退屈は人を殺すという。

神羅の英雄、セフィロスは文字が羅列するパソコンの画面を眺めながら

誰が言ったか分からない科白をふと思い出す。

確かにそうだと彼は切々感じた。

別に仕事がなく、やることがまったくないということはない。

目を通すだけの書類だけでも10枚近くあるのだが、それは彼の興味を満たすには程遠い。

しかも彼には退屈のほかに大変大きな問題を抱えていた。

そのことを考えると頭が痛くなる。

早急にどうにかしないとこの退屈に不快感までがプラスされるだろう。

「おーい旦那、そろそろ入隊式始まるぜー?」

セフィロスは頭を抱え、眉間にしわを寄せたとき能天気な声が部屋の外から自分を呼んだ。

自分のことを旦那なぞ呼ぶのは一人しかいない。

ザックスだ。

「・・・・・わかっている。」

本日の午後の予定を思い出しながら、セフィロスは部屋の外へ出た。

あれらの問題を考えるのはまだ後回しにしてもいいだろう。

とにかく当面の問題としてはこの入隊式のメインであり新人兵を死に追いやる(言い過ぎ)

恐怖のプレジデントからの挨拶の間をどうやって過ごすかということだけだった。

「あーあー。プレジデントの挨拶長いからなー。」

セフィロスの隣で愚痴を言っているのはソルジャー1stのザックス。

神羅ただ1人彼の親友だといって誰もが恐れるセフィロスに臆面もなく絡むことができる。

というより、彼の単純な性格は誰でも彼でも隔たりなく話すのだ。

彼の性格はセフィロスにとって理解しがたい部分があるが、この人懐こい性格の割に

ソルジャーらしい冷静な判断力、それに伴った実力があるため自然に彼が隣にいた。

周りもそう思っているらしく今回の入隊式もザックスとともに出席することになっている。

客寄せパンダか。

上からこの命令を下された時の感想はこれに尽きる。

まだまだ頼りないひよっこの新人兵らに彼らにとって雲の上の存在である自分らが

姿を見せれば、忠誠心も高まるだろう。

大した気乗りもせずセフィロスは会場へと続く赤い絨毯を踏みしめる。

そして目の前の意味もなく大きな扉をくぐった。

 

 

 

邂逅 〜英雄の目は節穴疑惑〜

 

 

 

みんな同じような姿形の中、一人目立つ者がいた。

黒い髪の中にまぎれる金色の髪、その髪は自らの存在を主張するようにぴんとたち、

一際目を引く。彼の年の平均体重を少々下回るが野生の獣のようなしなやかな肢体。

それも整った顔立ち、深海を思い起こされるきれいな瞳となれば男といえども

周囲の目を変えさせるには十分な要素だった。

彼の名はクラウド・ストライフ。

身長・体重不足のため2回ほど不採用となったが、今年新人兵としてやっと

この場に立つことができた。

強くなりたい。

彼の目には権力への野心ではない、純粋な向上心が見え隠れしている。

それを裏付ける激しい気性とその年齢不相応な判断力を彼は持っていた。

だがまわりの人間は外見に騙され、彼を軽くみる輩も少なくない。

そして今、クラウドのまわりに立ち並ぶ新人兵らもその一部であった。

「・・・・・おい、金髪の坊や。ちょっとこっち向けよ。」

クラウドの隣に立っていた背の高い、兵士がクラウドに声をかける。

ちらりと後ろを見ると、年はクラウドと同じぐらい。

そんな奴に坊やなぞ呼ばれる筋合いはないのでクラウドはそのまま無視。

だがその兵士は無視されたことに腹を立てたのか、それとも怖がって声が出せないと

解釈していい気になったのか、さらにクラウドに話しかける。

「お前みたいな女みたいなナヨナヨした奴がここでやってけると思っているのか?

