恋で空騒ぎ(笑)
「…で、ここに兵を配置し、見張りの順番を……。」
横で楊ゼンがわしの手元の地図を見ながらうなずいている。
楊ゼンにはいつもこうやって仕事を手伝ってもらっていた。
だがこのごろ手がつかないのだ。仕事に。
何つーか楊ゼンの顔を見ていたら顔の温度が上がるわ
楊ゼンの髪に触れたいという情動にかられるわ、
今日も今日とて別に対した事のない仕事をわざわざ手伝ってもらっている。
(一体何なんだっこの気持ちは?)
「……師叔?」
(楊ゼンもわしも男だというのにっ!)
「師叔っ」
(どうしたらいいのだっ!!)
わしは頭を抱え、かぶりを振った時、
「太公望師叔!」
「……………?」
わしは楊ゼンに呼ばれていた事にやっと気付く。
「大丈夫ですか師叔?」
じっと楊ゼンに見つめられる。
そこでわしはさっきから黙っていた事に気付いた。
「え………。」
答えられなくてしどろもどろしていると更に楊ゼンを意識してしまう。
楊ゼンのきれいな青色の瞳の中にわしが映る。
そこで、わしの頭からボンッと蒸気が噴き出したような気がした。
もう…
「だ……。」
「だ?」
限界。
「だめじゃ―――――!!!!」
わしは勢いよく立ちあがり部屋の外へ逃げ出してしまった。
「師叔…仕事は……?(汗)」
*
「はぁ…はぁ…っ……」
思わず全力ダッシュで逃げてきてしまった……(汗)
わしにはわかっていた。
この気持ちが恋だという事を。
楊ゼンに触れたい。抱きつきたい。
だが自分は楊ゼンと同じ男だからどうにも出来ない。
歯がゆい。自分は何で女に生まれなかったんだろうとどうしようもないことで
悩み、眠れない事だってあったのだ。
わしは大きな溜息をつく。
すると
「何でっけぇ溜息ついているさ?」
いつのまにか後ろに天化が立っていた。
*
わしは楊ゼンの姿を求めて城内を走りまわっていた。
『要するに、スースは奥手なのさ。』
食堂、楊ゼンの部屋、仕事場、思いつく限り探しまわる。
『でも…迷惑ではないのかのう……?』
『そんなこと、言ってもいないのに決め付けたらダメさ!!
好きになったらアタックしないと始まらねぇさ!!』
(いた……!!)
窓の外をのぞくと裏の川のほとりでこう天犬のブラッシングをしているのが見えた。
わしは急いで外に出て裏に回る。
「楊ゼン!!」
わしはこの気持ちが冷めないうちにダッシュしながら声をかけると
気付いたのか身を起こす。
(とにかくアタックあるのみ!!)
わしは一途にそんな事ばかり集中していたので
気付かなかったのだが……平地だと思っていたところに坂があったのだ。
つまり……
「止まらぬ――!!!!」
「……え?ぅわああぁぁああぁ!!!」
バシャ―――ン!!!!!!
勢いがつきすぎたわしは楊ゼンを巻き込んで一緒に
川に落ちてしまった(汗)
視界が地上から水中に変わる。
(いっ、息が出来ぬ……っ…!!)
何とか手をつこうとするが上手くいかず、
かえって焦ってしまいさらにもがいてしまう。
(し、死ぬ……っ)
わしが本気でそう考えた時、わしのわきに誰かの腕が回った。
(およ……?)
