甘い時間
「師叔!どうしてあなたはそんなに恥ずかしがり屋なんですか!?」
「うっさいのう!おぬしこそ、どうしていつも人の心の中を暴こうとするのだっ!?」
「仕方ないじゃないですかっ!僕はあなたの事が全て知りたいんですっ!!」
そんな攻防を繰り広げながら、わしらは回廊を走り回っていた。
この、わしを追い掛けて来る楊ゼンは前からしつこくわしの事について何かと詰問する事が多かった。
今日の喧嘩の原因は、突然、わしの昼寝場までやって来て、膝枕をして上げます、とか何とかほざきおったので、いらぬ、と断ったら、
なんで恋人の僕に遠慮するんですか、とか、揚句の果てに、あなたのその恥ずかしがり屋の原因を今日こそ追究させて頂きます、と質問攻めが始まったのだった。
「もう良いっ!わしは出掛けて来る。おぬしはよ〜く頭を冷やしておれ!」
そう言って、わしはスープーを呼び、崑崙の普賢の元へと向かった。
「久しぶりだのう!」
「望ちゃん!どうしたの?一体…」
「ちょっと色々あってのう…」
ふっと横を向いて、うんざりした顔を見せてみる。
普賢はきつく諭してくれたりもするが、優しくアドバイスしてくれたりもする
、居心地の良い相手だ。
「実はのう、楊ゼンがわしの過去を知りたがったり、恥ずかしがるな、など、無理な注文をして来るのだ」
ちなみに、楊ゼンとの仲は普賢は知っている。
「話しちゃえば良いじゃない」
「話せる訳などなかろう!」
「なんで?」
「なんでって…」
実はそんな事、考えた事もなかった。なんで自分の過去を楊ゼンに話せないのか。いつも、勢いで責められ、
一種の負けず嫌いの様に、または自分なんかの過去を知りたいと、本気で願ってくれる楊ゼンに照れ隠しで避けていた。
「君は確かに自分から話すのは苦手だろうけど、それは自分の過去を恥ずかしいからだと思ってるからじゃないの?
たまには自分の事を話してあげないと、楊ゼンが可哀相だよ。釣った魚は餌を与えられなかったら生きてはいけないんだ。
そんな事、君の方が良く分かってるんじゃない?」
そう普賢に諭されて気付いた事がある。
確かにわしは封神計画の元となった妲己への醜い憎しみ、自分の中の暗い部分を楊ゼンに知られたくないと思っている。
また、わしが恥ずかしがって逃げた時、一瞬だけ宿る、楊ゼンの瞳の影や寂しそうな表情。
それらを今まで無視して来たのを心のどこかで分かっていた。しかし、気付いて無視する事を止めてしまったら、
楊ゼンの為だけに尽くしてしまいそうな自分が怖かった。
でも、もう遅い。
気付いてしまった。
「そうだのう。たまにはあやつを甘やかしてやるのも必要かのう?」
「でしょ?」
「では、予行練習としておぬしを甘やかしてやる!来い」
そう言うと、わしは普賢に膝枕をしてやった。
「望ちゃん。違うよ。膝枕は腿の柔らかい所に乗せて、髪を梳いてあげなきゃ」
「こ、こうか?」
その瞬間、部屋の扉が勢い良く開いた。
そこには、怒り以外の表情がないような顔で、楊ゼンが立っていた。
「師叔」
明らかに怒った声で名前を呼ばれ、手を引っ張られてさっさと部屋から連れ出されてしまった。
部屋から出る時、普賢が、頑張って、とウィンクしたのをわしは見逃さなかった。
「師叔!あれは一体どういう事ですか!?」
わしは、哮天犬によって少し西岐城から離れた丘の上に連れてこられ、そこに生えていた木を背に楊ゼンに問い詰められていた。
「勘違いするでない。あれは予行練習だ」
「なんのですか?」
言い訳なら一切聞かないし、はぐらかされもしない、とでもいうような口調で聞き返された。
わしは早速、予行練習通り木にもたれ掛かって膝を曲げ、楊ゼンを手招きした
。
「…?」
「…ん!」
怪訝そうな顔を隠しもしない楊ゼンに、手振りで、来てしゃがむ様に促す。
「なんですか、一体…?」
「いいから来い!」
やっと、?を浮かべながらしゃがんだ楊ゼンの、前に垂れて来ていた髪を一房掴んで引っ張り、膝に頭を落とさせた。
「………えっ?えっ?えっ?」
「昼間のお詫びだ。普賢に言われたよ。たまには甘やかすのも必要だと…」
楊ゼンの真っ赤に染まった顔が面白い。
「そして、自分の全てを曝け出す勇気を持てとな」
「…じゃあ、質問して良いですか?」
「なんじゃ?」
てっきり過去のわしについて聞かれるとばかり思っていたが、楊ゼンが投げ掛けた質問は…。
「僕の事、好きですか?」
「さぁ、のう…?」
「答えてくれるんじゃないんですか?」
「さぁ、のう…?」
わしはあくまで惚けたフリをしていた。そうしている内に、楊ゼンは諦めたのか、ふぅと溜息を吐き、穏やかな表情になった。
「まぁ、良いですよ。僕にこうしてくれるって事は、少なくとも嫌われてはいないんですよね?」
「…嫌いではないよ…」
「なら、良いです。時間があったら、今度こそあなたの過去などについて…聞かせて下さい…ね…」
そう言いながら、楊ゼンは寝てしまった。木陰となっているここが気持ち良い
のか、それとも…、わしがこうしてやっているからなのか、規則正しく寝息を立て、安堵感が滲み出ているような表情をしていた。
「楊ゼン…?寝てしまったのか」
指に取るとさらさらと綺麗に擦り抜けて落ちていく髪を梳いてやりながら、わしは耳元で囁いた。
「わしはおぬしが好きだよ…。愛しておる…わっ!」
言い切った瞬間、わしの視界は反転し、気がつけば楊ゼンに押し倒された状態となっていた。
「聞ぃ〜ちゃった、聞いちゃった!師叔の告白聞いちゃった!」
にやにやと、悪戯っ子の様な笑みを浮かべてわしを見下ろして来る。
「おぬし、起きておったな!?」
「いや〜、好き、とは言って下さると思ってたけど、愛してる、までは想像できなかったなぁ〜。あなたはいつも僕の想像を越えますね」
「うるさいっ!この狸寝入り男!!」
「師叔だって、夜、僕が訪れるとやり過ごそうとして狸寝入りしてるでしょう?」
その言葉にうっ、となったわしの額にそっと口付け、やんわりと微笑んだ。
「でも嬉しかったですよ。たまにあなたに愛されてないんじゃないかって思ってましたから…」
「…そんな事、ある訳なかろう…」
楊ゼンの視線から逃れるように顔を横に逸らすと、頬に柔らかい感触がし、楊ゼンがまた口付けていた。
そうして、今まで以上に甘い時間が過ぎて行った…
劇終
躑躅花 櫻様から頂きました「甘い時間」でしたっ。
いじっぱりで恥ずかしがり屋な師叔に萌!!
狸寝入り男が笑えます。
あんな蜂蜜の微妙な小説にこんな素晴らしい贈り物ありがとうございました!!
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