ええ?」

にやにやとにきびだらけの顔を歪ませる。

女みたいな奴。

今まで生きていた中で何度もそうなじられているのでまだ我慢できる。

クラウドは煩わしげに眉をひそめただけでさらに無視。

だが反対側の男がにきび面の男に乗ってきて口をはさんでくる。

「こんな男だらけの中に好き好んで入ってきたってことはそういう趣味があるんじゃねー?」

ヒヒヒ、と下品に笑いスルリとクラウドの腰に手が回った。

・・・これにはさすがのクラウドでも、キた。

握りしめた拳が震える。

「・・・・・っけんじゃねー!!!」

彼はここが一体どこで自分がどういう状況であったかなど常識は遥か彼方に飛んでいき、

目の前の輩を抹殺するために拳を振り上げた。

 

 

 

「・・・・・なあ、旦那。」

「なんだ?」

ザックスは目の前の光景がいまいち理解できず、用意された来賓用の椅子から立ち上がれずに

呆然としている。

「どゆことよ?この状況。」

「知るか。」

2人が見る限り・・・・入隊式会場は大混乱といっても過言ではなかった。

新入兵たちが整列している列の一部から喧嘩が起こったかと思えば、喧嘩に巻き込まれたのか

それともプレジデントの無駄に長い挨拶に飽きていたのかその騒ぎは一気に広がり

収まる気配は微塵もない。

押し合い、圧し合い、殴り合い。

周りにいた兵士も止めようとするがまったく止まらず、逆に乱闘に巻き込まれ

壇上のお偉いさん方はどうすることも出来ずただオロオロとするばかりだ。

「私も結構長い間神羅にいるがな・・・・こんな退屈しない入隊式は初めてだ。」

クククッと面白そうに笑うセフィロスには止めようとする考えはまったくないだろう。

本気で止める気のないセフィロスと早く止めろと自分らに向かって叫んでいるような

上司に板ばさみにされ、ザックスはまったく身動きが出来ない。

そうやっているうちに新入兵は1人倒れ、2人倒れ、さらに状況は悪化していく。

この状況を救護班が見たら真っ青になるだろうな、とセフィロスは他人事のように

(まさに他人事なのだが)1人楽しんでいた。

だがその時、セフィロスの無駄にいい視力がクラウドを・・・・いや、

金髪のチョコボ頭を捕獲した瞬間、セフィロスは驚いたように目を見開き、立ち上がる。

「・・・・・あれ?旦那?」

そして呆然としていたザックスが振り向いた時、・・・いつのまにかセフィロスは姿を消していた。

 

 

 

その頃騒ぎの中心であるクラウドはもう誰が誰だか分からなくなっていた。

あの腰に手を回してきた奴に関しては裏拳を入れた後、鳩尾を蹴って床に沈めて

こかして踏みつけたことは覚えている。

にきび面は隣の男を沈めたことで慌てて身構え、クラウドへと襲い掛かってきたが

拳をするりとかわし、足を引っ掛ける。

「おわああああっ!?」

すっ転ばされるとは思っていなかったために受身を取ることも出来ず周りの人間へと

倒れこみ、そこから大乱闘が始まったのだ。

この神羅に一般兵として志願した者はやはり血気盛んなものが多く、

ぶつかられた人だけではなく、周りで見ていた兵たちもこの騒ぎに乗っかり、

クラウドがヤクザ蹴りでにきび面を黙らせて冷静を取り戻したときには、

「・・・・・えーっと・・・・(汗)」

もうどうしようもなくなっていたのだった。

この騒ぎの張本人であるクラウドはとりあえずこの場から逃げようと決意したが、

今度は関係ない奴等まで自分に殴りかかってくるのに驚き、慌てて避ける。

「ちょ、ちょっと待てよ!?」

確かに先ほどの2人に反撃されるのは分かる。

しかし、なんでいきなり関係のなかった奴に殴られなきゃいけないのかと

ニブルヘイムからあまり出たことがなくて少々疎いクラウドには理解不能なのだ。

(どーしてこうなるんだっ!?)

