葡萄と兎と唇と

 

 

あるところにおいしそうな葡萄がなっていました。

その葡萄はちょうどたべごろでやまのどうぶつたちはおいしそうに

葡萄をたべています。そこへ、兎がやってきました。

 

 

 

頭の頭巾が風で揺れる。

太公望は特に何かをすることも無くぼんやりと春の空を見上げていた。

「太公望師叔。」

後ろからいきなり自分の名が呼ばれた。しかし、太公望は驚かず、普通に後ろを振り向くと彼が思っていた通りの人が立っていた。

「楊ゼン。」

嬉しそうに呼ぶと彼はほんわりと笑う。その顔が、太公望は好きだった。

「僕の仕事のほうもきりがついたんで一緒に御飯を食べましょう?」

「うむっ。」

太公望は楊ゼンの隣について歩き出した。

 

 

 

もちろん兎は葡萄がだいすきです。

兎はほかのどうぶつたちのようにいっしょうけんめいせをのばしました。

しかし、葡萄のきのせはたかく、兎はあまりせがたかくないので

かんじんの葡萄のみにとどきませんでした。

 

 

 

ふと、太公望は隣を歩く楊ゼンを見上げる。楊ゼンは自分より10センチほど背が高い。

並んで歩くとその違いがはっきり自覚してしまう。

太公望は見上げていただけなのに、いつのまにか自分の視線が

楊ゼンのある場所に集中していた。その視線に気付いた楊ゼンは

「・・・僕の顔に何かついてます?」

と、不思議そうに自分の顔をぺたぺた触りながら聞く。

「い、いやなんでもないよ。」

楊ゼンに聞かれ太公望は慌てて手を振る。

だがつまらなさそうに口を尖らせた太公望を見て

「・・・・・・・・?」

やはり不思議に思った楊ゼンはもう一度自分の頬を撫でた。

 

 

 

葡萄のみはどんどんほかのどうぶつたちにたべられていきます。

しかし兎はどんなにてをのばそうと、どんなにきによじのぼろうとしても

まったくてがとどきません。

兎よりせがひくいどうぶつだっていますが兎いがいはみんなうまくきをのぼって

たべています。つまり、兎はようりょうがわるいのです。

 

 

 

食堂はがちゃがちゃと食器が重ねられる音や楽しそうに話す声でいっぱいになっている。

そのなか、太公望と楊ゼンは仙道用につくられた日替わり定食の野菜炒めを

つつきながら他愛も無い話をしていた。

ふと会話が途切れ、太公望は自分の皿の上のものを食べながらちらちらと、

楊ゼンの顔を盗み見る。

「・・・・さっきからどうしたんですか?師叔。」

しかしさすが楊ゼンと言うべきか、太公望の視線に気付いていたのだ。

「い・・・っ・・・・いやっ、なんでもないのだ本当にっ(慌)」

「なんでもないわけないでしょう。何か困ったことがあったのなら相談に乗りますよ?」

楊ゼンは食べる手を止め、太公望をじっと見る。

なんとなく言い難そうに太公望は口を開いた。

「・・・おぬし・・・・の・・・くちび・・・・・」

しかし太公望はぼそぼそと言ったため楊ゼンの耳には届かない。

「すいません師叔、もう一回・・・・。」

楊ゼンが聞き返すと、太公望はかあっと顔を赤くし

「やっぱりいいっ!!」

「あ、師叔!!」

食事もそこそこに食堂を飛び出した。

 

 

 

兎は葡萄をどうしてもたべられません。

そしてとうとう兎はおいしそうにたべるどうぶつたちをしりめに

こういいました。

「あの葡萄はすっぱいから、ぼくはたべないんだ。」

もちろんだれもきいていません。

兎はかなしそうにそのばをたちさってしまいました。

しかし、そのことばをたったひとりだけきいていたのです。

 

 

 

日があたり風通しのいい部屋。そこに太公望の部屋があった。

しかし、太公望はいつも執務室に篭もって仕事をしているのでそこは

寝るだけに使っていると言っても過言ではない。

「楊ゼンの・・・・・ダアホ・・・。」

太公望はベッドに転がり、シーツに顔を埋めながらぼそっと呟く。

「ひどいなあダアホなんて。」

「!!??」

すると不意に楊ゼンの声が頭の上からして、驚いて起き上がると目の前に彼がいたのだ。

「おぬし・・・いつのまに・・・・・・。」

「いつのまに、って僕はあなたが逃げた後すぐ追いましたからね。

それより一体どうしたのですか?」

楊ゼンはベッドに腰掛け、心配そうに太公望を見る。

こうなってはもう逃げられない。

太公望は俯きながら先程より大きく呟いた。

「いつも・・・おぬしはわしにキスするであろう?だけど・・・・」

「だけど?」

「いつもされてばっかりで・・・。」

ああ、そうか。楊ゼンは太公望の言いたいことがはっきりと分かった。

たとえ太公望の言葉が途中で切れていたとしても。

「師叔。」

「む?・・・あ・・・。」

楊ゼンは立ち上がり、膝をついて半立ちになる。楊ゼンの視点が

太公望よりも少し低くなった。太公望も楊ゼンの言いたいことがはっきりわかる。

起き上がり、ベッドから降りて楊ゼンの前に立った。

 

 

 

だれもいなくなったあと、兎はもういちど葡萄のきの

ところへいきました。すると、なんということでしょう。

葡萄のみがついたつるがめのまえにおろされていたのです。

びっくりした兎は葡萄のきをみあげるとがさがさとはっぱが

かぜもないのにゆれています。そう、兎のつぶやきをきいていた

葡萄のきがつるをおろしてくれたのです。

おそるおそる兎が葡萄のみに唇をつけると、

それはとてもあまずっぱいあじがひろがったのでした。

 

 
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