あの言葉が聞きたくて

 

 

「どうしたものかなぁ・・・・。」

暖かい太陽の日差しの中、僕は一人悩んでいる。

実は僕が生きてきたこのン百年、最大の困難と立ち向かうこととなったのだ。

 

今まで、僕には特定の恋人がいなく、相手が言い寄ってきたときに

隣に誰もいなければ付き合っているような感じの恋愛しかしていなかった。

自分から一度も告白したことも、愛を確かめ合ったことさえもない。

だから僕としては不本意といえば不本意だけど『仙界のプレイボーイ』やら

何やらと呼ばれている。

しかし、ある日であった運命の人・・・太公望師叔に会った瞬間から、

僕は彼に夢中になっていたのだ。

『長い人生、何があるかわからない。』

我ながら玉鼎真人師匠の言葉に今更ながら納得してしまう。

しかし当の本人はかなり奥手のつれない人で・・・

「師叔。」

「む?」

「僕のこと、好きですよね?」

「・・・・・・・・・・・・何故?」

な・・・何故って・・・(汗)

愛しの師叔はいつもこうだ。

どんなに僕が愛の言葉を呟いても、どんなにやさしく抱きしめても

たった一つだけ意地でも言わない言葉があった。

まあ確かに師叔に僕はキスをしたり、抱きしめたり、

さらにそれ以上のことを(ご想像にお任せします。)

色々しちゃったりしているけど、嫌いだといわれたことは無いし

そんなことを好きでもない相手にさせるような人じゃないことも分かっている。

だけど肝心の『好き』の一言をまだ師叔の口から一度たりとも聞いたことが無いのだ。

自分からなら、この周に来てから何千回と言っただろう。

しかし、何度言ってもはぐらかされるか・・・先程のつれない返事しか返ってこない。

これでは僕もさすがにへこむ。

だが、恥かしがり屋の師叔の事だ。よっぽどのことがない限り言わないだろう。

「・・・よし。」

こうして僕の『師叔に好きと言わせよう作戦』(そのまま)が発動された。

 

 

 

 

トントン。

「師叔、入ってもよろしいですか?」

「おう、いいぞっ。」

僕は師叔の部屋に来ていた。もちろん手ぶらではない。

手に大量の桃と点心を持って。

師叔は思った通り、部屋で山のような書類と格闘している。

「師叔、疲れたでしょう?桃と点心を持ってきました。」

そう言うと師叔は目を輝かせる。

「ありがたいvもう食ってもよいか?」

「ええ、どうぞvv」

僕も笑顔で頷くとさっそく師叔は筆を投げ出し僕のほうへ飛びついてくる。

そしてテーブルに置いた皿から一際大きく、熟した桃を取り嬉しそうに頬張った。

その師叔の喜んでいる顔がとてもかわいらしくて・・・

思わず僕の頬も緩んでしまう。

「ねえ師叔。」

「むー?」

師叔はほとんど聞こえないと言わんばかりに夢中になって桃をたいらげているが

なんとか返事を返す。

「僕のこと、好きですよね?」

そう、師叔が食べ物に夢中になっている隙に無意識で言わせちゃおうと言う訳だ。

卑怯と言うなかれ、これもれっきとした作戦だ。(多分。)

「うむ、好きだよv」

あれほど恥かしがっていた師叔もほら、こんなに素直に!!

僕は師叔の意外にあっさりと言ってくれた言葉に舞い上がり、

抱きしめようとした・・・だがその時だった。

「桃がv」

「・・・・は?」

(・・・今、なんと・・・?)

「この月餅もかなり美味いv」

「ち・・・違います師叔!!聞いたのは桃じゃなくてぼ・・・」

慌ててもう一回言おうとすると、事もあろうに師叔は

「ぐー(満足)」

寝てしまったのだ(汗)

「寝ないで下さいよお!!(泣)」

僕は満足げに眠る師叔をがくがく揺すって起こそうとするが一向に起きる気配が無い。

それどころか・・・

(さ・・・殺気!?)

