ご褒美が欲しい

 

 

「XY平面上にBがあることからAとBの共有点が・・・。」

「師叔。」

自分の名を呼ばれる。

しかし、太公望は気づかなかった振りをする。

答えたら、もう勉強にならなくなることを太公望は知っていた。

「で、Pを端点とする線分を共有することによって、」

「師叔、その問題はもう解けますからプリントください。」

楊ゼンはシャープを握って図を指し示す太公望の手を掴む。

こうなってはもう抵抗できない。

嫌そうに太公望は隣の彼を見ると、その彼の手はプリントをもらうため

太公望の前に差し出されていた。

「楊ゼン・・・おぬしは受験生であろう?こんなことをしていたら進まないし

受からなかった場合わしを雇ってくれたご両親に申し訳ないからまだだめだよ。」

太公望はぺしっと差し出された楊ゼンの手を振り払う。

1月。

世間は正月だとなかなかのんびりムードに包まれるのだが何事にも例外はいる。

そう、一流大学を目指す受験生達だ。

彼らに正月もへったくれもない。

その中の1人である楊ゼンと家庭教師である太公望は正月返上で

空間図形なんぞ解いていた。

勉強中の息子に両親も気遣って楊ゼンの部屋がある2階には誰もいなく、

家族全員リビングでくつろいでいることだろう。

「まだだめなんですかぁ?」

楊ゼンは子供のように頬を膨らまし、ぶーたれる。

「だーめ。」

自分の手を握っていた楊ゼンの手もべりっと引き剥がし太公望は次の説明を始める。

楊ゼンがこんなにもプリントをやりたがるのには訳があった。

 

 

 

 

「家庭教師?」

「そう、塾もいいけど一対一のほうがやりやすいでしょ?」

11月頃、進路を決めた楊ゼンは親の勧めにより家庭教師がつくことになった。

そして家庭教師協会なるものから1人の家庭教師が派遣されてきた。

ピンポーン

「はーい。」

ぱたぱたと母親が足早に廊下を走り、玄関を開けると、

そこに立っていたのは無条件でかわいいと思えるような小柄な人だった。

「家庭教師協会から派遣された者です。」

楊ゼンは居間から、自分の家庭教師となる人の声が耳に届く。

その声は少し高めで、少年のような感じだった。

(女の人・・・? 男って聞いていたけど変更になったのかな。)

特に興味はなかったのでそれぐらいの感想しかない。

しかし、母親に案内されて居間にやってきたのは楊ゼンの予想から

大きく外れていたのだ。

「東大出身の太公望です。よろしくお願いします。」

「あ・・・・・・。」

ぺこっと頭を下げる彼に楊ゼンは一瞬で心奪われたのだ。

それから週2日の数・英だけだった家庭教師は次の日、週四日の

国・英・数・理社に変えられたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

そして太公望が家庭教師として楊ゼンの家に来るようになってから一週間が経った。

「楊ゼン・・・(困)」

太公望はシャープを握ったまま困った声を出す。

「何ですか?」

しかし楊ゼンは平然としている。

「家庭教師と生徒のスキンシップにしては・・・近すぎるのではないか?」

「やだなあ、これぐらいいいでしょう。」

太公望の後ろから楊ゼンの声が降りかかる。

つまり、楊ゼンは太公望の後ろへ回り込み抱きしめているのだ。

「とにかく、これでは話が出来んよ。ほれ横へ来い。」

太公望は手招きをするが楊ゼンはまったく動かない。

むしろ抱きしめる腕の力をさらに強くしていく。

「ねえ師叔。」

太公望が困っているとしばらくしてからようやく楊ゼンはからませる腕を解く。

が、机のほうへ向いていた太公望をむりやり自分のほうへ向かせた。

「なんだ?」

不思議そうに首をかしげる太公望に楊ゼンは至極真面目な顔をする。

「実はこのごろ勉強が身に入らないのです。」

「ほう?」

太公望は動じない。

今までに受験生を何人も教えているため、こんなことは日常茶飯事だ。

「それに眠れないんですよ。」

「ふむ・・・。」

集中力の低下、不眠症。これらの原因は色々ある。

(ハーブティーでも持ってくるかのう?)

