具が部屋を適温よりも

少し高めに気温を保っていた。つまり・・・・昼寝には一番ということ。

『その書類は急ぎますので午後4時までにちゃんと仕上げておいてください』

いつもの小言を言う旦は用事があるからと席を外している。

これを逃す彼ではない。

さっそく適当に終わらせた書類を机の片隅に寄せて、暖かい日差しの中目を閉じて

夢の中へと入っていった。

 

 

 

 

「太公望師叔、書類・・・・・・」

彼・・・・楊ゼンが執務室の扉を叩いたのはこの部屋の主が眠りの中に入った30分後。

もちろん寝ている人に離れて声をかけても無駄というもの。

返事は返ってこない。

楊ゼンは寝ている彼に近づいていくと、机に片隅に寄せられた書類が目に入る。

(・・・・・・・・・・・・・)

寝返りを打ったのか、しわくちゃになった本日の重要書類(午後4時まで)が

彼の腕の下に見事のされていた。

楊ゼンは深く溜息をついて新しい書簡を棚から取り出して、彼の向かい側に腰掛ける。

気持ちよく寝ている彼を起こすのは忍びないし、くしゃくしゃになった書類を見れば

自分で作り直すこともできる。

日頃の疲れが溜まっているであろう彼はいまだ起きる気配はない。

執務室の中はしばし筆が走る音だけが走る。

「よぅ・・・・・ぜ・・・」

「・・・・はい?」

ふと、机に突っ伏している彼の口から自分の名前が出たことに驚いて

楊ゼンは書簡から顔を上げる。

「寝言・・・・・?」

彼は完璧に熟睡していて、起きているようには見えない。寝言だ。

「す・・き・・・・・・」

「へ?」

ふいに彼の口から漏れた寝言の告白。

彼が夢の中でどういう状況で、どういう意図で、その言葉を言ったのかはわからない。

しかし、その突然の言葉に楊ゼンは自分の顔が赤くなっていることに気づいた。

(す・・・・好きっ!?師叔が僕のことをっ!!??)

あまりのことに頭の中で考えがまとまらない。

確かに彼はこの世に生を受けて500年以上経っているため恋愛というものを幾多にも重ねてきた。しかしそれは来る者拒まず去る者追わずのゲームといっていいものだった。

『好き』『愛している』そんな言葉など星の数ほど言われてきた。

なのに、こんなにも動揺するのはなぜだろう?たかが寝言で言われただけなのに。

楊ゼンは今までの経験を記憶の戸棚から引っ張り出せるだけ引っ張り出したが、

こんなにも動揺して、こんなにも恥ずかしくて、そしてこんなにも嬉しいことはなかった。

(ぼ・・・僕はあちら側の人間(?)だったのか?)

必死で顔が緩むのを押さえようとするが、反対に心拍数は増えていくばかり。

握り締めている拳からなぜかガサグシャと紙がつぶれるような音がするのは気のせいだろうか。

「・・・・・ん・・・・・・」

ふと、彼がまた身じろぐ声が聞こえた。

「・・・・三平汁・・・・たらい・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

三平汁。北海道の郷土料理で塩をベースに鮭、白滝、ジャガイモ、玉葱などたくさんの野菜を

煮込んだ料理。

「何故に三平汁・・・・?」

楊ゼンは必死に考える。

自分の名前を呼んで、さらに告白したというのになんで三平汁がでてくるのだろう?

そしてなんでたらいがでてくるのだろう。たらいで作ったら煮込めないじゃないか。

そんな言葉がぐるぐると楊ゼンの頭の中を回る。

その時だった。

すたすたすた。

妙に急ぎ足だが規則正しく響く足音。

ぴたり。

神経質そうにぴたりとちょうど止まった。

「太公望、約束していた書類・・・・・」

そう、旦だ。

「あ」

彼の手の中にあるのはくしゃくしゃになった書簡(適当)

楊ゼンの手の中にあったのはさらにぐしゃぐしゃになった書簡(途中)

完成合計:0。

「え〜と・・・・・・」

楊ゼンは気まずそうに頭をかく。

お昼寝続行中の彼・・・太公望は気づかず鼻ちょうちん(笑)

「・・・・・・・・・・・・」

旦は無言で特製ハリセン(厚紙で補強済み)を取り出した。

合掌。

 

 

 

 

「で、結局師叔は何の夢を見ていたんですか?」

「夢?」

夕方の赤い日の光が差し込む執務室。

そこにはペナルティとして課された書簡に埋まっている机に楊ゼンと太公望は

仲良くその膨大な数の束を削っていた。

「僕とか出てきませんでした?」

「おおそう言えば、楊ゼンが三尖刀と鋤を間違えて持っていてそれで三平汁を作っていたから

たらいに分けてもらって食べるという夢を見ていたのだ。うまかったのう・・・」

「さいですか・・・・・・」

太公望の暢気な言葉に一気に脱力した楊ゼンはいつまでも赤い夕日を見つめていたのだった・・・。

 

終わり

 

 
はい。リクエスト小説「ハレノヒ」でした。
これは旧HPからのリクエストで「
楊ぜんさんが、自分が太公望さんを「好きだ(恋愛感情)」と
認めてやれるまでの葛藤話」でした。つーか・・・ちゃんとこれリクどおりかとっても不安なんですが(汗)
三平汁おいしいので北海道に来たら是非食べてみてください(笑)
リクエストしていただいたどれんぷ様、ありがとうございました。

プラウザバックでお戻りください。