ショーウインドウの中にある人形を見て私は幻視した。 赤いスカートを着た小さな女の子が荒野に一人いた。 そこはわずかな草と赤茶色の土しかない場所で、少女は少し精悍な顔をした金色の目の少女だった。 そして何かを見つけ、小さい手が何か人形らしき物を手にした。 それは醜い人形だった。 ショーウインドウにある可愛らしげな人形とは正反対の悪趣味な人形……いや人形でもない。 それは髪もなく、蟻が体中にたかっており、ゴミが体に刺さっていた。 裸で、酷い皮膚病の様な体から、血のような液体と膿の様な液体とがそれから滴っていた。 目を逸らしたくなる悪趣味な物だった。 少女は悲しそうにそれを手にとり少しゴミを払った。汚らしい液体があふれ出て、少女の白い手を伝ってこぼれ落ちた。 下にある草に液体が落ちて一気に枯れ果てた。毒液を垂れ流しているのだろうか。 だが、気づいたら私はそんな汚らしい物になっていた。何の脈絡もなしに……。 悪臭で吐きそうになる私を、少女のすべてを見通すような鮮やかな金色の目が私をじっと見据えている。何も言わずに。 その間、映像が見えてきた。見たこともない映像を。絶望感と共に。 そこでは私は普通の人間のように動いていた。 何匹もの羊を飼い、いつも何かに礼拝をしていた。感謝をしていた。 だが、羊が急に全滅し、私は嘆いた。そして助けを祈り求めた。 しかしすぐに私は動けなくなった。体は急に膿、かゆみは襲い続ける。 私は祈っていた存在に呪いの言葉をかけた。 「人形よ」 少女の声がした。再び少女の厳しい目線が見えた。 すさまじいほど低い、すべての物質を振動させる重低音の声だった。 「呪いを吐き続けた者よ。私は使いの者。お前に言葉を与える者」 悲しそうな視線が私を貫く。 「思い出すがいい、人形よ。我らが拝する存在は無限なる永遠の存在。我らを造りし者を。この世の広がりを決めた者を。 答えよ。そのような存在に呪いを吐くおまえ自身は何者なのだ。静止を見極めし者を何だというのだ」 少女は続ける。不相応な声で。 「お前の境遇の原因となる物はない。しかし、これは御技なのだ。天地創造と同じく、正道の存在の御技なのだ。静かに味わうが良いだろう だが、私はお前を哀れもうと思う。お前はもう十分に苦しんだのだから」 そう言うと少女は自身の白いワイシャツに私を入れた。少女らしい表情で。 服の上から私を優しく押さえつけているのがわかる。暗い中でも汚らしい液体を今だ流し続けているのに。 そして再び幻視の光を見た。少女は私を服の中から出した。 緑の服をいつの間にか着た私は沃野と多くの羊の前にいた。目の前の清潔な手と共に。 「ここに住みなさい」との少女らしい声がした。 幻視が終ると、ショーウインドウの中の人形達は一時も休まずに微笑んでいる。 少女が好みそうな人形達は。 (旧約聖書のヨブ記から発想を得ました) |