酒戯
ここは周と殷の国境。楊ゼンが陣頭指揮をして出来たばかりの要塞があった。
しかしその要塞はスパイとその父親、友人の妖精により、
少々(?)破壊され、修復のため太公望は大量の書類に囲まれていた。
そんな時、
「太公望♪」
ほろ酔い気分の姫発が太公望の部屋を訪れた。
「どうした武王。…おぬし酒臭いぞ。酒が入ってい…」
「オーイエー。」
姫発はほろ酔いどころかかなり飲んでいるらしく足元がおぼつかない。
「たーいこぉ〜ぼ〜、一緒に飲もうぜー?」
どこに隠していたのかかなり大きな酒ビンを取り出した。
              *
楊ゼンも自室で仕事をしていた。
要塞建設最高責任者のため何かと仕事が多いのだ。
「ふぅ…。」
仕事が一区切りしたため、少し仮眠しようと席を立った。
  たったったっ……
「伝令です!!」
いきなり楊ゼンの部屋に伝令がやってくる。
「太公望様が部屋に来るように、とのことです!!」
              *
「なんですか…?この騒ぎわ…。」
太公望の色気も何もない書類だらけの部屋はいつのまにか
宴会場と化していた。
余り広くない部屋には主だったメンバーのほとんどが
酒を浴びるように飲んで、ある者は無意味に笑い、
ある者は無意味に周りの者に絡み出す。
そんなバカ騒ぎの中、楊ゼンは目当ての彼を見つけた。
「太公望師叔!!」
「おお、楊ゼンか。ちと遅かったのう。いや、ちょうどよいかもな。」
太公望はくいっと酒をあおる。
「物資の事で聞きたい事があったのだが、伝令と入れ替わりで
武王に酒を勧められてな。そしたらいつのまにかこの騒ぎだ。」
先程飲んだ酒を楊ゼンに投げて渡す。
「おぬしも飲んでいけ。寝酒ぐらいにはなるぞ。」
「こんな薄い酒では酔えませんよ。」
楊ゼンも太公望にならって酒をひとあおりし、
足りないと抗議の声を上げていた者に投げてやる。
仙界にいるもの達が飲む酒…仙桃は普通の酒より100倍近く
アルコールがきつい。
下界のもの達は一口飲んだだけで簡単に酔いつぶれてしまう。
「…酔っている者もおるようだのう?」
太公望はチラッと後ろを振り向くとその視線の先には
その薄い酒とやらで酔いつぶれている天化と騒ぎまくる雷震子がいた。
「彼らはまだ仙人界で修行してそんなに経ってませんからね。
まあ、あなたぐらいになると酒は水ぐらいにしか感じていないでしょう?」
「まあのう。」
太公望は懐から仙桃を取り出し
1つを楊ゼンに投げ、もう1つを自らの口に運んだ。
                *
「おう太公望。飲んでっか〜?」
「食っておるよ。」
武王はへべれけとなり、もそもそと仙桃を食べていた太公望に
絡み出す。
「おまえ仕事ばっかりだろ?食ってばっかじゃなくて
今日ぐらいは飲め飲め。」
と、並々と酒を注ぐ。
「そ、そんなに注ぐでない。」
太公望はまだ入れようとする姫発から椀を奪ってこれ以上入れられまいと
グイッと酒をあおる。上を向いて中身を飲み干した時、太公望の白く、
細い首筋が月光に映える。
武王は思わず喉がなった。
「ん?どうした武王。」
太公望はいつもとは違う姫発の気配に気付きなんとなく声をかけたら
「ぬおっ!?」
油断していたわけではないがいきなり姫発に抱きしめられたのだ。
その行為を見ていた楊ゼンの眉がピクッと跳ね上がる。
しかしそんな楊ゼンにおかまいなく姫発はなおも太公望に絡みつづけた。
「こんどは俺についでくれよ…。」
言葉とは裏腹に武王は太公望の白い首筋に口をつけようとする。
「こ、これ。やめぬか。」
太公望が少し困った声で姫発を押し返そうとした時だった。
ばしゃぁっ!!
「うおっ!?」
姫発は頭の上から酒をかけられた。
「すいません、こぼしちゃいました。」
かけた張本人…楊ゼンはしれっとした口調であやまる。
「てめぇ〜!!」
姫発は酒で勢いがついたのか楊ゼンにくってかかった。
しかし、掴もうとした手は空を切るばかりだ。
「やめぬか2人とも!!」
太公望は2人の間に割って入り、なおも掴みかからんとする姫発をとめる。
「☆@○▲〜!!」
動き回ってアルコールが回ったのか姫発はだんだん何を言っているのかわからなくなる。
本人もきっと訳がわかってないのであろう…と太公望はしょうがなく近くの従者に
声をかけ、姫発を連れて行ってもらう。
本人もかなり前後不覚になるぐらい酔っているらしく
「た〜いこ〜ぼ〜ぅ、殷を倒したらよぅ、
オメーを嫁にするから待ってれよ〜う。」
いきなりこの爆弾発言だ。
だが、太公望は酒の席の戯れ言と思い、宥めるという意味合いで
「はいはい、わかったから。」
と軽い相槌をしてしまったのだった。
                 *
流石に酒も胃袋も限界があり、意識のある者はのろのろと
自分の部屋に戻り、意識のない者は担がれて部屋を出て行く。
そして、結局残ったのは仙桃一個たいらげただけの楊ゼンと
部屋の主、太公望であった。
「まったく…片付けて行けっつーの。」
太公望はブツブツと文句を言いながらも散乱している酒ビンや
皿を片付けていく。
ふと後ろを見ると楊ゼンはぼーっと座っているだけだった。
「ホレ、おぬしも酔っていないのなら手伝え。」
楊ゼンの様子からして酔っていないと思い太公望は声をかけるが返事はない。
太公望は細いため息をつき楊ゼンに背を向けた。
                 *
「ぬ〜…今ごろ酔ってきおったか。」
太公望は1人ふらふらと真夜中の廊下を歩いていた。
部屋を片付けるのが途中で嫌になり、部屋に座りつづけている楊ゼンに声をかけてから
顔を洗いに行った。もちろん寝るためだ。
真夜中のため誰もいない廊下…
(およ?)