師叔を揺すっていたのでまったく気付かなかったのか、それとも気付かせなかったのか

背後にいきなり鋭い殺気を感じた。

僕はおどろいて後ろを振り向くと。

「・・・楊ゼンさん・・・・。」

「しゅ・・・周公旦くん・・・!?」

ゆらりと僕の後ろに立っていたのは言わずとも知れる周の知恵袋の周公旦くん。

その手にはいつものようにハリセンが握られていた。

ま・・・まさか・・・・(汗)

「太公望は満腹になると寝てしまって仕事が滞るから

食べ物を与えないで下さいって言ってあったでしょう!(怒)」

スパーン!!

・・・こうして僕は公旦くんにしこたま叩かれさらに気持ちよく眠る師叔の

残った仕事を強制的にやらされたのだった・・・。

 

 

 

 

「さすがにこれは卑怯だと思うけどねぇ・・・・・。」

次の日、僕はまた師叔の部屋の前に立っていた。

手には盆に載せたお茶セット。

ただし、このお茶の中には僕が特別に調合した・・・そう、心に秘めた言葉を

話しちゃいたくなってしまう薬が入っているのだ。

あ、決して自白剤なんかじゃないけど。

もちろん身体には害はなく、放っておけば治るようなシロモノだ。

まあ、毒を食らわば皿までって言うし?(意味不明)

僕は意を決し、扉を叩いた。

「・・・師叔?いらっしゃいますか?」

扉を叩くが、返事が無い。

「入りますよー・・・・・・?」

そっと入ると、

「ぐー・・・・・・」

師叔はまた大量の書類の山の中、机に突っ伏して眠っていた。

(しょうがないなあ・・・・)

「師叔起きてくださいっ、お茶をお持ちしましたよっ。」

僕は気持ちよく眠る師叔を出来るだけやさしく揺すった。

「むー・・・・?」

師叔は寝ぼけ眼のまま起き上がり、僕を見つける。

「・・楊ゼン・・・・・・?」

「お茶をお持ちしたのですが、眠気覚ましに飲みませんか?」

師叔は目をコシコシこすり、僕のほうを見やる。

「・・・・飲むっv」

師叔はいかにもおいしそうな匂いにつられて僕のほうへ飛びついてきた。

そんな師叔がとてもかわいらしくて・・・vv

思わず何もかも落として抱きしめたくなってしまう。

しかし、その衝動を抑えてなるべく普通にお茶セットを机の上に置き

カップにお茶を注ぐ。

「はい、どうぞv」

そしてその様子をじっと見ていた師叔に手渡した。

師叔は何の疑いもなく、渡されたカップのお茶を飲み干した。

「師叔、どんな感じですか?」

「なんか・・・ふわふわするのう・・・・・。」

僕が師叔に尋ねてみると、師叔は言葉の通りふわふわとした口調でこたえる。

「師叔、仙人界に昇る前のあなたの名前を教えてください。」

「・・・呂望・・・。」

「師叔、あなたは昨日桃倉庫から桃を盗みましたか?」

「・・・うむ・・・3個ばかし・・・。」

僕の質問に次々と素直に答える師叔に薬が効いていることを知り、

僕はにやりと笑って今まで聞きたかったことを聞いてみる。

「じゃあ師叔・・・僕に言っていない言葉を言ってくださいv」

師叔は少し考え、口を開いた。

「・・・3日前・・・」

「え?」

「・・・おぬしの担当する書類の上にわしの分の書類を30枚ほど

重ねてやらせてみた・・・。」

「・・・はあ?」

意外な言葉から始まり僕は思わず聞き返すが師叔の(いろんな意味の)告白は止まらない。

「・・・昨日・・・おぬしがいない間に差し入れを全部食べた・・・。」

「・・・・・・・・。」

・・・結局、師叔の告白(悪事・食物中心)は30分以上続き、僕はむなしくなって

師叔の部屋をそのまま後にした・・・(泣)

 

バタン。

「・・・わしは・・・楊ゼンのことが・・・・・」

 

 

 

 

