Killing me softly
晩秋。外は今年最後の降り納めだと言っているかのようにしとしとと雨が降り続く。
今のところ、降り止む気配は無い。
誰もいない廊下を通り、少々古い階段を上り、角を曲がると、そこは十二支高校で
最も使用頻度の少ない社会資料室がある。
何年前の物だと言いたくなるような統計資料。破れて傍から見ても使えないことがわかる
スライドに埃のかぶった地図。
名前は社会資料室となっているが、ある意味ガラクタ置き場と化している。
しかしある意味、サボリの場所としては絶好のポイントだ。
ただし、上記のとおり、一般教室からほぼ対極の位置にあり、基本的に教師も来なければ
サボリの生徒も来ない。
サボるなら屋上か保健室。生徒の中ではそれが暗黙の了解となっていた。
そんな中・・・一人、少々埃っぽい部屋で誰にも邪魔されること無く、分厚い本を
読みふける生徒・・・猿野天国がいた。
本日の授業は6時間目の体育以外、出る気なし。彼は教科書を見ればわかることを
わざわざ拘束されてまで聞きたいとは思っていない。幸い、この十二支高校では
テストの点数にて内申が決まるため、成績が良い者は図書館で自学、悪い者は授業に真面目に出ることで救われる。そんなことが、ここではごく当たり前のように行われていた。
天国はその恩恵を受けて、一人自由に読書をしている。
大量の本を数日かけて運び込み、天国は完全にここを自室としていた。
(チッ・・・・・・・・)
かけている眼鏡が少々ずり落ちる。先程沢松とじゃれあった時に曲げたのか、
それとも・・・・・
天国は銀フレームの眼鏡を元の位置へと戻し、再び文字でびっしり埋まった頁へと視線を落とす。
その時だった。
ガラッ!
「!?」
天国はいきなりの来訪者に驚き、顔を上げる。
「・・・・・・犬飼・・・。」
予想だにしなかった・・・・しかし、ある意味予想をしていた長身の彼の名前を呟いた。
3時限目の始まりを告げる電子音が鳴り響く。
雨はいまだ降り続け、グラウンドはまるで泥田状態になっていた。
たぶん今日の部活は天国の嫌いな筋トレだろう。
しかし本人はそれどころではなかった。
何といってもしばらく顔を合わせたくなかった犬飼が、誰も来ないような自分の秘密の
サボリポイントにいきなりやってきて、放ってあった椅子に無言で座りだしたのだ。
この状況でリラックスしろと言われても無理というものだ。
緊張で文字が頭に入らない。
(・・・・・待てよ?)
天国はふと思いなおす。
いろいろと深読みをしたり必死に言い訳を考えていたが、何故自分がこんなにも動揺しなければ
ならないのだろう?
(・・・・どうせワンコは気づかないだろうし。)
細く静かに、そして深く息を吸い、同じように吐き出す。
天国はそこに犬飼がいないかのように、本の頁をめくり、視線はもう一度文字をたどりだした。
ちらりと彼を見ると、微動だにせず、目を瞑っている。
(コゲ犬の思考はわからん。)
心の中で呟き、もう一度大きくため息をついた。
「・・・・・・・・・おい、猿。」
10分程無言が続いた後、何も言わずに入ってきた犬飼が唐突に口を開いた。
天国はそれに答えず、聞こえなかったフリをする。
ガタリと音を大げさにたてて犬飼は古い椅子から立ち上がった。
それでも天国は平然を装う。
犬飼は天国の傍に立つと同時に
「!?」
ガタン!!
