青い、青い空

 

 

 

空を見つめる彼の目には空は見えていない。

 

 

 

彼が見つめるのは、

 

 

 

 

 

「・・・・・余裕だな、おぬしも。」

天気予報が終わりを告げ、正午のラジオ体操の爽やかな音楽が流れ出す。

地図から顔を上げた太公望は持ち込んだ参考書を広げる楊ゼンに、やっと声をかけた。

今度は楊ゼンが面白くないように太公望をちらりと見る。

「あなたほどでもないですよ。予報図作っていたT大法学部志望太公望殿。」

楊ゼンは嫌味くさく言い放ってから身を起こす。

「予報図作るのは趣味だ。それよりも、おぬしこそこんなところで日光浴している

暇はないのではないのか?W大医学部志望楊ゼン閣下?」

太公望はくくっと笑って今書いていた予報図を両手で持つ。

そして惜しげもなくその予報図をさいの目に裂いていき、風の流れに乗せた。

「・・・・・取っておかないんですか?」

楊ゼンはその行為を止めるでもなく、飛ばされていく紙片を目で追いながら尋ねる。

「こんなモノを取っておいてどうする。」

太公望は言った。

記録など、時として無意味なものだと。

「こうやってさぼっているわしらの成績は黙っていても成績優秀者だ。

なにせ、しっかりテストの点は取っているからのう。」

ここの高校のシステムは少々特殊なものになっている。

推薦に関わる資料、入試に関わる志望書に書かれる成績は全てテストの点で決まる。

つまるところ、平常点というものがないのだ。

テストの点を取れば、よほど素行が悪くない限り悪く書かれる事はない。

教師の言い分としては授業に真面目に出ていなければテストでいい成績を残せるわけがない。

ある意味この高校では実力主義だといえる。

しかし裏を返せば、点さえ取ればサボり放題だということなのだ。

そのため、成績上位のものは自主休講をし、自分で難関大学への試験勉強を好きなだけ出来る。

勉強が出来ない生徒は教師の指導のもと授業を。

ある意味仕組まれている気もするが、太公望も楊ゼンもそれでいいと思っている。

彼らは蓄積された知識・・・記憶・・・を少し応用するだけでいいのだから。

「記録は改竄する事も消し去る事も出来る。しかし記憶はよっぽどのことが無い限り失われることはない。忘れることはありますがね。人はあなたや僕と違って。」

「忘れても思い出すことは出来るであろう?人間は忘れることで物事と感情を整理し、

明日へと進むことが出来る。忘れたはずの記憶の根底にある失敗を踏まえつつ、な。」

太公望は最後の一切れを飛ばした。

「しかし記憶ほど曖昧なものは無い。」

名も知らない鳥が飛び立つ。

「予報図を書くのは数字であなたの消えない負の記憶を埋めるため。師叔は日本国憲法・六法全書をすべてそらで唱えられるでしょう?不器用なんですよ、あなたは。」

不健全な勉強の仕方ですよね、と楊ゼンは呟く。

「おぬしこそ体の血管・骨・筋肉全ての名称を記憶することなど、容易い事だったろう。

全ての教科書を一字一句覚えるのに何時間で覚えたのだ?」

カキーン

下のグラウンドから金属バットの乾いた音が響いた。

太公望は教科書を放り投げ、手元のハードカバーを引き寄せる。

題名は『夢と心理学』

「どっかの心理学者が言っておったな。夢は自分の願望であると。自分の根底に沈む

記憶であると。」

引き寄せたが、つまらなさそうにまた遠くのほうへ放り投げる。

「もしその話が本当ならばわしの夢は大変だ。今まで詰め込まれた記憶が全て夢に

出てきたら、すでにその中は天気と六法全書だけで芋洗い状態だな。」

「・・・・一度に全部出てくるわけではありませんから。」

楽しげに笑う太公望を横目に楊ゼンは3度目の溜息をつく。

正午のラジオ体操が終わるまで、あと4分。

 

設定とかいろんなものがごっちゃごちゃ。どっかの心理学者は多分フロイト。
本文の中でフロイトの名前を出さなかったのは効果とかそんなんじゃなくて普通に
思い出せなかったんです。今やっと思い出した(汗)

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