割れたざくろを見て私は幻視した。 曇天の荒涼とした大地を筋肉質の大柄な女性が歩いていた。 腰巻だけをつけた薄汚れた長い髪の女性が、左手に子供を抱えて歩いていた。 その子供はやけにぐったりとしていて、なぜかその女性は子供の頭をなめていた。不自然なほどさかんに。 私の視点は意思とは関係なく自然に移動していき、吐き気と恐怖を覚えた。 その女は子供のざくろのように大きく割れた傷から出てくる血をなめていたのだ。 明らかに嬉々として。 自身の意思とは関係なく、私はこのおぞましき女の中に入っていった。 そして彼女の記憶を見た。考えを見た。 記憶が見えてくる。かわいらしい子供が記憶の中にいた。腕の中の子供とは違う子供が。 彼女の子供だろうか彼女自身があやしている記憶も見る事ができた。 が、ほほえましい記憶はすぐに破られた。 この女は自分の子供に他人の子供を食べさせていた。何十人という子供を……。 そして今さっき、石で子供の頭を叩き割った。 彼女の子供の長寿を願いながら……。 子供に子供を食べさせていた。 山に着いた。 女は笑顔を浮かべながら力強く急斜面を登っていた。 洞窟が彼女達の住処らしかった。小さな白骨死体が散乱していた所だった。 私の吐き気を無視し女は洞窟の奥へ向かう。 わがこのと同年齢くらいの子供の死体を抱えながら。 急に、女の呼吸が早くなるのを感じる。 子供がいないのだ。この洞窟のどこにも彼女の子供が。 喉をからすほどの大きな呼びかけが響く。しかしそれは静寂だけが返ってくる。 いない。 殺した子供を投げ捨て、我が子を捜しに奔走した。 住処の近くの岩の隙間にも、木の上にも、どこにも。 いない。どこにもいない。 ずっと見当たらない。 彼女はそう感じていた。私にはそれほどでなかったが、彼女には長い時間が過ぎたのだろうか。 衰弱しているようだった。 そしてどこかへ向かった。 大きな建物があった。彼女とその子供が住んでいた岩山よりもはるかに。 誰もいない晩に女はそこに入っていった。 恐ろしげな大きな鉛の像がそこにあった。 女は頭を深々と下げ、懇願した。我が子を見つけて下さいと。 像はゆっくりと口を開け、話し掛けた。 また、産めばよいではないかと。 女は泣き叫び否定する。 像は言った。あなたが殺した子供たちの親もそう思っている。あなたはその事を考えなかった。 泣き崩れる彼女を小さい手が、優しく触れた。彼女の子供だった。 像は再び声を出す。あなたは罪深い。が、あなたも子供を失った時の喪失感を味わっただろう。 それを知らせるために、あなたの子供を隠す事にした。 人々はこのままだと許す事はない。それで、すべての子供を脅かす輩から守るよう誓いを立てなさい。 それを実行する事ができれば許されるだろう。 女は我が子を抱き、泣きながら言われた事を実行するといった。 私の目の前に、大きく割れ果汁が流れ出しているざくろがあった。 血のような、果汁を。 (仏教説話から話を得ました) |