天国の肩を掴み、勢いよく彼を椅子から落とした。
「・・・っ!!何すんだよ、コゲ犬!!」
あまりの唐突な行動に受身を取ることが出来ず、尻から落ちてしまった天国は、
自分を見下ろす犬飼に向かってほえる。
「決まってんだろ。・・・ヤるんだよ。」
「・・・・・なっ!?」
当たり前のように自分にのしかかる犬飼に対し、天国は驚いて声も出ない。
それをいいことに、犬飼は自分のシャツの前を緩めて、天国の衣服も手際よく剥ぎ取っていく。
「俺はシたくない!!」
「俺はシたい。」
「このエロ犬!!」
なんとか犬飼を押し返そうと腕を踏ん張るが、いかんせん、体格があまりにも違いすぎるため
びくとも動かない。
「・・・・・・・・司馬にも抱かせてやってんのに?」
・・・・その一言で、天国の動きがぴたりと止まった。
その日の2時間目も天国は一人でクロスワードをしていた。
ちょうどよく社会資料室。勝手に取り出した地図を片手に天国はどんどんマス目を埋めていく。
ロシアがソ連だったがまあ問題ない。
ふと・・・天国の手が止まる。誰も来ないはずの廊下から、足音が聞こえてきたのだ。
その足音は確実にこちらへ向かってきている。
通り過ぎることを願ったが、足音の主はちょうどこの部屋の前で止まった。
がちゃりとドアノブが回され、現れた人物は
「・・・・司馬?」
「うん。」
部活の友人で、まだ一言も話したことの無い司馬だった。
彼は当然のように部屋に入り、椅子に腰を下ろす。
「おまえもサボリか?」
返事が無い。
天国は司馬のほうをチラリと見ただけで、また手元に興味を戻す。
そのせいで、天国は司馬が今、どんな表情でいるか、気づかなかったのだ。
「猿野。」
ふいに名前を呼ばれて顔を上げると、いつのまにか司馬は天国の隣にいた。
「何?」
天国はまだあまり親しくない司馬とのこの距離に少々面食らうがいつものように
平然とした表情で応える。
「キス、していい?」
何の脈絡の無い問いに、天国が答える前に司馬はかがみこみ、強引に唇を奪っていた。
天国は別に抵抗するわけでもなく、薄く唇を開けて差し込まれる舌に応えるように絡ませる。
それにより司馬はさらに片手で天国の前髪をかきあげるように頭を抱え、
さらに口付けを深くしていく。
「・・・・・ん・・・・っ・・」
息継ぎの合間に天国から甘い声が漏れる。
キスは好きだ。キスの間は何も・・・そして誰としているかなんて考えなくていい。
もし彼が下手なら何の躊躇も無く突き飛ばすのだが、うまければ拒む理由が無い。
天国は司馬の口付けを十二分に受け入れた。
司馬も天国の舌を味わい、お終いにぺろりと彼の下唇を舐めてから解放する。
誘うようにちらりとのぞく赤い舌。
「・・・・・満足か?」
天国は濡れた唇をぐいと腕でぬぐい、体を離した司馬を見上げる。
天国の顔には余裕の笑みが貼りついている。
「そんなワケないでショ?」
司馬は楽しそうに唇の端を上げ、慣れた手つきで天国のボタンをはずし、目の前にあらわれた
白い首筋にチュッと口付けた。
「昨日も雨で屋上使えなかったから保健室は満杯だったんだよ。
んで、寝転がれる所探していたら見ちまった。
俺は自分のモンに手ぇ出されんのが一番ムカツク。」
犬飼はギリ・・・と天国の上でくやしそうに歯噛みをする。
「強姦か和姦か知らねーけど、ホイホイヤられてんじゃねーよ、馬鹿猿。」
しばらく呆然としていたが、その言葉に天国はカチンときた。
「誰が犬コロのモンだって?司馬は俺が誘ったんだよ!