クラウドは慌てて人の間をすり抜け、なんとかこの場から脱出しようとした。

こういうときにこの小さなカラダが役に立ったと思うと嬉しいやら悲しいやら

少々複雑な気持ちになる。

先程自分に殴りかかってきた奴はとっくにクラウドへの興味は失ったのか違う奴を相手に

乱闘を繰り広げていた。が。

「待てよコラ!!」

ようやく抜け出せると思ったが、先程の攻撃から復活したにきび面が服を掴んだ。

だがその顔面もまったく関係ない人々に踏まれまくったのか原形をとどめていない。

(ちっ・・・・・)

クラウドは心の中で舌打ちをし、もう一度全身のバネを使って掴んでいる手を振り払い、

次の動作へと移るため間合いを取ろうとする。

その時だった。

どんっ!!

「うわっ!?」

後ろへ飛びのいたクラウドはいきなり大きな黒い壁にぶつかり、ひっくり返ってしまった。

(やばいっ・・・・・・!!)

自分を殴りかかろうとしている相手を前にして、この状況は圧倒的不利だ。

クラウドはダメージを覚悟して反射的に目をつぶる。

「・・・・・・・・・・・・?」

だがその一撃は未だにこない。

目を開けると、にきび面はぽかんとした顔で自分ではなく、自分の後ろを見つめている。

彼の顔色はこころなしか悪く、額に汗が流れている。

その様子にクラウドは初めて後ろを振り向き、にきび面の彼と同様に固まってしまった。

・・・クラウドは先程ぶつかったのは壁とか、大きい人としか思っていなかった。

だが、問題はそれが誰か。

「サー・・・セフィロス・・・・・・」

クラウドが信じられないとばかりに有名すぎる彼の人の名前を呟く。

そう、それはいつのまにかザックスの隣から消えていたセフィロスだったのだ。

いきなりの英雄の登場に大混乱だった会場も一気に静まり返る。

そして当の本人であるセフィロスは冷たい視線でクラウドを見下ろしていた。

クラウドはニブルヘイムからここに来るまで、そして厳しい自主訓練をしている間、

相当な数の野盗やモンスターなど倒してきた。

自分に向けられる殺意や判断できない気配の恐怖心などもう慣れたはずなのに、

クラウドの体は動かなくなる。

(これが・・・・・『英雄』・・・)

クラウドは騒ぎの原因であることを今更になって激しく自覚する。

多分、自分は見せしめなりなんなりで処罰されるだろう。

だがセフィロスの次の行動は誰も、そして親友(自称)ザックスさえも予測できなかった。

「・・・・・ハヤヒデ・・・・・・」

「・・・・・・は?」

ぽつりと動いたセフィロスの口からは意味不明な単語が漏れる。

クラウドはどうやら自分に向けられているということは理解できたが、その言葉の真意は謎。

思わず聞き返してしまう。

「戻ってきてくれたんだなっ!?」

抱きっ!!

「ぐえっ!!??」

突然のセフィロスの抱きつき攻撃(?)に反応が遅れたクラウドはがっちり掴まり

身動きが出来なくなってしまった。

それどころかセフィロスの腕に絞められる力は次第に強くなり、このままだと

確実に肋骨が折れるだろう。

(このままじゃ・・・・死ぬっ!!)

クラウドは体を捻り、この際この人物は誰かという事は忘れて頭を反対方向へと押しやる。

「死・ん・で・・・・・たまるかぁーーーー!!」

「なにぃっ!?」

渾身の力をこめてクラウドはセフィロスの腕から抜け出すことに成功する。

「一体何すんだよあんたっ!!??」

ゼハゼハと息を整えながらクラウドはセフィロスを睨みつける。

いきなりさば折りなんてしてくる相手なんぞ敬語なんて必要ない。

髪の毛同様気も立ちまくっているクラウドにとって相手が誰なんて関係ない。

クラウドのなかのセフィロスの評価はこの行為によって「憧れの英雄」から「失礼な変態」に

一気にレベルダウンした。

「私を忘れたのかハヤヒデ!!」

「だから誰がハヤヒデなんだよっ!!」

必死にハヤヒデと呼びかける神羅の英雄。その英雄にあんた呼ばわりのタメで話す新入兵。

こんな不思議な光景に誰もが唖然として動くことが出来なかった。

「お前を逃がしたのはチョコボぼうが足りないから仕方がなかったんだ!!