「どうしてこうもうまくいかないかなあ・・・・・。」

あのあと、いろんな事を試みてみたが、やはりうまくいかない。

西日があたりを照らし、きれいな橙に染まった丘の上で僕は1人

転がり空を見上げながら溜息をついていた。

この場所は近くの霊穴から仙気が流れてきて、なかなかここちよい。

疲れも溜まっていたのかこのここちよさに瞼が下りてくる。

すると、

「よーぜーん・・・よーぜーん・・・・・・。」

「・・・師叔・・・・・・?」

ちょうど周の方向から師叔の声が聞こえた。

起き上がると、遠くの師叔は僕を見つけてくてくと近づいてくる。

「楊ゼン、聞きたいことがあって探していたのだが・・・こんなところにいたのか。」

師叔は僕の隣に腰掛けた。

(・・・・・・・・・・・・?)

聞きたいことがあると言っておきながら、師叔は何も言わない。

「聞きたいことって、なんですか?」

僕はしばらく黙っていたが痺れを切らし、やわらかく師叔に聞いてみる。

しかし、

「んー・・・あったのだが・・・おぬしを見たらどうでも良くなった。」

「なんですかそれ・・・。」

師叔の言葉に僕はがっくり肩を落とす。

「・・・あ、じゃあ僕が聞いてもいいですか?」

「よいよ?」

師叔は気楽に返す。

だがその師叔の気楽さとは反対に僕は真剣な面持ちで師叔の方へ向き直る。

「ねえ師叔、本当に僕はあなたが好きなんです。」

「う、うむ。」

「でも僕が何回も何回も言っても、あなたからは何も返ってこないじゃないですか。

だから・・・僕はとても不安になるんです。」

僕はぎゅっとこぶしを握る。

出来るだけ平気な顔をしながらいつも、心に秘めていたコト。

「キスも・・・あなたに触れることさえも・・・僕が『好きだ』という

言葉であなたを流しているような気がして・・・」

だがうつむいた時

「・・・だあほっ!」

「痛てっ!」

ぺしっと僕の頭が叩かれた。

「・・・師叔・・・?」

「ったく。わしはそんな言葉だけで流されるようなやつだと思っておるのか?

それともおぬしはいちいち全部言ってやらんとわからんのか?」

「・・・・・え?」

ぷいっと師叔は顔を夕日の方へそむける。

多分・・・赤くなっているのだ。師叔の顔が。

(それって・・・・・・)

「恥かしいから・・・一回しか言わないからよく聞けよ。」

師叔は僕のほうへ身体の向きを変え、赤い顔のまま・・・

「わしはおぬしのことを信頼できる片腕だと思っておる。

そしてそれ以上に・・・・・」

(それ以上に!?)

師叔は僕の手を取ってぎゅっと握る。

「おぬしのことが好・・・・・」

げしっ!!

「ぬおっ!?」

するとせっかく師叔の告白の途中、いきなり横から僕と師叔が握っていた

手を横から何者かにチョップされてしまった。

ビックリして師叔は僕の手を離す。

「手なんか握っていると子供が出来ちゃうよv(怒)」

「ふ・・・普賢!?」

そう、僕と師叔の邪魔をしたのは天使の皮をかぶった悪魔の普賢真人様だった。

普賢真人様は僕と師叔の邪魔をしたにもかかわらず間に割り込み

意図的に僕を師叔から引き離す(怒)

「何をするんですかいきなり!?」

僕は怒って突っかかるが彼は全然気にしていない。

それどころか、この人は恥かしがり屋の師叔に、

わざとか無意識かよくわからないが

「ねえ望ちゃん、この変態と何を話していたの?」

「うっ(汗)」

こんな事を聞くものだから師叔は赤かった顔をさらに赤くさせて

「なんでもないっ!!!(//////////)」

「あっ師叔!!」

夕日に向かって逃げてしまったのだ。

ああ・・・・やっぱり・・・・

師叔が去った後には師叔のほうに手を伸ばして固まった僕と

やはり笑顔のままの普賢真人様だけ。

「楊ゼンくん・・・そう簡単にはいかせないよ?」

こうして、悪魔の皮を脱ぎ、にやりと笑った普賢真人様は

さっさと僕から離れていき後には呆然とした僕だけが残されたのだった・・・。

 


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