そのまま抱き上げられ、やっと水面から顔を出す事が出来た。
「げーほげほげほっ!!」
苦しい。もがいている時にそんな大量ではないが
水を飲んだらしい。
「大丈夫ですか師叔?」
本日2度目の科白。
はっとわしを抱きかかえてくれている人物に気が付いた。
楊ゼンが助けてくれたのだ。
「すまぬ、楊ゼン……。」
わしは急に恥ずかしくなって礼の言葉が妙に尻すぼみになってしまう。
「歩けます?ふらふらしませんか?」
心配そうに声をかけてくれる楊ゼン。
わしはまたその艶のある楊ゼンの声や濡れた髪を見て
心拍数が急上昇する。
恥ずかしくて何も言えないわしを楊ゼンは歩けないと判断したのか
わしをなるべく引きずらないようにと抱え上げながら陸へ向かって歩き出す。
楊ゼンはよいしょとばかりにさらにわしの身体を持ち上げ
地上に上げてくれた。
おそるおそる振り向くと楊ゼンはわしと同じく
ずぶぬれに濡れていた。
それでも楊ゼンはにっこりと笑い、
「師叔、どうしたのですか?」
と、自分の姿に気にせずわしの事を心配してくれる。
そんな楊ゼンが言葉に出来ないぐらい好きで、
言おうと思っていた言葉も出てこなくて、
「師叔?」
わしはまたくるっと回れ右をして
「師叔!?(汗)」
逃げてしまった。
*
……それからわしの努力が始まった。
楊ゼンを見かけ誰もいない事を確認。
「楊ゼン!!」
楊ゼンはこちらに気付き振り向く。
「どうなされました師叔?」
やはり楊ゼンはにっこり笑う。
わしは今までの事から、今度は行動であらわしてみることにした。
楊ゼンにかけより書類を床に落として
「す、師叔?」
抱きつき、上目使いで楊ゼンを見上げる。
わし的にここまですれば楊ゼンでも気付くであろうと思っていたが
楊ゼンはしばらく考え、ぽんっと手を打った。
「……ああ、桃ですね?あとで部屋にお持ちします。」
と、まったく見当違いの事を言い出し、わしの書類(仕事)を
持っていってしまった。
失敗………(その後本気で桃をもらってしまったし)
次の日の昼食、わしと楊ゼンは一緒に食事を取っていた。
(今度こそっ!!)
「楊ゼンっ!!」
楊ゼンが振り向いた。
「わ、わしは実は……」
緊張して口が回らない。
わしはすっかり混乱してしまい、うまく話せず困っていると
「師叔………。」
楊ゼンから声がかかった。
(気付いたか!?)
すると、わしの手の中にぽんっとトマトが入れられた。
「………………………?」
わしがどうリアクションしていいか困っていると
楊ゼンは人懐っこい笑顔で
「足りないのでしょう?僕の分をあげます。」
やはり思いっきり見当違いな事をほざく。
(ちがう……ちがうのだ楊ゼン………(泣))
「な……っ…泣くほどお腹すいていたのですか?(汗)」
「……うむ……。」
もう何も言えなくなったわしはもらったトマトを齧りながら泣く事しか出来なかった。
*
部屋に夕日が差し込む。
わしは楊ゼンの部屋に来ていた。
『こうなったら手紙を書けばいいさ。』
『……手紙……?』
寝台の横においてあるテーブルを見つける。
『恋文ってやつさ。それぐらいなら書けるさね?』
わしは目立つように手紙を置き、部屋を出ると
部屋の外で天化が待っていた。
天化と合流し、様子を見ているとすぐに楊ゼンが戻ってきた。
しばらくして……楊ゼンが封筒の中に入れておいた手紙を片手に
部屋から出てくる。
(およ………?)
わしは天化と顔を見合わせた。
不思議に思ったわしらはそのまま外に出て行く
楊ゼンの後をつけていことにした。
*
わしと天化はばれないように距離を取りながら
楊ゼンの後をつける。
「この方向は……繁華街?」
楊ゼンの足はまっすぐ繁華街に向かっていた。
「楊ゼンさん繁華街に何の用さね……?」
「ぬう…………。」
すると楊ゼンはいきなり横道にそれる。
焦ってわしらは追いかけると……市場に出た。
「市場に何の用さ?」
わしら2人は楊ゼンの姿を見つけて様子をうかがうと
当本人はのんびり買い物をしている。
(桃まんに……トマト…じゃがいも……?)
わしは楊ゼンが手に取ったものを頭の中で順番に並べてみる。
するとある事に気付いた。
「武吉に頼もうと思っていた…買い物リスト……?
何故に楊ゼンが……?」
「…スース……その懐に入っている紙は何さ……?」
天化に言われわしは懐の紙に気付く。
ぺらっとめくると……
「わしの手紙……。」
つまり……入れ間違えたのだ。中身を。
「こんのアホスース!!何入れ間違えているさっ!!」
「しーっ!天化声がでかいっ」
わしは慌てて怒鳴る天化を押さえ楊ゼンの方を見ると
楊ゼンはわしらの声に気付いたのか周りを見まわしているではないかっ!!