いや、1人だけいた。真っ暗闇でもはえる蒼色の髪の青年が。
「楊ゼンではないか。」
周りが周りなだけに顔は見えないが背格好でそれとわかる。
太公望は無用心にぺたぺたと彼に近づいて行った。
彼の気持ちを知らずに…
「すまなかったな、宴会に巻き込んでしまって。」
「…いいえ、いい息抜きになりましたから。」
抑揚のない、いつもの口調で答える。
「先ほどの話はまた朝にでもすることにしよう。
もうおそいしのう。」
と、楊ゼンの肩…実際は背が届かないため腕だが…をポンッと叩こうとした。
しかし、その手は楊ゼンに掴まれる。
「ぬ?」
太公望が疑問符を浮かべた瞬間、楊ゼンの意図が読めた。
ダン!!
太公望の小さな身体は思いっきり壁に押さえつけられたのだ。
「な、何をする楊ゼン!!」
太公望は制止の言葉を発するが楊ゼンは聞かず、
服をめくりにかかる。
「やめんか楊ゼン!!!」
太公望はあらん限りの力で首筋に口をつけようとする楊ゼンを押し返す
実際、太公望は力がないためあまり意味はなかったが
いきなり楊ゼンの動きが止まる。
「………………?」
この唐突さに嫌がっていた太公望も動きが止まった。
再び、廊下に静寂が戻る。
「僕じゃ…だめなのですか…?」
「は?」
楊ゼンは今にも消え入りそうな声で呟いたため、太公望の耳には届かない。
「僕じゃ…だめなのですか…?」
「楊ゼン…?」
蒼色の髪が、太公望の胸を埋める。
「武王の事か…?」
楊ゼンは答えない。無言の肯定。
(まったく…この天才様は…。)
太公望は思わず苦笑する。何百年もかけて功夫を積んできたとは
おもえない、この独占欲に自分勝手、やきもちやき…
他の者がこんな性格だったら絶対に嫌いなタイプだろうが
楊ゼンだと、この独占欲はかえって…ここちよい。
「…ったく。楊ゼン。」
「…はい…。」
楊ゼンは小さい返事だけで顔を少しも上げようともしない。
すると太公望は思いっきり楊ゼンの前髪をグイッと引っ張った。
「いててててて!!」
楊ゼンは太公望に無理矢理引き上げられる形で、顔を上げると
太公望と視線が合う。
「…師叔…?」
「…こんのやきもちやきめが。」
太公望はため息1つと軽い…キスを楊ゼンにした。
「!?」
太公望はいつも恥ずかしがって自分からしてくれた事がない。
これが始めてだ。
楊ゼンはビックリしてもう一度、太公望をまじまじと見る。
太公望はやはり恥ずかしいのか顔を朱にして
視線をそらし今度は太公望が小さな声でのたまう。
「…だめも何も…おぬししかおらぬよ…。」と。
「本当ですか!?」
太公望のその言葉を聞いて楊ゼンの顔は…一気に明るくなる。
(う……。)
言わないで放っておいたほうが良かったかもと
太公望が少々後悔したほどだ。
「と、とにかく。武王のは相槌を打ったっつーか何つーか…。」
「ええ、安心しましたv」
しどろもどろの太公望の説明を聞いて楊ゼンはにっと笑う。
「おぬしは落ちこんだり笑ったり、忙しいやつだのう…。」
と、ため息1つ。
「ええ、でもあなたの事ですからこうなんですよ?
僕はいつも、あなたのことばかり考えていますから…。」
そして楊ゼンはもう一度太公望の胸に顔を埋めたのだった。
                           (終)
おまけっぽくないおまけ(笑)
「…ときに楊ゼン。そろそろ寝たいから離してくれぬかのう?」
「そうですね。そろそろ寝ましょうかv←?」
楊ゼンは同意の言葉を一応口から出すが、そのまま太公望の軽い身体を
ヒョイっと持ち上げる。
「やめぬか恥ずかしい!!(//////)」
太公望は足をばたばたとするが、それを気にも止めず
「じゃ師叔の部屋は散らかっているので僕の部屋にでも♪」
「バカ者!!そっちの『寝る』ではない!!!(必死)」
「恥ずかしがり屋さんですね、師叔はvv」
「たーわーけっ!!!」
バタンッ…
そして…楊ゼンの部屋の扉が閉められたとさ(笑)
                        (終)


つー訳で3000hitリク小説でした!!
今回も自分の目標果たせて満足v(次のリクまでに書き終わること)
しかもなかなかの出来でどうどうとだせます。
ただ・・・最初は裏を書く気マンマンだったけど途中ギャグ禁断症状になってしまい
なんだかよくわからない終わりかたに・・・(汗)
もっと精進してきます(泣)
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