アマエタイトキ
しとしとと闇の中、雨が降りつづける。
もう9月も終わりに近づき、秋もたけなわというのにこのごろ雨が続いている。
雨の勢いも夜に近づくに連れ、しとしとというレベルではない。
(・・・・このままなにもかも全て流れてしまえばいいのに。)
楊ゼンは自室の窓際で机に向かいながら不謹慎にもそんなことをボンヤリと考えていた。
机の上には太公望から任された書類。
その書類もほぼ終わっている。
特に急ぐわけではないが、敵襲がなければ大してすることの無い楊ゼンは
こんな夜中に修行することも惰眠を貪ることも、もちろん夜遊びも出来ず、自然に
机に向かってしまう。
だが真夜中に近づくにつれ、眠気が出てきて彼もそろそろ床につこうとした。
その時だった。
トントン
(・・・・・・・・・・・・・?)
こんな夜更けに誰だろうと、楊ゼンは不思議に思いながら席を立つ。
楊ゼンが扉を開けた時、いきなり訪問してきた人物に驚いて彼の名前を呼んだ。
「・・・・太公望・・・・・師叔?」
「夜分遅くすまんが、あがってもよいか?」
太公望は楊ゼンの返事を待つことなく、部屋にずかずかと入っていく。
楊ゼンは太公望が自分の横をすり抜けていったとき、彼が濡れていることに気付いた。
太公望の部屋から楊ゼンの部屋までの廊下は吹きさらしで、雨は余裕であたる。
「ちょ・・・太公望師叔!濡れているんじゃないですか!?」
「む?」
「む?じゃないですよっ!!早く服を脱いで身体を拭いてください!!」
楊ゼンは慌てて引出しからタオルと着替えを取り出して太公望に押し付ける。
「まったく・・・一体どうしてこんなことをするんですか?」
言われるままもそもそと服を脱ぎだす太公望に楊ゼンは濡れている髪を拭いてやる。
「・・・・眠い。」
「・・・・え?」
大き目の楊ゼンの寝巻きを着せられた太公望は、フラフラと寝台に向かって歩きだし、
そのまま布団にもぐりこんでしまった。
しばらくすると、太公望の寝息が聞こえてくる。
「・・・・まったく、この人は・・・・。」
そんな太公望の様子に楊ゼンは呆れながらも、自分に甘えてくる太公望に
なんとなく嬉しさを感じた。
太公望は何も言わないが、たまにこうやって楊ゼンに甘えるように布団にもぐりこんでくる。
楊ゼンは知っていたのだ。夜太公望がいきなりやってくる時、
その日太公望に何かつらいことがあったことを。
今夜やってきた理由は多分、今日・・・いや、昨日の昼にやってきた魔家四将のことだろう。
初めのうちは理由を聞いていたが、のらりくらりとはぐらかされるし、聡明な楊ゼンは
聞かなくても大体分かるようになってきたので、何も言わず一緒に寝ることにしている。
「師叔、僕も横にいってもよろしいですか?」
聞こえていないだろうと思いながらもお伺いをたててみると、無意識かどうかは知らないが
太公望は壁際に転がって楊ゼンの場所を空ける。
楊ゼンは太公望が冷えないようにと素早く布団にもぐりこんだら
横にずれたはずの太公望が自分に擦り寄ってくる。
楊ゼンは何も言わずに小さく、冷えた身体を抱きしめた。
雨音だけが室内に響く。しばらく経っただろうか。
「・・・・お主は、暖かいのう。」
ぽつりと太公望は一言言った。
「師叔が冷えているからですよ。まだ、寒いですか?」
すっかり眠気も何もかも飛んでしまった楊ゼンは太公望の頭をなでながら答える。
「ねえ師叔・・・・甘えたい時は、甘えたいと言っていいですから。」
僕はいつでもいますから、と言葉裏に隠して楊ゼンは優しく言う。
何も言わなくてもいいから、それだけでもと。
「・・・・・別に、寒いから寄っただけで甘えるために来たわけではない。」
大人しく楊ゼンの中に収まっていた太公望は楊ゼンの言葉に気付きながら、
拗ねたようにわざとぷいっと背を向けた。
そこまで自分は弱くないと言うように。
だからおぬしはそこにおればいい、と。
「はいはい、わかりました。」
そんな太公望がかわいくて、・・・放って置けなくて・・・楊ゼンはぎゅっと
太公望の身体を抱きしめなおす。
せめてぬくもりだけでもあなたと共有出来ますようにと・・・・。
終
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