「・・・張り倒して逃亡するに10銭。」

「鳩尾に蹴りを入れて部屋を飛び出すのに10銭、さ。」

 

 

LOVE&PEACE?

 

 

殷に攻め入ることを決意したにもかかわらず、何故か依然平和な周の国。

その平和な日々の中で、優秀な軍師様とその右腕の間でちょっとした動きが

起こっていた。

「待ってください師叔!!」

「知らーぬっ!」

げしっ!!ばんっ!!!

いつもの仕事場で太公望は楊ゼンの鳩尾に蹴りを入れ、

戸を叩きつけるように出て行った。

そして太公望を追ってすこしふらつきながら部屋を出て行く楊ゼン。

その様子をちょうど目の前で見ていた2人がいた。

「俺っちの当たりさ♪」

「ちっ、ほらよ。」

そう、天化と姫発だ。姫発は天化の差し出される手に硬貨を乗せる。

2人は不謹慎・・・かどうかはわからないが、賭け事をしていた。

そう、『優秀なる軍師様は如何にしてその右腕から逃げるか。』という内容で。

先日どういう動きがあったのかは分からないがどうやら太公望と楊ゼンは

恋人同士になったらしい。その過程はあまりにも長く険しいのでここでは割愛するが。

とにかく、2人はらぶらぶーv・・・のはずなのだが・・・。

「スースは初なうえに素直じゃねーさ・・・・。」

窓の下で怒って歩いていく太公望を見下ろしながら天化はぼそっと呟いた。

「楊ゼンも好きになる相手を間違えたよな。」

姫発もおもしろくなさそうに手元の書類をめくりながら答える。

賭けの内容からわかるように太公望は楊ゼンと恋人になったはいいが

頑なに拒否していることあった。・・・そう、ナニだ。

どうも楊ゼンと太公望の恋愛価値観と言うものがずれまくっているらしい。

太公望としては楊ゼンが嫌いではない・・・いや、むしろかなり好きにあたるのだが

どちらかと言えば手を繋いだり、一晩中語らったりと純な付き合いがしたいのだ。

もちろん、楊ゼンが望んでいるものが不純だという事じゃない。

何事も物のとり方、と言うわけだ。

ともかく、楊ゼンもやっとのことで両想いになれた彼を

このまま逃がすつもりはないのかそのまま自分の遥か先へ逃げてしまった

太公望を追いかけていく。

「なあ天化。」

「何さ?」

いつのまにか姫発は窓を見下ろしていた天化の横に座っていた。

「そろそろ・・・金が無くなってきたんだけど?」

「ふーん。」

「ふーんかい。じゃなくて、そろそろ最後の賭けといかね―か?(汗)」

「ああんなもん、賭けにも何にもならないさ。」

天化は姫発のほうに向き直り、人差し指をぴっと立てる。

姫発もわかっているのか大きく溜息をつき、2人は同時に口を開いた。

『優秀なる軍師様はその右腕においしくいただかれる。』

 

 

 

 

楊ゼンのこのごろの生活は太公望漬けと言っても過言ではない。

まず一日の始めである朝、彼は起きたら最初に太公望を起こしに行く。

「・・・師叔―?・・・おはようございます・・・・(小声)」

もちろん太公望の可愛い寝顔を見るため・・・というよりむしろ、

「ああっなんて可愛いんだ僕の(?)師叔!!」

抱きっ!!

そのまま寝技(笑)に持ち込もうとする魂胆だが

「朝からやめんかだあほっ!!(/////////)」

ばっちり目覚めた太公望によってかかと落としをいただく。

なかなか忙しいお昼、楊ゼンと太公望、そして周公旦に姫発は他の部屋より

少し広めの執務室で大量の雑務をこなす。

その時、

さわっ

「!!??」

太公望は太ももを誰かに触られ、全身に鳥肌が立つ。

こんなことをするのはこのメンバーでただ1人。

「やめんかこの変態っ!!」

太公望は拳を震わせ、その犯人・・・楊ゼンをそのまま殴り倒す。

このようなやりとりが2人の毎日の日課となっていたのだ。

 

 

 

 