太公望はいろいろと考えをめぐらす。

「でも原因はわかっていますから。聞いてもらえますか?」

「まあ・・・わしに出来ることならするが。」

その言葉を待っていましたとばかりに楊ゼンはにやりと笑う。

「何か目標がないとだめだと思うのですよ。」

「まあ、そうだが。」

「で、目標達成するために何かあったら張り合いがあるじゃないですか。

だから今度の進研模試でいい点・・・490点以上取れたらご褒美を下さいv」

「・・・ご褒美?」

太公望はきょとんとする。こんな事を言われたのは初めてだ。

「もちろん・・・」

 

 

「あなたのことですよ。」

 

 

そして11月某日・・・

「ごっ・・・500点?(汗)」

彼が持ってきたのは見事全科目満点という結果。

太公望は思わず絶句する。

あの時、太公望はいくら彼でも無理だろうと・・・いや、冗談だろうと

軽い返事をしてしまったのだ。

しかし楊ゼンは本気だ。

「お約束のご褒美、いただきます♪」

そしてそのまま楊ゼンは太公望を押し倒し、暴れる太公望の唇を塞いだ。

 

 

 

 

「師叔、もう少しで勉強時間終わりですってば。」

楊ゼンはがたがたと机を揺らして催促する。

「そうせかすでない。今渡すから。」

太公望は渋々自分のカバンから一枚の紙を取り出し、楊ゼンに手渡した。

「制限時間は・・・15分でちゃっちゃとやれよ。」

「げ・・・空間図形もあるのに15分ですかあ?」

「さっきおぬしがもう出来るといった空間図形の問題の解答応用パターンを使えば

簡単に解けるよ。いいからさっさとやる。」

「・・・嫌味ですかそれ。」

「聞こえーぬ。」

楊ゼンは太公望に何を言っても無駄だと悟りぶつぶつ文句を言いながら

自分の手を動かし始めた。

その手の動きを太公望はじっと見ている。

楊ゼンはもう、模試のレベルでは絶対足りない。

したがって今では太公望が独自に問題を作っている。

問題レベルは既に現役東大生でも解けるか解けないかという所まできていた。

これで満点が取れたらお約束のご褒美ということになっている。

そうでもしないと・・・

「・・・出来ました。」

「おう早いのう。」

すっと楊ゼンから紙が渡される。

「どれどれ・・・・」

昨日の夜作った解答を見ながらチェックしていく。

「師叔・・・・・・。」

すると後ろから楊ゼンが絡んできた。

「これ、採点が出来ぬであろう。」

振り払おうとするが離れない。

しかも、

「んっ・・・・・」

するりと太公望の衣服に手が入れられる。

楊ゼンの手がゆっくりと背筋をなぞりながら上へと移動していった。

もちろん、明確な目的を持って。

「やめい・・・っ・・・」

太公望から熱い吐息が漏れる。

「いいから、ちゃっちゃと採点しちゃってくださいよ。」

茶化すように楊ゼンはくすっと笑い行為を続行する。

「ねえ・・・どうでしたか・・・・・・?」

そして、太公望が必死で採点した結果は

「・・・満・・・点・・・・・っ・・・」

その言葉を聞いた楊ゼンは満足そうに笑みを浮かべ、

力の抜けた太公望の体を持ち上げベッドに運んだ。

 

 

 

 

ぎしっ

1人用のベッドが軋む。

「はあ・・・・っ・・・ん・・・」

太公望は既に一糸まとわぬ姿にされ、楊ゼンにしがみつくだけとなっていた。

楊ゼンは上だけを脱ぎ太公望の小さな身体を自身で突き刺している。

「や・・っ・・・・楊っ・・・・」

「ねえ師叔・・・知っています・・・?」

楊ゼンも息が荒い。楊ゼンの熱い吐息混じりの声が太公望の耳を掠める。

いきなり楊ゼンが自身を挿れたまま太公望を抱きかかえ起き上がった。

そのため中の楊ゼンが太公望の中にさらに奥底まで刺さり

太公望は生理的な痛みで顔を歪める。

「ご褒美のテスト・・・難易度はそこそこ上がっているけど問題数減っているって事

・・・はまりましたね?」

「・・っ・・・何・・・・・っふ・・・ぅ・・・」

「セックス。」

そのまま楊ゼンはぐりっとはげしく内部を掻き乱し、

「ふあああっああああん・・・・!!」

「っく・・・・」

二人同時に白濁とした物を吐き出した。

 

