あれから…一週間が経った。
流れる時間。
1秒1秒と変わっていく世界。
あそこにいた時とはぜんぜん違う感覚。
生命が生まれ、やがては死んでいく…。
わしも今は他の生命とともに死への道を一歩一歩歩いている。
羊たちとゆったりと過ごす。
それがわしの望みのはずだった。
だけど…この喪失感はなんなのだ…。
大きなため息を吐く。
その理由は分かっていた。
「楊ゼン…。」
わしは、腰を上げ空を見上げた。
雲一つない青空。
まるで楊ゼンの髪のような…。
思わず涙が流れそうになった時
「呂望さん。」
「ぬおっ!?」
いきなりゆうきょうが後ろから声をかけてきた。
「いきなり声をかけるではない…。死ぬかと思ったわ。」
「それはぼんやりしてたからでしょう?武王が探してましたよ。
王宮に行きましょう。」
殷周易姓革命が終わり、今や周の時代。
だが、まだ問題は多々あり、元軍師であるわしも呼び出されることもよくあった。
軍師としての意見が聞きたいらしい。
わしは…もう王家とは関わるべきでない…。
それに…。
わしはもう一度空を見上げる。
さっきより空が近づいた気がした。
「…ゆうきょう。」
「はい?」
「わしは…行けぬ。」
彼女はきょとんとしてこちらの顔を覗いてくる。
「どこかへ行くのですか?」
わしは、天に指をさし、
「あそこだ。」
*
師叔が下に降りて一ヶ月がたった。
風の噂によると彼は羊たちに囲まれ幸せな日々を過ごしているらしい。
これでよかった…。
だが…この喪失感はなんだろう…。
僕は空を見上げる。
雲一つない青空。
この汚れない青を見ると…師叔のことを思い出す。
僕の周りには師叔に関するものなどはない。
見るとつらいし…思い出は胸の中にたくさんある。
これで充分のはずだった。
もう、僕たち仙道は人間界に干渉しないように降りることは許されない。
僕は大きなため息をつき、修行を再開しようとした時だった。
広い広い地面に青く雲ひとつない空。
そこにぽつんと白の点…。
「あれは…」
のろのろと近づいてくるとだんだん姿がはっきりしてくる。
「師叔…!?」
もう、会うことがないと思っていた想い人…太公望師叔が
歩いてくるじゃないか!!
なんだか…おぼつかない足どりで…。
彼は手を伸ばせば触れる距離にまで近づいてきて…そこで僕によしかかるように
倒れてしまった。
「大丈夫ですか師叔!?下界から歩いてきたのですか!?」
冗談ではない。師叔が住んでいる所から仙人界に続く入り口まで
日夜歩きつづけても2週間、それから天に昇り、僕の住まう場所まで
ぷかぷかと浮かぶ岩を渡ってこなければいけない。
もちろんその激しい道のりを表すかのように師叔の服は泥にまみれている。
その服に赤い血のようなものも付いているのを僕は見逃さなかった。
「…会えたではないか…。」
「………………?」
師叔はかなりの小さな声で呟く。
「もう会えないなんて…言わないでくれ…
わしは…わしはおぬしが必要なのだ…。」
師叔が寄りかかっている僕の胸が水で濡れる…。
「泣いているのですか…?」
僕は泣きつづけている師叔を…ぎゅっと抱きしめた。
いつまでも…いつまでも…。
一度天に帰ったはずの
天女が君に
会いたい一心で
君の元へ
逃げてきたなら
今度は強く抱きしめて
2度と離しては
いけません。
君達2人は
赤い糸の恋人だと
全ての命が
祝福してくれるでしょう
終
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