ああ・・・頼むから私の甲斐性のなさを頼むから責めないでくれ・・・・」

セフィロスは悔しそうに顔をそむける。

その言葉でクラウドはセフィロスが何を言っているのかを理解した。

(こいつ・・・俺を・・・・チョコボだと思っているんじゃないのか!?)

『チョコボ。チョコボ科チョコボ属。

世界各地域に生息し、性格は基本的に臆病だがマテリア『チョコボよせ』を付けていると、

たまにモンスターとともに出現する。飼い慣らすと乗り心地も良く、最高のパートナーになってくれる。また、ゴールドソーサーでは競技用にもなっている。

容姿は金色の羽、力強い前足をもち、飛べはしないが素晴らしい脚力を持っている。』

クラウドの記憶の中に、昔母が買って与えてくれた動物図鑑の説明が浮かんだ。

年相応に見られないのもわかる。

悲しいことだが女の子に間違われるのだってわかる。

しかし、チョコボに間違われるというのはどうだろう。

ゆっくりと息を吐き、同じように息を吸う。

静まりかえった会場。目の前には数十分前まで自分の心の英雄であった変態。

そこで、クラウドの最後の何かがキレた。

「あんたの目は節穴かーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 

 

 

「・・・・・で、こうなるわけね。」

ようやく事態を把握したザックスは、呆れながら呟いた。

波乱の入隊式が(強制)終了した後、セフィロスとザックスは先ほどのセフィロスの

執務室へ戻ってきていた。

クラウドはセフィロスの鳩尾に拳を入れた後、会場から走っていってしまった。

だがセフィロスの様子は最初とはうって変わって楽しげに辞令を書いている。

「今年の新人兵・・・いや、あいつはなかなか楽しめそうだな。」

うきうきと書類に自分のサインをし、筆を置く。

その書類の宛先には・・・・

 

 

 

『辞令 以下の者は特別任務を命ずる。

  ハヤヒデクラウド・ストライフ

○月×日付でソルジャー1st・セフィロスの特別秘書を命ずる。』

「なんなんだ・・・・・・?(汗)」

大波乱の入隊式から3日後。厳しい訓練から戻ってきたクラウドを待っていたのは

理不尽な命令書だった。

「なんでじゃーーーーー!!!」

クラウドの魂の叫びが廊下に響き渡ったがその疑問に答えられるものはここには

存在していなかった・・・・。

 

 

終わり

 

 

【おまけ:ザックスの証言】

「え?特別秘書起用の理由?

そりゃ、セフィロスはあのクラウドを自分が飼っていたチョコボだと思い込んでるからさ・・・と、言いたい所だけど、実際のところ、前の秘書がセフィロスの我ま・・・じゃなくて激務に耐え切れなくなって辞めちゃってたんだよなー。

このままだと見苦しい中年秘書が上から派遣されてくるだろ?

だから上が何か言ってくる前に長時間見てても飽きない奴を自分で掴まえたって所じゃないか?・・・まあ、旦那のことだから自分の飼っていたチョコボにそっくりだからっていうのもありえるけど。」

 


FF7ギャグ「邂逅〜英雄の目は節穴疑惑〜」でしたっ。従兄よりプレステを借りたので早速やったFF7。
見事嵌りました(笑)今最後の戦い前でストップ中。だってラスボス倒すって時、なんか萎えません?
冒険が楽しいのに。同様にドラクエ7止まってます(汗)

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