雲ひとつ無い満月の夜、仕事を終えた太公望は自分の部屋から仙桃を持ち出し

霊穴の岩の上で1人月を楽しむ。

だが、その独りの時間も決して長くは続かない。

「師叔!」

「・・・・なんだうるさいのう。」

大きな岩の下から、いつもの声が聞こえる。

せっかく気持ちよく月見をしていたのにと文句を言いたげに太公望が見下ろすと

楊ゼンが酒を持って立っていた。

「ご一緒してもよろしいですか?」

楊ゼンはにこりと笑って自ら持ってきた酒ビンをひょいっと見せるように持ち上げる。

ふっと太公望の顔に朱がさす。

言った事はないが楊ゼンのこんな気さくなところが太公望は好きだった。

ちなみにこれからも言う予定はない。

しかし月明かりの上、遠くからだったため楊ゼンは太公望の変化には気付かない。

「う、うむ。よいよ、上がって来い。」

少し動揺して言葉が濁ってしまったことに太公望は一瞬ひやっとする。

まだ、この気持ちを知られてはならない。知られては・・・・

「師叔、お邪魔します。」

楊ゼンが岩をあがってくるまでに太公望は酔いを覚ますようにぺちぺちほてった頬を叩き、

楊ゼンが隣に来る前にはいつもの彼になっていた。

太公望は楊ゼンから酒を注いでもらい、くっと猪口をあける。

楊ゼンも酒をあおり、美味そうに目を細めた。

2人、何も言わない時間が続く。蛙が、遠くから聞こえる。

だがその静寂を、楊ゼンが破った。

「・・・・ねえ師叔。」

「ぬ?」

声をかけられ太公望は視線を月から楊ゼンに変える。

楊ゼンは微笑んでいた。淋しそうに見えるのは何故だろうか。

「僕のこと、・・・・好きですか?」

「なっ・・・・何を言っておるのだおぬしは!?

それはこの前言ったであろう!!」

いきなりの楊ゼンの言葉に太公望は不意を突かれ、うまく口が回らない。

「でも、それはその時の気持ちでしょう?

僕は・・・・いつでも、誰よりも師叔が好きなのに師叔は逃げてばっかりで

確かめようもありませんよ。」

そこで楊ゼンは、一息つく。

「僕は、あなたに触れたい。」

楊ゼンの手が太公望の頬に触れた。そこで、太公望は詰めていた息を一気に吐く。

「・・・・ここまで言われたら、わしもばらすしかないではないか。」

「すっ・・・師叔!?」

楊ゼンは驚いた声を上げた。それもその筈、いきなり太公望が包まるように自分の懐に

よしかかってきたのだから。

「楊ゼン・・・今まで逃げまくっていたのは、おぬしに抱かれたら

飽きられるのではないかと思っていたからなのだ。

わしは独占欲が強いから・・・・おぬしを縛ってしまうから・・・んっ・・・」

途中で太公望は楊ゼンに唇を塞がれ言葉を止めてしまう。

歯列を割って口内に侵入してきた舌は太公望の下を絡めとっていく。

「あなたは、そんな心配まったくすることないのに・・・・。」

ようやく放され、楊ゼンは熱い息を吐きながらうっとりと自分の中に

すっぽりとおさまった太公望を見つめる。

「可愛い僕の師叔・・・・あなたが僕の物であると同時に、

僕は師叔の物ですから・・・・僕をあなたで縛っ・・・・・」

・・・楊ゼンが太公望の衣服に手を侵入させようとしたその瞬間、それは起こった。

「おーい太公望に楊ゼンっ、月見酒なら俺らも混ぜろっ!!」

「2人だけでずるいさ!!」

なんとあろうことにいつのまにやら姫発と天化がやってきて、

今にも顔を覗かせようとしているではないか!

「!!??」

・・・その声に驚いた太公望の行動は早かった。

極度の羞恥心の塊である太公望は楊ゼンを引き剥がし、2人があがってきた

ちょうどその時に

ばしゃーーーーーーーーんっ!!!!!!!!

あろうことか楊ゼンを蹴りつけ川に叩き落したのだ。

油断していた楊ゼンは思いっきり水面に顔面をぶつけ、気持ちいいほどの

大音量で川に落とされる。

「ス・・・・・スース?(汗)」

ちょうどその場面だけを見た2人にはまったく状況が理解できない。

太公望は楊ゼンを川に叩き落し、肩で息をしている。

楊ゼンは水面に叩きつけられ、気絶でもしたのかぷかぷかと流されていく。

こんな状況で、実は2人がやってくるまで大告白大会が開催(?)されていたなど

誰が思いつくだろう。

「おっ・・・おいおい太公望、一体何があったんだよ?」

姫発が冷や汗を浮かばせながらなんとか太公望に聞くが、当本人である太公望は

きっと涙目で2人を睨みつけた後、

「知らーぬっ!!!(半泣き)」

と、一言だけ残して落ちるように岩から降りて城の方へ逃げ出していった。

そして、後に残ったのは天化と姫発のみ。

「何だったんだ今のは・・・・(汗)」

「知らねーさ・・・・・(汗)」

だがその2人もやはり何が起こったのか分らずその場に立ち尽くしていたのだった・・・・。

 

誰か楊ゼンを助けて(笑)

 

終わりっ

 
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