「やべえさスースっ!じっとしてるさね!!」
「ぬおおっ!?」
天化はわしの身体を抱え上げ、元来た道を全力ダッシュで逃げ出した。
「あれは天化くんと……師叔?」
*
「だーめじゃ――っ!何故に上手くいかぬーっ!?」
「……ここまで上手くいかねー人…初めて見たさ……。」
あのあと、食堂でまた天化と相談をしていた。
皆食事を終えたのか食堂には誰もいない。
「スース……あーた本気で告る気あるさ……?」
天化はあきれているのか投げやりな口調で聞いてくる。
「そーは言ってものう……。」
その時だった。
ふっとろうそくの火に陰が差す。
「…天化どうした?」
目の前の天化が何かを言わんと口をパクパクさせるが声になっていない。
不思議に思い後ろを振り向こうとすると
「ぬおっ!?」
思いっきりイスをひかれ、わしの身体は何が何だかわからないうちに
やすやすと持っていかれた。
「これって……結果オーライってやつさ?」
*
「はなせっ!恥ずかしいからはなせ楊ゼンっ!!」
楊ゼンはわしを片手で抱えられながら直線の廊下をずんずん進んでいった。
その姿はかなり情けなく夜中で人が少ないとは言え、
城内を歩き回るにはかなり恥ずかしい状態だった。
わしはなんとか降ろしてもらおうと叫ぶが楊ゼンは無視して
どんどん進んで行く。
楊ゼンが進んでいく方向の予想目的地は……楊ゼンの部屋。
(なぬ―――!?)
わしはあまりの展開についていけず頭の中が大パニックになっているうちに
楊ゼンの部屋についてしまった。
楊ゼンは何の躊躇もなく扉を開け後ろ手で鍵を閉め、わしを寝台の上に降ろす。
そして、楊ゼンは寝台に座るわしの前に立った。
「楊ゼ……っん…ぅ…」
わしがただならぬ楊ゼンの雰囲気に飲みこまれそうになり名を呼ぼうとすると
いきなり……キスをされた。
わしはあまりの性急さに抵抗することも出来ず楊ゼンの舌の侵入を
簡単に許してしまった。
そのキスからはわしから何か奪いとるような感じしかせず
いたたまれなくなりぎゅっと目をつぶる。
そうこうしているうちにぐっと体に力がかかりそのまま寝台に押し倒される。
「楊…ゼン……。」
見えるのは苦しそうな楊ゼンの表情。
そのまま楊ゼンはわしの身体が離れ、後ろを向く。
「すいません…でした。」
そう言ってそのまま楊ゼンは部屋を出ていこうとした。
「……僕は…あなたが好きなのです。
でも師叔は…天化くんが好きなのですね。」
出て行く前に楊ゼンがぽつりともらした言葉。
その一言ではっとなった。
「ちょ……ちょっと待て楊ゼンっ!」
わしは自分の服が乱れているのも気にせず外へ歩き出す
楊ゼンの背中を慌てて掴む。
「……………?」
驚いたのか楊ゼンは足を止めた。
「今、何と言ったのだ?わしが天化を好きだと?」
「え……いつも師叔は天化くんといっしょにいるから…。
それにさっきも……。」
「違う!天化には相談にのってもらっていただけなのだ。
わしは…わしはおぬしが好きなのだ。」
背が高い楊ゼンを見上げる。
「いつも……おぬしを見ていた。おぬしの髪に触れたいと…
それで、おぬしにわしの言葉を伝えようと思ってもうまくいかなくて…。
だから……。」
「……師叔。」
ぎゅっと楊ゼンはわしの身体を抱きしめる。
先程とは違った、柔らかい抱擁。
「嬉しいです……。」
そしてそのままわしと楊ゼンはいっしょに部屋へ入っていった。
*
次の日……
「天化っ!天化っ!!」
「こ、今度は何さ……?」
わしは食堂で食事を取っていた天化を見つける。
「楊ゼンに何かをあげるとしたら何がいいかのうっ?」
わしの言葉に天化は
「もう嫌さ…………。」
何故かテーブルに突っ伏したのだった。
終
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