勘違いすんじゃねー!!」
犬飼の下になっている天国はさらに抵抗を続けるが、体格が一回りも違う犬飼は
いとも簡単に暴れる天国の腕を一まとめにし、床に縫いとめる。
「他の奴誘うほどサカッてんなら俺が相手してやる。いいからさっさと足開け。」
「な・・・・っ!?」
あきらかに不機嫌そうな犬飼は開いている片手で天国のYシャツを引きちぎり、
滑らかな素肌に手を這わせる。
ふと、手が止まった。
犬飼の視線が、天国の肌の一点に止まる。
紅い、先日の彼との情痕。
白い、白い彼の体だけに一点だけ残されたソレは、ひどく扇情的で、司馬への怒りで
犬飼は残された情痕に噛みついて自分の痕へと変える。
「やめ・・・っ犬か・・・・!!」
快感に弱い体に流されまいと必死に天国は抵抗するが、
腕に破られたYシャツがからみつき、上に縛られたように自由が奪われていた。
犬飼は胸の飾りに噛みつき、もう片方を指で乱暴にいじる。
「・・・・っ・・・・!」
乱暴に扱われているのに、感じてしまう体を呪いながら天国は必死に声をかみ殺す。
口を開くと、何を口走るから分からないから。
抵抗らしい抵抗も出来なくなった天国の制服のズボンを下着ごと下ろし、
犬飼は既に勃ちあがっている天国の先端に舌を這わせる。
「犬飼・・・・っ!!」
「黙って喘いでいろ。」
口に銜えたまま天国を制し、さらに奥まで銜え、口で刺激を与えると天国の腰が揺らめいてくる。
さらに犬飼の指は天国の秘孔を探り、ツプリと音を立てて差し入れられた。
入り口をやわやわと動かされ、あまりのもどかしさにうっすらと涙が浮かぶ。
深くまで入れられたかと思えばすぐに引き抜かれ、指を増やされる。
天国の熱は中途半端に刺激され、放置されている為にかなりツライ状態にあるのだが、
犬飼は一向に見向きもしない。
自分でするにも手が自由にならず、犬飼の目の前でするなんてプライドが許さない。
「ヤメロ犬飼・・・・っ・・・もう・・・」
息も絶え絶えに天国はそれでも犬飼を拒もうとする。
「そんなに・・・・嫌なのかよ・・・っ・・。」
「え?」
ふと、自嘲じみた犬飼の声に天国は思わず聞き返す。
その一瞬のスキを見て、犬飼は天国の中に身を沈めていった。
「あ・・・・ああ・・・」
元々そのために作られた器官ではないソコは、十分に蕩けていなかったため、ミシミシと衝撃が天国の体に響き、開け放たれた口から声にならない叫びが漏れる。
「・・・・・天国・・・・・。」
犬飼のツラそうな声を最後に、天国は意識を飛ばした。
「・・・・・・最悪。」
その言葉は強姦をした犬飼に向けられたのか、弱い自分に向けられたのか。
いまだ降り止まない雨は周りの音を掻き消し、もともと静かだったこの部屋はさらに静寂を深めている。
目を覚ました時、自分を犯した彼はすでにいなかった。そう、今まで何も無かったように。
しかし汗と精液で濡れ、ぎしぎしと軋む体は先程の行為が単なる悪夢ではないということを
物語っている。
時間はどれくらい経っただろうか。少なくとも本日の授業は終わっているだろう。
窓から見える教室の明かりがぽつぽつと消えている。
この体で部活に出るのは無理だろう。
とりあえず目の前の問題である部活を休む理由を探さなければならない。
「・・・・・っ・・・・!!」
ふいに、天国は大声で泣きたくなった。
あの雨の日に自覚してから、彼から必死に逃げ回った弱い自分。
享楽に身を任せることで苦しいことを忘れようとする臆病な自分。
それらを高潔な彼に知られまいと必死に隠す強情な自分。
どれが本当の自分であるか、それともどれもが本当の自分なのかわからなくなる。
本当は彼の代わりを求めるぐらい・・・・・
そんな優柔不断な自分が招いた結果がこれだ。
自分はもう、犬飼をまっすぐ見ることが出来ないし、それは彼も同じだろう。
誰が強姦した相手と馴れ合うことが出来るのか。
天国は必死に嗚咽を飲み込み、のろのろと汚れた体を拭けそうなものを探す。
どうやってこれからこのポーカーフェイスを続けていけばいいのだろう?
「何訳わからないこと考えているんだ?このお猿様は。」
・・・・いきなりの事で誰がやってきたのかわからなかった。
「犬・・・・飼・・・。」
振り返った天国は入り口に立っていた人物を見て唖然とした。
犬飼は大股で部屋の中へ入り、天国の横に腰を下ろす。
「とりあえず、ミセロ。」
「・・・・・は?」
「体。」
名詞だけ言われましても、と固まってしまった天国にお構いなく犬飼はテキパキと濡れタオルで
天国の体を拭っていく。
「ここらへんは水道が通ってないから新校舎まで歩くハメになった。
サボるなら次からは保健室にしろ。」
そこで犬飼はにやりと笑う。
「そこには色んな物があるから。」
ぶっ!