 

 

 

「ねえ師叔、そんなに拗ねないで下さいよ。」

「・・・うるさい絶倫学生め。」

太公望はけだるい身体をどうすることも出来ず枕に顔を埋めていた。

その横で楊ゼンは満足そうにタバコをくわえている。

「・・・タバコを吸うでない。絶倫学生に不良を加えたいのか。」

そう言って太公望はのろのろと身体を起こし、楊ゼンのくわえているタバコを奪い

今度は自分がくわえ、すっと煙を吸ってまた寝転がる。

「1mgだから平気ですってば・・・それに寝タバコしないで下さい。」

楊ゼンがもう一度取り戻そうと手を伸ばすと太公望は嫌そうに眉をひそめ

面倒くさそうに携帯灰皿にタバコを押しつけ、火を消す。

手持ちを奪われた楊ゼンはしょうがなく太公望の横に転がった。

2人だと、少し狭い。

「・・・師叔。」

「ん?」

太公望は呼ばれ、横を向くと真剣な眼差しの楊ゼンがいた。

そう、あの契りの約束を結ばされたあの夜の彼が・・・・

「あと1ヵ月後にセンターがあって僕の受験勉強も・・・終わりです。」

「そうだのう・・・早いものだ。」

「あなたとの契約も切れ、師叔は来年の学生のもとへ・・・

僕は通学時間の関係上、家を出て学校の近くで一人暮らしをすることになりました。」

「・・・・・・・・・・・・。」

太公望は楊ゼンの言わんとすることを理解した。

「ねえ師叔・・・僕、受からなくてもいいです。

あなたと離れるぐらいなら・・・・・・。」

「だあほ。」

げし。

「痛て。」

いきなり、楊ゼンの頭に太公望の空手チョップが落ちた。

「・・・そんな馬鹿なことを言うものではないよ。受からなくていいなどと・・・。」

「だってそうじゃないですか。」

楊ゼンは口を尖らせて反論する。それを見た太公望は思わず苦笑してしまった。

「・・・笑うことないじゃないですか・・・。」

今度は楊ゼンが拗ねたように枕に頭をうずめる。

「ねえ師叔、それならまたご褒美を下さい。」

「・・・今までの行為は何だったのだ・・・・?」

「いやそっちじゃなくて。」

ゆっくりと楊ゼンが起き上がると太公望も起き上がり向き合った。

「僕が受かったら・・・一緒に住みませんか?」

太公望はいきなりの楊ゼンの言葉にキョトンとしてしまう。

「一緒に住みませんか・・・って今のわしの家は?」

「僕がそっちに住んじゃだめです? 師叔一人暮らしでしょう?」

「・・・・・・・・・・・。」

「師叔っ!」

太公望は、無言でそのまま寝転びベッドの近くに置いてあった自分の

カバンを手探りで掴んだ。

そして一枚のテレホンカードを取り出し楊ゼンに投げてよこす。

それには一言、合格祈願と書いてあった。

「・・・・・・・・・・・・?」

「・・・神社で買ってまだ一度も使っていないやつだ。」

太公望はきょとんとする楊ゼンに向き直る。

「合格発表の日、受かったらそれで・・・わしの携帯にかけるがよい。」

そのまま、楊ゼンの手を握り

「・・・・・・はい。」

楊ゼンも手を握り返した。

 

 

 

 

2月中旬・・・・・

ピッピッピッ

トゥルルルル――――

『はい。』

太公望の声。

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

だが誰も出ない。

『楊ゼン?』

「・・・・・・・・・・・・・・。」

『楊ゼンであろう?』

「・・・・・・・師叔。」

『ん?』

「                   」

 

 

サクラサク

 

 

                             終

 
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