お子様注意報
ひゅごおぉぉぉぉ!
「……………。」
僕は果てしなく上に続く岩盤を見上げていた。
(なんで……こんな所にいるんだろう…。)
理由はわかっているがそれでも疑問が頭の中に浮かぶ。
事の発端は昨夜の太公望師叔の一言から始まった。
*
「桃が食いたい。」
「……はい?」
僕はいつものように師叔の部屋を訪れ、いつものように彼を
寝台に押し倒していた。
するといきなり桃食べたい発言……あまりの唐突さにさすがの僕の手も止まる。
「桃食べたい……って桃貯蔵庫にたくさんあるでしょう。」
僕は軽くあしらい、師叔の寝着の前合わせを開こうとすると
「桃貯蔵庫にある桃ではないのだ!」
師叔はつかむ僕の手を振り払い、乱れた寝着を急いで戻す。
「わしが食いたいのはこの辺に生っていると言われる『幻の桃』のことなのだ。」
「わかりました。後日用意しますから…。」
僕はもう一度師叔の小さな身体を抱きしめると
「今食えないのならわしは寝る。」
あろうことか師叔は僕の腕からするりと抜けて布団にくるまってしまったではないか!!
「師叔〜(泣)」
師叔は準備OKな状態の僕を無視して5秒も経たないうちに寝てしまったのだった。
どうするんですか・・・・コレ・・・(泣)
*
「この上……なんだけどね…。」
僕は絶望的な気持ちでもう一度上を見上げる。
文献によるとこの岸壁を登ったところにその『幻の桃』とやらは生えているらしい。
(眉唾ものだけどね……。)
土地、気候……どこから見てもここら辺は桃が生るような場所ではない。
しかし、一応のぼってみることにした。
最初はこんな所に生える桃……幻の桃自体を信じていなかった。
しかし……
「なんなんだ…?」
僕の視界全てが桃の木で埋まった。
*
カシュッカシュッ
「おいしいですか?師叔。」
「うむ、うまいっ!」
師叔は手や口のまわりが汚れるのも気にせず、3個目の桃にかぶりつく。
結局師叔は10個近くの桃をたいらげてしまった。
「ふぃー、満腹満腹♪」
「満足しましたか?」
「うむ。」
師叔は寝台にごろっと寝転がる。
「師叔、行儀悪いですよ。」
「ぬー?」
しかし、僕が諌めるのも聞かず、ごろごろと転がりつづける。
僕は1つ溜息をつき、
「そんな無防備にゴロゴロしていたら…襲っちゃいますよ?」
半ば諦めたように脅してみる。しかし、返事はない。
師叔の寝息だけが聞こえてきた。
僕はもう一度溜息をついて満足そうに眠る師叔に毛布をかけた。
*
次の日の朝…
「師叔!朝ですから起きてくださいっ!!」
僕はいつまで経っても起きてこない師叔を心配して再び師叔の部屋にやってきていた。
「む〜?」
僕の声に反応して小さな身体がモソモソと動き出す。
心なしか声も若干高いような……?
「もう朝……?」
むくっと起き上がった師叔を見て僕は絶句した。
師叔が…………お子様になっているではないか!!
「……まだ早いじゃないかっ!!僕は寝る!!」
心も身体もお子様な師叔を見て、倒れそうになったのは言うまでもなかった。
*
「キャハハハハハッ♪」
「ちょ、待って下さい師叔!!」
僕と師叔は朝から追いかけっこをしていた。
大人の時の面影はまったくなく、すっかり子供になっている師叔はすこしも落ちつく事がない。
僕は息を切らしながら原因を考える。
(多分……っ…原因はあの幻の桃…っ!)
師叔の足はかなり速く、僕でもなかなか追いつけない。しかし早く捕らえなければならなかった。
唯一の救いは、今日の僕の仕事はあまりないため、一日師叔を治すのに使えるということだ。
そして師叔と僕の追いかけっこは
「何さ?このちっこいのは。」
天化くんの介入によってなんとか終幕を迎えた。
*
「桃の成分を調べて…試薬を使って……。」
「遊ぼーよー遊ぼーよー。」
「桃をろ過して…いててててっ!!」
「た…大変さね、楊ゼンさん…。」
なんとか遊ぼうとして髪を引っ張る子供師叔の攻撃をかわしながら…
いや、耐えながら桃の成分を調べていると、天化くんが声をかけてくる。
「まあ、ね。でもなんとかなりそうだよ。」
僕は師叔によってぼさぼさになった髪をかきあげながら苦笑する。
すると…
バサバサッ
パリーン!
ガタンゴトッ
「………………楊ゼンさん………妙な音が……。」
「うん……あまり振り向きたくないけど……。」
僕と天化くんはそーっと後ろを見ると
「おっとぉ♪」
カシャーン
そこには目を離していた隙に掃除したばかりの床に棚のものをほとんど
ぶちまけている師叔がいた。
「……片付け……手伝うさ…。」
*
「うー…こ……腰が……っ…!今日はだめじゃ……(泣)」
「そうでしょうね……(泣)」
あの後…子供師叔はさらに部屋で暴れたり、天祥くんと城中を駆け回ったりと
今の師叔には考えられないほど動き回っていた。
そのため、僕が作った薬を飲み、元に戻った時には全身筋肉痛に
なっていたという。
結局僕は師叔断ち3日目の夜をうなされている師叔の横で
過ごしたのだった……(泣)
終
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