その言葉の意味を知ってしまった聡明な天国は思わず吹き出した。
(こ・・・・・こんのコゲ犬が〜!)
いけしゃーしゃーとした犬飼に思わず腕はプルプルと震え、こぶしを握る。
「やっと本当の顔になったな。」
「へ?」
犬飼は天国の怒りで少々紅潮した顔を見て先程とは違った苦笑を浮かべた。
「どっかの馬鹿猿はうまく猫の皮を被っているつもりらしいがな・・・・
とりあえずモロバレなんだよ、俺には。」
天国の身体がきれいになったことに満足して、犬飼は脱がした時とはうって変わって
壊れ物を扱うかのように服を着せていく。
「お前、皆の前だと無理矢理明るく振舞っているだろ。
必死で笑って・・・馬鹿やって・・・・。」
心拍数が、上がる。
「そうやっていたかと思えば自分の身を簡単に投げ出す・・・・・
その時は本当に猿野天国、本当のお前なのか?」
犬飼は固まった天国を抱きしめ、耳元で囁く。
「だから・・・・放って、おけないだろ。
好きな奴ならなおさら、な。」
今まで沢松にも打ち明けたことのない心の闇を、犬飼は見抜いたのだろうか。
途端に、部屋の中に静寂が戻って雨音だけが響いている。
2人とも、何も言わない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・ずるいんだよ。」
ぽつりと、天国が言葉を漏らした。
「何がだ?」
腕の中に抱きしめた天国の背中を、犬飼は慈しむように撫でながら聞き返す。
「なんでお前は・・・・そんなに易々と俺の中に入ってくるんだよ・・・っ!!」
初めてそこで、天国の目に涙が浮かんだ。
「いままで・・・っ1人でも平気だったのに・・・っ・・・なんでだよっ!!」
犬飼は何も言わない。
「苦しいことも辛いことも、慣れているから・・・・・っ!!」
「もうよせ。」
自暴自棄になってきた天国の口を、犬飼は自分の唇で塞いでしまう。
「・・・っん・・・・っ・・」
それは先程のような噛み付くようなものではなく、犬飼の差し入れられた舌は
優しく口腔を愛撫した。
やっと離されたと思えば耳たぶを甘噛みされ、思わず身をすくめた。
「お前は一人で何もかも抱えすぎなんだよ。苦しかったら、辛かったら俺を呼べばいい。
今度からは・・・・俺も抱えてやるから、黙って甘えてろ。」
「・・・・・・・・ん。」
天国は小さく頷いた。
「・・・・・・良し。」
そう言って犬飼はゆっくりと先程Yシャツの代わりに着せたTシャツを手際よく取っていく。
いきなりの犬飼の行動に慌てて天国は慌ててズボンにかかっている手を止めた。
「ちょ、ちょっと何やってんだよっ!?」
「何・・・って決まってるだろう。心が通じ合った恋人同士がやることは1つだと思うが?」
制止の声を上げる天国に犬飼は不満そうに手を止める。
『恋人同士』という言葉が妙に気恥ずかしくて、天国はズボンにかかった手をさりげなく
外そうとするが、それどころか手際よく脱がされていく。
「さっきは死にそうだったんだけどっ!?」
天国はなんとか最後の切り札を切るが、
「今度は優しく殺してやるよ。」
犬飼にはまったく効かない。
(・・・・・・・ったく。)
天国は苦笑しながら犬飼に身を預ける。
こんなカンケイも悪くない。
降りしきる雨音はもう、2人の耳に届かなくなっていた。
終
ミスフル小説「Killing me softly」でしたっ。
直訳は確か「優しく殺して」と私の部活の顧問(国語)がのたまっていました。
最初これは「アメノヒ」だったけど、だんだん雨が関係なくなってきたので改名。
もうなにがなんだか(笑)
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